『第3回 医療と介護の総合展』レポート(前編)

「第3回 医療と介護の総合展」は医療機器やヘルスケア機器などを集めた医療と介護の専門展示会で、医療IT、病院設備などの展示会(第11回 ヘルスケア・医療機器開発展)が併催されています。3日間の来場者数は2万3,101人、医療関係者はもとより、試作・加工、表面処理、素材・材料、試験・計測といった要素技術の関係者も多数、来場していたようです。非常に多種多様な出展があったので前後編2回に分けて本展示会を紹介します。


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尿失禁の改善トレーニングを見える化

株式会社ライフセンスグループジャパン(東京都立川市)は、ベルギーに本社がありオランダに研究開発部門があるアイメックという会社からスピンアウトして自己資本でベンチャーとして起業した企業です。オランダの研究開発部門は、センサーや無線機能付きの小型端末などを作っているそうですが、説明してくださった米山貢(よねやま・みつぐ)代表取締役は、実質的にアイメックの社内ベンチャーではないと言います。

「弊社が扱っている技術の具体的な出口としては、サムソンのスマートウォッチに使われている心拍数をセンシングするための技術や、米国で乳幼児の生育状況をモニタリングする技術などがあります。要素技術に関しては、弊社の共同経営者がアイメック時代に取得した特許の発明者になっており、包括的に特許技術を使用する権利をアイメックから買っています。ただ、基礎技術はあるのですが、これまでなかなか活用できるアプリケーションがありませんでした」

同社が出展していたのは、女性の尿失禁(尿漏れ)を感知するセンサーとそれを装着するショーツ、トレーニング用アプリ(エクササイズ動画付き)です。要素技術を応用できるビジネスを探しているうち、女性の尿失禁という分野には世界で悩んでいる患者さんが数億人もいることに気付いたそうです。


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元開発技術者だった株式会社ライフセンスグループジャパン 米山貢代表取締役。
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元開発技術者だった株式会社ライフセンスグループジャパン 米山貢代表取締役。


「女性の尿失禁センサーを作ろうと考えたのは、共同経営者がオランダの泌尿器科の医師や理学療法士らと話していて、困っている患者さんは多いけれど、それに関した製品がなかったからです。日本では2,000万人以上が悩んでいるというデータもあります。尿失禁は、骨盤底筋というお尻の下にある内臓の落下を支える筋肉が断裂したり弱ったりして起きます。治療には骨盤底筋を鍛えるためのトレーニングを熱心にやれば治療・改善は可能になっていきますが、患者さんや治療者がトレーニングの効果をはっきり把握しにくいという点が問題でした」

同社が持っている要素技術を応用すれば尿失禁を感知するセンサーができるのではないかと考え、さらにこの分野に競合がいないことからベンチャーとして最初に開発する製品として選んだそうです。尿失禁は男性よりも女性の患者さんが多く、そのきっかけは妊娠出産が多いと言います。

「早い場合では妊娠したころから始まり、出産時に骨盤に障害が生じることで多くなります。その後、尿失禁が治る場合もありますが、ずっと治らず、恥ずかしいので人や医療関係者にもなかなか相談できず、加齢につれて症状が重くなって一人で悩んでいるという人も多いのです。

さらに重症化すると、骨盤の下部で内臓を支えきれなくなって外科的な治療を受けなければならなくなることもあります。また、出産経験がなくても尿失禁の症状は出ますし、肥満によって骨盤に負荷がかかって症状が出ることもあります」


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瓢箪型をしたセンサーデバイスをショーツのポケットに入れます。ズレを防止するためマグネットで装着するそうです。
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瓢箪型をしたセンサーデバイスをショーツのポケットに入れます。ズレを防止するためマグネットで装着するそうです。


患者さんはいつ漏れるかわかりにくく、うっかり人前で漏れてしまえば恥ずかしいということで、人と交流するような対人的なコミュニケーションや社会生活に支障が出ます。同様に夫婦生活にも影響が出るというようなことが大きな問題と言います。

