ロストワックス精密鋳造法の歴史と特徴〜鋳造入門講座(4)

精密鋳造法の中でも最も広い用途に用いられているロストワックス精密鋳造法は、1930年代以降に工業用技術として確立されてから、航空機用ジェットエンジン用のタービンブレードなど多くの機械構造部品製造に利用されてきました。今回はその歴史と特徴に着目します。

▽鋳造入門講座

ロストワックス精密鋳造法の歴史

精密鋳造法の中でも最も広い用途に用いられているのがロストワックス精密鋳造法(インベストメント鋳造法)です。この講座の初期に鋳造の歴史が紀元前5500年ごろ古代メソポタミアから始まったことを確認しましたが、精密鋳造法の始まりは青銅器時代に蜜蝋を消失模型として用いる古代ロストワックス鋳造が発明されたことから始まります。

この技術は鋳造技術の辿った経路と同じく、中国・朝鮮などを経由して日本にも伝来し、天平・白鳳時代に青銅製の仏像彫刻などに開花しました。現存する代表例は奈良・法隆寺の「薬師三尊像」などがあります。日本では「まねがた法」と呼ばれ、美術鋳物の製法として伝承され、江戸時代初期にはキリスト教弾圧の「踏み絵」作成などにも採用されました。

ロストワックス精密鋳造法が近代的な「工業用技術」として確立したのは1930年代以降といわれています。米国のオーステナル社で、それまで義歯製作に用いられていたインベストメント鋳造の一部である「ソリッド・モールド法」を改良して、コバルト合金「バイタリウム」を用いることによって「過給機動翼」を鋳造したのが工業用精密鋳造の最初といわれています。

第2次世界大戦末期、米国で大型爆撃機に搭載された「星形レシプロエンジン」が1万メートルの高空の薄い空気の環境でも所定の馬力を出せるよう、エンジンからの排気を回転力に変えて空気を圧縮してエンジン内に注入するための「過給機(航空機,自動車,船舶などの内燃機関の吸入空気圧を高めるため,圧縮空気を送る装置)」の開発が行われていました。しかしながら、3次元形状の機械加工技術が未発達のため量産化ができていませんでした。

その課題を解決し、B29に代表される大型長距離爆撃機を実用化したのがロストワックス精密鋳造によるブレード生産でした。その後米国のGEなどで開発が始まった航空機用ジェットエンジン用のタービンブレード(タービン〔羽根車〕に組み込まれている1枚1枚の羽根。タービンブレードは気体のエネルギーを受けることによってエネルギーを回転運動に変える働きをする)の生産技術として発展しました。

ロストワックス精密鋳造では当初、<図1>に示すようなソリッド・モールド法といわれる、パターンをフラスコ(容器)にセットしてスラリー(どろどろした粥状のもの。液体と固体粒子との懸濁液)を流し込んで固めた鋳型を作成し、その後加熱してワックスを溶かし出して鋳型焼成後、注湯する方式が採用されていました。

しかしこの方法では、耐火スラリーが大量に必要で材料費のコストが高くなり、また鋳型が厚いために鋳造した鋳物の機械的性質が劣り、機械部品としては採用できないなどの欠点があったため、1960年代以降は同じく<図1>に示されるセラミック・シェル・モールド法に順次置き換えられました。このセラミック・シェル・モールド法を用いれば、薄肉のセラミック・シェルのため鋳物の冷却速度が管理でき、機械的性質を安定させることができます。さらに全体のコスト削減に成功したことで、ジェットエンジンのタービンブレードの大量生産技術として確立されました。


<図1>ロストワックス精密鋳造法の作業手順(上段はソリッド・モールド法を示し、下段にセラミック・シェル・モールド法を示す)
<図1>ロストワックス精密鋳造法の作業手順(上段はソリッド・モールド法を示し、下段にセラミック・シェル・モールド法を示す)

タービンブレードの生産技術としてのロストワックス精密鋳造法の技術開発は、<表1>に示すように10年毎に新しい技術が開発され、1980年代にはほぼ完成した技術となりました。




<表1>タービンブレードの生産技術としての開発経過

※一方向凝固ブレードおよび単結晶ブレードについては後述。
※一方向凝固ブレードおよび単結晶ブレードについては後述。

セラミック・シェル・モールド法が精密鋳造業界に普及したことにより、精密鋳造品が機械構造部品として実用的であると認められ、その用途が航空機機体部品、産業用ガスタービン部品、蒸気タービン部品、自動車用部品および各種産業機械に用途を拡大していきます。

これには、鋳造できる材質をコバルト基合金からニッケル基合金、炭素・合金鋼、ステンレス鋼、銅合金、アルミニウム合金および最近ではチタン合金などに拡大してきたことが要因の一つであり、溶解鋳造方法でも大気溶解鋳造、真空溶解鋳造、吸引鋳造、加圧鋳造、遠心鋳造などさまざまな鋳造技術と組み合わせられることが大きく影響しています。<表2>にロストワックス鋳造品の用途例を示します。



<表2>ロストワックス精密鋳造品の用途例(『ロストワックス精密鋳造法』(社)日本鋳造協会より)

