酸化亜鉛のサイズと形を用途に応じてコントロールする理由とは?粉体加工技術のパイオニア 井上石灰工業に聞く

紫外線の遮蔽や悪臭の分解などの特徴を持つことから、化粧品や医薬品、工業製品などの分野で使用される酸化亜鉛。酸化亜鉛などの、粉体の機能性の高さを決めるのは、素材そのものではありません。粉体の機能性は、粒子の大きさや形によって決まるため用途に応じて、粉体を適したサイズや形に制御する技術のニーズが高まっていると言います。今回は、高知県にある石灰加工製品をはじめ、酸化亜鉛など無機粉体や農薬であるICボルドーの製造販売も手掛ける井上石灰工業に粉体のサイズや形が変わることで、機能性はどのように変わり、用途はどのように広がるのかお話を伺いました。

酸化カルシウム、水酸化カルシウムや酸化亜鉛など粉体の機能性は、粒子の大きさや形などによって決まります。では、粉体のサイズや形が変わることで、機能性はどのように変わり、用途はどのように広がるのでしょうか。粉体加工技術のパイオニアである井上石灰工業のキーパーソン、社長室企画開発チーム チームリーダーの岡村好倫氏、技術開発本部 部長の畠中千明氏、技術開発本部第一開発グループ マネージャーの橋本恭邦氏に伺いました。

付加価値の高い粉体加工に強みをもつ井上石灰工業

2021年で創業から137年目を迎える井上石灰工業は、良質な石灰石が採れる高知県に拠点を置きます。

現在は、酸化カルシウム、水酸化カルシウムを原料にした付加価値の高い石灰加工製品をはじめ、酸化亜鉛など高品質な無機粉体や、農薬であるICボルドーの販売も手掛けています。自動車産業や食品産業、医薬業界など、顧客のニーズを踏まえた小回りの利く製品作りと、技術力の高さによる高品質な製品作りによって、永らく業績を伸ばしています。

同社の強みの1つは、何といっても粉体の粒子径(サイズ)と形をコントロールして加工する技術力です。では、この技術にはどんなメリットがあるのでしょうか。酸化亜鉛という物質を例に、このあと詳しく見ていきます。


岡村氏(左)、畠中氏(中央)、橋本氏(右)(提供:井上石灰工業)
岡村氏(左)、畠中氏(中央)、橋本氏(右)(提供:井上石灰工業)


酸化亜鉛の用途とは

そもそも酸化亜鉛とは、亜鉛と酸素が反応することで作られる金属酸化物の一種です。
【化学式】Zn(亜鉛) + O2(酸素) = ZnO(酸化亜鉛)

酸化亜鉛は以下のような特徴を持つことから、化粧品や医薬品、工業製品などの分野でニーズがあります。

□酸化亜鉛の特徴と用途の一例

・紫外線の遮蔽
紫外線を遮蔽する特徴があるため、サンスクリーン剤として化粧品などに利用されています。

・悪臭の分解
臭いを分解する消臭効果があるため、消臭剤としてデオドラント製品や消臭製品などに利用されています。

・収斂作用/消炎作用
炎症を穏やかにやわらげ、皮膚の再生を促すため、化粧品や医薬品などに利用されています。

・抗菌作用
抗菌作用があるため、軟膏など医薬品などに利用されています。また、塗料やフィルムに混ぜると抗菌性のある素材を作ることが可能です。そのため、抗菌性を付与したい工業製品への利用も期待されています。

・エネルギー耐量が大きい
酸化亜鉛は電気を通しやすく、エネルギーの吸収能力が大きいのが特徴です。そのため、電子部品を高電圧から保護するバリスタや避雷器など、電子部品の材料として利用されています。

・架橋作用
酸化亜鉛は触媒としても働き、高分子同士を結びつけることで、三次元の網目状構造を作る架橋作用をもたらします。例えば、ゴムが伸び縮みするのは架橋作用によるものです。

「酸化亜鉛の架橋作用は、道路と道路に橋をかけるイメージです。ゴムはもともと伸び縮みしない物質ですが、酸化亜鉛を添加して架橋反応をもたらすことで、伸ばしても元に戻る特性を獲得します。当社の酸化亜鉛(活性亜鉛華META-Zシリーズ)は、主にゴム用の添加剤として日本国内のみならず、中国や韓国、東南アジア、北米、中南米のお客様にもご利用いただいています」(岡村氏)

活性亜鉛華META-Zの粉末(提供:井上石灰工業)
活性亜鉛華META-Zの粉末(提供:井上石灰工業)


