『関西ものづくりワールド2019:機械要素技術展』レポート(後編)

製造業の開発や生産性・品質向上、コストダウンなどを目的に、東京、名古屋、大阪の3か所で毎年1回ずつ開催されているのが「ものづくりワールド」です。
この展示会は、設計・製造ソリューション展、機械要素技術展、工場設備・備品展、ものづくりAI/IoT展、次世代3Dプリンタ展、計測・検査・センサ展の6つの展示会で構成されていますが、その中心は機械要素技術展です。前回に続き、機械要素技術展の出展企業の技術を中心に紹介していきましょう。

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ものづくりBtoB企業の新製品・新技術が集結! 〜『関西ものづくりワールド2019:機械要素技術展』(前編)

 2019年10月2〜4日にインテックス大阪で行われた「関西ものづくりワールド2019」。今年で22回目の開催となり、これまでの機械要素技術展のほか、設計・製造ソリューション展などに加え、初開催となる次世代3Dプリンタ展のあわせて6つの展示会で構成されています。本記事では、ものづくりBtoB企業の新製品・新技術が集結し…

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深絞り=付価絞りという技術

旭精機工業株式会社(愛知県尾張旭市)は、金属加工の中でも深絞り成形技術を中心にした精密加工機械や金型設計で、多種多様な分野に向けて企業活動を展開し、小口径銃弾の製造からスタートした企業です。展示ブースでは、深絞りをもじった「付価絞り(DEEPLUS)」というブランド・キャッチフレーズのサインが目立ちました。

栗原隆志(くりはら・たかし)営業部長代理によれば、同社はもともと戦前からある企業で、防衛省向けに小口径銃弾、7.62mm、5.56mmのNATO(北大西洋条約機構)弾などの小銃や機関銃用の銃弾を作っている国内唯一の企業だそう。同社の歴史については「明治期に製麺機を作る工場を尾張旭の地に立ち上げた実業家に大隈栄一という人物がおりまして、この方は工作機械メーカーのオークマの創業者でもありますが、弊社も前身は大隈栄一が創業した旭兵器製造という会社でした。敗戦とともに銃弾の製造を終了しましたが、朝鮮戦争が起きた後の1953(昭和28)年に米軍のほうから要請を受けて再度、会社を興して小口径の銃弾を作るように」なったとのことです。

銃弾用の真鍮は古河電工、火薬は旭化成から調達したそうですが、同社の名前は旭化成とは関係なく、大隈栄一が工場を建てた尾張旭市からきているとのこと。銃弾の薬莢(やっきょう)というのは真鍮の深絞り技術が必要で、それを民生用に活かそうということになり、深絞りの精密製造機械などを手がけるようになったそうです。

栗原さんは「銃弾というのは1発目から100万発目まで正確に同じものでなければなりません。つまり、均一に同じものを大量に生産できる技術力が弊社の特徴の一つになります」と言います。

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応対してくれた栗原さん。付価絞りというネーミングも栗原さんが考えたそうです。
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応対してくれた栗原さん。付価絞りというネーミングも栗原さんが考えたそうです。

栗原さんは、自社のトランスファープレスを使って加工しているのも同社の強みと胸を張ります。トランスファープレスというのは、順番に並んだ単工程の金型に母材を通し、複数の工程を自動で行う加工法のことで、トランスファーというのは1工程ごとに加工品を自動で次工程へ搬送するという意味です。歩留まりが良く大量生産に向く加工法ですが、栗原さんは「弊社は自社のオリジナルのプレス機を開発しているのでマシントラブルや金型の不具合が出た場合に復旧が早いということが他社さんにない強みになります」と言います。

同社ブースに掲げられていたキャッチフレーズ「付価絞り」については、
「トランスファープレスには多種多様な要素技術が必要ですから、それを用いて逆絞り、角絞り、矩形絞りといった絞りの難加工を実現して付加価値を付けることができます。付価絞りというのはそれをもじったネーミングというわけです」(栗原氏)

「深絞りの加工は、自動車から家電、パソコンまで、私たちの生活のごく身近に多く使われている技術です。弊社のプレス部品の6割が自動車に使われていますが、自動車の生産のためには均一な部品の供給を絶やさないことが重要です。このような均一なものをたくさん作るという量産技術が銃弾製造からつながる弊社の強みになっています」(栗原氏)

