『富山県ものづくり総合見本市(T-Messe)2019』現地レポート

「富山県ものづくり総合見本市(T-Messe)」は、2010年から始まり、基本的に2年に一度(2012年、北陸新幹線の開業で2015年、2017年)開催され、今年2019年で5回目になる商談会を兼ねた展示会です。前回から会場になっている富山産業展示館が増築され、出展社、来場者数ともに大きく増えたそうです。

富山県は高岡市でアルミや鋳造が盛んで、いわゆる富山の薬売りのように医薬品メーカーも多い土地柄であり、工作・産業機械、自動車関連、精密機械、電子・電機、IT、鋳造・金型・金属加工、プラスチック、アルミ、繊維、医薬・化学、食品など、小間数400に県内外から多くの企業が出展していました。その中から、アルミ、鋳造、工作機械、プラスチックのものづくり系出展社を取材しました。


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アルミニウムやマグネシウムの押出型材

もと兄弟会社が合併してできた三協立山株式会社(富山県高岡市)は、アルミニウム、マグネシウムの鋳造・押出、加工、販売をしている会社です。同社には社内カンパニーとして、建材事業(三協アルミ)、商業施設事業(タテヤマアドバンス)、マテリアル事業の大きく3部門があり、3部門ともに出展していました。その中の三協マテリアル社はマテリアル事業部門であり、説明してくださった技術開発統括室 基盤技術部 押出・加工技術課の加門真一(かもんしんいち)さんによるとアルミサッシをメインに製造販売しているそうです。

「ほかには自動車部品、鉄道車両部品なども手がけていますが、ヘリポートデッキの押出型材なども作っています。ヘリポートデッキは、アルミニウムの中でも6005Cという材質で作っています」(加門さん、以下同)

押出型材では、アルミニウムのほかマグネシウムも扱っているという同社。難燃性マグネシウムでは、鉄道車両の構体構造として使われている剛性の強いダブルスキン構造の押出型材も可能と言います。

「鉄道車両の場合、弊社製品は一部で使われていますが、まだ車両全体というものは採用させていただいていません。将来的には新幹線の車両などに採用されるように努力していこうと思っています」


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三協マテリアル社 技術開発統括室 基盤技術部 押出・加工技術課 加門真一さん。富山県高岡市はアルミニウムの精錬で栄えたと言います。
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三協マテリアル社 技術開発統括室 基盤技術部 押出・加工技術課 加門真一さん。富山県高岡市はアルミニウムの精錬で栄えたと言います。

マグネシウムの比重はアルミニウムの2/3と軽いものの、燃えやすく加工もしにくいという難点があり、コスト的にも高いそうです。最近になり、マグネシウムにカルシウムを添加することで難燃性を高めた合金が開発され、鉄道車両などで広く使われるようになっています。同社は、アルミニウムの押出型材で培った技術を応用し、産学官連携で難燃性かつ加工しやすいマグネシウム合金の実用化に向け、研究開発を続けていると言います。

「アルミニウムにせよマグネシウムにせよ、比較的柔らかいので押出が可能です。断面の強度、肉厚、パターンなど、お客様からあらかじめ理想の形状をご要望いただくこともありますが、過去の経験から強度的にこれは難しいのではという形状はあります。そこは逆にご提案させていただき、お客様とご相談しながら採用していただいています」

部材同士をつなぎ合わせ、接合する継手には定番の形状があるということですが、溶接かFSW(摩擦攪拌接合)などさまざまな対応が可能だそうです。ただ、FSWの場合、圧力をかけなければならないので、部材の受けが必要な場合もあると言います。

「弊社の主力はアルミニウムの押出型材ですが、これまでにないところに使っていただきたいと思っています。例えば、自動車の構造体や部品でアルミニウムの使用は増えてきているものの、メインの部材にはまだ多く使われていません。条件によって使用される部位や製品は限定的で、今後そうしたものを取り払うことができればと考えています」


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アルミニウムとマグネシウムのダブルスキン京城の押出型材。左が押出で作ったヘリポートデッキ。
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アルミニウムとマグネシウムのダブルスキン京城の押出型材。左が押出で作ったヘリポートデッキ。


また、腐食に弱いとされるアルミニウムは、船舶では耐腐食性の高いアルミ合金を使っているそうです。ただ、生産しにくくコストも掛かることから、耐食性の高いアルミの生産性を上げ、コストを下げることができれば可能性は高いと言います。

