顧客の潜在ニーズを深掘りするためのイノベーション戦略と出島戦略とは~DX有識者が語るDXによるビジネス変革とは(後編)

INTERVIEW

キュレーションズ株式会社
代表取締役
根本 隆之

デジタル・トランスフォーメーション(以下DX)による新事業創出には、「顧客が本当に欲しいものが何なのか、解決したい課題は何なのか、顧客自身も自覚していないながらも代替手段で解決している潜在的なニーズを深堀りしていく」ことが重要だといいます。それでは、どのような方法でその「潜在ニーズ」を掘り出せることができるのでしょうか。今回も引き続き、キュレーションズの代表取締役社長 根本隆之氏に、顧客の潜在ニーズを深掘りする方法や、DX実現に向けたイノベーション戦略、出島戦略についてお話を伺いました。

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顧客自身も自覚していない「潜在ニーズ」を深掘りするためには

──── DXの実現のために、顧客がなにを求めているかが重要ということでした。クライアントの企業と一緒に顧客ニーズを考えるわけですか?

根本隆之氏(以下、同):
当社は、今まで、ソニーをはじめ大手企業などと、60件ぐらいの新規事業創出やビジネス・トランスフォーメーションに取り組んできました。なぜかというと、大手になればなるほど、また製造メーカーは顧客との距離があって、顧客に寄り添えていないことが多いからです。
我々が大事にしているのは、ユーザーが求めているものが何なのか、ということをひたすら「デプスインタビュー(depth interview)」(対象者とインタビュアーが一対一で行うインタビュー)をします。

私は、マクロミルというリサーチ会社に在籍したことがありましたが、インターネットリサーチといっても、その目的は、社内を説得するためにリサーチすることが多く、本質的な顧客の声を拾おうとしていないケースに疑問を感じていました。
 
本質的な顧客の声を拾うためのやり方はまず、自分たちのフェイスブックで「周辺に、こんな人はいませんか」と投稿します。
インターネットリサーチする会社もありますが、そういうリサーチではどうしてもバイアスがかかってきます。リサーチ会社が抱えているユーザーは調査慣れしていて、「自動車メーカーだから、こう答えよう」「菓子メーカーだからこういう風に答えなきゃ」になってしまい、そうなると、表層的なことしかわからないことになってしまいます。深層心理にある、本当になにを求めていたのか、どんな課題を解決したいと思っているのか、というところまで迫ることが難しいわけです。

仮説をたて、インサイトが見えてきたときに、顧客代表かもしれない、という人を集めるという作業を行います。この顧客代表のような人を、私たちは「エバンジェリスト・カスタマー(Evangelist customer)」とよびます。深い課題を持っている代表のような人が3人から5人ぐらいいれば、十分なのです。「エバンジェリスト・カスタマー」をコミュニティ化して、その人たちと一緒にものづくりをしていきます。


──── エバンジェリスト・カスタマーを見つけるのが一番大変になりますか?

エバンジェリスト・カスタマーを見つけることができれば、課題の大きなハードルはクリアできたようなものになります。しかし、プロジェクトによってはなかなか見つけることができません。

もう一つ、注意しているのは、顧客はその製品が欲しいのではなく、代替手段として製品を購入して解決している場合が時々あります。米国の経済学者、セオドア・レビット(Theodore Levitt)博士の「レビットのドリルの穴理論」もまさにそうで、自宅の壁に絵を飾るために壁に穴を開けるドリルを買いにきたカスタマーがいます。でも、これは穴を開けることが目的ではなく、本当は自宅に絵を飾りたいからドリルを購入しているわけです。もし顧客が絵を飾るためにドリルを買いにきたことがわかっていれば、穴を開けるのではなく、マジックテープやアートレールという別の手段も提案できたわけです。

顧客が本当に欲しいものが何なのか、解決したい課題は何なのか、顧客自身も自覚していないながらも代替手段で解決している潜在的なニーズを深堀りしていくわけです。
米国の経営学者のクレイトン・クリステンセン(Clayton M. Christensen)氏が自著『イノベーションのジレンマ』や『破壊的イノベーション理論』などで提唱していますが、顧客の声を聞く目的は、「Job To Be Done」を発見することにあります。「顧客はジョブ(課題)を持っており、それを解決するためにサービスやプロダクトを用いる」というものです。


