光学レンズの設計・加工はなぜ難しいのか。渋谷光学に学ぶ光学製品開発で押さえるべきポイント

カメラや顕微鏡に使用される光学レンズ。光学レンズの設計自体はコンピュータを使って、例えば結像性能だけを追求することもできますが、実際には、製品として成り立たない設計が見られるのが現状です。機能する光学レンズを設計・加工するには長年の経験や蓄積してきた製造公差を踏まえた設計や光学レンズと金物のコンビネーションを考慮するといったノウハウが欠かせないそうです。今回は、埼玉県和光市に本社を構える光学製品のパイオニアである株式会社渋谷光学に光学製品開発で押さえるべきポイントについてお話を伺いました。

光学設計ソフトウェアなどの目覚ましい進化により、光学レンズの設計がコンピュータでもできるようになった昨今。ところが実際に組み立てると、設計どおりの性能が出ないケースが頻発すると言います。それはなぜなのか。今回は、光学製品のパイオニアである渋谷光学のみなさんにお話を伺いました。

光学レンズをはじめとした光学製品のパイオニア

埼玉県和光市に本社を構える株式会社渋谷光学。1963年の創業当時は光学レンズの研磨工場としてスタートし、光学部品や顕微鏡関連部品、検査・測定器など幅広い光学製品の設計・製造を行います。

他社に先駆けて技術力の高い中国企業と連携

転機が訪れたのは1996年でした。他社に先駆けて高い技術を持つ中国企業と取り引きを始めたことがきっかけで幅広い光学製品を取り扱う企業へと成長しました。

「中国に進出する会社がまだ少なかった25年前、中国企業を視察し、さまざまな企業から安価な光学製品を紹介してもらうチャンスに恵まれました。同時に、光学製品を手がける中国企業が、技術で日本にさほど劣るものではないという事実も知りました。他社に先駆けて高い技術を持つ中国企業と連携できたおかげで、当社のような小さな会社でも多くの光学製品を扱えるようになりました」(渋谷光学 代表取締役の下平誠一郎氏)


試作品から完成品まで設計・加工を一貫して手掛ける

大量生産の特定品種には手を出さず、多品種少量の案件を積極的に受ける。実はこれが、同社の強みの源泉です。光学製品を手掛ける会社が少ないため、電気業界や自動車業界の大手であっても、光学に関する専門部署を持たないケースは多いもの。しかも、光学製品を開発するとなると、完成品ができあがるまで数多くの専門人材が必要になります。そのため光学設計だけを手掛けたり、組み立てだけ行ったりと、製品開発の一部だけを担う会社が多いのが現状です。

一方同社は、多品種少量の案件を数多く手がけ、少人数ながら社員1人ひとりが持つ知識や経験、ノウハウの幅を広げてきました。また先述のとおり、中国の実力ある協力企業との強力なネットワークを持っています。そのため同社は、あらゆる光学製品の設計から加工まで一貫して手掛けることができる稀有な存在です。


渋谷光学の技術を活用して製作された反射率測定装置(提供:渋谷光学)
渋谷光学の技術を活用して製作された反射率測定装置(提供:渋谷光学)


光学レンズの設計・加工で押さえるべきポイント

光学レンズの設計自体はコンピュータを使って、例えば結像性能だけを追求することもできます。ただ実際には、製品として成り立たない設計が見られるのが現状です。

「そもそも加工できないほどの精度が必要だったり、価格の高い材料を使うしかなかったり、ユニットとして組み上げられなかったり、もし組み立てられたとしても設計どおりの性能が出なかったり。そこが光学設計の難しいところのひとつで、長年の経験や蓄積してきたノウハウが欠かせない理由です」(渋谷光学 設計担当の森田恭平氏)

機能する光学レンズを設計・加工するには、以下のポイントを踏まえる必要があります。


製造公差を踏まえて設計する

「金物加工・組み立ての際、数ミクロン、10ミクロン、20ミクロンといった単位で必ず誤差が生じ、それを『製造公差』と言います。大切なのは、加工精度には限界があるので、それを許容できる光学設計を行うこと。組み立てたとき性能が出る光学設計をする必要があります」(森田氏)

光学レンズと金物のコンビネーションを考慮する

光学レンズと金物のコンビネーションも、製品の良し悪しを左右する非常に重要なポイントです。

「光学レンズと金物の両方を手掛けることができて初めて、『この光学設計では加工できない、この設計ならいい製品が作れる』といった話ができるので、両方わかる人材が欠かせません。また、光学製品は製造工程も非常に煩雑です。どういう機械や設備を所有していて、どういう工程を経てどんなふうに加工・検査するのか。そういったことをすべて把握した上で、実現可能な設計や、光学レンズと金物の最適な組み合わせを提案することができます」(渋谷光学 営業担当の王薇氏)