「ボーキサイトからアルミナを取り出す際に電力が必要になりますが、富山県は水力発電による電力供給が大きかった時代があり、もちろん今では精錬は海外でやっていますが、そのためアルミニウムの精錬産業が盛んになりました。一度、精練してしまえば、リサイクル材として再利用ができるのもアルミニウムのメリットで、リサイクルでは精練の1/10程度の電力しか必要ではありません」

ただ、アルミニウムの多くは合金として作われ、同じビール缶でも本体とフタの部分で合金が違います。不純物が入らないような分別技術と調整が必要だそうです。アルミニウムの街で技術革新に挑む同社。鉄道車両での使用が更に拡大するようになれば、いつか同社が車両ボディ全体を作った新幹線が走ることもあるかもしれません。


変速機に使われる油圧部品

富山県高岡市にはアルミニウム関連の企業が多く、アルミ鋳造技術で部品を製作する会社も出展していました。

株式会社松村精型(富山県高岡市)もその一社で、4輪車の自動変速機に使われる油圧制御装置(バルブボディ)とCVT(無段変速機)に使用されるソレノイドバルブ用スリーブを展示していました。説明してくださった大野匡美(おおのまさみ)管理部人材開発課課長と営業部の加藤公彦(かとうきみひこ)さんによれば、富山県ものづくり総合見本市には3回目の出展だそうです。

「最初に出展した2015年には半分ほどの面積でしたが、前回から富山産業展示館が東西2館になり、出展社が増えるとともに来場者も多くなってきた印象があります。海外との商談や海外からの投資などに力を入れているようで、アジア諸国のお客様も団体でいらっしゃったりしています」(大野さん)

同社は、主に4輪車とオートバイ用の金型とアルミニウム鋳造部品を作っているそうで、特に自動変速機・無段変速機の部品では大きなシェアを占めていると言います。

「この迷路のようになっているアルミダイカストの箱状の部品がバルブボディです。迷路の部分にオイルが流れ、油圧で各部品を動かします。棒状の部品がスリーブで、バルブボディに差し込まれ、油圧で回転します。横に刻まれたスリットで開閉させてオイルの回路を変え、1速、2速とギアチェンジしていくわけです」(加藤さん、以下同)



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下の迷路のような部品がバルブボディ。上に並んでいるのがスリーブ。バルブボディは蓋を閉めて密閉し、オイルが漏れないようにします。
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下の迷路のような部品がバルブボディ。上に並んでいるのがスリーブ。バルブボディは蓋を閉めて密閉し、オイルが漏れないようにします。


スリーブは、4速ギアの場合は4本というようにギアの個数だけ必要になるそうです。自動車メーカーからの図面で作る場合と、最終的な形状の素材図だけ支給してもらい、あとは同社でやる場合もあると言います。

「このスリーブは通常、マシニングセンタなどで棒状の丸材から切り出す工法で作ることが多いのですが、弊社の場合、最初に金型を作って鋳造で製作するため、量産が可能になっています。まず鋳造してダイカストを製作し、熱処理後に切削加工するのでアルミニウム(ADC12)の削り出し量が少なくなって加工が速くなり、歩留まりも良くなります」

バルブボディに差し込まれ、油圧で作動するため、高い気密性とミクロンオーダーの高精度が求められるスリーブでは、オイル漏れは厳禁だそうです。通常、丸材から切り出すのもそのためですが、同社は鋳造技術に自信を持っていると言います。



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下が鋳造後のスリーブ、上が鋳造後に切削加工したもの。鋳造によって切削加工すればいいだけの状態になっているため、工程が少なくてすみ、コストも下げられると言います。
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下が鋳造後のスリーブ、上が鋳造後に切削加工したもの。鋳造によって切削加工すればいいだけの状態になっているため、工程が少なくてすみ、コストも下げられると言います。


「隙間からオイルが漏れると変速機が正常に作動しなくなります。鋳造では巣が入りやすいのですが、アルミニウムの流し込みの速度、流路、オーバーフローの回避など、鋳造設計によって巣の発生を解決しています」

電気自動車の時代になっても変速機がある限り、バルブボディとスリーブの需要はなくならないというお二人。しかし同社の強みはシリンダーヘッドということで、こちらは電気自動車になれば必要なくなってしまうため、変速機を今後も育てていき、さらに柱となる製品を立ち上げていきたいそうです。



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株式会社松村精型 営業部 加藤公彦さんと管理部 人材開発課 大野匡美課長。富山県高岡市はアルミニウムの街でもあると同時にアルミニウム鋳造の街でもあると言っていました。
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株式会社松村精型 営業部 加藤公彦さんと管理部 人材開発課 大野匡美課長。富山県高岡市はアルミニウムの街でもあると同時にアルミニウム鋳造の街でもあると言っていました。