今回、モーターの軸受けを深絞りで一体成形したものが出展されていました。これについては「モーターの2つの部品を、それぞれ精度を確認しながら組み立てていくとコストがかかってしまいます。それならプレスで一体にしてしまえば、同軸度も出るし部品も1点ですみます。精度を高めつつ、絞りで一体成形するのはかなり難しい技術ですが、モーターメーカーのお客さまと一緒に仕様打ち合わせの中、製品の作り込みをしていく上で、お困りになっている技術的な部分を解決していくという提案型の展示事例になっています」とのこと。



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モーターメーカーからの課題を解決するために深絞りで一体型にしたモーター軸受け部品。課題解決型の展示ということです。
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モーターメーカーからの課題を解決するために深絞りで一体型にしたモーター軸受け部品。課題解決型の展示ということです。


この技術は、いわゆるガラケー、携帯電話のバイブレーション・モーターに使われるはずだったそうですが、現在のスマートフォンはモーターで振動させていないため、打ち合わせしたお客さまには使っていただけなかったそうです。

栗原さんは「弱電の業界は100万個の受注があった部品が翌日にはゼロになるようなことがよく起きますので、非常に不安定です。さらにモデルチェンジが頻繁なので、せっかく金型を作ってもすぐに仕様変更になったりします。それに比べると、自動車などは3年4年の生産計画で製品を世の中に出しますから、プレスで投資をしていく上でも効率的ですし、弊社としてもやりやすいですね」と話します。

関西ものづくりワールドの機械要素技術展については「東京のほうにはずっと出展させていただいていますが、関西のシェアが少ないので昨年の2018年から大阪の展示会に出すようになりました」ということです。

東京のお客さまはビジネスライクでスマートな印象を受けるという栗原さん。間違ったことを言えない緊張感があるそうです。
「東京のお客さまは実際に図面を持ってこられ、はっきりとした具体的な相談をされることもよくあります。一方、大阪は2回目ですが、ふらりと立ち寄ったという雰囲気のお客さまが多く、フレンドリーでお話のしやすさ気安さは大阪のお客さまの特徴かもしれません。弊社は名古屋の企業なので、東京と大阪を比べるとそういう感じがありますね」(栗原氏)


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同社は板材から製品径の30倍以上の長さまで絞ることができる技術を持っています。この展示品は、材質SUS304L、外径1.53mm、全長102mm、肉厚0.06mm、20工程の高精度深絞りとなります。
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同社は板材から製品径の30倍以上の長さまで絞ることができる技術を持っています。この展示品は、材質SUS304L、外径1.53mm、全長102mm、肉厚0.06mm、20工程の高精度深絞りとなります。


静電気を可視化するカメラ

鹿児島県の自治体ブースに出展していたのは、株式会社オーケー社鹿児島(鹿児島県鹿児島市)という鹿児島市のものづくり系地場企業です。展示していたのは、静電気放電位置可視化装置(ESD Point Visualizer)と放電可視カメラ(ESD Visualize Camera)です。ESDというのはElectro-Static Discharge、静電気放電のことです。

川辺健一(かわべ・けんいち)AI製品開発部・部長代理によると、この製品は、静電気の放電電源を高精度に特定し、カメラによって可視化したものだとのことです。

「もともと弊社は電磁波を使って静電気の放電場所をマーキングするという装置を作っています。それが静電気放電位置可視化装置(通称ステルススナイパー)です。これは4年前に開発してすでに販売もしていますが、電磁波が到達する時間差から4つのセンサーを用いて3次元的な座標を算出し、工程内のどこで静電気の放電が起きていることが確認できる装置です。

しかしこの装置には弱点があり周囲に電磁波のノイズがあるとそれに埋もれてしまい、発見できないことがあったり、4つの波形から時間差を算出するのですが、どうしても高価なオシロスコープで求められる分解能がプラスマイナス5cm程度ということでお客さまからもう少しピンポイントで発生場所を特定できないかという要望がありました。」(川辺氏)


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説明してくれた川辺さん。ESDを捉えるという同社の可視化技術論文は国際学会で表彰(Best Paper 2013 RCJ ESD Symposium Japan)されているそうです。
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説明してくれた川辺さん。ESDを捉えるという同社の可視化技術論文は国際学会で表彰(Best Paper 2013 RCJ ESD Symposium Japan)されているそうです。

「この弱点を解決するために実験を繰り返していると、電磁波が発生すると紫外線も同時に発光するという現象があることがわかりました。この現象はすでに論文も出ている既知のものでしたが、その後、横浜の株式会社ブルービジョンさんというカメラメーカーと共同で、光子の発生を検知するという弊社が研究した技術を使ってカメラを開発するというお話が立ち上がり、今回出展している電磁波の紫外線を利用した製品になりました」(川辺氏)

