スーパーエンプラ「PPS樹脂」のメリットと用途、そして市場動向~社外有識者を活用した事業開発・リサーチの可能性(1)

INTERVIEW

株式会社スズキ・マテリアル・テクノロジー・アンド・コンサルティング社
代表取締役社長
鈴木 孝典

新規事業への参入・投資プロジェクトを検討される企業で参入業界の情報取得・整理・分析が行われている一方で、こと製造業においては通常の調査では得られないような業界関係者や社外有識者の知見・専門情報の獲得が重要ではないのでしょうか?今回は、自動車や電子機器での使用が進むエンジニアリングプラスチック(以下エンプラ)よりも耐熱性などに優れたスーパーエンプラという新素材に注目します。スーパーエンプラのひとつである「PPS樹脂」プラント立ち上げから携わってきた、株式会社スズキ・マテリアル・テクノロジー・アンド・コンサルティング社代表取締役社長 鈴木孝典氏にPPSのメリットや用途、市場についてお話を伺いました。

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スーパーエンプラ「PPS樹脂」とは

スズキ・マテリアル・テクノロジー・アンド・コンサルティング社代表取締役社長 鈴木孝典(すずき・たかのり)氏。
1963年生まれ。東京都出身。1986年、呉羽化学工業株式会社(現・株式会社クレハ)入社。PPSプラントのスタートアップに従事。1989年、ポリプラスチック株式会社フォートロン開発部出向。PPS樹脂市場開発・技術サポート。1994年、呉羽化学総合研究所で射出・押出成型用コンパウンド研究。1997年、呉羽化学本社でフッ化ビニリデン・電池材料・PPS樹脂材料市場開発。2001年、クレハ大阪支店で電池材料用途フッ化ビニリデンの材料開発、営業・市場開発。2011年、クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン出向。開発担当部長兼品質保証部長。電池向けフッ化ビニリデンバインダー・負極用炭素材料の開発。2012年、アルケマ株式会社入社。2018年退社し、2020年、スズキ・マテリアル・テクノロジー・アンド・コンサルティング社を設立。
スズキ・マテリアル・テクノロジー・アンド・コンサルティング社代表取締役社長 鈴木孝典(すずき・たかのり)氏。
1963年生まれ。東京都出身。1986年、呉羽化学工業株式会社(現・株式会社クレハ)入社。PPSプラントのスタートアップに従事。1989年、ポリプラスチック株式会社フォートロン開発部出向。PPS樹脂市場開発・技術サポート。1994年、呉羽化学総合研究所で射出・押出成型用コンパウンド研究。1997年、呉羽化学本社でフッ化ビニリデン・電池材料・PPS樹脂材料市場開発。2001年、クレハ大阪支店で電池材料用途フッ化ビニリデンの材料開発、営業・市場開発。2011年、クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン出向。開発担当部長兼品質保証部長。電池向けフッ化ビニリデンバインダー・負極用炭素材料の開発。2012年、アルケマ株式会社入社。2018年退社し、2020年、スズキ・マテリアル・テクノロジー・アンド・コンサルティング社を設立。


──── PPSプラントの立ち上げに一から関わられていらっしゃいますが、スーパーエンプラであるPPSについて教えてください。

「PPS(Poly Phenylene Sulfide)はベンゼン環と硫黄から成る化学構造を持った結晶性の耐熱性樹脂のことを言います。熱可塑性樹脂であり、高性能エンジニアリングプラスチック(Engineering plastic、以下エンプラ)です。充填するフィラーの種類によって改質することが可能です。エンプラ、プラスチック自体はいわば金属、瀬戸物(セラミック)、ガラスなどの代替材料です。樹脂でなければダメという理由でエンプラを使うようになるのはもう少し後になってからです。

金属材料の代替として使われることが一番多くなります。エンプラという高性能プラスチックは金属に近い性能(機械物性)があり、材料として金属を使うほどではないという条件のところで使われます。

