産業用インスペクションで注目される国産ドローン専門メーカーが持つ経験と独自の機体開発手法に迫る(前編)

INTERVIEW

株式会社プロドローン
開発1部
山口 明彦 伊藤 聖人
製造・フライヤー・サービス部
林 信秀

現在ドローンは、農業や産業などの業種分野、空撮や測量などの用途で幅広く活用・研究されています。なかでも注目されているものが、産業用インスペクション(調査・点検)ドローンです。今回は「ものづくり」の観点から、国産ドローン専門メーカーである株式会社プロドローン開発1部の伊藤聖人氏と山口明彦氏、製造・フライヤー・サービス部の林信秀氏にドローン開発で蓄積してきた経験とノウハウについてお話を伺いました。

左から株式会社プロドローン開発1部山口明彦氏、伊藤聖人氏、製造・フライヤー・サービス部林信秀氏
左から株式会社プロドローン開発1部山口明彦氏、伊藤聖人氏、製造・フライヤー・サービス部林信秀氏

株式会社プロドローンは、2014年、業務用の映像機器販売を手がける株式会社システムファイブと、産業用ドローンメーカーの株式会社ケイアンドエスが業務提携して誕生しました。翌2015年に分社化して別法人として創業して以来、さまざまな分野や用途においてオリジナルの産業用ドローンを世に出しています。

世界初、4G LTEで自律飛行し広域警備を行えるドローン

2018年3月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とKDDI、ドローンシステムソリューションを展開するテラドローン、およびセコムは、世界初の4G LTEネットワークを使用した自律飛行する複数ドローンの広域警備実証実験を行いました。この実証実験では、プロドローン社製のドローン4機を採用。KDDIが構築したドローン専用基盤である「スマートドローンプラットフォーム」を用いて、4機のうち2機は上空からの俯瞰監視、ほかの2機は巡回監視を自律制御で行います。

これらのドローンはKDDI社をはじめプロジェクトに参画する各社から開発要望を受け、高感度カメラ、スピーカー、赤外線カメラ、LEDライトを搭載しています。また運航管理室から警備対象の施設内を遠隔監視し、不審者の発見や注意喚起、不審火の発見、さらには夜間警備などを行える仕様となっています。

ベースとなっているのはプロドローン社製の「PD8-AW-HS」という機種で、いわゆるローターの数が8個のオクトコプターです。プロドローン社では機体の開発、製造のみならず、ドローンの姿勢制御や搭載される機器の制御をつかさどるフライトコントローラー(FC)も独自に開発しています。

プロドローン社製の「PD8-AW-HS」
プロドローン社製の「PD8-AW-HS」

遭難者を救う山岳救助支援ドローン

KDDIは2018年、登山者向けの地図アプリを運営するヤマップと、世界最大の民間気象会社ウェザーニューズの協力を得て、富士山での遭難者救助を目的としたドローン山岳救助支援システムの実証実験に成功しました。位置情報がわかる端末を登山者に持たせ、家族がリアルタイムに登山者の位置を把握することができるシステムです。

登山者が登山道から大きく逸脱してしまった場合に、その位置情報を元に山岳用のドローンを4G LTE網を使って自律飛行させます。遭難場所に到着したドローンは付近の情報をセンターに送信し、遭難場所の情報を詳しく確認することができるため、状況に合わせた最適な救助を行うことができるようになります。機体はプロドローンが開発。このドローンは幕張メッセで開催された「ジャパンドローン2019」において「KD-R01 広域監視(捜索)」として出展されました。

「このケースでは、KDDIやセコム社からそれぞれの用途や目的に応じた機体の発注を受け、プロドローン社の既存の機体をベースにカスタマイズ、またはオリジナルドローンとしてゼロから開発を行っています」(開発1部伊藤氏)

ドローンを構成する要素は、モーター、プロペラ、フレームなどがありますが、そのほか機体の姿勢制御や自律飛行をつかさどるFCや、FCの命令から実際のモーターの回転数を演算するESC(エレクトリックスピードコントローラー)などがあります。

「ほかにも可視光カメラや赤外線カメラ、その他レーザー測量など搭載する機器の重量、必要フライト時間に応じたバッテリーや機体総重量やペイロードに関する事柄をさまざまに計算し、機体を設計する必要があります」(伊藤氏)

ドローン製作に欠かせないフライヤーたち

プロドローンが製造するドローンは、独自の特徴をもち、前例のない機体がほとんどであるため、実用的に飛行できるようにするためには、何度も調整を行う必要があります。プロドローンの開発部門は機体構造系と、電気、ソフトウェアそれぞれの機能をもつメンバーで構成され、機体ごとに3つのセッションを横断して調和のとれた開発を行います。

