岡山県の山陽精機に聞く。山間部という不便な環境にありながら、なぜ金型生産・供給のグローバルネットワークを構築できたのか

周囲が山に囲まれており、アクセスが良いとは言えないため、一般的に見れば商売をするには不利な環境といえる中山間地域。入ってくる情報自体は少ないですが、少ないがゆえに選別もしやすいなど、物理的な不便さが逆に強みになっていると言います。今回は、プラスチックをはじめ、アルミダイキャストやウレタンなど金型設計、開発、および製造を手掛ける岡山県真庭市にある、山陽精機株式会社になぜ金型生産・供給のグローバルネットワークを構築できたのかお話を伺いました。

一見、商売には不利に思える立地にありながら、国内はもちろん、海外市場での活動実績が顕著な金型メーカー「山陽精機」。その原動力は一体どこから来るのでしょうか。「あえて不便さを作りだす」を信条とする同社の代表取締役 行本充宏(ゆきもと みちひろ)氏に話を伺いました。

岡山県北の優良ものづくり企業「山陽精機」

山陽精機株式会社は、岡山県真庭市に本社と工場を構える金型メーカーです。プラスチックをベースに、アルミダイキャストやウレタンなどの金型設計、開発、および製造を手掛け、精度の高いものづくりに定評があります。

また、アメリカのシカゴを皮切りに、韓国、中国、メキシコ、ブラジルにグループ会社を持ち、環太平洋エリア全域に製品を供給できるグローバルな体制とネットワークを構築しています。これが同社の大きな強みです。

日本を代表する自動車部品メーカーなど、海外進出する日本の大手企業複数社との取り引きがあり、海外での活動実績は顕著。売上比率では50%以上を輸出が占めています。

山陽精機は、なぜまず海外に進出したのか

そもそも、山陽精機が拠点を置く岡山県真庭市は、日本海と瀬戸内海の中ほどに位置します。周囲が山に囲まれている中山間地域であり、アクセスが良いとは言えないため、一般的に見れば商売をするには不利な環境といえます。ところが、同社の代表取締役である行本氏は、「物理的な不便さが逆に強みになっている」と話します。

「じっとしていてはもちろん情報も何も入ってきません。ですが、一見不利に思えるこの地は、その気になると非常に情報が取りやすい。例えばグルグル回っている洗濯機の中にいると、自分も一緒に回っているので、今どこにいるのか自分のポジションがよくわからなくなります。けれども渦中ではなく、こうした山の上の離れた場所にいると、渦がゆっくり動いているのかせわしないのか、右に流れているのか左に流れているのか、状況が比較的よく見えるのです。入ってくる情報自体は少ないですが、少ないがゆえに選別もしやすい。ちょっと見方を変えると、この場所も捨てたものじゃないなと考えるようになりました」(行本氏)

「それに生き残るには、不利な状況や不便さを強みに変えていくしかありません。例えば金型は、1回でうまく量産できるような道具に仕上がることはありません。1回作ったものに手を加えて改善を重ねていく。それで初めて製品として完成します。そうなると物理的に近い場所で相談できたり、やり取りできる会社が有利です。金型は受注産業。大企業のおひざ元に自然と多くの製作所が集まって成り立っています。その意味でも当社の立地は圧倒的に不利。他社と同じことをしていても勝ち目はありません。そこで最初から海外に出ていくことにしました」(行本氏)

同社がシカゴに事務所を開設したのは1995年のこと。海外に進出していた日本企業の困りごとを地道にヒアリングし、課題解決を積み重ねる中で、同社の製品や技術力は徐々に認められていきました。また、そうした成果を踏まえて、国内でも徐々に新たな顧客が増えていきました。

子会社の山陽精機アメリカ(提供:山陽精機)
子会社の山陽精機アメリカ(提供:山陽精機)


山陽精機は、なぜ「365日ほぼ機械が止まらない工場」を実現できたのか

IoTに注目が集まる近年、山陽精機ではそれよりずっと前の1990年代後半から、コンピューターによる制御化・自動化を推進してきました。その結果、少量多品種を扱うにもかかわらず、今では「365日ほぼ機械が止まらない工場」を実現しています。