ガラスの代替として、ポリカーボネートやアクリルなどの透明樹脂がありますが、ガラスの方が強度もあり耐熱性もあり、高い透明性もあります。重い、割れやすいのが欠点ぐらいでしょうか。重さという以外で、樹脂はガラスに勝てる性能がありません。とはいえ、樹脂の強みは、加工性が良くて軽くて腐らない、この3つになります」


──── その中でも、エンプラは耐熱性が良いという特徴があるわけですね。

「耐熱性でいえば、金属に勝てるものはありません。それなら、樹脂は何℃まで耐熱できればいいのかという話になります。100℃、200℃、300℃……。400℃まで耐えられるプラスチック樹脂もあり、通常、耐熱温度で住み分けがされています。性能表をみてみると、10℃刻みで示されていることが多いかと思います。特に耐熱性が高いのがスーパーエンプラであり、少しダウングレードすると汎用性エンプラ、その次が汎用樹脂になります。

同じ耐熱性がある材料を比べて要求特性に合わせて、透明性、衝撃に強いものはどれか、という特徴で使い分けをしていきます。繰り返しになりますが本来なら金属を使いたいところを、コストダウンを考えて樹脂を使っているのです」


(提供:株式会社スズキ・マテリアル・テクノロジー・アンド・コンサルティング)
(提供:株式会社スズキ・マテリアル・テクノロジー・アンド・コンサルティング)


──── SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)の観点からはどうでしょうか。

「生産過程でいえば、高温で酸化物から酸素を取り外して製造する金属と同様に、石油を掘って化学反応をさせて作る樹脂も生産時にはエネルギーを使います。最初の過程では、金属の方がよりエネルギーを使うと思いますが、リサイクルという観点では金属が圧倒的に少ないエネルギーでできます。樹脂を使うことによる、環境視点でのメリットはあまりないかと思います」


──── コストではいかがですか。
 
「同じ物を100個作るときにどれだけ楽かという話になります。金属はプレスして、打ち抜く。薄くもできるため、場合によっては金属も重さは軽くなります。しかし、塊で作るとなると樹脂の方が軽くなります。例えば、シーリングライトは光を通さなければなりません。もちろんガラスで作ってもよいですが、プラスチック樹脂で作る方が簡単で軽い。樹脂は温めて冷やせばよいわけです。温めると流れるようになることを可塑性といいます。可塑剤で柔らかくすることもありますが、通常は温度を上れば流れる。それを金属の型にいれて冷やせば固まり、容易に量産ができます」


PPS市場の殆どは欧州・日本・米国、次は中国か

──── 世界のマーケットについて教えてください。

「海外では、これからPPS樹脂を作りたい国があります。それは中国です。歴史をみると、PPS樹脂の工業化は1970年代に米国で始まり、日本では1985~90年の間に、大日本インキ(現、DIC株式会社)や東レ、東ソー、呉羽などが樹脂ビジネスに参入しています。

日本にとっては30年前の技術ですが、日本にはどうやってプラントを設計すればよいかといった市場に出ていないノウハウがあります。それを取り入れたいというのが中国です。30年前の技術ですので、すでに多くのパテントはフリーになっています。

PPS市場は、これまではそれほど伸びていませんでしたが、ここにきて電気自動車などの生産が増え、需要が伸びています。内燃機関の自動車もそうですが特に、中国での市場が大きくなってきています。自分たちの国が市場になっているのに、PPS樹脂は海外製しかない。

PPS樹脂は特殊で欧州、日本、米国メーカーで市場のほぼ100%を占めています。中国の生産はほんのわずかです。今後4~5年で倍になるとされる市場に、中国は当然、入りたいわけです。消費者が中国にいて、(車の)メーカーがあって、しかし材料のPPS樹脂のサプライヤーがないわけですから。


