ロボット・IoT分野の拠点化が進む北九州にものづくり支援企業が集結〜西日本製造技術イノベーション2019現地リポート

西日本製造技術イノベーション2019は、前身の西日本工作機械展(全52回)から2019年で通算59回を重ねてきたという九州を代表するものづくり系の展示会です。北九州市周辺は明治時代の八幡製鉄所開設の頃から、日本の四大工業地帯の1つとしてものづくり製造業が集積している地域です。また、ロボット産業が育ち、IoT分野で国家戦略特区の指定を受けるなど、先端・先進技術の拠点化も進んでいます。

西日本製造技術イノベーション2019は、NPO法人北九州テクノサポートという地域産業のOBらで構成された組織により、出展企業のPRやマッチング、販路開拓、九州地域への出店進出などの支援体制も整っている展示会です。出展各社の中から特徴的な技術・サービスを持つ企業を3社紹介しましょう。


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レーザー加工で一頭地を抜くレーザックス

株式会社レーザックス(愛知県知立市)は、愛知県に本社を置くレーザー加工とレーザー加工機の製造を中心とした会社です。西日本製造技術イノベーションへの出展は今回が初めてとのこと。まず、出展した理由について竹内省悟・本社営業所副営業所長にうかがいました。

竹内:
「出展理由は、新規顧客開拓と知名度を上げることが目的です。東京と名古屋、大阪などの展示会はかなり出展してきて、北九州に限らず地方の展示会は今回ほとんど初めてですが、弊社のお客さまは西日本、九州や四国などからの引き合いがほとんどありません。そのため、どういうものか感触を確かめに出展することにしました」

北九州の展示会に出展し、改めて自社のことが西日本で知られていないと実感したという竹内氏。3日間の印象はどうだったのでしょうか。

竹内:
「北九州にはどうも業態としてレーザー加工の企業が少ないようなので、弊社の技術などについて基本的な質問をされることが多いという印象です。レーザーで板金を切断して曲げて溶接する程度の企業さんはいらっしゃるようですが、こちらの地方には微細な溶接や穴開けに特化した企業はないようですね」

レーザックスはレーザー加工を中心にした企業ですが、今回出展した目玉技術についてうかがいました。まず、ドロスというレーザー加工に特有の溶融物が形成されない穴開け技術です。

竹内:
「航空機やガスタービンなどに使われている材料には、酸化や腐食から保護するためセラミックによるサーマルバリアコーティングというコーティングが施されていることが多いんですが、コーティングの上からレーザーで穴を開ける場合、材料の耐熱合金などが溶けてドロスという溶融物が吹き出てコーティング表面に付着してしまうことがあります。弊社のレーザー加工技術では、このドロスがほとんど出てきません。この技術はおそらく日本では弊社しかできないものです」

ドロスの除去とはどのようにし、これがないことによりどんな利点があるのでしょうか。

竹内:
「ドロスは、レーザーが耐熱合金を貫通するまでの間に出てきます。貫通してしまえば、穴は下へ抜け、溶融物も下へ落ちますから表面へ出てくることはありません。つまり、貫通させるまでの間にレーザーのパラメータや条件などを調整し、ドロスがほとんど出ないレーザー穴開けが可能になっています。

表面に付着したドロスをしっかり削り取らないと、航空機やガスタービンなどに期待される性能が出にくくなります。また、セラミックまで削り取ってしまうことになりかねませんし、その分、工程が増えるのでコストもかさむというわけです。現状、サーマルバリアコーティングに穴を開けるというニーズがそれほど多いわけではありませんが今後、航空宇宙といった業種で多くのニーズが生まれることを期待しています」

微細な溶接が得意というレーザックスですが、非常に難しい技術とされている30ミクロンの母材の突き合わせ溶接も可能ということです。こうした技術は、レーザー溶接機を導入したからすぐにできるとは限らず、レーザックス独自の蓄積ノウハウなどが生かされているようです。

