「NBIL-5」が行う知財アナリストとビジネス・オーナーのマッチング~知財アナリストによる知財の活用で新規事業を創出する(前編)

INTERVIEW

正林国際特許商標事務所 副所長
日本知財標準事務所 所長
齋藤 拓也

企業におけるものづくりでは、自社で独自に開発した技術やノウハウであればあるほど、それを知財(知的財産)として守っていき、それを利活用して新たな事業展開や業務提携などにつなげ、広げていくことが重要です。企業の経営陣には知財についての戦略が必要になってきますし、知財についての実務能力をもつ個人を育成していかなければなりません。

ただ、日本における知財に対する意識は企業側も個々人もまだまだ低く、知財スキルをもった人材も少ないと言わざるを得ません。こうした状況に対し、事業テーマをもつビジネス・オーナー、事業の課題解決に腐心するビジネス・オーナーと、知財のプロフェッショナルというべき知財アナリストを結び付ける試みがあります。

NBIL-5(エヌビルファイブ)という集団もその一つ。NBIL-5のファウンダーの一人、正林国際特許商標事務所の齋藤拓也(さいとう・たくや)氏は、特に中小企業のオーナーや技術者にとって知財アナリストという知財ナビゲーターの存在は大切と言います。NBIL-5の活動、知財をどう扱い、どう企業戦略を立てていけばいいのか、齋藤氏にお話をうかがいました。

「NBIL-5」の役割は、ビジネス・オーナーと知財アナリストをマッチングする

──── NBIL-5というのはどういう集まりなんでしょうか。

齋藤氏(以下同):
NBIL-5というのは、IPランドスケープを使ってビジネス開発をやりましょうという任意団体で、私がファウンダーとなって2018年7月に創設しました。NBIL-5のNBILは、New Business on IP Landscapeの頭文字で、5とは「5年後の売上50億円または利益5億円以上の新事業を5件以上生み出すこと」からきています。NBIL-5の目的は、ビジネス開発の事業テーマをもっているビジネス・オーナーと知財アナリストをマッチングする、出会いの場を提供することです。


──── IPランドスケープについて説明していただけませんか。

IPランドスケープは英語でいうと「Intellectual Property Landscape」で「自社、競合他社、市場の研究開発、経営戦略等の動向及び個別特許等の技術情報を含み、自社の市場ポジションについて現状の俯瞰・将来の展望等を示すもの」とされていますが、要するに知財に関する環境と見通しのことです。


──── NBIL-5には誰でも参加できるのでしょうか。

基本的にどなたでも参加できます。ただ、立ち上げたときの条件として、ノンプロフィット(非営利)、企業や団体ではなく個人による活動としました。NBIL-5の会員には、知財アナリストの有資格者が約半分います。そのほとんどは大企業に所属していますが、企業の職掌とはまったく独立して個人として活動するということです。入会金も必要ありませんし、守秘義務などの必要項目を守ってくれる個人ならどなたでも参加していただけます。ですから、必ずしもビジネス・オーナーでなくても個人なら社員技術者でも参加できます。


──── NBIL-5では具体的にどのようなことをしているんでしょうか。

我々はまずビジネス・オーナーの側から事業テーマをヒアリングしました。特にそれはスタートアップのベンチャー企業、二代目経営者の中小企業、独自の技術力を活かして下請けから脱却したい中小企業などが多かったんです。我々はそうしたビジネス・オーナーがもっているテーマを、大企業の知財アナリストに個人的に渡します。我々のNBIL-5に個人として参加している知財アナリストの中で、例えば水素内燃機関による脱炭素技術に興味をもった人が手をあげてチャートや知財マップを作ってIPランドスケープにより知財や市場の動向などを分析し、レポートを作成します。我々はそれを間に立って事業テーマを持つビジネス・オーナーに提案するというわけです。


──── NBIL-5の活動はまったくのボランタリーなんでしょうか。

基本的にNBIL-5での活動自体はお金儲けを目的としていません。しかし、オフ会で顔合わせをして、ビジネス・オーナーと知財アナリストの間で話が決まれば、その後はNBIL-5としては関知せず、お互いの合意の下でマネタイズしてもらってもかまいません。つまり、そういうことはNBIL-5というコミュニティの外でやってもらえばいいということです。


