不織布の用途は無限大。手すき和紙の技術から湿式不織布(機能紙)を開発した廣瀬製紙

不織布と聞いてマスクを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、不織布は一般的な紙に比べて繊維長が長く、和紙の雰囲気が残っているため、高級感のある食品包装材として使用されることも多いです。工業分野では、直接、物と物を触れさせないようにするスペーサーとして活用されたり、医薬品の製造工程で濾過膜として使われていたりと、用途は非常に幅が広く、ものづくりにはなくてはならない存在です。今回は、湿式不織布(機能紙)の製造や加工、販売などを行っている高知県土佐市にある廣瀬製紙株式会社に、不織布の機能や活用方法などについてお話を伺いました。

「不織布」とは、合成繊維を一定方向またはランダムに重ねて絡み合わせて、繊維同士の摩擦や熱接着で結合させてシート状にしたものです。マスクを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、電池のセパレーターやスマートフォンの電磁波シールド材に使われたり、身近なところでは食品の包装資材で使われたりと、さまざまな用途で活用されています。
高知県土佐市に本社を構える廣瀬製紙株式会社は、湿式不織布(機能紙)の製造や加工、販売などを行っている会社です。代表取締役社長の岡田祥司氏と営業ゼネラルマネージャー(GM)の宗光良太氏、営業グループの吉川紗織氏に、不織布の機能や活用方法などについて話を聞きました。


不織布開発の裏に高知の伝統製法あり。耐熱・断熱などさまざまな機能を持つ不織布を実現

廣瀬製紙外観(提供:廣瀬製紙)
廣瀬製紙外観(提供:廣瀬製紙)


廣瀬製紙株式会社の前身は、清流・仁淀川の豊かな水を生かした土佐和紙の手すき工房です。和紙の将来に不安を感じた創業者・廣瀬晋二氏が、合成繊維で紙を作るプロジェクトに取り組んでいた京都大学と一緒に不織布の開発に挑戦。手すきの手法で合成繊維「ビニロン」を用いた湿式不織布の開発に成功し、同社を設立しました。社員数はグループ全体で約165人。現在は、土佐市にある本社工場と高知県内の3工場で不織布の製造・加工を行っており、ドイツのデュッセルドルフに販売拠点も有しています。

不織布は、機能を持った原料を使用したり、構造を設計したりすることで、耐熱や断熱、吸音、伝熱、撥水、吸水などの目的に応じたさまざまな機能を持たせることができます。「不織布そのものを製品にする」「不織布と何かを組み合わせて加工し、製品にする」「連続生産するための工程紙」などの形で使用します。


湿式不織布のメリットとは。幅広い用途で活用され、ものづくりには欠かせない存在に

湿式不織布の製造工程(提供:廣瀬製紙)
湿式不織布の製造工程(提供:廣瀬製紙)


不織布の製法には「湿式」と「乾式」の2種類があります。

湿式不織布

まず、合成繊維を水に混ぜ、その懸濁液を網の上に流すことで繊維と水を分離させます。そして、分離させた繊維を乾燥させることで、シート状に仕上げる製法です。湿式は水を媒介とするため、機能を持たせるための素材を混ぜやすく、密度と均一性が高く、見た目もきれいといったメリットがあります。ただし、水を使うため乾式よりも生産性が悪いことと、使う素材を水に混ざるように改質することがデメリットです。

乾式不織布

空気中に繊維を分散させ、風で送ることで繊維を積層していく製法です。湿式に比べると安いのがメリットですが、空気中で積層するため仕上がりが粗く、密度を上げるのが難しいというデメリットがあります。

不織布は、中間素材としても使われるため、用途は非常に幅が広いです。

【廣瀬製紙の不織布製品事例】
 ・電池のセパレーターや断熱材
 ・液体フィルター支持体や(マスク用の)エアフィルター
 ・スマートフォンの電磁波シールド材
 ・カステラ掛紙 食品用蓋材 高級かまぼこ包材
 ・印刷基材(マラソン用ゼッケン ブラインド)
 ・レーシングカー 航空宇宙用断熱材

一般的な紙に比べて繊維長が長く、和紙の雰囲気が残っているため、高級感のある食品包装材として使用されることも多いです。
工業分野では、直接、物と物を触れさせないようにするスペーサーとして活用されたり、医薬品の製造工程で濾過膜として使われていたりと、ものづくりにはなくてはならない存在です。


ナノファイバー複合不織布の可能性。その特性を活かし液体の濾過以外の用途にも期待

ナノファイバー複合不織布とは

ナノファイバー複合不織布(提供:廣瀬製紙)
ナノファイバー複合不織布(提供:廣瀬製紙)


直径1nmから100nm、長さが直径の100倍以上の繊維状物質であるナノファイバーを使用した不織布。ナノファイバーは繊維が細く、比表面積が増えるため、ファンデルワールス力が強くなります。現在、次世代リチウムイオン二次電池用セパレーターや高性能エアフィルター、マスクのフィルター用などとして開発、販売されています。

