長崎県にある「溶接のスペシャリスト」界工業には、なぜ他社が断わる特殊案件が集まるのか

圧力容器とは、内部や外部からの圧力に耐えられるよう設計された密封容器のことです。圧力容器の溶接はボイラー溶接士の資格がなければできません。変形や歪みをできるだけ抑えるには、容器の形や大きさに適した治具をゼロから作る必要がありますが、資格や免許があるからといって優れた治具を作れるわけではないと言います。今回は、長崎県諫早市にある、プラント向けの圧力容器をはじめ、配管や架台等の設計、製作を手掛ける株式会社界工業になぜ他社が断わる特殊案件が集まるのかお話を伺いました。

日本の名だたる大手企業と多数の取引実績を持ち、他社で断られた難しい案件が多く舞い込む「界工業」。高い溶接技術の背景には、法規で厳格に規定された圧力容器を多数手がけてきた実績があるようです。同社の代表取締役の松尾 康平氏に詳しく伺いました。

長崎県における溶接のスペシャリスト

長崎県諫早市に工場を構える株式会社界工業は、プラント向けの圧力容器の設計、製作を行うメーカーです。

具体的には高圧ガス、ボイラー、第一種圧力容器、第二種圧力容器の設計製作、配管用パイプ、架台の製作、一般製缶の製作を手掛けてきました。

名だたる大手企業と多数の取引実績

同社の強みは、何といっても精度の高い溶接技術です。法規で厳しく規定された圧力容器を数多く手掛けることで培ってきた技術力が評価され、社員数15名の会社ながら、名だたる日本の大手企業と多数の取引実績があります。

他社で断られる特殊案件が集まる

他社が断るような難しい案件が多く舞い込むのも同社の特徴です。

「お引き受けする圧力容器は、毎回ほぼ依頼内容が異なり、扱う材質、形状、大きさ、厚みはさまざまです。そうした多岐にわたる経験値を積み重ねて、当社は総合的な溶接技術を高めてきました。だからこそ、初めて手掛ける難しい案件も前向きに捉えることができます」(代表取締役 松尾 康平氏)

生産性の高い組織体質

協力会社との潤滑な連携や、社員の業務に対する自発的な姿勢も、同社の技術力を支えています。

「圧力容器の製作は、さまざまなパートナーの協力があって成り立ちますが、業務の分担や連携が非常にうまく回っています。そのため難しい案件を複数抱えていても、効率的に仕事をこなすことができます。これまでに経験のない溶接もありますが、社内からは自発的に意見がどんどん出てきます。自分で調べたり試したりして、『こういう方法がある』『こうすれば効率が上がるのでは』といった提案を積極的にしてくれます。こうした会社の体質が、技術力の厚みにつながっているのではないでしょうか」(松尾氏)


界工業が手掛けた圧力容器(提供:界工業)
界工業が手掛けた圧力容器(提供:界工業)


圧力容器の溶接に必要な資格と免許

そもそも圧力容器とは、内部や外部からの圧力に耐えられるよう設計された密封容器のことです。圧力に耐えられず容器が壊れてしまえば、重大な事故につながります。それに、工場などで使われる圧力容器には、石油やガスをはじめ人体に有害な物資が入るケースも多いもの。圧力容器の設計や製作は安全性が何より重視されるため、労働安全衛生法により、法規で厳格に規定されているのです。

「ボイラー溶接士の資格は国家資格で、圧力容器の溶接はこの資格がなければできません。しかも、容器の素材や厚み、溶接方法などによって追加で取得する資格は変わります。規格や法規、顧客の仕様により溶接による応力除去が要求される場合、溶接後に熱処理が必要ですが、これにも専用のPQR(溶接施工試験記録)が必要です。それに、目に見えない製品内部を確認するためのX線検査など、通過しなければならない検査がさまざまあります。その辺りが、圧力容器とその他の製品における溶接の大きな違いです」(松尾氏)


なお、界工業では現在、以下の資格や免許を保有しています。


□第一種圧力容器製造許可(34種で取得)

・円筒形第一種圧力容器:15種類
・ジャケット付き第一種圧力容器:4種類
・多管式第一種圧力容器:15種類



□ボイラー製造許可(9種で取得)

・水管ボイラー:7種類
・丸ボイラー:1種類
・温水ボイラー:1種類



□溶接士の免許・資格

・普通ボイラー溶接士:3名
・特別ボイラー溶接士:1名


・JIS溶接技能者資格:11種のべ29名
 SA-2F:7名
 SA-2V:1名
 SA-3F:2名
 T-1F:5名
 A-2F:3名
 A-2V:1名
 A-3F:1名
 A-3V:1名
 MA-F:3名
 TN-F:4名
 TN-P:1名


