ものづくり企業が医療機器業界に参入する極意とは?(4)〜助成金や知財をサポートするAMDAPの支援と地方の医工連携による製品開発事例

INTERVIEW

一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ
専務理事
柏野 聡彦

医工連携には数々の自治体の助成金もあると言います。今回も引き続き「一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ」専務理事の柏野氏に、高額な助成金と同時に知財やマーケティングのサポートを受けられるAMDAP(先端医療機器アクセラレーションプロジェクト)による集中支援の取組みを取り上げつつ、日本各地で取り組まれた医工連携による開発事例のなかで、とくにユニークな新製品をご紹介いただきました。

▽医工連携シリーズ

医工連携事案に1件6億円の助成金も!

一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ専務理事 柏野聡彦氏
一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ専務理事 柏野聡彦氏


────以前、全国の自治体が臨床ニーズマッチング会を開催しているとおっしゃっていましたが、東京都でも開催されているのでしょうか。

柏野
はい。都内を中心に大学病院やナショナルセンター、地域の基幹病院と合同で臨床ニーズマッチング会を年間10回ほど開催しています。これを「クラスター研究会」と呼んでいます。

クラスター研究会のスキームとしては、医療者が臨床ニーズを発表し、これを製販企業である医療機器メーカーとつなぎ、その後、都内中小企業をはじめ、ものづくり技術をもつ企業をつないでいくというものです。医工連携は臨床ニーズから始まりますので、臨床ニーズマッチングは極めて重要です。

具体的な臨床ニーズは、東京都医工連携HUB機構ウェブサイト上にある臨床ニーズデータベースでご覧いただくことができます。500件を超える臨床ニーズが掲載されておりまして、ウェブ上から面談希望やコメントをお送りいただくことができます。

しかし臨床ニーズデータベースに掲載しているだけではマッチングは進まないものです。ですからそこはやはり、臨床ニーズマッチング会というイベントと合わせて実施することで、「効率性」と「実効性」の両方を実現していく必要があると考えています。


────新たな医療機器の開発には助成金などもあると聞きました。

柏野
そうですね。それら各種助成金もさきほどのウェブでご紹介していますが、とくに画期的な先端医療機器アクセラレーションプロジェクト(通称、AMDAP)を紹介させてください。

AMDAPは東京を起点にイノベーティブな医療機器を開発し、そこに後進が続くエコシステムの構築をめざした事業です。具体的には2018年度は3件のビジネスプランが採択され、「集中支援」という名称で、3年間にわたりマーケティング、法規制、知財、資金調達等の観点からビジネスプランをブラッシュアップするためのサポートを受けることができます。そして、採択から1年半後に「審査」が行われ、選ばれた1件が「直接支援」として、1期最長3年・最大3億円を最長2期、つまり最長6年・最大6億円の支援を受けることができるというものです。


────自治体で1件6億円は大きな金額ですね。

柏野
はい。金額もさることながら、注目していただきたいのは「集中支援」の部分なんです。AMDAPではカタライザーシステムを採用しています。いわゆる伴走型のコンサルティングなのですが、“プロジェクト(事業者)に適した専門家チームを編成する”という点が特徴です。

カタライザーとは、医療機器開発経験が豊富で、医療機器開発に求められる法規制やマーケティング、知財、臨床試験、PMDA(医薬品医療機器総合機構)相談、承認申請等の知識を高いレベルで備えた人材です。1事業者に1人のカタライザーが配置されます。カタライザーは事業者と密に打ち合わせをし、事業の意義・内容を理解し、価値観を共有します。

というのも支援は事業者を理解することから始まらなければなりません。価値観を共有し、そして、カタライザーは事業全体を「俯瞰」します。そのうえで事業者と相談しながら事業を「推進」するうえで必要な知見を有する専門家を選定します。


────カタライザーだけではなく、そこにさらに専門家が参画するのですね。

柏野
カタライザー自身も高い専門性を有していますが、個別の専門性についてはより優れた専門家が存在しますので、そうした専門家の参画を得て、最高の知識を動員しようという考え方です。

そして、専門家との面談の際、カタライザーは事業者とともに専門家への質問を行います。専門知識が少ないと、どのような質問ができるのかがわからないんですね。専門家に質問ができないのです。そこをカタライザーがサポートするわけです。

