スパッタが消えた!?独創的なファイバーレーザー溶接技術を生んだ共同研究開発の現場とは? (1/3)

金属(板金)の加工において画期的な技術と期待されたファイバーレーザー溶接でしたが、スパッタ(溶融金属の飛散)が多く出てしまい、とても実際の現場で使うことが難しいという問題がありました。そこで開発されたのが三菱電機株式会社と多田電機株式会社が共同で開発したスパッタがほとんど出ないファイバーレーザー溶接。この独創的な技術開発を主導した三菱電機の先端技術総合研究所、駆動制御システム技術部、専門技師である久場一樹氏と同技術部レーザシステムグループマネージャー、桂智毅氏、多田電機応用機工場の第二製造部、溶接機技術課開発グループ、上野彰大氏にお話を伺いました。後編では、どうやってスパッタを低減させたのか、成功の理由など、共同研究開発の現場に迫ります。


▽レーザーに関する記事

ほぼスパッタが出なくなった影響

────まず、今回の成果について説明してください。

久場:
このグラフ(下図)の赤い線をみていただくとわかると思いますが、ほとんど地を這うようなスパッタ飛散量になっています。評価基準だった毎分4.5mの倍である毎分9mでも95%以上に近い量を減らすことに成功したのです。スパッタの発生を気にすることがなくなるため、レーザー出力も落とさず、溶接速度が上がります。

<図1>溶融金属の飛散量と溶接速度
<図1>溶融金属の飛散量と溶接速度

高速化が可能になれば、タクトタイム(1つあたりの生産時間)を下げることによって生産性の向上につながります。既存のファイバーレーザー溶接より格段にスパッタが少ないという以外に、そのために速度が速くなるということで省エネとなり、環境影響も低減されて、また溶け込みも深くなるために生産性も上がります。

私たちの技術でも速度を上げていけば、レーザービームのキーホールが到達できる深さは浅くなります。ただ、速度を上げていくデメリットとしてはそれくらいであり、スパッタ発生による制約なしに自在に出力と速度を変えることができるようになったことが重要なのです。

<写真1>三菱電機先端技術総合研究所駆動制御システム技術部専門技師久場一樹氏
<写真1>三菱電機先端技術総合研究所駆動制御システム技術部専門技師久場一樹氏


────今回の成果でスパッタの状態はどのようになっているのでしょうか。

久場:
実験データから詳細に得た実際の飛散量で比べてみると、従来のファイバーレーザー溶接が1.2mgだったのに比べ、今回の成果では0.05mgと95%以上の削減になっています。しかも、飛び散った溶融金属が母材にしつこく固着するような現象は、今回の成果では全くありません。仮にスパッタによる飛散があったとしても、布で拭けば取れる程度のものになっています。


<図2-1>棒グラフをみると実際の飛散量と速度の比較がわかります。今回の成果を定量的に評価することができるかもしれません。
<図2-1>棒グラフをみると実際の飛散量と速度の比較がわかります。今回の成果を定量的に評価することができるかもしれません。
<写真2>既存のレーザー溶接に比べると火花がほとんど出ていません。溶融金属のスパッタを95%以上削減し、また溶接箇所も非常にきれいに仕上げることができたといいます。
<写真2>既存のレーザー溶接に比べると火花がほとんど出ていません。溶融金属のスパッタを95%以上削減し、また溶接箇所も非常にきれいに仕上げることができたといいます。

────今回の成果で技術的な要点はどのあたりにあるのでしょうか。

久場:
今回の開発のポイントとして、加工点の周辺にわずかに弱いレーザービームを当てていることがあげられます。メインのレーザー光の周囲に、非常に弱いレーザー光を配置しているのです。

従来のファイバー出射ビームは、焦点位置では矩形の円柱状になります。しかし実際に溶接する場合、スパッタが出過ぎますから焦点位置の光強度の高い円柱状ではなく、焦点位置からずらして山型にして周辺への光をなだらかにするビーム形にして光強度を落とします。

一方、今回開発した技術では、中央部は焦点に近く、強いレーザー光強度を保ち、周辺の弱いレーザー光によって、ある意味ではフタをしてスパッタの発生を抑制するようになっているのが特徴なのです。


<図2-2>従来技術では、レーザー光を集めて照射していますが、今回の成果技術では中心に強いレーザー光を、周囲に弱いレーザー光を同時に発生させ、溶融金属の飛散量を削減しているといいます。
<図2-2>従来技術では、レーザー光を集めて照射していますが、今回の成果技術では中心に強いレーザー光を、周囲に弱いレーザー光を同時に発生させ、溶融金属の飛散量を削減しているといいます。

なぜスパッタの発生を抑制できたのか 次ページ

こちらの記事もおすすめ(PR)