電子顕微鏡、金属3Dプリンター等の電子源をカスタム製作 ~電子源メーカーAPTechの製品と技術とは

電子顕微鏡や表面分析装置、金属3Dプリンターといった電子線を必要とする装置において、電子線の放出源となるのが電子源です。あらゆるものづくりの現場で使用される装置に搭載される電子源は、世界のものづくりを支えていると言っても過言ではありません。

この電子源、とくに金属単結晶を使用した電子源を製造するメーカーは世界でも数社程度しか存在せず、その1社が米国オレゴン州に拠点を置くApplied Physics Technologies, Inc.(以下、APTech)です。今回は、APTechの製品と技術力について探っていきます。


APTech、世界でも特に電子源研究が進む米国オレゴン州で創設

米国オレゴン州のAPTech本社
米国オレゴン州のAPTech本社


APTechは、電子源の研究施設Linfield Research Instituteにて20年以上にわたり電子源の研究に携わったWilliam Mackie博士を創業メンバーの一人として、1995年に米国オレゴン州で設立されました。オレゴン州はオレゴン大学をはじめ、世界でも特に電子源研究が進む地域で、電子源研究のスペシャリストであるJon Orloff氏や電子顕微鏡メーカーであるFEIカンパニー(現在Thermo Fisher Scientificの子会社)の創業者など、著名な研究者を輩出しています。APTechはWilliam Mackie博士の研究成果を製品に活かすために創設され、高い開発力と技術力で、世界でも数少ない電子源メーカーとして成長してきました。


電子顕微鏡や金属3Dプリンター等に使用する電子源の種類

電子源は、電子顕微鏡や金属3Dプリンターなど、電子線を使用する装置に搭載されるパーツで、電子源の種類は大きく3つに分類されます。

 

  • 熱電子源 … フィラメントや単結晶片を加熱した熱電子源から電子線を放出させる。電子線の量や電力安定性に優れており、操作に必要な真空度が低く扱いやすいが光源径やエネルギー分布が大きく、高分解能化には不向き。
  • 電界放出(FE:Field Emission)電子源 … 電界を利用したトンネル効果により針状電子源から電子線を放出させる。光源径が小さいため、電子線を細く絞れる点や、輝度、電流密度に優れており、非常に高分解能で明るい観察像を得ることができる。
  • ショットキー(SE: Schottky Emission)電子源 … 酸化物を拡散させた針状電子源を加熱し、高い電界をかけたときに起こるショットキー効果を利用して電子線を放出させる。熱電子銃とFE電子銃の中間的な特徴を持ち、大電流化と安定した電子放出が得られるため、幅広い用途で用いられる。

 

 

APTechの特徴的な製品:CeB6、LaB6、HfC単結晶電子源

APTechでは、主に分析、検査向け装置や金属3Dプリンター向けに使用される電子源を製造しています。
主な製品は以下の通りです。

製品 材料 搭載される
電子源タイプ
用途
CeBix(R) Cathode 六ホウ化セリウム(CeB6 熱電子源 走査電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)、電子線マイクロアナライザ(EPMA)、表面分析装置、マイクロフォーカスX線源、リソグラフィー装置、金属3Dプリンター等
LaB6 Cathode 六ホウ化ランタン(LaB6 熱電子源 SEM、TEM、EPMA、表面分析装置、マイクロフォーカスX線源、リソグラフィー装置、金属3Dプリンター等
Hafnium Carbide 炭化ハフニウム(HfC) FE電子源/
ショットキー電子源
※R&D用途で評価中
Tungsten Single Crystal タングステン(W) FE電子源/
ショットキー電子源
SEM、TEM、半導体検査装置等

APTechの製品ラインナップ

 

 

次に、特徴的な製品を3種ご紹介します。

【CeBix(R) Cathode】

CeBixとは、APTechが米国で商標登録しているCeB6単結晶を指し、同社の主力商品として複数顧客へ供給しており、豊富な量産実績をもちます。
CeBixはLaB6単結晶に対抗する製品として開発され、用途は基本的に同じながら、1,800K (約1,526℃)以下であれば、LaB6に比べ長寿命であり高輝度という特徴を持っています。
このような特徴を生かし、複数顧客でCeBixの採用、評価検討が進められています。

 

 

CeBix Cathodeアセンブリ商品
CeBix Cathodeアセンブリ商品


●CeBix マテリアルデータ

【LaB6 Cathode】

APTechのLaB6は電子顕微鏡向けへの採用だけでなく、電子線式金属3Dプリンター向けにも採用されており、その品質が高く認められており実績ある製品といえます。

 

