フードテックが生みだす未来の「カデン」!家電大手メーカーの「おにぎりロボット」はいかにして開発されたのか?

INTERVIEW

パナソニック株式会社アプライアンス社
カンパニー戦略本部 事業開発センター
オニロボプロジェクト 主幹
加古 さおり

家電大手のパナソニックが2016年に立ち上げたプロジェクト「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)」。このプロジェクトでは新しい生活文化や心躍る体験を実現する“未来の「カデン」”を生み出すという目的を持っています。今回その中から生まれた“未来の「カデン」”として、食べ物╳技術の分野=フードテックの1つとも言える、おにぎりロボット「OniRobot(オニロボ)」の開発について、プロジェクトを立ち上げたパナソニックの加古さおり氏にお話をお伺いしました。

なぜいまおにぎりロボットが必要なのか?

現代では回転寿司の現場でも寿司ロボットが活躍しており、“おにぎりロボット”と聞けば、ほとんどの日本人は感覚的に「おにぎりを作るロボット」だということはわかるでしょう。コンビニで販売されているおにぎりを見てわかるように、形は三角形。すぐに想像することができます。しかしそれのどこが“未来の「カデン」”なのでしょうか。加古氏のお話から紐解いていきます。

「私の本業は、炊飯器を作る技術者です。しかし近年ではお米の消費量が少なくなっています。当然炊飯器の売り上げも落ちています。そういう状況をなんとかしたいという思いから、ゲームチェンジャー・カタパルトが主催しているビジネスアイデアコンテストの第2期目に応募しました。2017年のことです」(加古氏:以下同)

加古氏はそう語ります。彼女のテーマはコンテストを通過した7つのアイデアの中、最下位で企画が通ったそうです。しかし最初に応募した時はごはんの食体験を広げるために、炊飯器と米のセット販売をしようとしていたとか。

「それで活動し始めたとき、炊飯器とお米の販売をセットにするというのは全然新規事業じゃないよねと言われたんです。通過はしたけれど、そのままじゃだめですよと……。それでいろいろと専門家の方々のアイデアをいただきながらプランを練り直して、ビジネスモデルをピボットしたんですね。つまり、お米を売るのではなく、おいしいおにぎりを世界に広げようというコンセプトでご飯を食べてもらう機会を増やしていこうと。そして結果的に日本の農業やお米作りを活気づけるという視点に変えていったのです」

つまり、コンテストに通過したのはごはんの食体験を広げるという“コンセプト”だったと言えるのではないでしょうか。そしてパナソニックの市販技術のノウハウを活用し、米作りの現場を含めて活性化しようとしたところから考えて、最終的におにぎりに行き着いたと。そうした中で、社内に眠っていた技術を見つけ出します。

「いろいろな人のご縁を探るうちに、昔社内でおにぎりマシンを開発して、そのまま使っていない技術があるという話が出てきたんです。そしてその技術者を見つけ出して、その人にもオニロボ・プロジェクトに参画してもらいました」

プロジェクト立ち上げ時のメンバーは4人。その後、技術者、設計者などが加わって1年後には6人になっていたと言います。現在は当初からのコアメンバー3人含め5人体制になっているそうです。



おにぎりロボット「OniRobot(オニロボ)」は単におにぎりを握るだけではない

しかしお蔵入りしたおにぎりロボットをそのまま復活させても、またお蔵入りになるのではないだろうか。

「私たちが採用したのは、2015年に一度お蔵入りになった技術でしたので、同じことをやっていたらまたお蔵入りになる可能性がありました。でももともとはコンビニ向けに作ったそうなので……」

つまり、その当時、おにぎり市場はコンビニおにぎり戦争という状況で、大量におにぎりを作ることができる機械が必要だったのです。しかしパナソニックが開発した技術は、こだわりのおにぎりが作れる機械であったため、製品化に至りませんでした。今回その技術を利用したオニロボのこだわりは“職人技”です。食感も含めたおにぎりのおいしさを追求したものなのです。

「初代ロボットの開発技術者は職人さんのおにぎりをどうやったら再現できるのかというところから始めたのです。そこでさまざまな道のりを経て最終的に3つのバーで挟んで、さらに上下から平面で挟むという機構に落ち着きました。

私たちはその基本的な機構は変更していません。しかし実際製品として世に出すために必要なハードウェア的なチューニングは行いました。ごはんがくっつかず、耐久性、メンテナンス性の良い素材を探したり、バーに塗装を施したり……結果、現在の削り出しのフッ素樹脂という素材になりました」

ハードウェアが完成しても、おいしさへの追求にはそれらのハード、機構がどのように動作しておにぎりを作っていくかというソフトウェアのチューニングが欠かせません。では、そもそもおいしいおにぎりとはどんなおにぎりなのでしょうか?