「治療改善に向けたトレーニングとして骨盤底筋を締めていく治療法が基本です。ほとんどの場合、1日10分間やれば1か月くらいで症状が軽減していきます。5秒間、締めて緩め、再度5秒間という繰り返しです。健常者だと難しいことではありませんが、尿失禁の症状が出る場合は1、2秒でも自分で連続して骨盤を締めることができない患者さんも多いのです。しかし、トレーニングを続ければ、2秒間しか締められなかったものが、少しずつ締め付ける時間が伸びていき、だんだん失禁しなくなるというわけです」

 米山社長は、この製品の目的は尿失禁トレーニングによる効果を見える化することにあると言います。あまり人に言えるような症状ではなく、尿失禁しているかどうかは本人しかわからず、自覚していない人も多いそうです。

「骨盤底筋のトレーニングをすれば尿失禁の治療や改善は可能ですが、単調なトレーニングなのでなかなか継続できません。患者さんはすぐに良くなる効果を期待しがちですが、1日10分でも1か月続ける必要があるのですぐ良くなるわけではないのです。実際にこの製品をモニターの方に使っていただいた結果、最も良いところは自分の努力が見える化されたことと回答を得られました。つまり、尿失禁に悩んでいる人にとっては、自分のトレーニングの成果を確認し、達成感を継続へのモチベーションにできることが重要ということです。

また、病院やリハビリテーションの治療院で、尿失禁の症状の度合いを診断するツールにもなりますし、骨盤強化トレーニングの改善効果を数値として見える化することにも役立ちます。トレーニングをちゃんとやっているかどうかもスマートフォン用アプリでわかりますから、治療する側にとっても患者さんのトレーニング状況を確認できるようになっています」

同社が製品とセットで提供しているスマートフォン用アプリには骨盤トレーニングの動画付きエクササイズ・メニューも入っていて、トレーニングして尿失禁の症状が軽減されていくデータの変化を確認できることで、トレーニング継続のインセンティブになるということが大きいと言います。アプリにはAIが搭載され、トレーニング状況に応じた運動を行うようになっているそうです。

「骨盤底筋の弱り具合にはいろいろなタイプがあり、例えば骨盤底筋が縦に断裂しているタイプ、横に断裂しているタイプ、複雑に断裂しているタイプなどがあり、それぞれのタイプによってトレーニングの方法が少しずつ異なります。

例えば、くしゃみをしただけで尿失禁してしまうような場合、測筋という瞬間的に反応する筋肉を鍛えなければなりませんし、骨盤底筋が緩くなって寝ていても尿失禁してしまう場合はじわっと抑える遅筋という筋肉を鍛えなければなりません。それぞれの症状に合ったトレーニングをしなければあまり効果は期待できないのです。

AIを使っていますが、これで尿失禁の前兆がわかるわけではありません。弊社のアプリのAIは、それぞれの症状に合わせたトレーニングを用意し、症状の改善によってトレーニングの継続や終了を判断しています」

瓢箪型のデバイスは、大きさや装着する場所、下着の感触などについてトライアンドエラーを重ねながら開発したと言います。このデバイスは、専用のショーツの股間部分に付けたポケットに入れるセンサーで、尿失禁の微妙な量などの感度調整が難しかったそうです。

「瓢箪型になっているのは、コイン型電池の直径があるからで、女性のデリケートなところに位置するので当然ながら薄いほうがいいのですが、この厚みが技術的な限界でした。LSIにすれば将来的に薄くなるでしょう。ショーツのポケット中ではマグネットが付いていてズレ防止にしています。

デバイスの中には銀線でオープンループを作った装置があり、尿が漏れて失禁すると銀線がショートしたようになって電気抵抗が変化します。それをマイクロコンピュータのセンサーでモニターし、継続して感知し続け、ノイズではないことが確認されれば失禁ということを専用のスマートフォン・アプリにBluetoothで送る機構になっています。

