異種材料接合の最前線!樹脂、金属に留まらずセラミックスやDNAまで〜シミュレーション技術で変わる材料研究(後編)

INTERVIEW

株式会社日立製作所
研究開発グループ 材料イノベーションセンタ
機能性材料研究部 主管研究員

岩崎 富生

昨今、テクノロジーの進化とデータベースの拡充を背景に、情報科学技術を材料分野にも応用し、時間とコストを削減するマテリアルズインフォマティクス(MI)が注目されています。前編では、MIの基本知識と、株式会社日立製作所 研究開発グループ 材料イノベーションセンタ(以下、日立)での材料界面の密着強度に注目したMI研究の特徴について、機能性材料研究部 主管研究員 岩崎富生氏に伺いました。この記事では引き続き同氏に、日立の代表的なMI研究の具体的な内容と実績について伺っていきます。

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の事例:「樹脂」と密着強度が高い「金属」材料を設計

本記事で紹介するMI研究の特徴は、材料界面の特性を最大化するような材料設計ができることです。これは、量子力学とニュートン力学をハイブリッドで解くシミュレーション手法を開発したことによると言います。
ここでは、金属と樹脂の密着強度のシミュレーションを例に解説していきます。

この手法では大きく3段階に分け進めていきます。

第1ステージ:分子シミュレーションのデータをもとに、直交表による感度分析を行い、支配パラメータを特定する。
第2ステージ:分子シミュレーションの結果を応答曲面法により内挿し、材料特性を支配パラメータの関数で表し、最大値問題を解く。
第3ステージ:上記の条件を満たす材料を探し出す。

第1ステージでは、特徴パラメータを選定し、それらが密着強度にどれだけ影響を与えるかを調べ、特に影響を与える支配パラメータを特定します。

「支配パラメータを絞らずに進めた場合、非常に多くのデータがないと次のステージに進むことは難しいのですが、材料のデータは取得に時間がかかります。ですので、材料特性に影響を与える支配的パラメータを特定し少ないデータで進めるようにしています。」(岩崎氏)

今回は、特徴パラメータとして、「格子定数」「表面エネルギー」「凝集エネルギー」を選定し、検証を行います。
それぞれのパラメータの値を3つの水準に分け、直交表による感度分析を行い支配パラメータを特定します。


支配パラメータ候補と水準値
支配パラメータ候補と水準値

※短辺格子/長辺格子ミスマッチ:樹脂と金属の格子定数の差分の割合



「ここで問題になるのは、格子定数などのパラメータが単一の材料では(材料ごとに値が特定されるため)飛び飛びの値になってしまい、連続的に変更することができないということです。それでは直交表などの実験計画法を適用することができませんでした。そこで、材料を2層、3層と積層したデータベースを作り、積層材料を変えることでパラメータを連続的に変えることができることに気がつきました。このデータベースは日立独自のものであり、強みであると言えると思います。」(岩崎氏)


直交表とシミュレーションデータ
直交表とシミュレーションデータ


支配パラメータの導出
支配パラメータの導出


「直交表による分析の結果、支配パラメータは「格子定数」であることがわかります。ここで紹介する樹脂との密着強度に優れた金属を設計する例の場合には、界面を構成する金属と樹脂の格子定数の相対差になります。
金属と樹脂にかぎらず、これまで金属とセラミックス、セラミックスと樹脂といった組み合わせで密着強度のシミュレーションを行ってきましたが、それまでの知見から界面の密着性に最も効果があるのは表面張力と予想してきました。しかし、MIによるシミュレーションを通じ、原子配列の影響が大きいという新しい気づきを得ることができました。」(岩崎氏)

第2ステージでは、第1ステージで行った分子シミュレーションの結果を応答曲面法という手法で内挿し、密着強度(剥離エネルギー)を支配パラメータの関数として表します。


応答曲面法
応答曲面法


この図を用いることで、剝離エネルギーが最大になる格子定数の値が導かれ、第3ステージとして、この条件に近い特性を持つ金属積層材料を、分子シミュレーションを実施したデータベース(日立独自のデータベース)に照らして特定します。今回は、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)の組み合わせが最適となります。

また、シミュレーションで得られた剝離エネルギーが、密着強度を表す指標として妥当であることを検証するため、スクラッチ試験を実施しました。試験の結果、シミュレーションで導出した値と実測値が良い比例関係を示し、その妥当性も確認されています。



【検証方法】
シリコン基板にマグネトロンスパッタリングで薄膜を形成する。
作成したサンプルにダイヤモンド圧子を押し付けて引っかき、徐々に押し付け力を上げていくことで剥離が発生する臨界荷重を測定する。

左:スクラッチ試験機、右:測定結果
左:スクラッチ試験機、右:測定結果


材料界面の密着強度に注目した研究成果は、「セラミックス」、「DNA」設計まで適応できる

先述のシミュレーション結果より、密着強度の高い界面構造を調べると、幾何学的なマッチングがよい「めだま焼き構造」が形成されていることがわかります。

めだま焼き構造
めだま焼き構造


「密着強度の高い界面構造を調べたところ、めだま焼き構造になっていることがわかりました。そこで、さらに詳細な原子間相互作用の解析を行い、めだま焼き構造のような幾何学的にきれいな構造ができている場合に、原子間相互作用を高めあう効果が得られることを突き止めました。したがって、密着強度を高めるためには、めだま焼き構造を狙って材料設計をすればよいという設計指針が得られたと考えています。」(岩崎氏)