竹内:
「こうした極薄材料のレーザー溶接では、母材だけを溶かす母材溶融で溶接しています。溶かした母材を冷やし固めてくっつけるので、薄過ぎると母材が溶けて穴が開いてしまいます。薄ければ薄いほど、冷え固まるまでの間に膨張してから引けが出るなど、母材に損傷が出て均一にうまく溶接できないんです。

TIG溶接やアーク溶接といったほかの工法でやると2mm以上の厚みが必要になりますから、薄い母材同士を溶接するできることで、重量の点、0.何mmというようにサイズ的に余裕を持った設計が可能になるのです」

レーザー加工以外に特徴的な技術はありますか。

竹内:
「弊社では、レーザーが不得意な銅やアルミなどの反射する材料の溶接には、電子の衝突エネルギーを使う電子ビーム溶接を使っています。ただ、電子ビームは電気が通らない材料には不向きですし、真空中で溶接しなければならないので時間がかかるというデメリットがあります。レーザーの不得意な部分を電子ビーム溶接で補っているという感じです。

最近では、レーザーでも材料の吸収効率がいい波長に調整することによって、反射材料でも溶接が可能になってきてはいます。この波長は出力を上げにくいのですが、今後は十分に通用する技術になっていくでしょう」

戦時中の1941年に軍用機関連の企業として創業したレーザックス。現在では、航空宇宙産業で求められるAS9100 Rev.C規格、特殊工程に関するNadcapなどの認証を取得するなど、技術力を磨いてきたそうです。西日本製造技術イノベーションへの出展により、販路拡大と認知度向上という目的は果たせたのではないでしょうか。


<写真1>レーザックスの竹内省悟・本社営業所副営業所長
<写真1>レーザックスの竹内省悟・本社営業所副営業所長

<写真2>極薄30μm突き合わせ溶接
<写真2>極薄30μm突き合わせ溶接

<写真3>サーマルバリアコーティング(遮熱コーティング)の穴開け。耐熱合金がレーザーによって溶け、コーティング面にドロスと呼ばれる溶融物が付着し、後加工での除去が面倒になる
<写真3>サーマルバリアコーティング(遮熱コーティング)の穴開け。耐熱合金がレーザーによって溶け、コーティング面にドロスと呼ばれる溶融物が付着し、後加工での除去が面倒になる

汎用ロボットのアクチュエータにも採用されたエフ・イー・シーのマグトラン

非接触の電磁式動力伝達システムといえばリニア。ですが、独自開発の着磁機を使い非接触駆動伝達機構「歯のない歯車」(商標マグトラン)の開発・製造・販売をしているのが、株式会社エフ・イー・シー(埼玉県狭山市)です。これは、マグネットギアという名称でも知られている駆動方式で、真空中など高いクリーン度が要求される環境での動力伝達システムとして開発されました。
発塵が少なく潤滑に手間がかからないほか、エフ・イー・シーのマグトランは独特のシステムになっているそうです。西日本製造技術イノベーションの展示会場で阿部貴・代表取締役に開発の経緯からお話をうかがいました。

阿部:
「弊社は、アネルバテクニクス(現・キヤノンアネルバ)さんの真空装置で使われる稼働部品を作っていましたが、あるとき、真空中で発塵のあるギヤをあまり使いたくない、と相談を受けたんです。ギヤのような動きを非接触でやれないかということですが、それならば永久磁石による動力伝達システムでやってみようということになったのが発端です」

接触式の歯車では、どうしても粉じんが出てしまい、真空の質が悪くなります。それまでにも永久磁石の吸引力と反発力を利用した動力伝達システムはあったそうですが、エフ・イー・シーでは独自に新技術を開発したといいます。

阿部:
「もともと磁石同士を組み合わせたシステムはあったんですが、板状のマグネットを貼り合わせることでコストが高く、製造にも手間暇がかかるものでした。もっと安く簡単にできないか、ということで永久磁石とそうでない部分をリング状に分けられる着磁機から作ってみようということになったんです。