なにしろ小さい製品なので尿失禁をセンシングする場合、ちょっとした環境変化で得られる数値が大きく変わってきます。多種多様な状況や環境に応じ、チューニングを繰り返さなければならなかったというのが開発する上での苦労です。単純な機構のように見えますがセンサーの感度設定などがノウハウの固まりになっています」


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試行錯誤を重ねて開発したデバイスの内部。防水のため電池の交換は不可だそうです。
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試行錯誤を重ねて開発したデバイスの内部。防水のため電池の交換は不可だそうです。


行政に確認したところ、尿失禁は病気ではないので医療機器としての認可申請は必要ないとの回答を得ているそうです。尿失禁の場合、オランダなどでは理学療法士に治療してもらうことが多いという米山社長。医療機器ではないため、ドラッグストアや通販で販売し、医療機器としては病院などへの販路を持っている会社とタッグを組んでいくことを考えていると言います。


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小児の夜尿症(おねしょ)の治療・改善のためのセンサーデバイス。電波を使わず、音声でスマホなどと連携し、夜尿症をした小児を起こすそうです。
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小児の夜尿症(おねしょ)の治療・改善のためのセンサーデバイス。電波を使わず、音声でスマホなどと連携し、夜尿症をした小児を起こすそうです。

「ショーツは手洗いでき、脱水も大丈夫です。取り忘れる人のために防水にしていて電池の交換はできませんから、電池が切れるまでの仕様となっています。2016年から開発を始め、電池交換型の第1世代は2年くらい前、その後、2019年から現在の製品になり、月間1,000セットくらいの出荷状況になっています」

前立腺肥大の手術後など男性にも起きる尿失禁のため、男性用の製品も開発し、モニターテストを行う段階にあるそうです。また、児童用の夜尿症センサーも出展していたライフセンスグループジャパン。なかなか人に言えない尿失禁を改善するためのソリューションを提供している会社でした。


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ライフセンスグループジャパンの出展ブースの様子。台湾からのバイヤーが商談に訪れるなどしていました。
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ライフセンスグループジャパンの出展ブースの様子。台湾からのバイヤーが商談に訪れるなどしていました。


工業系から医療系参入への模索

工業系のものづくり企業にとって、医療系への参入は敷居が高いとよく言われます。医療機器の場合、主に医療機器メーカーからの受発注を通して製造する医療機器製造業、医療機器メーカーが作ったものを病院などの医療施設に売る販売業、医療機器のブランドメーカーである製造販売業の3つの形態があり、販売業の許認可を取ることは容易ではないからです。門外漢のものづくり企業にとっては、販売業を専門業者に依頼し、参入したいところですが、どうつながりを持てばいいのかなかなかわかりません。

株式会社SPIエンジニアリング(長野県長野市)は、工業用の内視鏡の技術を持った企業ですが、自動車の内燃機関やギヤボックスなどの内部を、完成後の保守管理ではなく、組み立て工場などの製造工程での検査を見るために使われているそうです。原山広一郎(はらやま・こういちろう)代表取締役社長は、医療系の展示会への出展は今回が初めてと言います。

「将来的な市場を考えた場合、このまま工業用一本でいけるのかという不安があります。現在、弊社のお客様は自動車関連がほとんどですが、電気自動車が増えていけばエンジンがなくなるかもしれないというように、自動車関係は技術的にも市場的にも大きな変動期に入っていくと思います。医療系で医療機器を売る場合、製造販売業の認可が必要なので、こうした展示会へ出展して足がかりにしたいと思っています」


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株式会社SPIエンジニアリング 原山広一郎代表取締役社長。ものづくりの工業系から医療系へ参入するために初めて出展したそうです。
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株式会社SPIエンジニアリング 原山広一郎代表取締役社長。ものづくりの工業系から医療系へ参入するために初めて出展したそうです。


同社では、細さにこだわった内視鏡を作ってきたと言います。内視鏡にはいくつか種類がありますが、同社のものはファイバースコープではなく先端にカメラを付けたタイプだそうです。

