3Dプリンターの歴史や特徴、製造業における3つの用途~樹脂3Dプリンター入門講座(1)

2013~14年頃、3Dプリンターのブームが起きた最大の理由は、何と言っても、価格10万円前後のエントリー機種が登場したからです。それまで3Dプリンターは産業向けの加工装置という位置付けだったのですが、ちょうどその頃に大手の3Dプリンターメーカーが所有していた主要な特許の失効があり、多数のメーカーが一気に参入。趣味でものづくりを行っている一般ユーザーでも手頃な価格で3Dプリンターが入手できるようになったのです。多数のメディアでも取り上げられ、3Dプリンターはバズワードになりました。

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ブームで広まった「魔法の箱」という誤解

ブームになった当初、3Dプリンターはインクジェットプリンターで年賀状を刷るかのように、誰でも自由な形がすぐに作れる「魔法の箱」のように語られることがありました。しかし「プリンター」という呼称とはいえども、家庭用インクジェットプリンターとはやはり異なる存在です。まず、3Dプリンターで形状を出力するためには、3D CADや3D CG作成ソフトウェアなどを用いて、「3Dデータ」を用意しなければなりません。3Dデータは年賀状のイラストや文字のようにぱっと作れるものではありません。

また、あたかも最新技術であるかのように報道されることもありました。しかし3Dプリンター、すなわち積層造形技術は製造業においてはすでに身近な試作技術でした。積層造形とは、樹脂などの材料を薄く積み上げながら形状を作り上げる加工方法の総称です。下から上へ積み上げる造形法であることから、切削加工や金型のように「アンダーカット」と呼ばれる引っかかりの形状を気にする必要がなくなり、かなり自由な形状作成ができるのが特長です。

また積層造形による試作は、切削加工など他の工法と比較すれば迅速に加工可能なことから「ラピッドプロトタイピング(RP)」と呼ばれました。そのためブームの当初では、3Dプリンターを用いればプラスチックの射出成形のように製品が量産できるという誤った認識も一部で広まりました。迅速といっても、「他の加工方法よりも製作が迅速」というもので、薄く材料を積層していく方式であることからも、もちろん射出成形のスピードや精度に匹敵するものではないことは、皆さんお分かりでしょう。

現在、RPという言葉は以前よりあまり聞こえてこなくなり、製造業系の大型展示会においてもその文字が見られることは激減し、その代わりに3Dプリンターという呼び名が広まっていきました。


特許を逃さなければトップシェアは日本だった可能性も!?

現在、3Dプリンターの市場における二強と言われるのがStratasysと3D Systemsであり、いずれも欧米企業です。市場で大きなシェアを占めるメジャーな3D CADやCAEソフトウェアの多くが欧米発ですが、3Dプリンターも同様で、3Dデータ関連の技術や製品開発においては、日本は欧米に後れを取ってしまいました。

しかし実は、積層造形の技術を先行して開発したのは、日本人でした。名古屋市工業研究所の研究者の小玉秀男氏です。小玉氏は、もともと半導体加工技術やフォトレジスト技術にかかわっており、その知識を生かして「光造形法」を考案。1980年に特許を出願しました。しかしなぜか出願のみで、審査請求もせずに放置されていたというのです。

その後、とあるアメリカ人が、1983年に小玉氏が考えていたような光造形法を発明し、特許を取得しました。その人は3D Systems創業者であるチャック・ハル氏です。ハル氏が特許を取得したころ、既に小玉氏の出願は無効となっていたのです。もしも小玉氏が審査請求をし、特許取得をしていたら、今頃、名古屋のメーカーが3Dプリンターのトップシェアを占めていたのかもしれません。

3Dプリンターという呼び名は、後に3D Systemsに買収されることになる、フルカラー3DプリンターのメーカーであったZ社による製品名「3Dプリンティング」が基であるとされています。同社の製品はマサチューセッツ工科大学(MIT)が開発した積層造形法を採用していました。その積層造形機は、ノズルから石こう材料を固める接着剤(バインダ)やカラーインクを吹き出すインクジェット方式を採用しており、機構がまるでプリンターさながらであったことから、そう名付けられたそうです。

現在は、さまざまなメーカーが、インクジェット式以外の積層造形機についても「3Dプリンター」という呼称を用いています。このように3Dプリンターは技術の名称というより、マーケティング用語の一種という解釈もできます。