そして、事業者が専門家の発言内容を理解し、事業に活用できるようサポートします。専門家の発言内容の意図や解釈の仕方を咀嚼して伝えるわけです。医療機器分野の経験がないと、そもそも専門家の発言内容を理解できない、ということも生じるわけです。

そして、重要なことは、薬事や知財、資金調達など1つの専門領域について複数、2~3人の専門家と面談をし、より事業者への理解が深く適切な発言をしてくれる専門家を選んで、踏み込んだ面談を重ねていくという方法です。その結果、事業者に合った最適な専門家チーム(個別化・伴走コンサルティングチーム)が形成されていくというものです。

自分に合った専門家に指導を受けることになりますから、事業者の方々にとってはより好ましい方式だと思います。東京都が先駆けて行っている仕組みですが、いろいろな地域で参考にしていただけるのではないかと思います。


地方でも医工連携は進んでいる

────首都圏以外、医工連携を進めている地域はありますか。

柏野
日本各地で進んでいますが、とくにおもしろい地域は鳥取県と山口県ですね。例えば、鳥取県では、鳥取大学医学部附属病院の植木賢先生(教授、新規医療研究推進センター研究実用化支援部門長)が医工連携でがんばっておられます。アカデミアと大学病院の現場が中心になり、人材育成をやりつつ製品開発をしていく一つのモデルケースになっています。この事業は日本医療研究開発機構(AMED)の予算で実施されています。

成果としては、イナバゴム株式会社と共同開発した「ギャグレス・マウスピース(Gagless Mouthpiece)」という製品があります。これは内視鏡を挿入した際に「オエッ」となる咽頭反射を抑え、患者の負担を軽減するマウスピースです。従来のマウスピースは前歯でかむようになっているんですが奥歯でかむことで咽頭が広がるという人間の反射を利用したものなんです。人間の構造と機能を理解した専門の医師が参加したからこそ生まれた製品です。常識とされた製品を、専門の医師の知識によって変えたわけです。象徴的ですばらしい事例です。


ギャグレス・マウスピース(Gagless Mouthpiece)
ギャグレス・マウスピース(Gagless Mouthpiece)


イナバゴム株式会社Webサイトより(編集部により一部変更)
イナバゴム株式会社Webサイトより(編集部により一部変更)


────山口県ではどうでしょうか。

柏野
山口県は、山口大学だけではなく、ある個人の方の尽力が大きいです。それは安田研一さんです。山口県産業技術センターに民間企業から出向されています。安田さんの存在は大きくて、全国の医工連携を見渡したときに、これほど研究開発センスのあるリーダーはいないんじゃないかと思います。成果が出ていますし、進行中の案件もセンスがいいんですよね。

 成果としては、例えば、「yVOG-Glass(ワイボーグ・グラス)」という製品があります。これは、メガネ型の眼球運動検査装置で、眼球運動を画像解析してめまいを診断するものです。画像検査装置や画像処理システム開発で実績のある株式会社YOODS(山口県山口市)と山口大学医学部、山口県産業技術センター、第一医科株式会社により、共同で開発されました。

それから、これはまだ開発中のものですが、山口県、国立国際医療研究センター(東京都新宿区)、広島県の企業などの連携で開発されている歩行能力を測定する機器もあります。つま先が上がるか上がらないか、足首のちょっとした角度調節ができるかどうかといったことを簡易に計測可能とするもので、きわめてセンスのよい製品だと感じました。


yVOG-Glass(ワイボーグ・グラス)は眼球運動を画像解析してめまいを診断
yVOG-Glass(ワイボーグ・グラス)は眼球運動を画像解析してめまいを診断



────全体的に医工連携の現状をどのように見ていらっしゃいますか。

柏野
医工連携は全国的に盛り上がってきて、取り組みも充実してきたと感じています。次の時代の医工連携は、いまとはまったく異なる仕組みになり、もっと効率化していくでしょう。そのカギはやはり「WEBミーティング」ですね。医工連携では、臨床機関、製販企業、ものづくり企業、コーディネーターなど多くの職種が広域連携しますので、“最大級の問題”であるコミュニケーションコストを軽減し、プロジェクトを高速化させていくことが、これからの医工連携では必須です。オンラインで行うべきこととオンサイトで行うべきことを考え抜き、WEBミーティングのメリットを最大限享受できる仕組みをつくれた地域において成果が増大していくのだろうと思います。私もそのような未来にとても関心があります。




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