正林国際特許商標事務所副所長、日本知財標準事務所所長・弁理士 齋藤拓也(さいとう・たくや)。
1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社。2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。AIPE知的財産アナリスト(特許・コンテンツ)、システムアナリスト、2019年日本弁理士会技術標準委員会委員、2020年同標準ビジネス推進委員会副委員長、2021年規格開発エキスパート補(標準化人材登録センター)、米国Carnegie Mellon University MSIA (MBA)。
正林国際特許商標事務所副所長、日本知財標準事務所所長・弁理士 齋藤拓也(さいとう・たくや)。
1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社。2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。AIPE知的財産アナリスト(特許・コンテンツ)、システムアナリスト、2019年日本弁理士会技術標準委員会委員、2020年同標準ビジネス推進委員会副委員長、2021年規格開発エキスパート補(標準化人材登録センター)、米国Carnegie Mellon University MSIA (MBA)。


知財アナリストの役割は、業界を俯瞰的に把握するため特許情報の全体的な解析を行う

──── 知財アナリストというのはどのような人なのですか。

知財アナリストというのは一般財団法人知的財産研究教育財団によって認定試験に合格した人に与えられる『AIPE認定・知的財産アナリスト(特許/コンテンツ)』という公的な資格です。領域は特許とコンテンツに分かれ、全国に特許領域には1,027人(2021年6月現在)、コンテンツ領域には224人(2021年7月現在)います。

知財アナリストがいったい何をやる人なのかというと、統計的なマクロ分析、特許公報などからのミクロ分析、知財や非特許情報などからの予測によって特許情報の全体的な解析を行う人です。もっとも最初から統計資料や特許公報などを並べても、企業のオーナーさんや一般の人にはわかりにくいものになってしまいます。そのため、まずチャートやマッピングによる特許マップを作り、そこから何が見えるのかを分析することから始めることが多いです。


──── 自社の技術などが流出してしまうようなことはないんでしょうか。

知財アナリストの多くは大企業に所属していますから、大企業の事業内容と我々がヒアリングしたビジネス・オーナーの事業テーマが重複する可能性があり、これがコンフリクトすると問題ですが、例えば大手の印刷会社の知財アナリストはあるビジネス・オーナーが抱えていた水素内燃機関の事業テーマについて分析することに何ら躊躇することはないんです。なぜなら、自社の事業内容とはまったく重なりませんから、社員に課せられている守秘義務などに違反することがないからです。


──── 知財アナリストにとって必要な資質はありますか。

知財アナリストに求められるのは、分析の切り口をどうするのか、どういう方向性で母集団を考えればいいのかといったことを思いつくための一種のセンスが必要です。押さえておくべきポイントの知識や経験も重要ですが、天性の才能やヒラメキも大切なんです。例えば、パテント・マイニングという言葉があります。IPランドスケープでは、過去にさかのぼって多くの特許を読み込んで掘っていくような作業も必要になることがありますが、金鉱掘りと同じで金脈のありかがここだと当たりをつけるのもセンスです。


チャートやマッピングの例。上はある企業と競合他社の強みと弱みを比較した「星取表」。これによって自社が強く他社が弱い分野を知り、それをどう活用するかを評価するという。下の図は知財などの特徴をマッピングしたもの。自社の業界や顧客の業界を俯瞰的に把握し、技術内容の位置関係などから知財や技術の動向を探ることができるという。(提供:NBIL-5)
チャートやマッピングの例。上はある企業と競合他社の強みと弱みを比較した「星取表」。これによって自社が強く他社が弱い分野を知り、それをどう活用するかを評価するという。下の図は知財などの特徴をマッピングしたもの。自社の業界や顧客の業界を俯瞰的に把握し、技術内容の位置関係などから知財や技術の動向を探ることができるという。(提供:NBIL-5)


ビジネス・オーナーにとって企業が特許を取得するメリット

──── ビジネス・オーナーに特許を取って公開することに抵抗がある場合もありませんか。

もちろん、中小企業のノウハウや技術について、町工場の社長さんのようなビジネス・オーナーの中にはそれを特許にすることに懐疑的な人も少なくありません。しかし、例えば自社のノウハウを抱え込んで、他社の特許に抵触しないか心配しながら逃げ回るのってあまり建設的ではないですよね。特許に対する心理的なハードルを下げることも重要と考えています。


