ものづくり企業が医療機器業界に参入する極意とは?(3)〜全国に広がる医工連携

INTERVIEW

一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ
専務理事
柏野 聡彦

医学系と工学系の学会などが連携して発足した一般社団法人日本医工ものづくりコモンズの専務理事、柏野聡彦氏は、医療機器産業とものづくり企業をつなぐためには橋渡し役としての医療機器メーカーやコーディネーターの存在が重要と言います。日本でも都道府県や医師、医療関係者と地域のものづくり企業がタッグを組んで、さまざまな成果が生まれつつあります。そうした医工連携の事例について柏野氏に紹介してもらいました。

▽医工連携シリーズ

すでに47都道府県すべてに医工連携の取り組みが

────医工連携の全体的な動きはどのような状況でしょうか。

柏野
国内では47都道府県すべてに何らかの医工連携の取り組みがあります。表現は難しいですが、もはや医工連携は『どこでも行われている一般的な取り組み』になったといえる状況でしょうか。


────地域ごとの傾向はありますか。

柏野
はい、地域によって、そこに立地する企業や医療機関、大学・研究機関などの特色を反映して、医工連携の内容や盛り上がり方に違いがあります。
関西、とくに大阪は、国立循環器病研究センター、大阪大学、大阪商工会議所などを核に全国に先駆けた取り組みを行うなど、大変活性化していることはよく知られています。『医工連携は西高東低』と表現されたこともあるほどです。
最近では、首都圏の医工連携の取り組みも充実してきました。


────首都圏の医工連携では、発表会なども行なわれているようですね。

柏野
そうですね。先日も埼玉県・さいたま市が成果発表会を開催しましたが、彼らは首都圏でも早くから医工連携に取り組んでいて、すでに多くの成果が出てきています。茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県の横浜市・川崎市などでも、それぞれに医工連携が取り組まれています。


────首都圏での医工連携は、なにかほかと異なる傾向がありますか。

柏野
一概には言いにくいのですが、首都圏には医療機器メーカーなど製販企業が集積していますので、このリソースを活用して、「医」の医療機関と「工」のものづくり企業に加え「医療機器ビジネス」の製販企業との三位一体のマッチング、医療機器開発を目指す取り組みが盛んです。

医療機器産業は特殊な市場構造と特殊な法規制のある産業です。そういったことを知らないものづくりの会社が単独で医療機器を製品化しようとしても、そもそも製品開発が困難ですし、製品開発をできたとしても『買ってもらえる製品』になっていない、販路を確保できない、といったことが起こる世界なんですね。

ですから、最初は、医療機器産業を熟知したプロフェッショナルとタッグを組んだほうが、ものづくり企業が無理なく円滑に医工連携を進められる、ということなんです。このような医工連携を、製販企業のビジネスノウハウをフル活用し、製販企業がドライヴィングフォースとなる姿から、我々は「製販ドリブン」と呼んでいます。


────製販ドリブンですか。ものづくり企業は自社が得意なものづくりの部分を担い、医療機器ビジネスのノウハウは製販企業に分担してもらうわけですね。

柏野
おっしゃるとおりです。餅は餅屋ですね。なお、ここでいう、“プロフェッショナル”というのは、製販企業である医療機器メーカーや、医療機器メーカー出身のコーディネーターやコンサルタントのことです。医療機器ビジネスのノウハウをもつ主体を広く捉えてよいと思います。

その他、医薬品医療機器等法でいう医療機器に限定せず、広い意味での医療現場で必要とされる製品、つまり、非医療機器や雑品と呼ばれる、例えば患者さんが歩きやすくなるような点滴スタンドなどのようなものの開発も積極的に行われています。


各地域では大学病院が核になっている

────地域ごとの特色などはありますか。

柏野
例えば、千葉県では国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)と千葉大学の存在感が大きく、国立がんセンター東病院には「NEXT医療機器開発センター」という拠点が設けられています。伊藤雅昭先生のご活躍が特に有名ですが、臨床ニーズに基づく医療機器開発が活発に行われています。

おもしろい実績としては、千葉大学(当時)の中村亮一先生、自治医科大学(栃木県)の川平洋先生、NITTO(神奈川県横浜市)という企業などが共同して開発した『archelis(アルケリス)』という椅子のような製品がありますね。

