『第3回 医療と介護の総合展』レポート(後編)

『第3回 医療と介護の総合展』は、医療機器やヘルスケア機器などを集めた医療と介護の専門展示会です。前編では尿失禁のトレーニングや子供の夜尿症の改善に効果的なセンサーデバイス、解像度が高く機器自体の自由度も高いCMOSセンサーを先端に取り付けた内視鏡など、アイデアを生かした医療機器の取り組みを紹介しました。後編では、電池で使用できる携帯型痰吸引器、災害時でも通信連絡が可能な無線端末、ヒートショックによる浴室内事故防止装置といった災害時での活躍が期待できる身近な技術をレポートします。

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小型軽量化した痰の吸引器

携帯型の痰の吸引機器を出展していたのは日東工器株式会社(東京都大田区)です。昨今よく起きる台風などの自然災害で電源供給が止まり、医療機関などで機器が作動できずに大きな問題になりました。電力がなくなった場合、痰の吸引ができずに困る被災地も多かったのです。説明してくださった植野祐介(うえの・ゆうすけ)メドー事業部リニア販売部販売課主任によれば、同社はカプラーや継ぎ手の製造販売メーカーだそうです。

「弊社事業の中に自社製品のポンプを販売する部門があり、その技術を転用した製品として今回、携帯型の痰吸引器を出展しました。医療機器として業者さんを通じて販売をしていただいています。

特に障害を持った小児を対象にした製品として開発しましたが、在宅介護が必要な小児の患者さんの場合、どうしても通院が必要となり、保護者や介護者は車椅子に乗せた小児の患者さんと外出しなければなりません。その際、なるべく荷物は少なく重いものは持ちたくないということで、必需品の痰吸引器の小型軽量化は長く待ち望まれていた製品となっています」


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本体は約1.2kg、航空機内への持ち込みも可能、単三アルカリ乾電池4本で約15分間作動し、充電可能な二次電池(1,900mAh)では約70分間使用できるそうです。
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本体は約1.2kg、航空機内への持ち込みも可能、単三アルカリ乾電池4本で約15分間作動し、充電可能な二次電池(1,900mAh)では約70分間使用できるそうです。


植野さんによると、小型化する上で吸引力との兼ね合いが最も大きな技術的な課題だったと言います。

「ポンプの大きさによって吸引力は決まってきます。吸引器のノズルを患者さんの喉へ差し込みますから、吸引力が強ければ短時間で吸引できて負担が少なくなります。しかし当社の製品は小型なので吸引力は弱く、さらさらした痰なら十分に機能を発揮できますが、粘度の高い痰、硬い痰では吸引できない場合もあると思います。成人の場合、量も多くなりますし粘度も高くなりますので、乾電池で動作する小型タイプには荷が重いかもしれません。

また、ノズルはそれほど長く差し込んでいられるものではありませんので、使用対象の患者さんは小児が主になってくると思います。ただ、乾電池で動作する痰の吸引器として、停電した場合など応急的な装置として評価していただいています」

医療と介護の総合展ということで、こうした患者さんや家族の「困った」を解決する技術が多く出展していました。



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日東工器株式会社 植野祐介メドー事業部リニア販売部販売課主任。携帯型痰吸引器の値段は税別で6万5,000円。個人使用の場合、自治体によって金額は違いますが、給付金によって負担は軽減されるでしょうとのことです。
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日東工器株式会社 植野祐介メドー事業部リニア販売部販売課主任。携帯型痰吸引器の値段は税別で6万5,000円。個人使用の場合、自治体によって金額は違いますが、給付金によって負担は軽減されるでしょうとのことです。


災害時や緊急時に連絡できる無線端末

今回の展示会では、医療や介護以外にも多種多様な出展社がありました。テレネット株式会社(長野県飯田市)は、地震・津波対策を専門として防災に役立つ製品やサービスを提供している企業です。展示していたのはハザードトークという無線機のシリーズで、ブースで説明してくださった利根川英樹(とねがわ・ひでき)営業サポート部エンジニアリング係長によれば、災害時や緊急時に携帯電話が通じなくなってもある程度やり取りができる端末ということです。

「弊社はもともと緊急地震速報の受信機を作っているメーカーです。その知識を元にしてIP(Internet Protocol)無線の防災関連機能を付けた端末を製品化しようということになり、4年前からハザードトークの開発に取りかかりました。IP無線は携帯電話の電波帯を使った一種のトランシーバーです。他社さんも同じような製品を作っているようですが、これだけ多機能なのは弊社の製品だけだと思います」

利根川さんによると、ハザードトーク906M(119.5×61.5×23.5、210g)という製品は、NTTドコモの回線を使っているのでNTTドコモのサービスエリアで通話やデータ送受信が可能だそうです。IP無線は、消防などの行政、タクシー会社、トラック運送業、バス会社、警備会社などで活用される通信手段にもなっています。


