「製造業のサービス化」とは?モノとサービスを絡め、人間拡張の拡張体験を売る!~社外有識者を活用した事業開発・リサーチの可能性(3)

INTERVIEW

国立研究開発法人産業技術総合研究所
人間拡張研究センター 研究センター長
持丸 正明

新規事業への参入・投資プロジェクトを検討される企業向けに、業界関係者や社外有識者の知見や専門情報を伺う本連載。引き続き、「人間拡張(Human Augmentation)」技術に注目します。人間拡張というと、人に身に着けるウエアなどを想像しやすいですが、人間拡張技術をビジネスとして発展していくためには「モノ」はもちろんのこと「サービス」と絡めることが重要といいます。今回も国立研究開発法人・産業技術総合研究所(産総研)人間拡張研究センター長の持丸正明氏に、人間拡張技術を利用した製造業のサービス化や同センターの取り組みについてお話を伺いました。

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ビジネスで考えるなら「人間拡張ウエアではなく、拡張体験に」

新規事業への参入・投資プロジェクトを検討される企業で参入業界の情報取得・整理・分析が行われている一方で、こと製造業においては通常の調査では得られないような業界関係者や社外有識者の知見・専門情報の獲得が重要ではないのでしょうか?
Human Augmentation、人間拡張について、一つの決まった定義はありませんが、「人間の能力を補完、向上し、また、新たに得ること」と言えます。前編に引き続き、2018年に設立された、国立研究開発法人・産業技術総合研究所(産総研)人間拡張研究センターの研究センター長の持丸正明(もちまる・まさあき)氏をガイド役に、デジタルヒューマン技術からサービスを加え、人間拡張へと発展させる産総研の取り組みを紹介します。



──── 人のサイズや形、動きを測り、そのデータを活用して、サービスにつなげることが、同センターがいう人間に寄り添う「人間拡張」ということになりますか。

いろんなセンサーをつけて今の状態がわかります。その評価だけでは、人の行動は変わりません。今までよりうまくなったかを見せるようになると、継続するようになってくる。それが人間拡張ともいえます。

我々は、超人PKというものを作りました。これは膝に人工筋肉がついていてパワーアップされている力と、そのセンサーを使って音を作りだし、轟音でボールが飛ぶ。これを一度体験すると、自分がパワーアップしたと思ってまた蹴りたくなります。超人感です。それが自分でわかると、またトライしたくなる。これが人間拡張につながります。

ビジネスで考えると、人間拡張ウエアではなく、拡張体験に課金をすればよいと思います。



(提供:産業技術総合研究所)
(提供:産業技術総合研究所)


──── 少数派のためにサービスを絡めるということでしょうか。

(前編で紹介した)型を288個つくる「i/288(288分のアイ)」は、1足作るのに3万円程度かかります。普通、なかなか手が出ない。でも、買う人が確実にいます。なぜ、買うのか。実際にとったデータをみていると左右差など0.5ミリ程度。この程度だと木型をあつらえなくても通常の店で既製品を買えばすみますが、それでもしつらえる。それは選べるということに価値を見いだしているのです。つまり、プロダクトの価値ではなく、プロセスの価値にお金を払っています。

自分に合った靴がなかなか見つけられない人の場合、合わない靴を10足ぐらい持っていますから1回でフィットする靴を手にすることができるなら3万円も安いと感じるわけです。平均的でない少数の人をカスタマイズする。そのサービスをマジョリティの平均的な人にも遡及することで、値が張りますが、少数派だけではなく、平均的なマジョリティも価値を感じてハッピーになります。

共同研究していたアシックスでの靴のカスタマイズインソールもそうでした。
メーカー直営店で、靴を買う際にフィットするインソールを作ることになると、お客さんは定価で買うことになります。同じインソール入りの靴が、少し離れた量販店では2割割安で売っているのにそこには行かない。これは、東京に限らず、コスト意識が高い関西でも同じでした。つまり、靴と自分にフィットするインソールというトータルでそろえてもらうことに価値を見いだしています。

また、同社は当時、売り上げの6割が輸出でしたので、海外のデータを取りたいと依頼されました。このため、海外でも同様の方法で、世界130万の足のデータを取っています。それを分析してドイツ人用とかブラジル人用といったように靴を製造しています。合理的なビジネスモデルになるのではないでしょうか。


(提供:産業技術総合研究所)
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国立研究開発法人産業技術総合研究所人間拡張研究センター研究センター長 持丸正明(もちまる・まさあき)氏
国立研究開発法人産業技術総合研究所人間拡張研究センター研究センター長 持丸正明(もちまる・まさあき)氏


製造業のサービス化、「モノとサービスを絡めて顧客と共に価値を産み出す」

──── 多様性が基礎になるということですが、経済原理とのバランスはどうですか。

プロダクツ=ものの機能だけやろうとすると、遡及せずにうまくいかない。「サービタイゼーション(Servitization)」つまり、もの自体に価値を込めて届けるのではなく、ものとサービスを絡めて顧客と共に価値を産み出しビジネスにするということです。

いろんな人が困らないものづくりをしたい。しかし、経済的には破綻してしまう。メーカーは不良在庫になる可能性があるため、人数が少ない3割を無視したいわけです。経済論理では、多様性 は負けてしまう。多様性を、経済原理に乗せる科学が必要になります。わかったことは、人数が少ない3割の人のためにデジタルヒューマンで低コストを実現しても、結果として平均的な7割も安くなりますから、その少ない3割のために作るよりも、7割だけをターゲットにした商品を作るほうが経済効率が良いので、結局は7割向けに作ることになります。

それでは、どうすればよいのか。
値段ではなく、一過性ではないサービスを提供し、お客さんが持続してくれなければなりません。ただ、フィットするという受動的なものだけではなく、体験を売りにする。人間拡張です。これがうまくいけば、経済的に科学的に解決できます。私は、これを多様性と持続性の「インクルーシブデザイン」とよんでいます。


──── ユニバーサルデザインとは違うのですか?

