『東京モーターショー2019』見どころレポート

電気自動車(EV)におけるパワートレインの役割をになう”eAxle”(イーアクスル・電動車軸)に注目が集まっています。1か月前の「フランクフルトモーターショー2019」、そして今回の「東京モーターショー2019」でも各社からEVが発表され、その流れはグローバルで明確になってきています。

eAxleとは、インバーター・モーター・トランスアクスルの3つのコンポーネントで構成される駆動モジュールのことを指し、エンジン車で言うエンジン・トランスミッション・アクスルにあたるものです。

エンジン車におけるパワートレインは、非常に重要な差別化要素であることは言うまでもありませんが、電動車においてもそれは同じことです。ただし違うのは、ICE(Internal Combustion Engine:内燃機関)は自動車メーカーが自ら生産するコア部品であるのに対して、EVのパワートレインはサプライヤーが生産することが多いということです。それゆえサプライヤーの開発競争が激化し、陣取り合戦が始まっているわけです。

各国のメガサプライヤーが顔を揃えた「東京モーターショー2019」においても、各社のeAxleの展示が出そろい、特徴をアピールしていました。本稿では、まず最新のEVにみるeAxleのトレンドを紹介したあと、東京モーターショーで各サプライヤーがどのようなeAxle展示していたのか、特に差別化要素としての変速機構や高電圧インバーターなどの注目すべき競争領域について紹介します。


【New!】新サービスのご紹介

▽おすすめ関連記事

eAxleをリアに搭載するEV専用シャーシ

まず、最新のEVにおけるeAxleのトレンドを確認しておきましょう。東京モーターショーのちょうど1か月前となる9月末に開催されたフランクフルトモーターショーでは、EV専用シャーシを備えた新世代のEV(これまでのEVはICE車をベースにしていたものがほとんど)が登場しました。

フォルクスワーゲン「ID.3」は、リアの車軸上、トランクの下あたりにeAxleを搭載し、床下にバッテリーを敷き詰めたRRレイアウトで登場しました。背の低いeAxleによって十分なトランクスペースを確保しながら、フロントにはパワートレインがないためノーズを切り詰めて車室を広く取り、EVならではのスペース効率を実現しています。

このようなレイアウトは、東京モーターショーで日本公開されたホンダ「e」にも採用されています。

<写真1>
フォルクスワーゲン「ID.3」のeAxleレイアウト
<写真1>
フォルクスワーゲン「ID.3」のeAxleレイアウト

高性能車は前後eAxle+リア2段変速+急速充電

ポルシェ「タイカン」には注目すべき技術的特徴がふたつあります。前後に搭載されたeAxleのうち、リアのeAxleは2段変速であること、もうひとつは800Vのシステム電圧を採用していることです。

一般論としてEVは、トランスミッションなしでも加速性能と最高速を両立できるほどの低速トルクがありますが、スポーツカーやトラックなど、低速でより強い駆動力が必要な場合には変速機構が求められる場合があります。ポルシェ「タイカン」は、加速性能を求めて2速変速のeAxleを採用したということになります。


<写真2>
ポルシェ初のEV車「タイカン」
<写真2>
ポルシェ初のEV車「タイカン」


<写真3>
「タイカン」のeAxleレイアウト
<写真3>
「タイカン」のeAxleレイアウト



タイカンにはスポーツカーならではの性能を実現するため、100kWh近い大型のバッテリーを搭載しています。それに応じて、充電もパワーがないと時間がかかりすぎてしまうことから、800Vのシステムが採用されました。

そして、東京モーターショーで公開されたメルセデス・ベンツ「EQS」も、前後にeAxleを搭載し、リアのeAxleは2段変速、そして100kWの大型バッテリーに対して350kWの急速充電に対応する、というタイカンと似た特徴を持っています。。

余談ですが、800Vに対応した充電インフラについても動きがあります。ドイツ系自動車メーカー〔ダイムラー・BMWグループ・フォルクスワーゲングループ(アウディ・ポルシェ)・フォード・ヒュンダイグループ〕の合弁会社による充電プロバイダー「IONITY(アイオニティ)」が、800Vに対応した350kWの充電ステーションを欧州で配備を始めており(充電規格はCCS・通称コンボ)、インフラ面でも整備が始まっています。

高性能車には2速変速のeAxleも使われるようになっていること、バッテリーの大容量化に応じて急速充電性能が高くなってきたことが見受けられます。


デンソーとアイシンがタッグを組んだBluE Nexus

デンソーとアイシンはeAxleの重要性に着目し、グループの強みを最大化するためにおたがいの技術とノウハウを持ち寄り、eAxleの開発・販売をおこなうことを目的に合弁会社BluE Nexus(ブルーイーネクサス)を2019年4月に設立しました。インバーターをデンソー、トランスアクスルをアイシン、モーターは両社で協業するという座組みで、eAxleシステムをトータルに提案するとしています。