最近になって電子部品がどんどん低電圧化し、ほんのちょっとした静電気が悪影響を及ぼすようになってきました。同社の製品について川辺さんは「製造メーカー各社さんは、生産工程の中でイオナイザーなどを使って静電気発生の対策をしていますが、本当に対策の効果が現れているかどうかはわかりません。また、静電気対策が工程内を網羅しているのか、漏れや抜けはないのかということも目で見てはわからないのです。今回出展している装置は、対策の効果を可視化して検証するために使っていただけるのではないか」と言います。


<写真5>
放電可視カメラはセット込みで定価285万円。1台のカメラの画角は12度くらいなので、部分的に監視して何回かに分けて工程内をすべて検証できるそうです。
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放電可視カメラはセット込みで定価285万円。1台のカメラの画角は12度くらいなので、部分的に監視して何回かに分けて工程内をすべて検証できるそうです。


シャフトモーターという注目技術

日本パルスモーター株式会社(東京都文京区)は、精密小型モーター、コントローラー、電子部品などの製造販売をする企業です。展示ブースでは、シャフトモーター、リニア・ロータリー、それらを制御するドライバ・コントローラーを組み合わせた多くの機器をデモしていました。シャフトモーターというのは、磁石を円柱状に並べたリニア(直動)のモーターのことです。

リニア・ロータリー、つまりシャフトモーターは、開発されてすでに10年以上経つ技術です。最近になってようやく半導体の製造設備機器などの応用技術に使われるようになってきました。

同社営業本部大阪営業所の大槻武彦(おおつき・たけひこ)さんによれば「シャフトモーターは株式会社ジイエムシーヒルストンという山形のベンチャーが自社開発した技術で、量産効果によって汎用機に使われるようになってきました。リニアモーターカーの原理はよく知られていて、シャフトモーターも基本原理は同じです。磁石を広げたものがリニアモーターカーですし、それを円柱に丸く並べたものがシャフトモーターということになります。平べったいものを丸くしたというイメージです。この分野では日本の技術が世界でも先端を走っている」と言います。


<写真6>
日本パルスモーター株式会社のシャフトモーター。非接触にリニア(直動)で動作し、位置決めが高速かつ正確に行えるため、生産ラインなどに多用されるようになってきています。
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日本パルスモーター株式会社のシャフトモーター。非接触にリニア(直動)で動作し、位置決めが高速かつ正確に行えるため、生産ラインなどに多用されるようになってきています。


シャフトモーターは、シャフトとコイルに分かれていますが、それぞれが非接触なため、高速性、速度安定性があり、高精度な動作を繰り返すことができるそうです。大槻さんは「弊社はシャフトモーターを開発したジイエムシーヒルストンにも出資し、一緒に技術開発をしてきました。難しかったのは磁石の並べ方や大きさのアレンジでした」と言います。

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説明してくれた大槻さん。東京に本社がある同社ですが、出展ブースでは大阪の営業担当の方も多く説明していました。
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説明してくれた大槻さん。東京に本社がある同社ですが、出展ブースでは大阪の営業担当の方も多く説明していました。


日本パルスモーター株式会社は機械要素技術展には東京と大阪に過去4、5回ほど、他の展示会は、ネットワーク関係のものなどに年に1、2回出展されているとのこと。「今年の大阪はお客さまが若干、増えているような印象を受けます」と仰っていました。

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日本パルスモーター株式会社のブース。実際に動きが見える動作系のデモは目にとまりやすいため、多くのお客さまが興味深く展示に見入っていました。
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日本パルスモーター株式会社のブース。実際に動きが見える動作系のデモは目にとまりやすいため、多くのお客さまが興味深く展示に見入っていました。

真空環境でも把持できる技術

ものづくりワールドの別展示会、工場設備・備品展では株式会社クリエイティブテクノロジー(神奈川県川崎市)という企業が静電気を利用する技術を展示していました。

同社は、静電気で把時する静電チャック(Electrostatic Chuck)という技術が特徴の企業です。これは把持(チャック)したい対象物に引力を与えることで、対象物に悪影響やダメージを極力与えずに把持して移動させる技術で、真空環境での使用が可能になります。また、可動部がなく、摩擦による破片発生も少ないため、半導体やディスプレイなどの製造工程のクリーン環境を実現するために欠かせない技術であり、消費電力も少なくてすむそうです。