「メンバーはおいしいおにぎりに出合うため、とにかくひたすらおにぎりを食べ歩きました。そうして行き着いたのがおにぎり専門店の老舗“おにぎり浅草宿六”です。ここのおにぎりがいちばんおいしいということになって、このおにぎり目指してソフトウェアを細かく調整しました」

モーターにもこだわり、また、力の掛け方も単純にただ三角に押しつけているのではなく、制御していると言います。おにぎりを作る時間とスピードを調整し、ご飯を押しているあいだの時間まで詳細な調整を繰り返したそうです。

「目標ができたわけですから、そこに向かって細かい精度で調整しました。まず、どういうパラメーターを確保しなければならないのか。そしてそれらパラメーターの違いによってどのように食感が変わるのか。目指すものは“外はしっかり、中はふっくら”。最終的には“宿六”のご主人も評価してくださる仕上がりになりました。その他、標準以外にも固め・柔らかめや大・中・小という大きさも握り分けができます」

量ったご飯を入れます
約7秒でおにぎりになります

 

 

 

 

技術者集団の前に立ちはだかるビジネス展開の壁

試行錯誤の末、おいしいおにぎりを作ることができる「OniRobot(オニロボ)」のプロトタイプは完成。しかし、加古氏は、事業化するにはまだまだ乗り越えなければならない壁が立ちはだかっていると言います。

「まずは市場です。そもそもオニロボが市場に求められているのかどうか。当初1年間、国内をターゲットに検証をしました。結局ほとんどの日本人はおにぎりを握ることができるんですね。おいしいおにぎりといっても、食べる人はどれがおいしいおにぎりかわかっていませんし、食べたことがない。であれば、わざわざロボットなんか買わずにスタッフが握ればいいんです」

結局加古氏とメンバーは、日本国内に限定せず、海外に目を向けます。すると海外では、おにぎりブームの兆しが見えてきました。そして明らかにおいしいとは言えないおにぎりも売れている。しかも衛生面を考えると手で握るおにぎりは受け入れがたいということがわかってきます。そこに商機を見い出します。

「海外でカジュアルに食べられるファストフードとしておにぎり屋さんを展開できないかと考えています。移動販売やカジュアルな店舗で。握る作業はオニロボにおまかせすればいいわけです。でも、そうなると高価格では売れません。どの程度の価格にすればいいのかもこれからです。現状のプロトタイプを作るのには200万円程度かかってしまいます。それでは売れないと思うんです」

いま5人のメンバーがいますが、そのうち4人は技術者で残りの1人が経営企画のメンバーだとのこと。足りないスキルは補えましたが、それでも技術者としてもっとも苦手な部分が残されていますと苦笑する加古氏。しかし、コストダウンには自信があるようです。

「安くするのには技術革新がないとできません。でも次なる技術革新を行うまでにビジネス面でどの部分を自動化すればいいのか、どういう技術が必要なのかを明確に見極めていかなきゃなりません。お客様にとって必要のない仕様をつけても仕方がありませんし……。ですからいま、必要な仕様を詰めているところです。

例えばオニロボはご飯が炊ける場所でなければ稼働できません。究極の全自動は、お米を入れればおにぎりができてくるものでしょう。私たちは、おにぎり製造の各々の部分での技術は持っています。私も炊飯器開発をやってきましたし……。しかし全自動だからといって、大きくてコストも高いものを市場に投入するわけにはいかないのです。

逆に一度仕様が決まれば、ロボットの量産化において、安く製造するためにいろいろな材料を探してきたり技術を作ったりするということは慣れています」

コストダウンの前に、まだまだやることが山積しているよう。「ゲームチェンジャー・カタパルト」は、“重厚なプロセスを経て商品化する既存のやり方とは違い、オープンイノベーション型で「70%の状態でも市場の声を聞き、顧客のフィードバックに迅速に対応することで仕上げる」「自社リソースにこだわらず、共創を前提とする」「リーンスタートアップを重視する」といったやり方”(同社Webページより)で進めているそうです。

事業化前の段階において「なにが目標なのか、見えないお客様の意見を聞きながら開発していくのが苦しいですね。目標がない大きな海を目標を見つけながら泳いでるようなものです」とも言う加古氏。大企業のなかで始まった新しい取り組みが成功するか否か。来年にはすでに事業として始まっていることが目標だそう。私たちも目を離せません。


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