ロストワックス精密鋳造法の特徴

日本では1950年代から数社で独自に研究開発を進めていましたが、1960年代後半になって、早期の技術改善と事業化を促進するため十数社が技術提携により、北米の先発メーカーから技術を導入して事業を開始しました。欧米には軍用機をはじめとして航空機産業が発達したため、ロストワックス精密鋳造も大きく発展しましたが、日本でのこの市場は小さかったことで自動車産業およびガスタービン産業に大きく依存しています。ロストワックス精密鋳造法の特徴を少し詳しくみていきましょう。

(1)製品の大きさ

製造工程のほとんどが容器の中での作業のため、最大寸法はメーカーの設備能力によります。日本では直径1,000mm╳高さ700mm程度が最大。通常は直径300mm╳高さ300mmの製品がほとんどです。製品重量は最大200Kg程度で、通常は10Kg以下の製品となり、最小肉厚は1.5~2.0mmです。

(2)寸法精度

鋳物の寸法精度の規格でCT4程度が可能です。角度公差は±0.5~1.0度程度が可能であり、砂型鋳物で必要な型の抜け勾配は不要です。

最近の現実的な鋳物では、後工程の機械加工との整合性を確保するため、<図2>に示すような幾何学的公差を用いるようになりました。鋳物のすべての寸法を、お互いに直交する基準面ABCから設定します。この基準面を設定するために、6個の基準点(1A,2A,3A,4B,5B,6C)を定めてすべての寸法を基準面から引き出し、寸法公差をその基準寸法からの変位量で示す方式です。

<図2>基準面および基準点の設定例(『ロストワックス精密鋳造法』(社)日本鋳造協会より)
<図2>基準面および基準点の設定例(『ロストワックス精密鋳造法』(社)日本鋳造協会より)

鋳物の特定の部分の変位量は6個の基準点からの距離にほぼ比例するため、基準点からの距離とその部位の寸法公差をグラフで表すと<図3>のようになります。
鋳物に存在するそれぞれの表面の輪郭度やボス部あるいは鋳抜き穴の真位置度などにこれらの寸法表示を適用する設計が、特に航空機部品などから採用されはじめました。

<図3>仮想基準点からの距離と鋳物の幾何学的公差の関係例(『ロストワックス精密鋳造法』(社)日本鋳造協会より)
<図3>仮想基準点からの距離と鋳物の幾何学的公差の関係例(『ロストワックス精密鋳造法』(社)日本鋳造協会より)

(3)鋳物の表面粗さ

ロストワックス精密鋳造品の最大の特徴は、表面粗さがRmaxで2~20μmと鋳物では最も良いことです。精密鋳造品が採用されているジェットエンジン部品、ガスタービン部品およびターボチャージャー部品はすべて流体機器であり、これらは部品の表面粗さはそれらの機器の性能に直接影響するため、ほかの鋳造法と比較して優位性を確保しています。

(4)設計の自由

設計の自由度は高く、ワックス模型作成時に複雑な金型構造を用いれば、従来は複数部品を組み立てたり、溶接して製造されていた部品を一体化して製造できます。また砂型鋳物で採用しているものと同様に中子を用いれば、中空の流路をもった配管などの構造物や中空の空冷流路をもつ中空タービンブレードなどが製造できます。

(5)適用材質の選択

適用材質の選択も自由で、大気溶解、雰囲気中溶解、真空溶解などを採用することにより、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、コバルト基合金およびニッケル基合金など溶解できる材料はすべて製造できます。

(6) 機械的性質

一般的に圧延材などでは、圧延方向と直角方向では機械的特性に差がありますが、精密鋳造品では機械的特性が等方的であり強度設計が行いやすく、また溶接構造やリベット接合などの組み立て部品との比較では、接合部の脆弱性を考慮することなく設計ができます。

(7)機械加工費

寸法精度が鋳造部品では最も良いことと、鋳肌が優れていることから、鋳放し表面で使用できる範囲が拡大します。機械加工する部位は嵌め合い、あるいはねじなどに限定できるので、トータルコストを削減できます。難削材ではその効果がさらに大きくなります。

(8)生産性

金型を用いてワックスパターンを成形するため、確実な条件設定と作業管理を行うことで、製造ロット間の品質のばらつきが少なく長期間にわたって信頼性の高い部品を生産することができます。通常の生産ロットは10個から1,000個程度です。しかし生産個数の少ない部品では、金型製作費の負担が大きくなり、結果として製品が割高になる場合もあります。




最近ではワックスパターンの代わりに3Dプリントされたパターンを用い、金型無しで精密鋳造品を作成する技術開発が行われており、迅速試作(ラピッドプロトタイピング)や少量生産品の量産用に用いられる方法が実用化されています。3Dプリンター技術の精密鋳造への適用例については、別の回講座でご紹介します。




著者: 那須征雄(なす まさお)
那須技術コンサルタント事務所所長 1944年愛知県生まれ。名古屋大学工学部鉄鋼工学科卒業後、日特金属工業株式会社入所。以後、技術者として第一線での活動を重ね、1998年住重精密鋳造株式会社代表取締役社長に就任。2003年退任後はキングパーツ株式会社で技術顧問。2012年に独立し、自身のコンサルティング会社を設立。


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