台風によるマグナス力を活用した風力発電機!再生可能エネルギーシフトを目指すチャレナジーの挑戦

INTERVIEW

株式会社チャレナジー
取締役CTO
小山 晋吾

台風でも発電可能な風力発電機の開発を手がけるのは株式会社チャレナジー。同社はプロペラのない風力発電機を実用化することで、世界的なエネルギーシフトの実現を目指す風力発電ベンチャーです。2019年7月には総額6億円の資金調達を完了するなど、彼らの技術に多くの企業が注目しています。

台風のような災害もエネルギーに変える──この驚きの風力発電機は、従来の風力発電機で使われている“プロペラ”の代わりに自転する円筒に発生するマグナス力を利用。それにより強風にも対応でき、また垂直軸にすることで全方向の風に対応できるため、突然の強風や風向の変化でも暴走せず、安定的に発電することができます。

この技術は、いかにして生まれたのか。また、具体的にどのような仕組みになっているのか。チャレナジー取締役CTO(最高技術責任者)の小山晋吾さんに話を聞きました。


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風力発電に新たな可能性をもたらした「マグナス力」

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株式会社チャレナジー取締役CTO(最高技術責任者)の小山晋吾(こやましんご)さん
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株式会社チャレナジー取締役CTO(最高技術責任者)の小山晋吾(こやましんご)さん


チャレナジーが創業したのは2014年10月のこと。創業のきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災とそれに伴う原発事故にあります。

代表取締役CEOの清水敦史さんは、もともと大手電機メーカーで研究開発に従事していましたが、東日本大震災をきっかけに「次世代に持続可能な社会への道筋を示すことが、私たちの世代の責務」と考えるようになり、エネルギーシフトに革命をもたらそうと事業を立ち上げることを決意。こうして生まれたのがチャレナジーです。

2015年12月に地球温暖化防止の国際的な枠組み「パリ協定」が採択されたことを契機に、いま世界では「脱炭素化」を目指した、再生可能エネルギーの普及が加速。                    
例えば、アメリカ・ハワイ州では“2045年には再生可能エネルギーだけで電力の100%を賄う”法律が制定され、さまざまな環境政策が進められています。

一方の日本は2018年時点で、全発電量の77.9%が火力発電で賄われていることから、“再生可能エネルギー後進国”とも言われている現状。風力発電は0.7%と、非常に小さな割合となっています。それはなぜか。この背景には台風が関係しているのです。

風力発電と聞いて、多くの人がイメージするのはプロペラ式風車でしょう。この風車は「水平軸型×プロペラ式」を採用しており、風向・風速がともに安定している場合は高効率で発電が可能です。しかし、風速・風向の急激な変化には対応しづらい構造のため、日本を含めた島国は風向が安定せず、高頻度で台風が襲来する環境下では暴走リスクがあります。

日本の風力発電を取り巻く現状について、小山さんはこう語ります。

「なかなかニュースで取り上げられることは少ないので、多くの人は知らないと思いますが、日本に設置されたプロペラ式風車は年間に2機に1機の頻度で故障が発生したり、暴風でプロペラが壊れたりしています。日本は風のポテンシャルがあるとされているにもかかわらず活用できていません」(小山)

従来のプロペラ式風車が抱える課題を解決するとともに、台風でも発電できる可能性を秘めた技術として、チャレナジーが注目したのが「マグナス力」です。

マグナス力とは、回転する円柱もしくは球が一様流中(風や水の流れの中)に置かれたときに、その流れの方向に対して垂直の方向に力が働くことを「マグナス効果」と言い、それによって生み出される力(揚力)のこと。例えば、野球のカーブボール、ゴルフのスライスといった現象はマグナス力によって発生しています。

このマグナス力を風車に活用したのが、「垂直軸型マグナス式風力発電機」です。過去に三菱重工や関西電力が垂直軸でマグナス力を使った風車の開発を進めていましたが、“技術的に実現困難”と判断し、実用化には至っていませんでした。

チャレナジーはそうした情報を調べ、いくつかの改良を重ね、実用化を成功させました。

チャレナジーが開発した垂直軸型マグナス式風力発電機は、「垂直軸×マグナス式」の方式で垂直軸のため全方向の風に対応でき、またマグナス式にすることで円筒翼の回転制御により風速に応じて風車の回転数を一定に保つことが出来ます。また、風車の回転数を制御することで、突然の強風でも暴走せずに安定的な発電を可能です。