なお積層造形は、3Dプリンティング以外に、「アディティブ・マニュファクチュアリング」(AM、付加製造)と呼ばれることもあります。それぞれの呼称の使い分けにおいて、厳密な定義があるわけでないようです。本連載の記事では、全ての積層造形法を「3Dプリンター」と統一します。


製造業における3Dプリンターの用途は主に試作の3フェーズ

3Dプリンターの造形においては、光造形法や、インクジェット方式の他にも、さまざまな手法が存在します。手法によって、用いる材料や造形精度、大きさはさまざまで、装置の価格も、数万円程度で購入できるモノから数億円クラスのものまで幅広く存在します。製造業においては、用途や予算に応じて手法や装置の選定を行います。

製造業における用途としては、造形技術が著しく向上した今も「試作」が圧倒的に多いです。ひとくちに試作といってもさまざまなフェーズがあり、以下の3つに大別されます。

① 企画やデザイン(意匠)の検討
② 機能性の評価
③ 量産に適するかどうかの検討

まず利用されるのは、①企画やデザイン(意匠)の検討です。製品開発プロセスの最初期、企画やデザインの段階において、従来、発泡スチロールや紙を用いて作っていた製品の「モック」(モックアップ)の代用としての用途です。モックは、家電などの製品がどのような製品や大きさであるか、色はどのような感じか、主に製品外観を評価するためのもの。自動車では「クレイモデル」という工作用粘土で製作した形状模型が用いられます。

このフェーズでは、形状やデザイン、色など外観が分かればよく、機構などが動く必要もないので、中身はからっぽでもよいです。PC画面の中の3D CADやCGツールの画像だけでも検証可能ですが、モノを手に取った時に触覚から訴えかける情報は重要であり、人が感じるインパクトも大きいため、試作されることが多いです。

ともかく、このフェーズでは作る形状に精度は不要であり、材質もリアルである必要もあまりないため、精度が粗い安価な3Dプリンターで対応してもよいといえるでしょう。3Dプリンターであれば、手作業で作るよりも精密な形状が作成しやすく、形状のバリエーションも用意しやすく、さらにそこで作成した3Dデータは、後の機械設計でも生かすこともできます。

ただし自動車や航空機のような大きい製品の実物大の意匠評価には不向きです。造形サイズそのものが対応しておらず、分割して作るにしても造形物の大きさなりに材料費も造形時間もかさむため、現実的に限界があります。自動車のバンパーなど一部分であれば、3Dプリンターの試作を用いるケースは見られます。

次に利用されるのは、②機能性の評価です。詳細設計の初期で行う機能性の評価においては、スナップフィットの勘合や、機構部品の動きを検証していく必要があります。このような評価に向く部品の製作は、数万~10万円クラスの3Dプリンターの精度では、難しいでしょう。またスナップフィットの評価ともなれば、部品を造形する材料は靭性を備えたものでなければなりません。

このような用途の場合、業務用3Dプリンターとうたわれている100万~300万円程度の機種から対応できます。ただ靭性や耐熱性などといった工学的な物性を要求する場合は、1,000万円以上の3Dプリンターを用いる場合もあります。

最後に利用されるのは、③量産に適するかどうかの検討です。製品設計や形状が量産に適するかの検討では、より詳細に製品を再現しなければならないため、より精度の高いハイエンドの3Dプリンターが必要になります。ハイエンドの3Dプリンターの一部では、最終製品の用途でも耐えうる高精度な部品が製作できる機種も存在します。

とはいえ、やはり射出成形ほどの生産力はないので、例えば最終製品の量産で射出成形を用いるのであれば、そのための完全なシミュレーションとはならないのが現状です。ただ昨今は、金型部分に耐熱性材料で3Dプリントし、それを用いて射出成形を行う事例があり、従来の量産試作に極めて近い試作が行えると言えるでしょう。

3Dプリンターの手法は多岐にわたり、使用できる材料がさまざまです。また使う材料も樹脂には限らず、金属も造形できる装置があります。ただし、金属の3Dプリンターは本体価格も造形材料も樹脂と比較して高価です。製造業の試作用途ではありませんが、チョコレートや砂糖などが材料となる製菓に使われる装置も存在します。

次回は、製造業で活用される3Dプリンターにおける代表的な造形手法について解説していきます。



著者:小林由美(こばやしゆみ)
エンジニア、⼤⼿メディアの製造業専⾨サイトのシニアエディターを経て、2019 年に株式会社プロノハーツに⼊社。現在は、広報、マーケティング、イベント企画、技術者コミュニティー運営など幅広く携わる。技術系ライターとしても活動。


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