ファイバーレーザー溶接がさらに使いやすく!スパッタ問題を解決に導く独創的な技術が生まれた背景 (1/2)

レーザー溶接の中で注目されるファイバーレーザー溶接は、レーザーの優れた光学特性、消費電力や導入コストの低さを活かし利用拡大が期待される一方で、スパッタ問題と呼ばれる溶融金属飛散の課題があります。三菱電機株式会社と多田電機株式会社は共同でこれを改善する技術を開発し、2018年に発表に至りました。両社にお話を伺うなかで、前編ではファイバーレーザー溶接の基本的な知識と開発に至るまでの背景をご紹介します。

▽レーザーに関する記事

スパッタがほとんど出ないファイバーレーザー溶接を実現

金属(板金)の加工においてレーザー溶接は、切断(穴開け)、曲げと並ぶ3大工程の一つです。産業の発展や振興において溶接は重要な基幹技術ですが、特にレーザー溶接は近年、技術的なイノベーションが多く現れ、自動車や航空機を含めた多種多様な製造分野で使用されるようになってきました。

中でもファイバーレーザー溶接は、高出力、高輝度で波長が短く(1.07μm)、光ファイバーによる伝送が可能という特徴をもち、ビーム品質(BPP=Beam Parameter Products、ビームパラメータ積)が良質かつ消費電力や導入コストなどの点で従来のCO 2レーザー溶接、YAGレーザー溶接、半導体レーザー溶接に勝る技術となっています。

ただ、ファイバーレーザー溶接には重大な欠点がありました。それがスパッタ(溶融金属の飛散)問題です。スパッタが多く出るため、接合部表面にくぼみができたり、飛散物が固着したりして製品不良を引き起こします。また、スパッタの飛散量を抑制しようとすれば溶接速度を落とさざるを得なくなり、生産性が低下するのです。

2018年5月にファイバーレーザー溶接のスパッタ問題を大きく改善する技術が発表されました。これは三菱電機株式会社と多田電機株式会社が共同で開発したもので、スパッタがほとんど出ないファイバーレーザー溶接を実現したのです。ファイバーレーザー溶接の完全実用化に道を開くこの独創的な技術の研究開発を主導した三菱電機の先端技術総合研究所、駆動制御システム技術部、専門技師である久場一樹氏と同技術部レーザシステムグループマネージャー、桂智毅氏、多田電機応用機工場の第二製造部、溶接機技術課開発グループ、上野彰大氏にお話を伺いました。



三菱電機技術部レーザシステムグループマネージャー桂智毅氏(左)と先端技術総合研究所駆動制御システム技術部専門技師久場一樹氏
三菱電機技術部レーザシステムグループマネージャー桂智毅氏(左)と先端技術総合研究所駆動制御システム技術部専門技師久場一樹氏

期待されたファイバーレーザーによる溶接

────レーザーを使った溶接の市場や技術的な特徴を教えてください。

久場:
レーザー溶接には大きく、気体レーザーを使ったCO 2溶接、固体レーザーを使ったYAGレーザー溶接、ファイバーレーザー溶接がありますが、近年の市場動向をみるとファイバーレーザー溶接が急速に伸びています。私たち(三菱電機先端技術総合研究所と多田電機溶接機技術開発グループ)は長年、レーザー技術と溶接応用の研究開発を続けてきましたが、2005年くらいまでは切断も溶接もずっと気体レーザーのCO 2レーザーが主力でした。

CO 2レーザーは発振器が単純で安価であり、波長が長く、切断でいえば切断面の品質が比較的良いというのが特徴です。CO 2レーザーは25年以上という研究開発の長い歴史があるため、加工技術が成熟しているのです。

2000年代からファイバーレーザーやディスクYAGレーザーといった第二世代の固体レーザーが出てきました。基本構造は大きく異なりますが、ファイバーレーザーもディスクYAGレーザーも同じ1μmレーザーの範疇に入ります。これらは近年になって急に実用性を持った技術ですので、加工技術はまだ発展途上にありますが、特にファイバーレーザーの登場は画期的なものでした。

現状ではレーザーによる切断は、60~70%がファイバーレーザーによるものになっています。溶接では、すでに80%以上が固体レーザーにはなっているというのが現状です。