光学レンズを組みあわせた金物(提供:渋谷光学)
光学レンズを組みあわせた金物(提供:渋谷光学)


光学レンズ、光学製品の特注品のオファーの事例

あらゆる光学製品を、設計から加工まで一貫して手掛けることができる。しかも、競争力のある価格で。こうした強みを頼って、同社にはさまざまな分野から特注品のオファーが舞い込みます。
例えば、同社の画期的な設計のアイデアに白羽の矢が立ち、誰もが知る光学製品の大手企業から光学レンズの特注品を受注したり、生産中止になった顕微鏡を愛用する医師から「まだ使いたい」と相談を受け、同社が一から設計を手掛けて再現したりするなどが一例です。

また、キャリブレーションプレート※などニッチな、けれどもニーズのある商品の企画や、カスタマイズ要望に対応するなど、特注品の事例は多岐にわたります。
「キャリブレーション用のパターンを印刷するプレートは、研磨された透明ガラスを用いるのが一般的です。けれども、透明なプレートには背景などが映り込んでしまうことも。そのため、撮像環境に問題を抱えているお客さまから相談を受けることも多いです」(渋谷光学 営業担当の川島大介氏)

「例えば、白色や黒色のプレートを利用すれば背景は映らないし、さらにプレートの表面を荒らすことで光沢をなくし、照明の映り込みやギラつきを解消することができます。あるいは、色ガラスフィルターや高屈折率のガラスをプレートとして提案する事もあります。当社は撮像レンズ、対物レンズ双方の設計と加工ができますし、さまざまな素材と製法を組み合わせる為のノウハウを持っているところが強みです。」(川島氏)

※工作機械や測定機器の撮像装置の校正に使用される治具

キャリブレーションプレート(提供:渋谷光学)
キャリブレーションプレート(提供:渋谷光学)


光学レンズの設計・加工技術をいかし医療・教育分野にも進出

渋谷光学では、これまで培ってきたノウハウや技術を生かそうと、自社における製品開発にも積極的に取り組んでいます。

使い捨てできる内視鏡を開発

内視鏡といえば、ガラスのファイバーにレンズが付いた製品が現在主流ですが、高価なのが難点です。また、滅菌処理が大変で院内感染のリスクがあります。そこで同社が開発しているのが、プラスチックファイバーにレンズを付けたディスポーザブル内視鏡です。安価で使い捨てできるため、院内感染の心配がありません。手軽なため、非常時や緊急時には持ち出して使うこともできます。

「メリットはいろいろあるので、とにかく開発を急いでいます。なんとか5年以内には製品化したいです」(下平氏)



ディスポーザブル内視鏡に使用するプラスチックファイバー。右:プラスチックファイバー先端のレンズ拡大写真(提供:渋谷光学)
ディスポーザブル内視鏡に使用するプラスチックファイバー。右:プラスチックファイバー先端のレンズ拡大写真(提供:渋谷光学)


デジタル地球儀の改良

同社で開発した球体投影機「グローマル」は、プロジェクターの画像を360°の球体スクリーンに投影して楽しむことができる光学製品です。教育現場ではデジタル地球儀として活用することができ、導入先からは好評を得ています。

「デジタル地球儀は、授業の可能性を広げるツールです。性能やコストなど、より導入いただきやすいものに改良していきたいです」(下平氏)

「当社は、他社が手掛けないオンリーワンの製品を数多く扱うことに注力してきました。大量に受注できるわけではなく、そのわりに種類も多い製品は、大手をはじめ他社はあまり扱いたがりません。今後もそうしたものを積極的に扱っていく予定です」(下平氏)


お話を伺ったみなさま。左から代表取締役 下平誠一郎氏、営業担当 王薇氏、営業担当 川島大介氏、設計担当 森田恭平氏(提供:渋谷光学)
お話を伺ったみなさま。左から代表取締役 下平誠一郎氏、営業担当 王薇氏、営業担当 川島大介氏、設計担当 森田恭平氏(提供:渋谷光学)


株式会社渋谷光学
1963年の創業。埼玉県和光市に本社を構える光学製品のパイオニア。多品種少量の製品を取り扱い、技術力の高い中国企業と早くから連携してきたため、設計から加工まで一貫して手掛けられるのが強み。特注品の依頼も多い。
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