(提供:株式会社スズキ・マテリアル・テクノロジー・アンド・コンサルティング)
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「ナイロン、PETなどのほかの汎用樹脂は、いろいろな国にメーカーが存在し、ノウハウを持っていて日本に頼らなくてよいのですが、PPSだけは日米以外に技術を持っている人があまりおらず、ニッチです。最新の技術は保秘がかかりますが、30年前の技術でいえば問題がない。私自身も今はストップしていますが、新型コロナ感染が拡大する前は、実際に中国に渡航して技術コンサルすることもありました」


──── 市場が4~5年以内に倍になるということですが、その用途は何ですか?

「市場用途の6割が車です。この分野だけで4〜5年で8割伸びると思っています。特に、電気自動車の制御まわりの部品、ケース類のニーズが増えています。車を動かすには、ECU(Electronic Control Unit、電子回路を用いてシステムを制御する装置)があり、その中に半導体チップが並んでいます。これをカバーしているケースはかつてエポキシ樹脂やアルミニウムなどで作られていましたが、今はPPS樹脂で作られるようになっています。


(提供:株式会社スズキ・マテリアル・テクノロジー・アンド・コンサルティング)
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「パワー半導体は熱が出て周囲も熱くなるため、その温度に耐えなければならない。エンジンルームでは150~170℃になりますから世の中にある9割の樹脂は耐熱性の点では使えないわけです。これに耐えた上で、水に分解しないなどの性能スクリーニングをかけると、使える樹脂はそんなにたくさんはありません。そこで、条件にマッチする樹脂のなかで一番低いグレードものを使うわけです。コストが安くなりますから」


──── 3Dプリンターでスーパーエンプラを使うことはできますか?

「使っています。ただ、早く融けるのは歓迎だが、固化が早すぎると困るという、逆方向の要求があります。固まる速度をどうコントロールするのかが重要です。早く固まったほうが良いといっても、早すぎるとノズルで詰まることや、溶けたものが固まる際に境目がなくなる時間がほしいのに流れて癒着してくれない可能性があります。パウダーをまいてレーザーで樹脂を融解、固化させ、これを積み重ねて図形を描く方法もあります。

試作か量産かではなく、何個作りたいかがポイントになります。金型を作るとなると、300万から400万円、どんなに安くても200万円はかかります。要は、金型が償却できるかどうかです。例えば、1万ショットで100円はかけたくないとき、レーザープリンターを使って100円なら金型をおこす。1000ショットしか作らないのであれば、時間がかかっても金型ではなく3Dプリンターを使う、という話になります」


PPS樹脂のメリットと成形法

──── どこの部品なら、どの樹脂が代替でき、コストダウンになるのかといったことを提案していくわけですね。

「例えば、飛行機ですが1機に1つしか使わない部品であれば、飛行機の生産数を考えるとアルミの塊から削った方が安いわけです。乗り物のkg単価を車と飛行機でみた場合、飛行機は約300トンありますから、300億円程度の値段とすると1kg10万円程度。つまり、kg当たり10万円の部品が使えるわけです。一方、量産車は1.5トン、150万円ですから1kg1,000円。キロで1,000円かかる材料はよほどの機能がないと使えないということになります。

呉羽からポリプラスチック社に4年間出向していたとき、車メーカーなどに材料を紹介、こういう用途で使えるのではないかと提案をしていました。そのときのことです。新車を1台購入して、すべてバラバラにして、この部品はアルミだ、ナイロンだ、ABSだ、など材質分析を行いました。

その中でまず、金属でアルミを使っているところをピックアップしました。200℃ぐらいになるのはエンジンルーム内のエンジン近傍ぐらいなので、アルミの部品を使っているものが結構あります。エンジンルームでなければ、強度さえクリアできればPPS以外の樹脂でも代替できます。エンジンルーム内でアルミではなくPPSが使えるとなると、コストは半分以下になります。そうなると、車メーカーもうれしいわけです。