・日本海事協会技量資格
TW-T-B-CS-t11 D165.2-PJ-ssnb:2名


「顧客の要望に応じてどんどん取得してきた結果です。上記以外でもご要望があれば、新規取得はもちろん可能です」(松尾氏)

多彩な案件で培われた、長崎県・界工業の溶接技術

圧力容器の溶接における資格や免許を多岐にわたって有する界工業。一方で、「資格や免許を取得するだけでは、正直なところ溶接技術の高さは証明できない」と松尾氏は話します。

「溶接の際、どうしても熱で容器に歪みが出ます。精度に関わることですから、できるだけ歪みを抑えながら仕上げていくのが肝要で、これが圧力容器の製造で難しい点です。変形や歪みをできるだけ抑えるには、容器の形や大きさに適した治具をゼロから作る必要がありますが、資格や免許があるからといって優れた治具を作れるわけではありません。そこは今までの受注実績で培ってきた経験値やノウハウがものを言います」

以下は、同社が手掛けてきた多彩な案件の一例です。

溶接と成形を繰り返し仕上げた球状の圧力容器

「ゴミ処理に関連する用途で、ボールのようにまん丸い球状の圧力容器のご依頼を受けた際、お客様はいろいろと他の会社で断られた末に、当社にたどり着かれたようです。もとは四角い金属板6枚を曲げ加工したパーツで構成され、それぞれを組立・溶接にてまん丸に仕上げていきましたが、球体を手掛けるのは当社としても初めて。これまでの経験値を総動員しながら、変形しやすい場所を狙って独自の治具でサポートしていきました。

具体的には、球状の圧力容器は内側に変形するので、クロスに組んだ突っ張り棒を容器の内側から施します。それだけで間に合わない場合は、変形した部分をまた成形し直します。溶接と成形を繰り返して精度を高めていくわけですが、このプロセスがきちんとできなければ高品質の製品には仕上がりません」(松尾氏)


界工業が手がけた、球状の圧力容器(提供:界工業)
界工業が手がけた、球状の圧力容器(提供:界工業)


溶接が難しい分厚い45mmのステンレスタンク

「厚みのある素材も、成形や溶接が大変です。印象に残っているのは、ものすごく厚みのあるステンレスタンクの溶接です。形状としては一般的な円柱型のタンクですが、厚みが45mmもありました。普段は9mmや12mmといった厚さを溶接する案件が多いので、それらと比べると4、5倍近くもある。しかも、高圧ガス保安協会の検査をパスする必要がある案件でしたから、なかなか苦労しました。でも、完成品はお客様にも満足いただけて挑戦しがいがありました。ちなみに当社では50mmの厚さまで対応可能です」(松尾氏)

板が45mmもの厚みがあったステンレスタンク(提供:界工業)
板が45mmもの厚みがあったステンレスタンク(提供:界工業)


圧力容器の溶接技術を生かして配管、架台、パイプにも対応

界工業は、圧力容器以外にも配管や架台、パイプ等を手掛けていますが、圧力容器で培った溶接技術によって生み出された製品はやはり品質が良く、顧客から高い評価を受けています。

「例えば、火力発電所向けにクラゲ除去用のプロペラ装置の架台を作りました。海水を取り込む発電所の取水口にはクラゲがたくさん集まるようで、取水口に詰まると設備が故障してしまいます。そこで、プロペラで海中に水流の渦を生み出すことでクラゲを取水口から遠ざけ、沖に流す装置を手がけました。単純な仕組みながら、火力発電所の案件ですから仕様の要求は厳しいものでしたが、無事にクリアしてお客様に喜んでいただけたことがうれしかったです」(松尾氏)


火力発電所向けに製造した、プロペラ装置の架台(提供:界工業)
火力発電所向けに製造した、プロペラ装置の架台(提供:界工業)


「絶えず新しい技術を習得しながら、納期やコストも含めてお客様にご満足いただけるものづくりをすることで、これからも社会に貢献していきたい」と語る松尾氏。今後は、要望も増えているという薄板の溶接にもより積極的に挑戦していくようです。

溶接に関するお困り事やご要望があれば、「溶接のスペシャリスト」である界工業にまずは一度ご相談ください。また、同社で一緒に切磋琢磨する仲間や、協力会社も随時募集中です。



株式会社界工業
1977年創業。長崎県諫早市で、プラント向けの圧力容器をはじめ、配管や架台等の設計、製作を手掛ける。法規で厳格に規定された圧力容器を数多く手掛けることで培ってきた技術力に定評あり。
株式会社界工業