馬場健二(ばば・けんじ)営業部国内営業第一グループ、イオン担当課長は「静電気で把持するというのは、半導体の製造技術でシリコンウエハを吸着するために考え出された技術です。半導体の製造ラインの真空中でプラズマによって加工する際などには、ほとんどの場合、静電チャックで把持するのではないでしょうか」と説明します。


<写真9>
説明してくれた馬場さん。静電気や樹脂で把持する技術は半導体やディスプレイなどの製造ラインに欠かせない技術と言います。
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説明してくれた馬場さん。静電気や樹脂で把持する技術は半導体やディスプレイなどの製造ラインに欠かせない技術と言います。


これは樹脂系、セラミック系、製造ラインを高純度環境にしておきたい、異物を入れたくないという要求に応えるための技術とのこと。そのためにコピー用紙や小さなガラス球のように把持対象物が分極しにくいものだったり、静電チャックと把持対象物の距離が離れていたりする場合、把持力が小さくなることがあるそうです。

馬場さんは静電チャックの原理について「静電チャック内部に入れた制御電源から電圧印加されたプラスマイナスの電極により、把持対象側の面の誘電層部分に電極とは逆のマイナスプラスの誘電分極が起き、把持対象物に生じた相反する電荷と静電チャックの電荷の間に電気的な引力が生じることで把持します」と説明してくれました。

今回の出展では、静電チャックを真空中の半導体だけではなく、大気中で実現できないかということで実験的に開発してみたという装置を展示していました。この分野のBtoBで世界4番目の会社だということですが、これまでBtoCをやったことがなく、新分野の開拓ということもあって同社技術を一般のコンシューマのお客さまに紹介したいという目的で開発を始めたと言っていました。

馬場さんは「この黒いぺらぺらした部分が電極を入れた静電チャックになります。リンゴや薄い紙などを静電気でくっつけて移動させるという装置です。この静電チャックは摩擦係数を高めにした素材なので、垂直にくっついて下方向へ滑り落ちないようにしています」と言います。

<写真10>
内部電極に電圧を印加し、静電気の引力で対象物を把持する静電チャックを利用したデモ機。リンゴを把持して移動させています。
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内部電極に電圧を印加し、静電気の引力で対象物を把持する静電チャックを利用したデモ機。リンゴを把持して移動させています。

また、同社のIon Padという技術も出展していました。これは先端のオレンジ色の小さな球が特殊なシリコンゴムになっていて、電気的なエネルギー(電源)やバキュームなどの作用を使わず、Ion Padと把持対象物の界面に化学的、物理的な結合力を生じさせて把持する技術だそうです。


<写真11、12>
特殊樹脂を使ったIon Padの事例。ロボットハンドなどの高速エンドエフェクターに使い、小さな丸いIon Pad(φ3mm)によって半導体などを把持して移動させます。
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特殊樹脂を使ったIon Padの事例。ロボットハンドなどの高速エンドエフェクターに使い、小さな丸いIon Pad(φ3mm)によって半導体などを把持して移動させます。

この技術はどういうところで使われているのでしょうか。
「配線などを使いたくないロボットハンドの端にあるエンドエフェクターというデバイスや貼り合わせ装置などで活用されています。これは電源のオンオフで対象物を把持するしないという機構ではなく、剥がれ方が2種類あります。同じ素材ですが、表面を平坦にしてディスプレイガラスのような鏡面仕上げになっている対象物を粘着して把持するもの、また表面をあえて粗くして把持対象物の横滑りを防止する非粘着のものです。また、バキュームによる吸圧を利用していないため、これも静電チャックと同じように真空環境でも使用できます」(馬場氏)


<写真13>
ディスプレイガラスなどの大面積の対象物を、小さなIon Pad(φ5mm)を204か所に付けて面的に把持するチャックということです。
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ディスプレイガラスなどの大面積の対象物を、小さなIon Pad(φ5mm)を204か所に付けて面的に把持するチャックということです。


今回の大阪の機械要素技術展に出展した理由について「弊社の拠点は、米国から中国、ヨーロッパまで世界中にありますが、なぜか大阪にだけありませんでした。これまで関東に注力してきましたが、社長が関西出身なので今回はぜひということで出展しました」とのことです。また、インテックス大阪に使用されている掲示板は、16面すべて同社が開発した静電気を利用したディスプレイボードだと胸を張っていました。


文/石田雅彦


ものづくりBtoB企業の新製品・新技術が集結! 〜『関西ものづくりワールド2019:機械要素技術展』(前編)

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