「日本の風環境は風向・風速の変化が激しく、また台風のような強風に毎年さらされるなど、風車にとっては非常に過酷な環境です。そうした中で垂直軸型マグナス式風車は安定的に発電ができ、風車の稼働率を飛躍的に向上させることができます。また、プロペラの代わりに円筒形状の翼を用いることで製造コストを大幅に低減できます」(小山)

効率よく発電するシステムは唯一無二の技術

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初期のマグナス風車の試作機を紹介してくれた小山さん。東京・押上のコワーキングスペースにて。
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初期のマグナス風車の試作機を紹介してくれた小山さん。東京・押上のコワーキングスペースにて。


また、小山さんが「形状は真似できるかもしれませんが、これは他ではなし得ない弊社独自の強みです」と胸を張るのが、垂直軸型マグナス式風車の制御システムです。

垂直軸型マグナス風車は円筒翼を電動モーターで駆動させているため、電力の自己消費が発生します。発電した電力からモーターの消費電力を差し引いたものが発電量となるため、既存の風力発電機と比べると発電効率は劣りますが、マグナス風車は風速4m/秒から発電を開始し、最大風速40m/秒まで発電を継続することが可能です。風速25m/秒程度までしか発電できない既存のプロペラ式風車の風力発電と比べると、発電可能な風速域が大幅に広がります。これにより稼働時間が長くなり、発電機の設備稼働率が向上。結果的に既存風車に発電効率で劣る分を総発電量で上回れるのが大きな特徴です。

「これは意外と複雑なシステムで、制御も難しい。同じ形状をつくれたとしても、効率よく発電するシステムは真似できないでしょう」(小山)

また、直径1メートル、長さが10メートルの円筒翼を継ぎ接ぎなしで作れるメーカーとして「栗本鐵工所」に製作を依頼。FRP(繊維強化プラスチック)と言われる複合材料を使い、軽量かつ高強度なものに仕上げてもらっているそうで、小山さん曰く「非常に壊れにくいようになっている」そうです。

実際、チャレナジーは2016年に沖縄県南城市で1kW試験機の「台風発電実証試験」を実施しており、台風環境下での発電実験に成功。また、2018年には沖縄県石垣市にあるバイオベンチャー株式会社ユーグレナの敷地内で10kW試験機の実証試験を開始しています。現在、その電力は衛星通信アンテナの稼働に使われているとのこと。

「この発電機は、1kW試験機の10倍の出力を持っており、量産試作機の位置づけです。この実証実験を通じて、データの取得と改良を実施し、2020年の量産化に向けて開発を加速させていければ、と思っています。

再生可能エネルギーへのシフトを可能にする、世界初の風力発電機によってチャレナジーは国内の離島をはじめとする地域に安心・安全な電気を供給します。そして代表の清水は『新興国を中心に約13億の人々が、まだ電気のない生活をしている』と言い、毎年のように台風が訪れるフィリピンなど新興国の無電化地域を電化していくことを目指していきます。

垂直軸型マグナス式風車によって、現状のコスト削減にも役立てたいと思います。また、フィリピンの台風の被害がひどい地域では2〜3か月ずっと停電が続くこともあります。そうなった際に非常用電源として使用できればいいですね」(小山)

「台風でも発電できる」風力発電機を当たり前に

<写真3>
石垣島に設置されている10kwの実証実験機。台風での発電も成功した。
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石垣島に設置されている10kwの実証実験機。台風での発電も成功した。


沖縄県石垣市での実証実験を継続し、2020年中に10kWの量産機を市場投入する予定のチャレナジー。さらなる展開として大型機、洋上化のための浮体式設備の開発も始めており、2025年には出力100kW級の中型機を開発する予定だと言います。

風力発電にイノベーションを起こし、 全人類に安心安全なエネルギーを供給する──このミッションの実現に向けて、もちろん課題も多くあります。

「その課題の一つとして、円筒翼を駆動させる電動モーターの消費電力低減が挙げられます。我々の発電システムは発電機によって発電した電力からモーターの消費電力を差し引いたものが、供給できる発電量となります。また風車起動時にはモーターを駆動させるための電力を確保するため、モーター駆動用の蓄電池を搭載しています。電動モーターの消費電力を極小化することで、発電量を高く取り出すことができ、かつシステム内に保有する蓄電池容量も小さくすることができます。ほかにもまだまだやりたいことはたくさんあるのですが、20名程度のベンチャーなので専門性をもつ人材が足りないのが悩みです。私たちの理念に共感する人を現在も募集しています」(小山)

「台風でも壊れない」風力発電機ではなく、「台風でも発電できる」風力発電機を当たり前に。東京・押上のコワーキングスペースから、風力発電にイノベーションを起こす挑戦が日々、続けられています。



文/新國翔大


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