MIによって得られた結果を他の材料設計にも活かしていくたには、もう一段分析、考察し「知恵」に落とし込むことが必要と言います。

「一般的に、インフォマティクスでは、いろいろなパラメータと目的特性の関係をデータ(情報)として蓄積しておき、このデータを機械学習やAI等の情報工学技術で分析することによって「相関関係(知識)」を導出します。この「情報(データ)」を「知識(相関関係)」にするところがAIの得意とする部分になります。このあと、似たような設計問題にも展開して適用できるようにするためには、単なる「知識(相関関係)」ではなく、「知恵(因果関係)」にまでもっていくことが重要となります。すなわち、AI等で得られた相関関係がなぜそのようになったのかという「理由を説明できる関係(因果関係)」にすることです。一方、AIは相関関係を出すところが得意で、因果関係までは出せないことが多いといわれています。そこで、私たちは、シミュレーションで得られた結果を、めだま焼き構造のように可視化することで「因果関係」を導きました。
また、このめだま焼き構造は、樹脂とは違う塩基間隔、原子間隔をもつDNAの密着強度問題でも成り立つことが最近の実験で明らかになりました。樹脂、金属、セラミックス、DNAで統一的に成立する考え方と言えます。」(岩崎氏)


日立の界面を対象としたマテリアルズ・インフォマティクス(MI)研究の実績と導入事例

本記事で紹介してきた日立の界面MI研究はこれまで論文発表や特許取得など様々な実績を残しています。

開発
段階
材料 シミュレーション
内容
論文 受賞歴 代表的な特許
実用
化済
半導体
チップや
電極・
配線部分を
封止する
封止樹脂
金属と樹脂の
密着強度
日本材料学会誌「材料」、
第66巻、No.6、
427ページ(2017年発行)
日本材料学会
技術賞
(2018年5月)
特許
第4585022号
実用
化済
はんだ材料 粒界面での
拡散抑制による
破断のび
日本機械学会論文集、
第81巻、DOI: 10.1299/transjsme.15-00018(2015年発行)
日本機械学会
論文賞
(2016年4月)
EU特許EP20080253481
実用
化済
配線基板材 樹脂成分の間の
隙間低減、
樹脂と金属・
セラミックスの
密着強度
エレクトロニクス
実装学会誌, 第19巻、
No.6、421ページ
(2016年発行)
エレクトロ
ニクス
実装学会
技術賞
(2016年6月)
特許
第5341679号
研究
開発
段階
パワー
デバイス
向け
トランジスタ
材料
金属電極と
セラミックスの
密着強度
日本材料学会誌「材料」、
第67巻、No.8、
803ページ(2018年発行)
日本材料学会
複合材料
部門賞
特許
第3917272号
研究
開発
段階
環境配慮型の
生化学材料
(DNA)との
相性の
良い材料
DNAと
セラミックスの
密着強度
Nanotechnology、
25巻DOI:10.1088/0957-4484/25/27/275501日本材料学会誌「材料」、
第69巻、No.2、
149ページ(2020年発行)
特許
第4857570号

 

 

今後注目されそうな分野としては環境適合性が問題になる樹脂や、バイオサイエンスが考えられると言います。特に、マイクロプラスチックが世界的な環境問題となっている樹脂においては、海洋環境でも生分解する樹脂の設計が重点的に進められるのではないか、ということです。

内容の難易度にもよりますが、日立のMIを活用した材料設計においては、従来の試行錯誤による実験では2年程度の時間を要するところを約4か月で行うことができる場合もあると言います。

「製品開発において、用途や目的を満たす新材料を効率的に探索したい、というご要望があればぜひご相談ください。」(岩崎氏)


株式会社日立製作所 研究開発グループ 材料イノベーションセンタ 機能性材料研究部 主管研究員 岩崎富生氏
株式会社日立製作所 研究開発グループ 材料イノベーションセンタ 機能性材料研究部 主管研究員 岩崎富生氏


マテリアルズ・インフォマティクス(MI)研究への展望

最後に、岩崎氏にMI研究への展望について伺いました。
「材料のインフォマティクスだけではなく、AIが活躍する分野全般にいえることですが、データが少ない場合にAIが正しい結果を出してくれない場合があるので、ある程度少ないデータでも正解を出してくれるようなAI技術になることを期待します。一方で、データがあまりにも足りないと、やはり正しくない答が導かれるリスクがあるため、実験データを短時間に収集できるような自動実験設備や、計算機シミュレーションデータを短時間に収集できるような計算機(富岳に代表されるような高性能計算機)の進展に期待したいです。また、めだま焼き構造のように、比較的わかりやすい可視化画像が得られる一方で、わかりにくい可視化画像になる場合もありますので、人間が見てわかりやすい画像を導出してくれる技術というのも大事ではないでしょうか。」


▽日立R&Dのオープンイノベーション活用
株式会社日立製作所 研究開発グループ

日立の研究開発は、100年を超える研究開発の歴史の中で、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念を実践し、その時々の最先端技術開発に取り組みながら、未来につながるイノベーションを創出してきました。

現在、「制御」「デジタルテクノロジー」「エレクトロニクス」「エネルギー」「ヘルスケア」「材料」「機械」「生産」「システム」「デザイン」からなる研究領域で、お客さまへの価値を提供するソリュー ションを具現化しています。それらの中から、特に、材料技術のソリューションと、設計支援ツールのサービスを提供します。

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