冷却水のポンプはPPS向きでした。水系なのでどんなに温度が高くなっても130℃度ぐらいまでしか上がりません。

これまで、複雑な組み合わせ作っていた部品が、PPSの射出成形で1回で1つの部品になるわけですからPPS化でコスト削減ができます。ただ、動力源や信号として電気を通すという理由でアルミを使用している部品は、PPSでは代替できません。静電気を逃がす程度であれば樹脂で代用はできますが……」


──── PPSは射出成形のほか、押出成形、ブロー成形などがあるかと思いますが、一般的なのは射出成形になりますか?
 
「PPSは射出成形の場合が多いのですが、繊維を作るときは押出成形を行います。PPSの1割が繊維になります。灰が外にでないようにする焼却炉のバグフィルター(集塵機に取り付ける袋状のフィルター)が一番の用途になります。メーカーは東洋紡(TOYOBO)、東レの子会社が大半を作っています。特にPPS製のバグフィルターは石炭火力発電所で使用されています。日本のクリーンコールテクノロジーの一つになります。


(提供:株式会社スズキ・マテリアル・テクノロジー・アンド・コンサルティング)
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──── PPSを使うメリットを教えてください。

「PPSの良いところは、耐熱性が高いこともありますが、性能のバランスが良く、苦手なものがあまりない、つまりいろんなところに使えることです。

樹脂の選定は、耐熱と強度と価格で決まってきます。前述のようにあくまでなにかの代替材料です。樹脂を選択する多くの場合、なにかのダウングレードとして量産できるようになりコストが下がる。だから使うわけです。樹脂しかできないという利点は『腐らない』ということになります。まずは、耐熱。それからそれ以外のメリットを探します」
 

──── 環境志向で生分解のポリ袋や、ビニールのニーズを高まっていますが……。

「マイクロプラスチック問題など、プラスチックが環境の点で目の敵にされていますが、少し心配しているのは生化学的に腐らない、酸化しないというメリットを樹脂が放棄してしまうことになる点です。ポリ袋、レジ袋が生分解性になると、何回か使っていると、弱くなっていざ使おうとしたときに切れたりします」


──── 風力発電のブレードで使うこともあるのでしょうか。

「リサイクルのために、熱可塑性樹脂を使うこともあります。最近、リサイクル可能な熱可塑性樹脂100%のブレードを作るという動きがあります。樹脂は室内の安定した環境では、50年、100年性能を保つことができますが、屋外で紫外線にあたると、数年しかもたなかったりします。酸、アルカリ、塩分などに強いのが樹脂ですが、紫外線には弱いので交換しなければならなくなるのです」


PPSの需要は、EVなど自動車需要の増加と共に

──── サプライヤー側のコンサルをされているかと思いますが、将来的にPPSのマーケット、技術の将来について教えてください。

「マーケットがあると思って作ってみたが売れずに、正にいわゆる作り手の理論で作るプロダクトアウトの弊害が出るということもありました。耐熱的に下位のグレードにあたるポリアセタールで作ったら耐熱性、耐摩耗性でダメだったということで耐熱的に上位のグレードのPPSで作ってみるという場合もあります。

これから市場用途が伸びる車ですが、すでに樹脂化はできそうなところはやってきました。できてない最大のものはボディでしょうか。レーシングカーはボディにプラスチックを使っています。紫外線の弱点は塗装で補っています。

PPSは車の需要が増えている間は、増えていきます。EVが台頭していますが、全体のマスが増えれば、PPSの市場は拡大します。もっと安い材料が登場すればとって代わられますが今のところそういうことはありません。だから、中国が市場参入しようとしているわけです。PPSの用途は今6割ぐらいが車ですがこれが7割、8割に増えるのではないでしょうか。PPSは一言でいえば『癖があるできる子』のようなものです。上手に使いこなすことで、可能性が広がります」


文・写真/杉浦美香

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