ナノファイバーは、1900年ごろに高分子溶液に直流の高電圧をかけることで製造できる方法が開発されていました。しかし、生産性の悪さから実用化には至りませんでした。廣瀬製紙は研究を重ね、2006年にノズルを使わないエレクトロスピニング法によるナノファイバーの製造方法を独自に確立し、製法特許(参考情報1)を取得しています。この技術は、同社の最薄葉紙製法と組み合わされ、ナノファイバー複合不織布が誕生。従来の湿式不織布層とナノファイバー層を複合化させることにより、ナノファイバーの優れた特性を失うことなく大幅に処理を改善し、生産性を高めることができました。今後は従来のようなエアフィルターだけでなく、医療分野や空気の安全性担保など社会課題解決に貢献していきたいと考えていると言います。


不織布製造で顧客の課題を解決する廣瀬製紙。研究開発から相談を

不織布製造を得意とする廣瀬製紙では、厚さや長さ、密度も顧客の要望に応じてカスタマイズも可能です。同業他社に比べると小ロットにも柔軟に対応しており、加工工場で加工も行います。岡田氏は「カスタマイズするとコストは上がりますが、お客様が必要としている仕様に合わせることで、製品の性能が上がったり他のコストが削減できたりします。トータルで見た時にメリットが出るため、弊社の製品を選んでいただいています」と語ります。

世界最薄・最軽量の不織布(提供:廣瀬製紙)
世界最薄・最軽量の不織布(提供:廣瀬製紙)


また、1㎡あたり2gという世界最薄・最軽量の不織布*をつくることができる高い技術を持っています。ティッシュペーパーが1㎡あたり10~15gですから驚異的です。その薄さ軽さが、顧客がコンパクトな製品設計をする際の一助となっています。
「ある時『できるだけ薄い不織布を作ってほしい』とのご要望を受けて、どこまで薄くできるか試してみたところ、世界一薄い不織布ができました。これは、弊社の技術者たちがこれまでに開発してきた技術と経験の賜物だと思っています」と岡田氏。廣瀬製紙の60年以上にわたる歴史が、他社がなかなか追随できない技術につながっています。

*「公益社団法人 日本ニュービジネス協議会連合会 第8回ニッポン新事業創出大賞」にて「世界一薄い超薄葉不織布を製造する技術」が認められ「経済産業大臣賞」最優秀賞を受賞

 

 

顧客からのオーダーで、新たな製品を開発することもあります。電子デバイスは小型化が進むため、「できるだけ薄くて軽い断熱材が欲しい」とのご要望受けて、開発に着手。90%以上が空気という粒子を、同社が使用している繊維と一緒にシート化し、移動できない空気をたくさん繊維間に閉じこめた構造にすることで熱を伝えづらい素材をつくることに挑戦しました。「ほぼ空気のような粒子なので水に浮いてしまい、繊維間に分散させるのが難しかったです。乾かす際も、通常は熱をかけて乾燥させるのですが、断熱材のため熱が効きにくくて苦労しました。当時、厚さ1mm以下の断熱材は存在しなかったため、既存の熱伝導率を測る機械では測定できず、性能を評価するのも大変でした」と語るのは、宗光氏。そんな苦労を経て、見事厚さ1mm以下の断熱材の開発に成功し、顧客の要望に応えました。

 

 

左から代表取締役社長 岡田祥司氏、営業グループ 吉川紗織氏、営業ゼネラルマネージャー(GM) 宗光良太氏(提供:廣瀬製紙)
左から代表取締役社長 岡田祥司氏、営業グループ 吉川紗織氏、営業ゼネラルマネージャー(GM) 宗光良太氏(提供:廣瀬製紙)


「弊社の製品は海外の企業でも多く使われているため、2020年には『経済産業省グローバルニッチトップ企業100選』に選ばれました」と岡田氏。アメリカやヨーロッパ、中国を中心に、世界中で同社の不織布が使われています。

製品開発の際に不織布を活用したい場合、早い段階で同社に相談することで、一緒に研究開発をしながらベストな素材をつくることができると言います。
「ご要望の機能を、期待に応えられるものを一緒に開発していきたいですね。大雑把なご要望からでも結構なので、まずはご相談ください」


参考情報
・参考情報1:「特許第3918179号」の特許権者は「廣瀬製紙株式会社」、発明の名称は「微細繊維集合体の製造方法」です。


廣瀬製紙株式会社
高知県土佐市に本社を構える湿式不織布のメーカー。湿式不織布の製造や加工、販売などを行っている。世界最薄・最軽量の不織布を開発したり、独自のナノファイバー紡技術で製法特許を取ったりと、高い研究開発力を誇る。顧客の要望に合わせた不織布を開発することで、顧客の製品価値を高める手伝いをしている。
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