BtoBの製品デザインとは

製造業のBtoBでもブランディングによる付加価値の向上が重要視される時代になっています。今回の展示会でも技術者交流会として「BtoB企業にデザインは必要か」といったプログラムが開かれ、BtoBの製品デザインという共通のテーマで技術者が情報交換をしていました。

出展社では、株式会社スギノマシン(富山県魚津市)がデザインを活用したBtoB製品に力を入れ、前述したプログラムでも同社副社長がパネリストとして発表していました。

展示ブースで説明してくださった営業企画部担当者によれば、BtoBでは性能や機能性、コストが求められるが、さらにデザインを加味することで、よりお客様に受け入れていただける面もあるのではと言います。

「弊社は2016年3月の創業80周年にあわせてCI(コーポレートアイデンティティ)を再構築しました。その活動の中で自社ブランディングの一貫として、製品デザインについても改めて見直しました」(営業企画部担当者、以下同)


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スギノマシンの出展ブース。ウォータージェットカッタを実際に自分で体験できるコーナーに多くの人が集まっていました。
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スギノマシンの出展ブース。ウォータージェットカッタを実際に自分で体験できるコーナーに多くの人が集まっていました。


まず先入観として、同社側にも顧客側にも、産業や工作機械にデザイン(見てくれ)は不要という認識があったそうです。それを「見てくれ」ではなく、操作性、安全性、メンテのしやすさなど、実用的効果があるという認識に変える必要があったと言います。

「弊社が取り組んでいるBtoB向け製品のデザインの目的は、お客様の使いやすさを実現することと、自社の「在りたい姿・在るべき姿」を表現するということです。パートナーのデザイン会社と協力して、まずお客様の使い勝手を考え、そこに機能や部品を盛り込んでいくという開発手法にも取り組みました」

ただ、社内での理解活動は、言葉だけではなかなか進まなかったそうです。そこでまず役員主導のもと、新たなデザインを導入した実機(ウォータージェットカッタ)を作って実効果を体感してもらったと言います。

「例えば、ウォータージェットカッタ本体の下部に足が入るような凹みを設け、段差には手すりを付けています。また、機械の稼動部を覆う蛇腹を見直すことで汚れにくくするなどして、メンテナンス性を高めました。

さらに金属部品を精密に削る機械や、高圧水で洗浄する装置など、当社のほかの商品においても、作業エリアを共通ルールで色分けし、作業する方がどこに何があるか視覚的、感覚的にわかる機能的なデザインを意識しました。日本は人材不足ですし、また当社の商品は世界各国で使われていますので、直感的な操作のしやすさにこだわった商品はニーズに合致していると考えています」


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同社ウォータージェットカッタ(ハイエンドモデル)のデザイン事例。①洗浄ガンやエアガンを標準装備し、収納ボックスを正面に設置。②装置内へ立ち入る時の安全確保のため、サイドステップやハンドルを配置。また、正面下部にはつま先が入る凹みを設け、設備に近づきやすくしている。③直感的なインターフェイスで操作盤の視認性と機能性を高め、作業者の負担を軽減。④機器のユニット化や制御盤の統合、ステップカバーのモジュール化で、柔軟にレイアウトに対応。
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同社ウォータージェットカッタ(ハイエンドモデル)のデザイン事例。①洗浄ガンやエアガンを標準装備し、収納ボックスを正面に設置。②装置内へ立ち入る時の安全確保のため、サイドステップやハンドルを配置。また、正面下部にはつま先が入る凹みを設け、設備に近づきやすくしている。③直感的なインターフェイスで操作盤の視認性と機能性を高め、作業者の負担を軽減。④機器のユニット化や制御盤の統合、ステップカバーのモジュール化で、柔軟にレイアウトに対応。


プロダクト・デザインは、同社の「在りたい姿・在るべき姿」である「精緻さ」をコンセプトにしているそうです。水平垂直ラインで構成されるデザインということですが、丸みを帯びさせるよりコスト的にも抑えられるため、デザインを導入してもコストアップにはなっていないといいます。

「展示会などでデザイン性の高い商品を展示し、ブース全体も同様のコンセプトで統一した結果、お客様から好意的な感想をいただいています。また、ユーザーからの反応を聞き、効果が実感できた当社の関係者は、その後のデザイン導入に前向きになりました」

ウォータージェットカッタでは世界有数の企業である同社は、BtoBで幅広い業界のお客様を対象にしているそうです。自動車業界を始め、航空機業界、医薬・化粧品業界などにも製品を提供していると言います。