□酸化亜鉛の製造方法

・乾式
金属亜鉛を1000℃ほどの高温で焼き、空気と反応させて作る方法。空気中の酸素と反応させるだけなので純度は高いが、サイズや形状のコントロールは難しい。

・湿式
液系の化学反応によって作る方法。乾式と比べると純度は高くないが、サイズや形状のコントロールはしやすい。

「酸化亜鉛は、焼いて作る乾式が一般的ですが、当社が手掛けるのは湿式です。温度や原料の比率など調整しながら、粒子のサイズや形を制御することで、用途に適した酸化亜鉛を作ることができます」(橋本氏)


実験室における酸化亜鉛合成反応の様子(提供:井上石灰工業)
実験室における酸化亜鉛合成反応の様子(提供:井上石灰工業)


粒子径と形状が機能性の高さを決める

酸化亜鉛に限らず、粉体の機能性の高さを決めるのは、素材そのものではありません。粉体の機能性は、粒子の大きさや形によって決まります。そのため用途に応じて、粉体を適したサイズや形に制御する技術のニーズが高まっているのです。

「粉体の大きさを制御する技術には、石灰のように粉砕して徐々に小さくしていく『ブレイクダウン』と、酸化亜鉛のように化学合成で作っていく『ビルドアップ』の2つの方法がありますが、当社では両面から粒子径の制御を行っています」(畠中氏)

なぜ、粒子径・形状の制御は難しいのでしょうか。例えば、酸化亜鉛の粉はナノメートルという極小サイズです。その上ラグビーボールのような楕円状や針状の粒子になる特徴があります。そのため、目的とする大きさや形へコントロールするためには、高い技術力が必要となります。

「服装に例えると分かりやすいかもしれません。作業場での仕事に適した作業服や、お客様に会うときに適するスーツのように、目的やシーンによって適する服装はさまざまです。酸化亜鉛も同じで、用途に応じてサイズや形状を変える必要があります。ただ、酸化亜鉛は小さくてラグビーボールのような形をとりたがる。放っておけば、作業服ばかり着たがるようなイメージです。そこをうまくコントロールして、スーツを着せたりドレスを着せたりするのが私たちの技術です」(橋本氏)

「例えば、何の加工もしていない酸化亜鉛を使ったサンスクリーンは、塗ったあと白くテカテカした見栄えになります。酸化亜鉛は、紫外線は遮蔽しても、目に見える可視光は透過する性質があるためです。そのバランスを整えるのが粒子の大きさです。また、手触りは酸化亜鉛の形状に由来します。例えばサンスクリーンを塗った後、肌がザラザラしていたら嫌ですよね。ザラザラするのは粉体の表面がデコボコしているから。粒子を制御して表面をなめらかにする必要があります。ちなみに野球のホームベースのような形状にすると引っかかりが少なくなり、すべすべとした手触りが実現します」(橋本氏)


酸化亜鉛や酸化カルシウムをはじめとした、粉体の粒子径・形状の制御で広がる可能性

粉体の粒子径や形状の制御により、今後も付加価値の高い素材や成分の開発が期待されますが、最近、井上石灰工業ではこの分野の開発に力を入れています。

「大きい酸化亜鉛を作るのは技術的には難しいですが、弊社では数十ミクロンの大きさで、かつ六角柱の形状の粒子を合成反応により作製可能にしました。もともと酸化亜鉛はナノメートルという極小サイズ。しかもラグビーボールのような楕円球の形。それを100倍の大きさにし、形を六角柱へと制御していくわけですが、そうした技術力が当社の真骨頂です。例えば粒子の大きさを生かし、電子部品などにおける放熱材料への応用なども考えられます」(橋本氏)

楕円状の酸化亜鉛粒子(2,000倍)(左)、10μm粒子径、六角柱に制御した酸化亜鉛粒子(500倍)(右)(提供:井上石灰工業)
楕円状の酸化亜鉛粒子(2,000倍)(左)、10μm粒子径、六角柱に制御した酸化亜鉛粒子(500倍)(右)(提供:井上石灰工業)


粉体の粒子径や形状によって、機能性が変わる、用途が広がる。この事実を知らない方は、まだまだ多いと言います。酸化カルシウム、水酸化カルシウムや酸化亜鉛など粉体に関するお困りごとやご要望はもちろんのこと、「この製品に酸化亜鉛を使ってみてはどうか」、「共同研究をやってみたい」といったご提案も大歓迎です。ぜひ一度、井上石灰工業へご相談ください。


井上石灰工業株式会社
1884年創業。石灰加工製品をはじめ、酸化亜鉛など無機粉体やICボルドーの製造販売も手掛ける。卓越した粉体加工技術により、付加価値が高く高品質な製品に定評がある。
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