<写真4>
ブルーイーネクサスの湿式クラッチ2段変速機構をもったeAxle
<写真4>
ブルーイーネクサスの湿式クラッチ2段変速機構をもったeAxle



東京モーターショーでは、湿式クラッチの2段変速機構をもったeAxleを展示していました。これについて担当者にインタビューしました。


────このeAxleの特徴を教えてください。

出力150kW(約200馬力)の2段変速機構付きeAxleです。(アイシンが持つ)ATの技術を活かして湿式クラッチを搭載しています。


────クラッチディスクの交換はどれくらいの距離で必要ですか。

クラッチディスクは無交換の想定です。(エンジンと違い)モーターは精密な制御ができるので、変速時は出力側と協調することによって負担を低くすることができます。電子制御なので協調しやすいからです。


────御社は以前、常時噛み合せ式の2段変速eAxleを発表していますが、これとの違いは何でしょうか。

ドグクラッチ(常時噛み合わせ式)は変速時にどうしても駆動力が抜けるためトルク変動がありますが、こちらは滑らせながらつなぐのでトルク変動が少ないスムーズな変速が可能です。一方のドグクラッチはシンプルな仕組みなので、コストメリットがあります。プレミアム向けの湿式クラッチ、シンプルなドグクラッチということになりますね。 


────2段変速のeAxleへのニーズは今後増えるのでしょうか。

モーターの場合、想定した最高速度にあわせてファイナルのギア比を決めると、発進のトルクが決まりますが、その場合に高駆動力、蹴り出しの力が必要な場合は2段を使うケースがあるのではないでしょうか。


────eAxleは競合が多いですが、ブルーイーネクサスの強みは何でしょうか。

トヨタのプリウスなどのTHS (トヨタハイブリッドシステム)の電動ユニットを設計し、大量に生産してきたという実績はどこにも負けません。また、インバーター・モーター・トランスアクスルの3つをまとめて、高い完成度のシステムとして提案できるのが強みです。

今回、ブルーイーネクサスは東京モーターショーに合わせて、トヨタが2020年に中国で発売予定のEV「C-HR EV」「IZOA EV」に同社製のeAxleが搭載されることを明らかにしました。


急速充電に対応した800V対応インバーターを量産へ

次に日立オートモティブシステムズを紹介します。EV向けeAxleのインバーターは400Vが主流ですが、その倍となる800Vに対応した耐高電圧インバーターの量産を発表しました。担当者に話を聞きました。


────800Vにすることによるメリットは何でしょうか。

電圧が高くなれば、それだけ充電も早くできるのが一番のメリットですね。バッテリー技術も大きく向上し、容量も増えてきましたので、充電時間がかかるというデメリットが目立つようになってきました。自動車メーカーからは、急速充電に対応するため高電圧に対するニーズがあります。


────パワー半導体にはシリコンカーバイドを使っているのでしょうか。

いいえ、パワー半導体はIGBT(シリコン)です。シリコンカーバイドに関しては、2022年をめどにパワーモジュールの量産開始を目標にしています。高電圧・高電流への(自動車メーカーからの)要望が増えてきますので、大きな電流を流せるシリコンカーバイドは必須技術になってくると考えています。


────800Vが可能になった技術的なブレークスルーは何でしょうか。

パワーモジュールの冷却が最大のポイントです。通常は素子を片面冷却するのですが、当社独自の技術に素子の両面冷却があります。今回その冷却性能をさらに引き上げることができました。従来型と比べて放熱フィンの形状やピッチを見直すことで実現しました。


────他社に比べて御社の強みはどのような点でしょうか。

パワーモジュールの素子を内製していることと、素子の両面直接冷却という独自の技術が強みです。冷却性能が高いこと、また高効率かつ容量に対して出力が高いものができることが特徴です。


<写真5>
日立オートモティブシステムズのパワーモジュール
<写真5>
日立オートモティブシステムズのパワーモジュール



海外サプライヤーの動向

海外のサプライヤーについても触れておきます。まずボッシュは、400Vと48Vの2種類のeAxleを展示しました。担当者によると、「日本の自動車メーカー向けにはまだ実績がありませんが、欧州メーカーにはすでに納入実績があります。また当社は、eAxleの主要コンポーネント(モーター・インバーター・トランスアクスル)を、要望に応じてそれぞれ柔軟に供給できるところが強みです」と語ってくれました。


<写真6>
ボッシュが展示した400VのeAxle
<写真6>
ボッシュが展示した400VのeAxle


最後にシェフラーについてです。同社は800V対応のeAxleの開発を明言しています。担当者は、「eAxleとしてシステム納入の実績はまだありませんが、アウディのEV『e-tron』には、前後のeAxleのギアを納入しています」とのこと。

シェフラーはもともとディファレンシャルやトランスミッションに強みがあります。「2段変速に加えて、ニュートラル付きの変速機を用意しました。空走を制御に利用するなど、自動車メーカーによってニュートラルへの要望があります」と語っていました。


まとめ

eAxleはまだ進化の途中であり、各サプライヤーがそれぞれの強みを活かして差別化を図っている状況です。3つのコンポーネント(モーター・インバーター・トランスアクスル)を自動車メーカーが別々に調達することも多く、性能向上の余地が大きいインバーターで特徴を出す日立オートモティブシステムズや、システムとしての完成度や供給能力をアピールするブルーイーネクサスのようなサプライヤーもありました。

電動車にとってのコア部品であるeAxleは、自動車メーカーとサプライヤー間の産業構造の変化を促し、開発競争がますます激化する領域になりそうです。


文/佐藤耕一

【New!】新サービスのご紹介

▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)