──── 単純なアイディアや思いつきも特許になるんですか。

そのとおりです。特許というのは、着想が良ければ、本当に単純なアイディアや思いつきでも十分に特許として認められることがあります。例えば、あるファストフード・チェーンの事例ですが、アルバイトが冷めないために加熱された重い鉄のトレーを持てないということで、鉄のトレーの裏側を削ってアルミニウムを埋め込んだところ、アルバイトが何枚もトレーを持てるようになりました。この鉄の裏側のアルミも特許になっています。


──── それまでになかった仕組みが意外な特許になるかもしれませんね。

特許が取れるようなアイディアやノウハウ、システムではないと思われていたものでも特許になります。例えば、Amazonのワンクリック特許です。Amazonのサイトで買い物をしようとすると「カートへ入れる」ボタンの下に「今すぐ買う」ボタンがあります。あのボタンはほかのネット通販サイトにはありません。Amazonの特許で守られているからなんです。ちょっとトンチを効かせたアイディアや思いつきも特許になるんですね。


──── 自社の技術で特許を取るとどんなメリットがありますか。

自社の特許がどれだけほかの企業が出願した特許に引用されているか、被引用文献になっているかがわかれば、自信をもつことができます。自社の特許がどれだけ注目されているのかわかれば、それを引用した企業と共同開発ができるかもしれません。特許の情報分析というのは、自社技術を評価できたり、ライセンスを提供したり技術提携先を探るという可能性もあるんです。


特許庁で特許を審査する際には過去に公開された特許文献を引用する。特許出願するとその内容は1年半後に公開されるが、特許庁から、自社の特許をどこがどれだけ引用したのかは教えてもらえない。被引用文献をリストアップするだけで、自社の特許に多くの可能性があることがわかるという。(提供:NBIL-5)
特許庁で特許を審査する際には過去に公開された特許文献を引用する。特許出願するとその内容は1年半後に公開されるが、特許庁から、自社の特許をどこがどれだけ引用したのかは教えてもらえない。被引用文献をリストアップするだけで、自社の特許に多くの可能性があることがわかるという。(提供:NBIL-5)


──── 特許を取ることで相対的な価値がわかるというわけですね。

そうです。特許庁のデータベースを調べると、被引用文献もわかります。チャートにしてわかりやすくすれば、町工場の社長さんのようなビジネス・オーナーにもよく理解してもらえると思います。例えば、自社の公開された特許が審査で引用されたことによりある大企業が特許取得できなかったという事例がわかれば、小さな町工場の技術をその大企業へライセンスで提供したり、技術提携できるかもしれません。


──── 海外への知財流出を防ぐ効果もありますか。

以前は、よく日本の技術者が中国や韓国の企業に誘われていましたが、当時は技術者と一緒に日本の知財がどんどん海外へ流出していました。一時期、サムソンやLG、ハイアールなどが出願する特許に日本人の名前が並んでいたくらいです。今では中国企業のほうがむしろ特許にうるさくなっていて、特許がついていない技術導入には手を出さないようになっています。

ですから、日本国内の技術も安売りされないように特許によって知財としてしっかり守っていかなければなりません。とりあえず、出願だけしておけば、せっかくの技術を叩き売りされず、買う側も安心して導入できます。どんなアイディアや思いつきでも、NBIL-5ではそうしたことを事業テーマとしてもっているビジネス・オーナーの参加をお待ちしています。




齋藤氏は、IPランドスケープによる知財の「見える化」は、これからどんどん重要になってくると言います。次回は、NBIL-5がマッチングした水素内燃機関というものづくりの事例を紹介しましょう。

文/石田雅彦


NBIL-5
NBIL-5は、正林国際特許商標事務所が運営する事業オーナーと知財アナリストが創る新事業開発コミュニティ。2018年7月、「5年後の売上50億円または利益5億円以上の新事業を5件以上生み出すこと」を目標として有志の知的財産アナリスト約10名で活動を開始。2019年7月よりビジネス・オーナーも参画しIPランドスケープを活用した事業開発戦略を検討。
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