ビルや工場などの空気環境改善に注目!水分雰囲気下でも効率よく二酸化炭素除去が可能な酸化セリウム(CeO₂)でQOL向上と脱炭素社会をめざす

INTERVIEW

株式会社日立製作所
研究開発グループ 材料イノベーションセンタ
先端材料プロセス研究部 研究員

吉川 晃平

地球温暖化を引き起こす原因として第一に挙げられる二酸化炭素(CO2)。地球環境に与える影響はもちろんのこと、ビルや工場といった人が多く集まる場においてCO2濃度の上昇は、眠気や倦怠感、頭痛を引き起こすなど人体への悪影響を及ぼします。建築物における衛生的な環境の確保を目的とした「建築物における衛生環境の確保に関する法律(略称「建築物衛生法」)」においてはCO2濃度についての規定も定められるなど、CO2濃度の制御は建築物の管理者にとっても対策必須の項目です。今回は、ビル、工場のCO2を取り除く際に活用できる、酸化セリウム(CeO2)系CO2除去剤を開発した株式会社日立製作所 研究開発グループ 材料イノベーションセンタ 先端材料プロセス研究部 研究員 吉川晃平氏に、開発した材料の特徴と活用の可能性について伺っていきます。

ビルや工場等水分雰囲気下で「ゼオライト」よりCO2吸着性能が低下しない材料を探索

CO2除去には、吸収法、吸着分離法、膜分離法、深冷分離法などさまざまな方法が存在します。
火力発電所など大量のCO2を排出する施設に比べCO2濃度の低いビルや工場においては、CO2を選択的に取り込む液体を使用する吸収法では、CO2を含む空気を大量に送り込むことで液体が大量に揮発してしまうなどの理由から、液体によるCO2除去は向かないと言います。

そこで、固体を利用した吸着分離法が有効となるのですが、従来広く使用されているゼオライトでは、空気が大気レベルの水分を含むだけでCO2吸着性能が大きく低下してしまうという弱点を持っていました。
そこで、株式会社日立製作所 先端材料プロセス研究部(以下、日立)では、水分雰囲気下でも効率よくCO2を吸着する材料の探索を行い、あらゆるセラミックスを用いた実験を行うなかで、CeO2が水分濃度の影響を受けずにCO2を吸着するという性能を発見しました。
次章以降、発見されたCeO2の性能を活かしたCO2除去材の特徴について解説していきます。


「CeO2系CO2除去材」の技術的特徴

CeO2系CO2除去材には、以下の特徴があります。

1. 多孔質化によるCO2吸着性能向上
2. 水分雰囲気下でも吸着性能維持
3. 再利用に向けた処理での優位性


1.多孔質化によるCO2吸着性能向上

CO2の吸着性能を高めるため、材料の表面を多孔質化し高比表面積を実現しました。

「セラミックスは、粒子を細かくするほど融点が下がります。つまり、表面積を大きくしようと細かくすればするほど、熱をかけたときに溶けて固まってしまい、大きな塊に戻ってしまうのです(凝集)。凝集を防ぐために、希土類などの他元素を添加することで多孔質化に成功しました。」(吉川氏)


株式会社日立製作所 先端材料プロセス研究部 研究員 吉川晃平氏
株式会社日立製作所 先端材料プロセス研究部 研究員 吉川晃平氏


これにより、CO2吸着性能を向上させると同時に、熱をかけても凝集しない耐熱性も備えることになったと言います。

2.水分雰囲気下でも吸着性能維持

従来材ゼオライトの最大の弱点が、水蒸気がCO2より優先して吸着されてしまう、という点です。
ゼオライトはその性質を利用し乾燥剤などにも利用されるなど、大気中に含まれる程度の含有割合でも水蒸気と結びついてしまい、CO2の吸着性能が低下します。

「研究を進める中で、CeO2の表面分析を行うと水蒸気を介してCO2を吸着するということを発見しました。」(吉川氏)

実際にゼオライトとCeO2系CO2除去材のCO2吸着性能を比較した結果、空気が水分を多く含む、含まないにかかわらず、CeO2系除去材の方が高い除去能を示しました。

CeO2系CO2除去材とゼオライトのCO2吸着性能の比較

 

3. 再利用に向けた処理での優位性

一度CO2を吸着させた除去材は、CO2を引きはがし(脱離)、再度利用できるように処理が施されます。この際もゼオライトと比較して高い性能を発揮します。
ゼオライトは100℃くらいまで熱することでCO2を脱離することができますが、水分を含む空気からCO2除去を行った場合、吸着されている水分を取り除く必要があり、そのために200℃以上に熱する必要があります。ゼオライトは水と吸着している状態だとCO2を吸着しない性質があるため、再利用にむけ水を十分に取り除く必要があるためといいます。