着磁機のメーカー、マグネットの材料メーカーなどと一緒に試行錯誤し、開発に2年くらいかけて、ようやく磁性を帯びさせたい材料を入れ、磁気ループで螺旋状に捻るように磁性を帯びさせることのできる着磁機ができました」

オリジナルサイズの歯車を作る場合には新たに着磁機が必要になるそうですが、最小外径φ8mmという小さな歯車も非接触の電磁式で製造が可能のようです。開発に最も苦労した部分は、やはり材料に着磁させることだったといいます。

阿部:
「角度、磁性する部分の幅、磁性の強度など、最適な着磁の形を探るために苦労しました。開発後、ある半導体メーカーさんの洗浄機に使われたことから、半永久的に使用可能なギヤシステムとして弊社のマグトランが広まっていったのです」

最近では、歯車の一方を直線化させ、非接触のため潤滑系を必要としない自由度の高いラック&ピニオン型の搬送システムを提案しており、特許も出願中だといいます。また、東京大学情報理工学系研究科、石川妹尾研究室の小山佳祐特任助教が研究開発したロボット・アーム「MagLinkage」のアクチュエータにもマグトランが採用されています。

阿部:
「ロボットのアームの関節部分にマグトランが使われたのは初めてです。小型軽量ながら高トルク、摩耗性やバックラッシュ、騒音が低いこともありますが、やはり汎用ロボットに求められる特性が大きいようです。

位置サーボ制御だけで衝撃吸収制御ができ、トルクが可変でリミッターとしても使えますし、出力軸の回転量をモータ側のエンコーダで正確に計測できます。また、出力軸側に過度の負荷が加わった場合、マグトランでは磁石歯車が脱調して柔軟にミスステップするということも、汎用ロボットには重要なのでしょう」

今回、西日本製造技術イノベーションに初めて出展したというエフ・イー・シー。2018年秋に同じ北九州で開かれたエコテクノ2018に出展した際に手応えを得たため、ロボット関連企業が多く出る今回の展示会に出ることにしたそうです。

 バックラッシュが起きにくく、芯ズレが起きても破損しにくいマグトラン。粉じんを嫌うプリント基板、太陽電池、LCDなどの製造過程、有機ELのガラス搬送時などの発塵対策として使われ、最近では医療機械、食品製造ラインなどへも採用されているようです。

<写真4>エフ・イー・シーの阿部貴・代表取締役
<写真4>エフ・イー・シーの阿部貴・代表取締役

<写真5>ネオジム磁石で磁性を帯びさせた歯車による90度の交差軸で非接触の動力伝達システム
<写真5>ネオジム磁石で磁性を帯びさせた歯車による90度の交差軸で非接触の動力伝達システム

<写真6>発塵が起きにくく潤滑系がほとんど必要のないメンテナンスフリーなシステム
<写真6>発塵が起きにくく潤滑系がほとんど必要のないメンテナンスフリーなシステム

低コスト短納期で高品質な試作品に挑むSST設計開発センター

北九州への進出のために初めて出展したというのが、超精密部品から大型部材まで54もの工法で試作品や小ロット品の加工ものづくりをしているSST設計開発センター株式会社(大阪府門真市)です。全国展開の途上にある企業とのことで、近い将来には北九州に営業拠点を設立するといいます。西日本製造技術イノベーションに出展していた同社の技術について、窪木俊夫・顧問にお話をうかがいました。

窪木:
「弊社の場合、自社で加工工場を持たず、ファブレスで中国メーカーに実際の加工をやってもらっています。金属や樹脂、FRP、シリコンなど素材を問わず、迅速かつ低コストで依頼された図面を元に加工します」