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対策本部用、出先地域用で通信し、ハザード・フォトスという専用アプリで画像を送受信している様子。
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対策本部用、出先地域用で通信し、ハザード・フォトスという専用アプリで画像を送受信している様子。



「やはり、ドコモさんは基地局数や緊急時の移動基地局も多く最も信頼性が高いと思います。ただ、弊社はドコモさんと直接ではなくMVNO(Mobile Virtual Network Operator、仮想移動体通信事業者)の業者さんと契約しています。MVNOは、キャリア3社の電波帯に間借りした電波回線をユーザーに提供する業者さんになります。

また、電波が入らない場所ではWi-Fi接続することも可能ですから、衛星データ通信の通信環境があればWi-Fiを使ってさまざまな通信手段を使うことができます。無線通話をするときは端末同士が原則ですが、外線オプションを付ければ050の外線通話も可能です。救急車に搭載していただいているお客様は、弊社の端末を使って病院とのやり取りなど、IP無線機以外の発着信をしている事例もあります」

また、ハザードトークエニー(152.9×74.2×8.5、162g)というAndroid端末に似た新製品では、NTTドコモ/au/ソフトバンク、3キャリアいずれかの基地局の電波の中で最も品質のいい電波を拾うという仕様になっているといいます。

「こちらの製品は通信手段の多様化という点で役立つと思います。例えば、2018年12月に起きたソフトバンクさんの一時的な通信障害のような事態の場合、SIMを複数入れなくても他の電波帯を使うことができます。技術はモバイル・ルーターと同じもので、端末の中に特殊なアプリ用のもの以外のSIMは入っていません。アンテナマークが二つ表示されますが、これはルーター用とアプリ用SIMがあるためです」


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テレネット株式会社 利根川英樹営業サポート部エンジニアリング係長。災害現場の声を反映させて開発していると言っていました。
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テレネット株式会社 利根川英樹営業サポート部エンジニアリング係長。災害現場の声を反映させて開発していると言っていました。


同社の製品は、筐体などの外形は既存の製品を検証しながら、災害時に最も使い勝手のいいものを選び、設計仕様を作ってアセンブリまでファブレスで行っているそうです。

「筐体など外形のプロトタイプは市販の従来製品で、そこに弊社でカスタマイズし、同じような外観ですが内部は防災用の無線機としてまったく違った製品になっています。ハザードトークエニーも筐体は既存のAndroid端末を使っています。こちらも今後はいろいろ改良していきたいと思っています。

ハザードトーク906Mのほうは、IP(Ingress Protection)67(防塵防水)相当の規格になっています。電池の持ちは満充電で12時間です。エニーはまだ検証中ですが、単純にスマートフォンとして使う分には3日間以上電池は持ちますが、やはり無線機能を使うと電池の持ちが短くなります。外形については新しく出てきた筐体で候補になる製品のほとんどを取り寄せ、社内で検証しつつ常に新しく使い勝手のいいものにしようと試行錯誤を繰り返しています」

災害時の現場での使用状況などから出てきたお客さまの意見や要望を製品改良に反映させてきたという利根川さん。ハザードトーク906Mには強力なマグネットが付き、充電器からの着脱が容易な仕様にしてあると言います。


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背面にマグネットを付けた端末。主に車載用で災害現場ではすぐに端末を取り外せるようにしたといいます。
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背面にマグネットを付けた端末。主に車載用で災害現場ではすぐに端末を取り外せるようにしたといいます。


「従来の無線機はクレードル型になっていましたが、裏蓋にマグネットが付いていて充電器からすぐに持ち出せるような機能が特徴になっています。この機能は主に車載用で、いちいちシガーソケットからのUSB接続を抜き差ししている手間を省きたいという声に応えました。災害時に車で現地へ向い、端末を充電しつつ現地ではすぐに車から持ち出せるようになっているというわけです」

また、端末からのデータはクラウドにアップロードされ、対策本部などと共有しますが、データの大きさにも要望があったといいます。


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スマートフォンのアンドロイド端末の筐体を流用した製品。各アプリは汎用のものと専用のものを入れているそうです。
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スマートフォンのアンドロイド端末の筐体を流用した製品。各アプリは汎用のものと専用のものを入れているそうです。


「例えば、ハザード・フォトスという写真や動画を共有するアプリがありますが、お客さまから写真を撮る機能を使い勝手のいいサイズにしてほしいというご要望があって作りました。台風や地震などで画像データを活用が多くなってきていますが、緊急時にはコメントなどを入力する時間もないので、通常、参考、緊急、といった段階別のマークを付け、すぐに現場の写真を対策本部などと共有することができるようにしています。