「これに対し、CeO2系CO2除去材の場合、150℃程度まで温度を上げるだけでCO2と水が同時に脱離してきます。」(吉川氏)

水分を多く含む空気と水分をあまり含まない空気双方からCO2を除去した後のCeO2系CO2除去材で、180℃程度まで加熱することで最大のCO2脱離割合を示しました。


CeO2系CO2除去材のCO2離脱割合

 

CeO2系CO2除去材を使用したCO2除去装置も構想されています。
「温度スイング式分離システム」というシステムを一例としてご紹介いたします。

CO2除去装置のイメージ図

 

 

CO2を含む空気を装置に取り込み、除去材に触れさせCO2を吸着させます。CO2除去後の空気を放出し、CO2を吸着した除去材は加熱してCO2を脱離させたあと、冷却し再びCO2吸着に使用します。
日立では、こういったCO2除去装置の開発について知見を提供することが可能だと言います。

「例えば、ビルを設計する際やそこで使用する装置を設計する際にお役に立てると思います。オフィス利用をされているビルでは、会議室など人が多く集まる部屋を中心にCO2濃度が5,000ppm*を超えるなど非常に高くなり、それを解消するために換気を頻繁に行っているのですが、そうすると外気が入ることで屋内の温度が変化し空調をし直す必要が発生し、結果的に空調コストが上がります。CO2除去装置を使用することでCO2濃度低下のための換気の頻度を抑えることができるので、コスト削減につながるのではないでしょうか。
また、化成品を製造する工場などでも、CO2濃度が高くなることで歩留まりが悪くなると言います。ここでも、CO2除去装置を導入することで、製品価値の向上に貢献できると考えられます。」(吉川氏)

*建築物環境衛生管理基準によると、建築物の空気中の二酸化炭素含有量は1,000ppm以下を維持するように求められている。


「CeO2系CO2除去材」研究実績と活用可能性、QOL向上と脱炭素社会実現の観点から

日立が開発したCeO2系CO2除去材に関しては特許、学会発表の実績があります。

・特許:「二酸化炭素捕捉材」 JP2012024648A
・特許:「二酸化炭素捕捉材」 JP2012110874A
・特許:「二酸化炭素捕捉材及びこれを用いた二酸化炭素回収装置」 WO2015122053A1
・学会発表:CO2 Separation from Ambient Air by Novel CeO2-Based Adsorbent(GHGT-14,2018.10.21)

CO2除去材やCO2除去装置の活用目的として、人々のQOL(Quality of Life)の向上も挙げられると言います。

「この技術の活用先としては、学校や学習塾といったところも考えられます。学校などはビル以上に生徒が密集していて、空調をきかせた教室などではCO2濃度が上がった状態で授業が行われています。CO2濃度は2,000ppmを超えると眠気につながると言われ、CO2対策を進めることで学習効率を上げていけると考えています。このように、人の生活する環境の改善に使用されていくことを期待しています。」(吉川氏)

また、最新(2020年9月時点)の学会発表では、触媒とCO2吸着材の技術をかけ合わせて、CO2を一酸化炭素(CO)に変換する技術についての発表も予定されています。

「日立では、専門チームを組織して、触媒と吸着材の知見を応用し、脱炭素社会の実現に向けてCO2の資源化に向けた研究を進めています。COはプラスチックなどを製造する際に使用されますが、その多くは天然ガスから作り出されています。COの生成にあたっても、CO2を排出していることや天然資源を消費していることなどを考えると、回収したCO2からCOを作り出すことは大変価値のあることと考えます。
また、CO2を除去した際に発生する、CO2濃度が高い廃棄側のガスについても、例えば農業分野で植物の培養などに活用することができるのではないでしょうか。こういった、回収したCO2の再利用という点についても期待しています。」(吉川氏)


▽日立R&Dのオープンイノベーション活用
株式会社日立製作所 研究開発グループ

日立の研究開発は、100年を超える研究開発の歴史の中で、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念を実践し、その時々の最先端技術開発に取り組みながら、未来につながるイノベーションを創出してきました。

現在、「制御」「デジタルテクノロジー」「エレクトロニクス」「エネルギー」「ヘルスケア」「材料」「機械」「生産」「システム」「デザイン」からなる研究領域で、お客さまへの価値を提供するソリュー ションを具現化しています。それらの中から、特に、材料技術のソリューションと、設計支援ツールのサービスを提供します。

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