ユニバーサルデザインは、大は小を兼ねたものをいいます。障がい者だけではなく、万人が使える。例えば、ウオッシュレットです。当初は手先に障がいがある人や、妊婦の方などお尻に手が届かず拭けない人のために作られたものですが、平均的な人も使うと気持ちが良いことがわかって広がりました。ユニバーサルデザインの好例です。

目が見えない人のための腕時計は指で触って時間がわかりますが、健常者の人は逆に読めないので、売れませんでした。今はスマホ読み上げ機能に代わっています。ユニバーサルデザインで大は小を兼ねる、といっても成功例はなかなかありません。


──── インダストリー4.0、コネクティッドインダストリーズのように、製造業のサービス化の事例を教えてください。

製造業のサービス化についてですが、メーカーは自分の製品を長く使ってもらうためにメンテンナンスや壊れる前に部品を交換する予防故障サービスを提供します。予防保全をすると、メーカーは部品在庫を持たなくてよいし、顧客は継続してくれます。
 
キーエンス(本社・大阪市)は、自社のセンサーを売り込むのではなく、お客さんの製造ラインのDXをしています。その際、自社のセンサーも取り入れますが、他社製品がよければ他社のセンサーも入れ、自社商品の売り上げ以上のコンサル料を売り上げています。
そのコンサルで得られた顧客ニーズを、今度は社内にフィードバックします。あまり必要ではないスペックを落としても使ってもらえる価格のものを作ろうと社内の開発部隊に提案することができます。自社製品を売るだけではなく、顧客の問題解決をしているわけです。

小松製作所(東京)は、離職率が高くて困っていたクライアント企業である建設会社の従業員が楽しく、安全に快適に働けるように、製品の建設機械にセンサーを組み込み、オペレータの機械操作に伴う疲労度や力の入れ方などをモニターし、オペレータの安全と健康を管理できる高度な建設機械のインターフェイスを開発しています。

ワークエンゲージメント(Work Engagement)を定量化し、向上させる技術です。オペレータは安全で健康であるだけではなく、作業プロセスの達成感をより強く感じられ、モチベーションにつながり、従業員の離職率低減につながります。人間拡張の究極のサービス化と言えます。それが、製造業のサービス化です。

日本は自動車産業で代表されるように、互いに調整しながら組み合わせることで高品質な製品を作りあげる擦り合わせ技術が得意と言われていますが、今日、製品とサービスが擦り合わせになっていることが大切です。

製品において部品の擦り合わせが競争力であった時代は終わり、製品とサービスの擦り合わせが競争力になる時代です。サービスを停止すると、価値がなくなる製品は力を持っています。


(提供:産業技術総合研究所)
(提供:産業技術総合研究所)


(提供:産業技術総合研究所)
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──── 日本はサービス化があまり得意ではないように思いますが……。

日本は高品質で高品位なものを作れるので、そこに頼ってしまう。ところが、米国はクオリティが日本に比べると高いとは言えないので、逆にサービスとつなげることが得意です。アップルが良い例です。日本企業はどうしても、プラットフォーマーという経営概念が希薄です。グループの〇〇王国は作れますが、グループ内でコンフリクトするということで、プラットフォーマーになかなかなれないのです。


(提供:産業技術総合研究所)
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人間拡張技術は、「健康、介護、労働」の拡張へ

──── 人間拡張研究センターは、少子高齢化に伴う社会問題解決も目的にされています。

健康を維持するためにスポーツを続けることが重要です。毎日歩けば良いということはわかりますが、実際、モチベーションは続きません。厚生労働省のデータですが、頭で健康に良いとわかっていても7割の人がなにも運動しないのです。

例えば、ウォーキングに誘われます。いやいやでも参加します。それで、1回目に気持ちが良かったなどの効果があったとしても、2回目に誘われると、理屈をつけてやめてしまいがちです。動機がないとたいていの人は続けることが難しい。


(提供:産業技術総合研究所)
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それでは、我々は何のためにスポーツをするかというアンケートをとってみると、実は、健康より「仲間と一緒で楽しかったから」という共感が継続させるという傾向にあることがわかっています。共感が高まると、笑顔になります。このため、インストラクターに、参加者が笑顔でないと運動の負荷を下げるという実験を行ったところ、有意に継続傾向になります。

身体を痛めつけてでもスポーツを行うトップアスリートには絶対にわからない感覚です。マーケットを見ると、トップアスリートのような人は全体の3割程度しかいません。ところが、今の健康産業は、この3割をターゲットにしています。

意欲をどう引き寄せるのかが人間拡張につながります。それで健康になれば国も社会保障費が減ります。こうしたことが当センター、そして私がやりたいことの一つでもあります。人間拡張が健康、介護、労働の拡張につながっていくのです。


(提供:産業技術総合研究所)
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文・写真/杉浦美香

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