開発が終わって試作機ができあがると、自社の敷地内にあるテストフライトエリアで試験飛行を行います。プロドローン社には「フライヤー」とよばれるテストパイロットが複数人在籍しており、中にはシングルローター時代から無人航空機を飛行させていたこの道何十年のベテランパイロットも含まれます。

「私たちフライヤーは開発部門から上がってきた試作機が適切に飛行できるように、機体の重量バランスや姿勢制御のレスポンスなどの状態を確認し、調整を行う役目を担っています。調整をおこなっても飛行の症状が解消されない場合は、設計部門・開発部門に物理的やソフトウェア的なアプローチで対策を依頼するケースもあります。産業用ドローンの開発においてとりわけ重要なのは、PDCAをいかにスピーディに回していくかということでしょう。設計フェーズでは気がつかなかったことがテストフライトのフェーズで明確になり、正しく評価するとともに改善をおこない、より良い機体開発の効率化を測ることができます」(製造・フライヤー・サービス部林氏)

プロドローンでは開発部門とテストフライトエリアが同一フロアに集積しており、ベテランのフライヤーがテストフライトを担当することで迅速な開発がおこなえる環境となっています。

顧客のニーズにいかに応えていくかを追求

顧客から想定外のオーダーあった場合や、これまでとはまったく新しい要望を受けたとき、いかにしてお客様の要望を具現化するか?「その際にもっとも役に立つのはこれまでのドローン開発において蓄積してきたノウハウと経験にほかなりません。ドローンの限界を知っているからこそ適切な提案ができる」と山口氏は言います。

「よくあるお客様からの要望の中には、最終的に実現したい2つの要素が相反する要望だった、ということがあります。つまり、片方を実現するために片方を諦めなくてはならない、というようなことです。

例えば、完全防水でさらに水上着陸可能な水に浮くことのできるドローンの開発を希望しているお客様がいらっしゃったとします。完全防水にするためには水の侵入を防ぐためのシールドを各所に施す必要がありますが、一方でおのずと防水でないドローンに比べてパーツが増えることになります。パーツが増えればどうしても重量が増えます。

しかしこのドローンを水に浮かべるためには重量の軽い機体にしなくてはなりません。この完全防水の機体と水に浮かぶ軽い機体は、両立することが難しい要素となります。それぞれが相反する本質を抱えて一歩も譲らなければ、この開発は不可能となるでしょう。

このような場合には一致点や妥協点を探します。防水性をどこまで犠牲にすることができるのか、その上で機体をどの程度軽くすることができるのか。この2つの要望をどの程度叶えるのか、そのバランスやさじ加減について、これまでの経験や知見を利用することにより具体的な提案を行うことができます。多種多様なモジュールの組み合わせによってお客様を真のゴールへと導いていくことができるのです」(山口氏)

独自にフライトコントローラーを開発するわけ

顧客のオーダーを完璧に実現するために、独自に開発したフライトコントローラーを採用するケースもあります。

「現在、市場に流通している中国製フライトコントローラーの多くは、主に空撮用に開発されたものです。ドローンの姿勢制御に関するチャンネルに加え、カメラを機体に取り付け水平に保つための器具(ジンバル)の制御に使えるチャンネル、またカメラのシャッターを作動させるチャンネルなど、自由に使えるチャンネル数に制限があります。そのため、業務内容や用途に応じさらに多くのチャンネルを使用し制御しなければならないケースに直面したときには、既存の中国製フライトコントローラーではニーズに応えることができません。

例えば、壁面液体塗布作業用ドローン(PD8-PR)では、壁や天井に張り付いて液体を塗布するため、空中浮遊を前提とした一般的なフライトコントローラーでは制御しにくく、また、塗料を塗布または噴霧することを制御するためのチャンネルを多く確保しなくてはならなくなります」(開発1部伊藤氏)




これまでさまざまな用途に向けた多数のドローンを製作してきた彼らの自信のほどがうかがえます。その製作にはいくつものノウハウが積み上げられていることでしょう。しかしプロドローンは、バッテリー駆動のドローンだけを製作しているわけではないと言います。それはドローンがどれだけものを積んで運べるかという指標である「ペイロード」と飛行時間や機体の軽量化に関係があるそうです。後半では、ペイロードと軽量化についてプロドローンがどのように対応しているかをご紹介しましょう。


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文/渡辺秋男

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