「最初は直径7〜8mmの内視鏡からスタートしましたが、競合も多い業界なので細くしていくことでアドバンテージを得ようと考えてやってきました。先端にCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサーを付け、可能な限り小さく細く作っています。現在、最も細いもので先端の直径は0.95mmです。

ファイバーを束ねるファイバースコープ・タイプでは極度に曲げると折れてしまうなど耐久性の点で欠点があります。先端にカメラを付ければ、途中はすべて電気信号で送ることができるのでかなり自由度高く折れ曲げることができます。

また、ファイバースコープは、例えば直径0.95mmや1.8mmというサイズでは1〜2万本のファイバーを束ねているため、ファイバーの本数がいわば画素数、解像度ということになります。1〜2万本のファイバーですから画素数で言えば、1万画素とか2万画素のレベルでしかありません。しかし、先端に付けたカメラのCMOSセンサーの場合、0.95mmでも16万画素になり、ファイバースコープよりも高い解像度を実現します。そのため、患部の詳細をきれいな画像で見ることができるのです」


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内視鏡には大きく3つのタイプがあり、同社のものは棒状の硬いタイプとなります。先端にCMOSセンサーが付いていて高解像度の患部の画像を送ることが可能ということです。
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内視鏡には大きく3つのタイプがあり、同社のものは棒状の硬いタイプとなります。先端にCMOSセンサーが付いていて高解像度の患部の画像を送ることが可能ということです。


先端にカメラが付いているのでどうしてもカメラの硬い部分ができてしまい、そこが医療用で使ってもらえない最大の欠点という原山社長。また、最も小さな0.95mmの内視鏡では、いまのところ柔軟性はほとんどないと言います。このサイズ以上では、先端のカメラ部のほかはフレキシブルに曲げられる内視鏡だそうです。

「0.95mmの場合、チューブの肉厚が25ミクロンで、この肉厚のフレキシブルなチューブはいまのところありません。樹脂やナイロンで作っても、ストローのように途中で折れてしまいます。0.95mmの内視鏡では肉厚25ミクロンの特殊な金属のチューブを使っており、そのためフレキシブルに曲げることができないのです」

今回の展示会に出展したところ、医療系の製販業の方はあまり多くないと言います。一方、医療関係者は多く、内視鏡を実際に治療に使っている医師が立ち寄って情報を教えてくれることがあったそうです。

「脊椎内視鏡で実際に治療をされている方でしたが、その方からの情報でファイバースコープを何本も使って立体的に患部を見るというもっと新しい技術を教えていただき、もしかしたら弊社の技術を応用して今後その製品化のための研究開発をするかもしれません。

今回の出展では、別のお医者さまと一緒に開発した製品のポスターを作ってご提案しています。これは先端カメラタイプではなく、ロットレンズ(円柱状のレンズ)の後ろにCMOSを付けている硬性鏡(ボアスコープ)タイプの内視鏡です。このタイプの内視鏡は画質があまり良くないと言われていますが、お医者さまから先端にハイビジョンのカメラを付けて改良できないかということで依頼されたものです」

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同社の出展ブース。実際に内視鏡を使って治療をしている医療従事者が立ち寄り、貴重な情報を提供してくれることも多いと言います。
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同社の出展ブース。実際に内視鏡を使って治療をしている医療従事者が立ち寄り、貴重な情報を提供してくれることも多いと言います。


治療の現場からの貴重な情報を得られることも医療系の展示会へ出展する意味という原山社長。もちろん医療従事者によって慣れている治療法が違うため、どの方法が最も良いかは一概に言えないという感触を得たそうです。

ものづくり企業が医療系へ参入しようとする事例は他にも散見されました。ただ、やはり販売業者との接点がなく確保に苦労する実情を伺うと、展示会主催者のマッチングにも課題工夫の余地があるのではないかと感じました。




文/石田雅彦







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