主に深セン周辺を中心に中国の加工専門企業に依頼しているそうです。中国企業とはどのような関係になっているのでしょうか。

窪木:
「現地では、各企業の得意分野・不得意分野に関して特にリサーチを綿密にやっています。ずっと同じ会社に加工してもらうのではなく、常に新しい技術、新しい取り組みをしている会社と一緒にやることを目的にリニューアルし続けるように心掛けているのです」

金属材料の精密切削、小型の絞り板金などが同社の特徴とのこと。今回、出展している技術の中には自社で研究開発したものがあるようです。特殊材料を使った3D成型では、試行錯誤を繰り返したといいます。

窪木:
「これは弊社独自に研究開発しているもので、弊社の3Dプリンターでナイロンと炭素繊維の複合材料による成形をやろうという試作品です。航空宇宙産業や自動車産業など炭素繊維が必要とされる分野は、今後、成長が期待される業種業態のため、用途開発を行ってみたということです。

ナイロンと炭素繊維を混ぜて3Dプリンターで造形すること自体はそれほど難しくないのですが、この材料の特徴を実際の造形にどう生かすのかが問題でした。例えば、肉厚をさらに薄くしていき、従来と同じ強度で形状を保ちたいということで、どこまで薄くできるか、どこまで複雑なものができるかやってみて、今回出展してみたのです」

同社にはもともとナイロンを使ったさまざまな造形加工技術があるとのことですが、3Dプリンターを使った展示品でナイロンと炭素繊維の混合はどのような割合になっているかは明かせないといいます。あくまでも研究素材の展示ということでしたが、この展示には完成品のメーカーなど興味を持ってくれた方もいるなど手応えを感じたそうです。

窪木:
「弊社の場合、お客さまは量産メーカーが大量生産する前に試作品でやってみるというケースが多く、これまで手がけてきた業種業態としては、家電メーカー、自動車メーカー、建機農機、医療機器など多岐にわたります。特に家電が多く、大手さんはほとんどお取引させていただいています」

中国で加工すると聞くと納期が心配ですが、絞り板金で最短1.5日、平均加工日数は7〜15日程度だそうです。3DのCADデータでなくても2次元図面や手書き図面を3D化する有償サービスも行っているといいます。

窪木:
「試作品の場合、量産の樹脂材料を使うこともやっています。大量生産を始める前の信頼性や耐久性の試験をしたい場合、量産用の樹脂を使った試作品で試験することが可能です。簡単な形状で型を作ってあらかじめインジェクション成型し、できたものを切削で完成させます。インジェクション成型では量産用の材料を使うことができますから、量産の材料で試作品を作ることができるのです」

同社には、ABSなどの樹脂素材をメインに使いコストを抑え、絞り形状の金型をプレス成形する技術もあるといいます。量産金型や量産設備を使わないため、イニシャルコストを抑えられ、短納期を実現したそうです。

窪木:
「特にこのプレス成型では、絞り形状が可能になっています。樹脂の凸面凹面の両側金型を作り、油圧プレスで成形するため、試作で絞り成型が可能になります。このため、金型の板金が破れる危険性も事前にわかるので型修正などが可能になるという利点があるのです」

顧客との共同開発なども提案し、最大3,000トンまでの成形機の使用が可能だというSST設計開発センター。大阪から始まり、現在では東京・関東、東海へ進出し、更に今回の西日本製造技術イノベーションへの出展で九州地方への足がかりを得たのかもしれません。


<写真7>窪木俊夫・顧問(右)と同社新規事業推進本部の中渡旭・部長
<写真7>窪木俊夫・顧問(右)と同社新規事業推進本部の中渡旭・部長

<写真8>ナイロンと炭素繊維を混ぜ、3Dプリンターで造形した研究試作品
<写真8>ナイロンと炭素繊維を混ぜ、3Dプリンターで造形した研究試作品

<写真9>絞り形状も樹脂を使った簡易金型により可能。低コスト短納期を実現
<写真9>絞り形状も樹脂を使った簡易金型により可能。低コスト短納期を実現

文/石田雅彦

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