「大量生産で、かつ昼勤と夜勤の2直制シフトで動く工場では、一般的な稼働時間は1日20時間ほどです。けれども私たちの工場は、昼勤だけの一直制シフトで20時間稼働しています。しかも、少量多品種で1つしか作らないような製品を扱っています。準備や段取りのことも踏まえると、一般的な稼働時間は1日だいたい12時間、13時間くらい。ですが当社は、工作機械の自動制御を早くから進めてきたおかげで、夜中や休日は無人で機械を動かすことができます。昼勤のみでこれだけ機械を動かせる会社はあまりありません」(行本氏)

実はこれも、不利な状況を強みに変えた事例といえます。

「構想自体は、創業3年目の1985年頃から考えていました。私は当時27歳。集まったスタッフはみんな私より若い人たちでした。当時、私たちの仕事は一人前になるのに10年、20年かかると言われていた時代。当社はほぼ素人みたいな人たちばかりで始めたものですから、コンピューターを駆使して、熟練の職人さんがいなくても成り立つ仕事のやり方をなんとか作る必要がありました。そうしてコンピューターによる制御化にいち早く取り組み、25年前から本社機能を移動し4km離れた工場に加工データを送って機械を動かしてきましたが、年々進化させながら今に至ります」(行本氏)

工場内部の様子(提供:山陽精機)
工場内部の様子(提供:山陽精機)


山陽精機は、なぜ「修正が必要な製品の発生率を通常の5分の1」に抑えられるのか

山間部のため、真庭市の昼夜の寒暖差は20℃近くもあります。コンピューターによる自動制御が進んでいるとはいえ、精密加工にとって、熱変位が起こりやすい環境は致命的。それにもかかわらず、なぜ同社は高精度な加工を行うことができるのでしょうか。

その秘密は、長年の試行錯誤の末に開発した「工場恒温化システム」にあります。同システムは、言い換えるなら「電力・環境の見える化システム」。工場内を自動で常時28℃±1℃に保つので、外気の影響を受けることなく熱変位の影響を排除し加工物を100分の1mm以内に収めることができます。

電力・環境の見える化システム(提供:山陽精機)
電力・環境の見える化システム(提供:山陽精機)


「実はこれも、寒暖差が激しいという不利な環境が開発のきっかけです。30年ほど前、買ったばかりの機械を自動で動かして帰って朝来てみたら、製品の寸法がまるでデタラメでした。とんでもない不良品が出たので原因をあれこれ調べていると、外気の影響を受けて機械が伸び縮みしていたことが分かりました。そこで工場内の温度差をなくそうとシステムを開発した結果、修正が必要な製品の発生率は、通常の環境下での作業と比べて5分の1に抑えることができました。さらに、空調システムのランニングコスト削減と、環境負荷の低減にも繋がります」(行本氏)

同システムは、「第8回 ものづくり日本大賞※」も受賞しましたが、実は導入メリットはそれだけではないようです。

「夏の冷房は半減し冬の暖房は必要なくなり、スタッフは1年中半袖で快適に作業ができる環境です。男社会といわれる金型業界の中で、当社の女性スタッフの比率が約30%と高いのは、同システムによって職場環境が大きく改善したことも大きいように思います」(行本氏)

動力のあるところには必ず熱が発生します。そのため省エネやSDGsの観点から、工場恒温化システムは今後ますます注目を集めそうです。一方で、人材不足に悩む特に地方の中小企業にとっては、「工場の環境改善」という観点から、人材確保の切り札となる可能性もありそうです。

※日本のものづくりの第一線で活躍する各世代のうち、特に優秀と認められる方々を内閣総理大臣が表彰する制度。「工場恒温化システム」は、「製造・生産プロセス部門」で優秀賞を受賞

 

 

経済産業大臣梶山弘志氏(左)より、「ものづくり日本大賞」を受賞した際の様子(提供:山陽精機)
経済産業大臣梶山弘志氏(左)より、「ものづくり日本大賞」を受賞した際の様子(提供:山陽精機)


海外生産におけるノウハウを持った金型メーカーを探している。生産・供給においてグローバルな体制とネットワークを持つ金型メーカーと仕事がしたい。少量多品種の金型も迅速に対応してほしい。省エネやSDGs、人材獲得の観点から、工場内の環境を改善したい。そうしたお悩みやお困りごとがあれば、ぜひ山陽精機へご相談ください。


山陽精機株式会社
1982年創業。プラスチックをはじめ、アルミダイキャストやウレタンなど金型設計、開発、および製造を手掛ける。アメリカのシカゴ、メキシコ、ブラジル、韓国、中国にグループ会社を持ち、精度の高いものづくりに定評あり。
山陽精機株式会社