誰に向けた技術開発なのかが重要~プリクラを使う女子高生とエンジニアの事例

ソニーに勤めていた時のことです。私がいた部署には、200人ぐらいの社員のうち190人がエンジニアでした。エンジニアの方々は、カメラの画素数を上げることに精魂を傾けていました。しかし、当時、流行していたプリント倶楽部(プリクラ)で写真を撮る女子高校生は画素数が高い写真を求めているわけではありません。

このような消費者のニーズを口頭で伝えても開発者には伝わりません。このため、渋谷のセンター街に行って女子高校生に声をかけ、社内でも一二(いちに)を争うほど堅牢なオフィスに、プリクラのシールを貼っているプリクラ手帳を持って来てもらいました。彼女たちは、友達と撮ったシールを分けてノートに貼るという、「コミュニケーション」のリレーを楽しんでいました。写真にはこんな使い方がある、といったことをエンジニアらに説明して、エンジニアと会話ができるようになりました。


──── 世の中、そこまで高いクオリティを求めておらず、ある程度のレベルで解決できればよかったりする。その気づきも必要になってくるということでしょうか。
 
そうなります。大切なのは、機能ではなく体験です。技術を誰の何に向けるか? ここを紐解く必要があるのだと思います。


DX実現に向けたイノベーション戦略

──── どのように、クライアントになった企業と寄り添うのかを教えてください。

プロジェクトのプロセスを簡単に紹介します。3つか5つにフェーズが分かれています。まず、最初にどういう未来を描くのか、というビジョンを策定します。そして、コンセプトを決めてアイデアを出していきます。これが第1のフェーズで3か月ぐらいかかりますね。

そして、アイデアが複数になった状態で、仮説を持ってデプスインタビューでエバンジェリスト・カスタマーを探します。エバンジェリスト・カスタマーが見つかって本当に欲しいものはこういうものだということを定義します。それと並行してどういうふうにマネタイズするのかのビジネビジネスモデルを考えます。

次のフェーズで、実際にPoC(Proof of Concept)※でモックアップを作ってみて、実際に売れるかどうかを早い段階で行います。

※PoC(Proof of Concept):新しい技術や理論、原理、手法、アイデアなどに実現可能か、目的の効果や効能が得られるかなどを確認するために実験的に行う検証工程。


プロジェクトを進めるプロセス(提供:キュレーションズ)
プロジェクトを進めるプロセス(提供:キュレーションズ)


攻めのDX実現に向けたイノベーション戦略マップ(提供:キュレーションズ)
攻めのDX実現に向けたイノベーション戦略マップ(提供:キュレーションズ)


──── 実際に、売れるかどうかをみるために価格をつけて売るのですか?

はい。ビジネスモデルが5つぐらいあったとして、このうち3つぐらい検証できるようになると、現実味を検証するために実際に売ってみます。このとき、大手企業や成熟企業の名前で未完成の状態のものを売ることはできません。このため、私たちキュレーションズの名前で売ったりするわけです。

この検証のための壁のほか、大手企業にはコンプライアンスの問題があり、初めてのものに取り組むハードルが高いですし、会社の仕組みが許さないケースが大半です。先程のエバンジェリスト・カスタマーをSNSを通じて探したり、LINEなどのSNSで業務時間中にやり取りすることや、時間外の夜中にメッセージのやり取りすることも就業規則的に難しい企業もあります。情報漏洩を懸念するケースもあります。
 

──── コンサルとは違うという理解になりますか?

コンサルの場合は、オープンのデータや、グローバル企業の場合は各国の知見を利用して、こうではないのか、という答えを持ってきますが、我々は答えを出すのではなくて、クライアントと一緒に、既存事業を活かしながら、新たな収益を創出する作業を一緒に行うわけです。

過去の例ですが、ソニーから、スマートフォンに入っているCMOSセンサーについて、スマートフォン以外の用途での可能性を探索したいと相談がありました。
そしてやってみたのが肌解析システムBeautyExplorer(R)(ビューティーエクスプローラー)です。CMOSイメージセンサーを搭載した小型肌測定機と、画像処理技術を応用した解析アルゴリズムから、肌のキメ・毛穴・シミ・色味・水分・ 油分などの肌状態を高精度でより速く測定して解析します。化粧品会社ポーラのパーソナライズドブランド「APEX(R)(アペックス)」の新商品の測定システムとして採用され、エステティックサロンや美容サロン、などに採用され、ポーラの全国のショップに導入されるにいたりました。