外科医が立って手術するのが大変だということで、足や腰への負担軽減を目指したデバイスです。手術を行う医師が両足に装着します。着けたまま歩くことができ、後ろへ姿勢を傾け、重心を移動すると椅子のように体重を支えてくれます。電源不要、脱装着が簡単、微妙なサイズ調整が可能、デザイン性も高いという注目の製品になっています。

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ウェアラブルチェア [アルケリス]
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ウェアラブルチェア [アルケリス]


<写真3>
ウェアラブルチェア [アルケリス]の装着写真
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ウェアラブルチェア [アルケリス]の装着写真



────大学病院やがんセンターは地域の基幹となる医療機関ですね。そうした主体が中心に進められていて、実績も出ているというのは大変すばらしいですね。

柏野
そのとおりですね。日本は47都道府県すべてに大学病院がありますし、医療圏ごとに基幹となる医療機関があります。そこでは世界最高水準の医療が提供されていますので、世界最高水準の医療課題・問題に直面し、これを解決するための医療機器開発ニーズが存在すると考えられます。地元医療機関の積極的な取り組みは、地域の医工連携にとって極めて重要です。千葉県は、国立がんセンター東病院と千葉大学がそれぞれに拠点を設けており、大変恵まれた環境にあるといえるのではないでしょうか。


────その他、神奈川県などではどうでしょうか。

柏野
神奈川県は黒岩知事がヘルスケア産業に熱心ですよね。政令指定都市として日本最大の横浜市は、横浜市や横浜企業経営支援財団が医工連携を推進し、しっかりとした取り組みが進められています。横浜市はリソースが豊富で、支援機能もしっかりしている印象です。

前もお話ししましたが、神奈川県の中で最近ちょっとおもしろい取り組みをしているのは川崎市ですね。川崎市は、地元ものづくり企業を対象に、医療機器メーカーに自社の技術の良さをきちんと伝えられるように、つまり自社技術を売り込む力を育成するための研修プログラムを実施しています。

これから医療機器産業に参入しようとする企業にとっては、医療機器メーカーから部品部材の発注を受けるかたちで参入できれば非常に円滑なんですね。ところが、全国を見渡してみますと、医療機器メーカーから発注を受けられる実力が十分あるのに、そのことがまったく伝わらず苦戦している企業が多いんです。ですからPRスキルアップの研修は医療機器産業に参入する企業にとっては最適な入口だと思います。それだけで、本当に変わります。

具体的には、現役の医療機器メーカーや私が講師になって、最初に川崎市内のものづくり企業から自社紹介のプレゼンテーションをしていただきます。そして、講師陣から「いまの言葉はピンときたので使ったほうがいい」、「この点を強調したほうがいい」、「こういう言葉づかいをしたほうがいい」、「この情報はカットしていいと思う」というかたちで助言をするんですね。そうした助言に基づいて、医療機器メーカーに売り込むべき内容を凝縮したポスターを作成してもらっています。


────東京都の取り組みはどうでしょうか。

柏野
東京都は日本最大の自治体ですので、東京の医工連携も国内最大規模で動いています。体制としては、都庁の下、公益財団法人東京都中小企業振興公社、地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター、それから私も関わる東京都医工連携HUB機構の4者が一体となった体制で運営されています。いわゆるコーディネーターの人数は30名を超えます。

取り組みも多岐にわたり、その内容も充実しています。例えば、医療機器産業に取り組むための知識を習得していただくための人材育成プログラムは3種類整備されています。基本を体系的に学ぶための全10回の連続講座によるプログラム、医療機器の海外展開を学ぶためのプログラム、イノベーションを学ぶプログラム(スタンフォード大学のバイオデザイン手法を取り入れている)の3種類です。これらはすべて無料です。




特殊な市場構造と特殊な法規制のある医療機器産業界に駒を進めることは簡単なことではありません。しかし、すでに全国各地でコーディネーターなどの力を借りて進出している例が見受けられます。なかでもさすがに東京の規模は格段に大きいようです。次回はその具体例とその他、地方での事例もご紹介いただきましょう。



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