●LaB6 マテリアルデータ

【Hafnium Carbide】

HfC Cathodeアセンブリ商品
HfC Cathodeアセンブリ商品

製品開発が完了し、今後装置への搭載が期待されるのが高融点金属であるHfC単結晶電子源です。
HfC単結晶は融解温度が高く、使用中の結晶の蒸発が少ないため寿命が長くなることが特徴で、電子顕微鏡等への採用が期待されています。


 

●HfC マテリアルデータ

 

APTechでは、高融点金属 (Refractory Metals)、LaB6、遷移金属 (Transition Metals)といった単結晶成長設備の保有に加え、結晶の取り付けや電解研磨といった組立・加工技術も保有しており、顧客の要望に応じて、単結晶単体だけでなくアセンブリ、モジュール品まであらゆる形態での提供が可能です。また、製品品質の維持・管理・保証に必要なエミッション検査や、技術や経験を生かして新製品の共同開発も行っています。

自社開発の製造設備と熟練したエンジニアが顧客ごとのカスタム対応を可能にする

APTechの高品質な製品は、同社の持つ高い技術力に支えられています。
APTechでは「ゾーンリファイニング」製法により金属単結晶を製造しています。この工程には自社開発した製造装置(電子線加熱、高融点金属にも対応可能)が使われています。自社開発の装置、優れたエンジニアの技術力、他社では真似しがたいノウハウの蓄積が同社の開発力、製造力の源になっています。また、自社独自の装置を使うことで、顧客のあらゆるニーズに応えるフレキシブルな対応が可能になっていると言えます。


アセンブリルーム
アセンブリルーム



電子源の性能を決める材料の最終研磨工程は特に高い正確性が求められ、すべて卓越した技術をもつエンジニアの手作業によって行われています。CeB6、LaB6の円錐角(Cone angle)や先端の平らな部分 (Truncation)の大きさ、W単結晶の長さや径といった形状に関わる内容は、顧客からのカスタマイズの要望も多いと言います。

 

 

左:Top Hat Cathode Style、中央:Guard Ring Cathode Style、右:Etched Tip Cathode Style
左:Top Hat Cathode Style、中央:Guard Ring Cathode Style、右:Etched Tip Cathode Style


お問い合わせから納品までの流れ

APTechでは基本的にメールでのニーズや要件のヒアリングを行い、製造に着手します。
以下に、一般的な問い合わせから納品までのフローを示します。

問い合わせ後、顧客のニーズを確認し、見積を提示、注文を受け次第、製造に取り掛かります。注文から納品までの期間は仕様や要件によって異なります。
APTechではカタログ製品以外にも、顧客の要望に応じ、カスタム対応を行っています。
仕様が不明確な場合でも、顧客ニーズを実現する最適な解を提案することも可能です。


今後さらに注目が集まる金属3Dプリンター向けの製品開発を強化

電子線を使用する様々な装置に搭載される電子源を製造するAPTechですが、今後は金属3Dプリンター向けの製品開発にも注力する方針です。金属3Dプリンターは現在航空宇宙、医療、エネルギーなどあらゆる産業への活用が進められています。中でも、航空宇宙産業向けには電子線式の金属3Dプリンターが多く採用されることから、本領域でのAPTech製電子源の導入がさらに加速すると期待されています。
また、今後、さらに顧客要求に耳を傾け、高度化する品質管理指標に対して設備導入や自動化にも取り組み、迅速化、高品質化と顧客満足度の向上に努めていくと言います。


まとめ

今回は電子顕微鏡などの分析装置、金属3Dプリンター等で使用される電子源を開発製造するAPTechをご紹介しました。分析、検査や製造現場における試作、さらには量産まで、電子線を使用した装置を活用するシーンは多岐にわたり、読者のみなさまの周りでもAPTechの技術力に支えられている現場があるかもしれません。
また、同社は顧客のニーズに合わせた製品製造を得意としており、高度な分析装置や金属3Dプリンター開発のために高品質な電子源を必要とされる場合は、APTechに相談してみてはいかがでしょうか。



Applied Physics Technologies, Inc.

世界でも数少ない金属単結晶の電子源の開発・製造・販売を行う、米国オレゴン州に拠点を置く電子源メーカー。主に電子顕微鏡や金属3Dプリンター、表面分析装置などに使用される電子源を供給している。
Applied Physics Technologies, Inc. (国内)070-4300-0277