最近では、末期癌患者の QOL(生活の質)を上げることに貢献し、事業化を検討したいといったヘルスケア領域での相談も増えています。

素材メーカーから車のボンネットの裏で使用するプラスチックの素材を他の用途でも使えないかと相談されたこともあります。個人的には、SDGs(持続可能な開発目標)やサーキュラー・エコノミーの観点から、プラスチックをたくさん使ってもらうという視点ではなく、プラスチックを買わなくてもよいAs a Serviceを目指せるようなサービスを作る方がよいのではないのかとアドバイスしました。

実際、Loop(ループ)という、従来、使い捨てされていた洗剤やシャンプーなどの日用消耗品や食品などの容器や商品パッケージをステンレスやガラスなど耐久性の高いものに代え、繰り返し利用を可能にする商品提供システムがあり、そこにさまざまな企業が参画しているので、そういった発想の転換を提案してみました。話としては流れてしまいましたが……。


出島戦略とは、そして出島会社の事例

──── デジタル・トランスフォーメーションで生み出す新規事業は「出島」を活用しよう、を提唱しています。出島戦略を教えてください。

「出島」とは江戸時代に、鎖国政策で幕府が海外との交易を原則禁じていた中、例外として海外と交易をしてもよいと認められた特区のことです。当時の日本はこの出島を交易拠点とし、外からの情報や技術、文化を取り入れ、自分たちに適したものを吸収していきました。いわば「入島」といえるようなキュレーター的な機能も出島が請け負っていました。

このアプローチをビジネスにおいて採用する戦略が「出島戦略」です。新規事業に挑戦する組織や会社を新しく用意します。理由は、本社の意思決定や評価制度などの制約に縛られずにリスクをとって新規事業に挑戦でき、スタートアップ企業のような文化・制度を構築して、情報を外から得たり、外部人材の参画が容易になったり、実証実験の場としても活動しやすくなるからです。また、既存事業や管理体制(コンプラ、ガバナンスなど)による制約が外れ、新規事業の可能性の幅を拡大しスピード感を持つことが容易にもなり、中長期的なイノベーションに対する投資が可能になります。
 
日立製作所の矢野和男氏は、働き方改革の目的の一つである「ハピネス度」の向上を目指し、人工知能を活用したヒューマンビッグデータ研究を進めており、ウエアラブルセンサやスマートフォンの端末から得られるデータを活用して幸福感を算出し、従業員の幸福度、チームの生産性を向上するソリューション、「ハピネスプラネット(R)(Happiness Planet)」を開発しました。
キュレーションズは矢野氏とこのアプリの立ち上げから6年弱ぐらいかかわってきましたが、2020年6月、日立製作所からスピンアウトし、株式会社ハピネスプラネットを設立しました。正真正銘の出島会社となるわけですが、私たちはそこにいたるまでの立ち上げを伴走しました。


従業員の心理的安全性やエンゲージメントを向上させる企業経営を可能にする「ハピネスプラネット(R)」(提供:キュレーションズ)
従業員の心理的安全性やエンゲージメントを向上させる企業経営を可能にする「ハピネスプラネット(R)」(提供:キュレーションズ)


──── 大企業が抱えている「制約が多く、迅速、柔軟に動きにくい」という弱みを、御社が補っているということですね。となると、顧客は基本、大企業になり、ベンチャーは顧客にはなりにくいということになりますか?

よくいえば、大企業はガバナンスが効いているということになります。しかし、ゼロイチのところは、ガバナンスが効きすぎると戦えない。大企業は、自身が抱えるリスクと切り離すことが大切です。その部分を、外部の私たちが担います。一を十にしたり、一を百にするといったスケールアップは、大企業に勝るものはありません。大企業の不得手な部分を私たちが担うことで、大企業が元気になり、日本全体が再び元気なれるように、間接的に協力したいと思っています。
ベンチャーや中小企業については、プロジェクトに応じて、彼らのソリューションを大企業に提供しています。


文/杉浦美香



参考情報
・BeautyExplorerは、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社の登録商標です。
・APEXは、株式会社ポーラの登録商標です。
・ハピネスプラネットは、株式会社ハピネスプラネットの登録商標です。


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