────ファイバーレーザー溶接のメリットとデメリットについて教えてください。

久場:
レーザーによる溶接の工程を簡単に説明すると、2つの金属をくっつけてそこにレーザー・ビームを当てると金属が溶けてキーホールという穴が開き、ビーム通過後その部分が熱伝導で固まり、2つの金属が接合されるという仕組みになっています。

それまで多くの金属加工業界では気体レーザーであるCO 2レーザーを主に使ってきましたが、ファイバーレーザーが登場した当時、すばらしい技術ができたということでみんなが飛びつきました。レーザー光が高集束であること、コストやメンテナンス費用の低さ、光ファイバー伝送が可能なため自動化ができるという利点があったからです。

しかし、実際に溶接で使ってみるとスパッタが出るために出力も上げられないし、溶接速度も遅いままで、なんとかしなければならないと世界中の技術者が課題を抱いていたのです。切断では小さく絞れるファイバーレーザーのほうがCO 2レーザーより加工速度が速いという特徴がありますが、溶接ではファイバーレーザーによる利点をあまり出せていなかったのです。



────スパッタはかなり厄介なものなのでしょうか。

久場:
そうですね。スパッタの発生を抑えて品質を保とうとすれば溶接速度を落とさざるを得ません。スパッタにもいろいろあり、強く貼り付いていないものでは、手で払っただけで取れるものもありますが、容易にこすり取れないほど部材に固着してしまうものもあります。こうした場合、金属のかたまりになってグラインダーで物理的に削り取るしかありません。溶接速度を落とし、なんとかしつこい固着ではない状態にしつつ、許容できるスパッタ発生状況で使ってきたというのが、これまでのファイバーレーザーだったのです。


激しく飛び散るスパッタ(火花)
激しく飛び散るスパッタ(火花)

────既存のファイバーレーザー溶接でスパッタによる影響はどのようなものだったのでしょうか。

久場:
これについては、板厚4.5mのSPHC(熱間圧延材)という鋼材を貫通溶接した際の折れ線グラフを見てもらうとよくわかると思います。従来のファイバーレーザー溶接ではスパッタとして飛び散る溶融金属の量が毎分4.5mでそこそこのレベルになっています。このように速度が上がる過程でスパッタが発生する現象は、スパッタ・レジーム(領域)という名前までつけられるほど関連学会や業界では有名なものでした。

同じ現象は5〜6kWの出力のファイバーレーザー溶接でもいわれはじめていましたが、多田電機で使っていたような既存の10kWのファイバーレーザー溶接では本当に困っていて、なんとかCO 2レーザーを使った場合と比べて同程度の溶接品質を維持できる条件を探り出したのがこの毎分4.5mという速度だったのです。

この溶接速度はCO 2レーザーと同レベルでファイバーレーザーを使うメリットはそれほどありませんでした。もちろん、毎分5mから速度が上がるとともに飛散量が急速に増えていきます。毎分7m以上に速くなっていくとスパッタは徐々に減り始めますが、強度など品質を十分に保てません。また、毎分9mでも従来方式の3倍以上の飛散量となり、これではとても実用性がなかったのです。


グラフをみると既存のファイバーレーザー溶接で、溶接速度が上がるにつれてスパッタの飛散量が増えていくことがわかります。
グラフをみると既存のファイバーレーザー溶接で、溶接速度が上がるにつれてスパッタの飛散量が増えていくことがわかります。

────ファイバーレーザー溶接でスパッタが出るメカニズムについて説明していただけますか。

久場:
従来のファイバーレーザー溶接では、レーザー光によって溶接する母材に対して垂直にキーホールという穴が開きます。キーホールの入り口を見ると垂直に狭い穴が貫通しています。このキーホール前面からレーザー照射による金属蒸気が出て、溶接していく方向の後方に溜まった溶融金属が対流を起こし、上昇した溶融金属の速度が粘性の保持力を超えると飛散してスパッタになるというわけです。

スパッタはずっと出続けているわけではなく、出たり出なかったりという断続的な出方をするといいます。船が進んでくときに舳先にできる水しぶきと同じです。
スパッタはずっと出続けているわけではなく、出たり出なかったりという断続的な出方をするといいます。船が進んでくときに舳先にできる水しぶきと同じです。


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