いまのスマートフォンのカメラで写真や動画を撮影すると大きなサイズになってしまいますが、災害時にはそれほど大きなサイズの写真は必要ではありませんし、大きなサイズでは送る時間もかかります。写真や動画では320ピクセルから640ピクセルまで解像度を落としていますが、災害時には帯域も制限されますから、災害用の無線機としてそうした環境変化の中でも情報を送受信できることが重要です」

端末のインターフェースは、Android OSをベースに同社でアレンジしているそうです。中に入っている防災用アプリも同社オリジナルだそうですが、特に災害用という仕様になっているので、一般のスマートフォン端末にそのまま入れることはできないと言います。

「iPhoneなどのiOSにはご提供していませんし、Android端末にしても、どういうカスタマイズしているかわからず、他のアプリと干渉してしまうかもしれません。弊社が動作確認をした端末にしか入れられないようになっています。一方、スマートフォン・タイプのハザードトークエニーでは、お客さまがMDM(モバイルデバイス管理)ツールなどを入れていただき、日常の利用を踏まえるような仕様になっています」

行政の防災や救急用、架線や道路管理、企業のBCP(Business Continuity Planning:事業継続計画)利用など、広く採用実績のある同社の端末ですが、今回の展示会に出展してみて医療業界に対してまだアピールしきれていないことを実感したそうです。利根川さんは、製品の良さを知ってもらうところから始めようと思っているそうです。


人感センサーで見守りヒートショックによる事故の防止につなげる

急激な温度差によるヒートショックで心筋梗塞や脳梗塞などで倒れる高齢者が増えています。特に入浴前後に多く、一人暮らしの高齢者を心配する家族も増えているようです。新日本通信株式会社(東京都文京区)は、親機と子機のセットで人感センサーを備えた子機を居間や浴室、脱衣所などに設置し、人の動きをしばらく感知しない場合に作動し、家族やご近所などに通報する事故防止装置を出展していました。小平学(こひら・まなぶ)代表取締役によれば、浴槽のお湯を排水するオプションの緊急ポンプとのセットで特許を取得していると言います。

「お風呂やトイレで毎年1万7,000人が亡くなっています。この問題を解決すべきだと10年前に思いました。私はもともと建築士ですが、住む人にとって安全な建造物はなにかということを悩み、考え、この装置の開発にいたったのです。

自ら設計し、開発に7年間かかりましたが、プロトタイプはすべて日本で作り、中国で量産品を作っています。作るときに特に苦労したのは、基板などを作る際の人の手配です。開発には長い時間がかかりますから、その間に人が変わってしまうようなことがよく起きたんです」


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入浴中などの高齢者の様子を見守る製品セット。左が親機、浴室での動きセンサーなどが子機となっていて、オプションとして浴槽からお湯を抜くポンプ、外部の指定した連絡先へ電話をかける装置があるそうです。
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入浴中などの高齢者の様子を見守る製品セット。左が親機、浴室での動きセンサーなどが子機となっていて、オプションとして浴槽からお湯を抜くポンプ、外部の指定した連絡先へ電話をかける装置があるそうです。


システムは親機である装置本体、本体と有線でつなぐ浴室動きセンサー、無線の本人確認用光ブザー、無線の家族用光警報ブザーとなっているそうです。省エネのためによくトイレの照明などに使われているのと同じように、人が動かなくなったことを感知すると、親機から10秒間、起きてください、目を覚ましてください、と呼びかけアナウンスが出る仕組みになっていると言います。
さらに10秒間経っても動きがない場合、オプションの装置で家族の不在時にご近所や病院や警察などの登録した外部の連絡先へ電話をかけるようになっています。

「ご本人が動けば装置は止まります。手で押す必要はありません。入浴中に倒れられた場合、溺れてしまって亡くなることも多いので、自動的に排水するためのポンプと組み合わせました。これが弊社の特許ですが、電動ポンプは洗い場などに置き、人の動きが確認できない場合、警報発生の30秒後、浴槽内に入れた直径40mmのパイプからお湯を外へ排水します。あくまで緊急用のためのポンプになります」

オプション設置となる緊急排水用ポンプは30センチ×20センチの大きさだそうで、小平社長は同様の装置はこれまでなかったと言います。高齢者の一人暮らしが心配な親族の方、見守りが必要な行政などに使っていただきたいと考えているそうです。

医療と介護は日本にとって今後ますます重要になってくる分野です。要素技術を組み合わせる将来性のありそうなアイデアも散見され、患者さんや家族、医療関係者の「困った」を解決するための多種多様な出展が興味深い展示会でした。



文/石田雅彦


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