「ウォータージェットカッタのメリットは、熱影響がないことや、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)やアラミド繊維など強靭な繊維系からガラスや石英などかけやすい素材、ケーキや野菜など柔らかい食品まで、素材を選ばず加工できることです。さらに弊社は高圧水を切断や洗浄だけでなく、医薬品や化粧品、電子部品の原料をナノサイズまで細かく粉砕する装置にも応用し、世界に供給しています。

ブランディングで独自性や新規性、差別化を図ろうとするのはどの業界でも同じでしょう。BtoB企業でも製品にデザイン性を加味し、使いやすさや機能性を追求し、また企業のポリシーを視覚的・直感的に示すことで、お客様に訴求しやすくなるわけですが、ものづくりの富山県でもスギノマシンの発想は新しい動きになりそうです。


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ウォータージェットカッタの体験コーナー。来場者が自らウォータージェットカッタで発泡スチロール製の板を加工していました。
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ウォータージェットカッタの体験コーナー。来場者が自らウォータージェットカッタで発泡スチロール製の板を加工していました。


ニュートロンを遮蔽する樹脂

東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所の事故以降、放射線の遮蔽技術が注目を集めてきました。放射線の遮蔽では、安価で遮蔽能力も高い鉛や鉛含有素材が使われてきましたが、鉛は有害な物質で地球環境に対しても悪影響を及ぼします。世界的に規制の動きがある鉛に変わる材料が求められているのも事実です。

株式会社北陸エンジニアプラスチック(富山県射水市)が出展していたのは、HEP-n(ニュートロン)放射線遮蔽樹脂という白いプラスチック製の材料です。水越博之(みずこしひろゆき)専務取締役によれば、原子力研究関係から依頼があり、放射線の遮蔽に使うプラスチック素材の開発に着手したそうです。

「最初に依頼されたのは2011年の原発事故の前でしたが、実際に完成したのは5年前です。放射線には、α線、β線、γ線、ニュートロン(中性子)の4種類がありますが、この遮蔽樹脂は、γ線を除いた3種類、特にニュートロンを遮蔽します。樹脂にニュートロンを捕まえやすいホウ素(ボロン)を混ぜています」(水越さん、以下同)

がんの放射線治療の一種に、中性子捕捉療法というものがあります。これは、がんの組織にあらかじめ中性子を捕まえやすい物質(中性子増感元素)を入れ、中性子を照射することで生じる放射線で治療するという方法です。この中性子増感元素として使われているのがホウ素というわけです。


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中性子などを遮蔽する樹脂板。1メートル幅で長さは調整できると言います。
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中性子などを遮蔽する樹脂板。1メートル幅で長さは調整できると言います。



「依頼された際、最初に言われたのが樹脂にホウ素を混ぜられる技術を持った会社を探しているということでした。ホウ素と樹脂の融点はかなり異なり、均一に混ぜるのは難しいのです。弊社はもともと樹脂にガラスなど、他の物質を混ぜる技術を持っていましたから、研究開発を続けてなんとか製品化できました」

難しい技術を開発できた理由は、同社の場合、材料を作る機械はすべて自社設計・自社製造だからだと言います。融点が高いガラスを樹脂に混ぜる技術から逆転の発想で、自社の装置を改良しながらホウ素を均一に混ぜた樹脂を作るために工夫を重ねたそうです。

「樹脂の丸棒や板材を作っている会社は日本に5社くらいしかありません。弊社は40ミリ以下の丸棒のシェアでは国内有数のシェアです。細い丸棒はローラーやギアなどいろんなものに使われています。金型への流し込みではなくインゴットからの削り出しですから剛性の高いプラスチック部品を作ることができるのです」


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株式会社北陸エンジニアプラスチック 専務取締役水越博之さん。同社の強みは、自社設計・自社製造の装置で研究開発ができることと言います。
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株式会社北陸エンジニアプラスチック 専務取締役水越博之さん。同社の強みは、自社設計・自社製造の装置で研究開発ができることと言います。


放射線遮蔽樹脂のメリットはやはり軽量で扱いやすく環境への悪影響が鉛よりも少ないことだそう。ただ、混ぜる技術が難しいので、同じ面積なら鉛のほうが安いと言います。すでにCTやX線など医療関係や六カ所村にある使用済み核燃料の中間貯蔵施設で使われているそうですが、これから多くの場所で必要となる材料になるでしょう。

地域の特色を活かした多彩な出展社が多かった富山県ものづくり総合見本市。2年後の開催ではどんな技術が展示されるのか楽しみです。

文/石田雅彦

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