人間の幸せを実現する、デジタル革命におけるテクノロジーとの関係性を考える (3/3)

【発想】あえて「便利さ」をなくすことで人間の能力向上を促す「不便益」の発想

浅羽 登志也(株式会社情報工場 シニア・エディター)
浅羽 登志也
株式会社情報工場 シニア・エディター

あえて「便利さ」をなくすことで人間の能力向上を促す「不便益」の発想

『ごめんなさい、もしあなたが
ちょっとでも行き詰まりを感じているなら、
不便をとり入れてみてはどうですか? 
不便益という発想(しごとのわ)』



 川上 浩司 著
 インプレス
 2017/03 216p 1,500円(税別)

3回通ると道が“見えなくなる”カーナビの効用とは何か

 データの積極的な活用、プラットフォーム構築といったデータ・ドリブン・エコノミーの取り組みは、そもそも便利さや効率性の追求が「善」であることを前提としている。ここで、少し違う視点を取り入れてみたい。果たして便利さや効率性は、人間にとって、無条件に「善」なのだろうか?

 そんな疑問を投げかけるのが『ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? 不便益という発想』という、タイトルが長すぎて覚えるのに“不便”な一冊。「不便益システム研究所」を立ち上げた川上浩司・京都大学デザイン学ユニット教授が、不便益、すなわち不便であるからこそ得られる効用もあると説く。

 不便益システム研究所で川上教授は、人間と人工物の関係を見直し、「自動化」に代わるシステムデザインの方向性を探っている。本書では「人工システム単体での効率化や高機能化が、必ずしも人を含めたシステムを良くするとは限らない」と述べる。

 川上教授の提唱する「不便益」の本質は「手間がかかり、頭を使わねばならないこと」とも言い換えられる。頭を使うからこそ、人間の能力は進歩してきた。

 例えば本書には、「かすれるナビ」というカーナビのシステムが紹介されている。このカーナビは、なんと同じ道を3回通ると、その道と周辺が真っ白になって見えなくなる。実に不便だが、かすれるナビを使った方が、道は覚えられる。ナビがないとどこにも行けない、といった事態を防げる。


高齢ドライバーの事故防止にも「不便益」の発想が有効

 本書を読んで、私も不便益を一つ見つけた。最近話題の「ワンペダル」という、高齢者のブレーキとアクセルの踏み間違い事故を防止する製品だ。

 真っすぐに踏む従来のペダルを「ブレーキ用」だけにし、アクセルはブレーキペダル脇のレバーを足で“右に押す”。2つの動作を使い分けるのは「不便」だが、その煩わしい動作が、間違いを防ぐのである。

 人間の能力(ワンペダルの場合は注意力)を高めるためにあえて「不便」にする、という不便益の発想は、テクノロジーと人間が相互に関与し、共存していくためにあるとも思える。それに対し、IoTなどで人間の関与を極力減らしていくデータ・ドリブン・エコノミーの発想は、テクノロジーを主に、人間を従に置いているのではないか。

 デジタル革命の中でのものづくり、システムづくりにおいては、自動化によって利便性や効率性向上を追求するだけでなく、不便益などによる「人間の関与」を加味した発想が望まれる。



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