NTTドコモOpen Houseでお披露目!ヘルスケアで活躍が期待されるDGロボット

昨今、新産業や新事業の創出にあたり、大学が保有する技術を活用した大学発ベンチャー企業への期待は高まっています。また、大学発のベンチャー企業と大手企業との共同開発事例も数多く見られるようになりました。

今回は、ヘルスケアの分野でIoTデータ活用サービスを開発する、九州大学発テックベンチャーの 株式会社Nelsite(ネルサイト)石田浩二顧問にお話を伺い、製品・サービス開発にあたり活用した技術や、他企業との連携体制など、大学発ベンチャーのリアルを伺ってきました。

生活にまつわるあらゆるデータを収集・利活用することで日々の生活の見守りを行う

株式会社Nelsite(ネルサイト)顧問 石田浩二(いしだこうじ)氏
株式会社Nelsite(ネルサイト)顧問 石田浩二(いしだこうじ)氏


────Nelsite(ネルサイト)社はどのようなテーマで開発を行っている会社なのでしょうか?

九州大学のシステムLSI研究センターが保有する技術を活用して商品・技術開発をしています。テーマは情報を利活用した「人の生活の見守り」です。簡単に説明すると、様々な方法で人の生活にまつわるデータを収集し、分析し、その結果をユーザーの生活のために活用する製品・サービスを開発しています。時に生活をスムーズにする手助けをし、万が一の時も異常を検知することで対応できるようにする。データを用いて「安心・安全・便利」な社会の実現を目指しています。



九州大学の大規模実証実験VRICSがコア技術

────九州大学ではどのような研究が行われていたのですか?

九州大学ではVRICSの研究が行われています。VRICSとはValue and Right Circulation Control System
の頭文字をとった略称で、人間の権利・権限の管理をすることを目的としています。サービスを情報システムや機械を通して人に提供しようとすると、その人が持っている権限や権利を機械に教える必要があります。電子定期券などが分かりやすい例ですね。

九州大学では「全学共通ICカードシステムを用いた学内サービスシステム」を開発し、大規模な実証実験を行なっています。人間が機械に話しかけるための手段として全学共通ICカードを採用し、認証基盤で発行されたPID(Personal ID)を用いた独自の認証技術を IC カード内に搭載し、平成 21 年度から学生証や職員証に導入を開始しました。入退室管理や、図書館やバス利用、生協での支払いなど、学内の様々なシーンで今でも運用されています。VRICSは認証・権利確認・サービス提供サービスのOSのようなもので、当社が開発する製品・サービスのベースになっています。



身体に関する詳細データをモニタリングすることで健康を管理する

<写真1>最新版のDGロボット外観
(2020年1月23・24日開催のDOCOMO Open House 2020にて展示)
<写真1>最新版のDGロボット外観
(2020年1月23・24日開催のDOCOMO Open House 2020にて展示)


────現在開発されている製品・サービスについて教えてください

現在注力分野の一つにヘルスケアがあります。<写真1>はDGロボット(Data Gatherロボット)という装置の最新版です。DGロボットに搭載されているセンサーにより、15項目の健康に関する測定データを短時間で収集することが出来ます。また、ロボットからの質問に答えることで、ストレス状態や体質、認知症の傾向なども確認することができます。ロボットが測定したデータはAIが分析し、携帯電話などに分析結果を知らせることができます。



<表1>DGロボットで測定可能な項目一覧

所要時間 測定(算定)項目 備考
センサーにより測定
(所要時間計5分)
①身長、②体重、③脈拍、④体温、⑤体組成(体脂肪、内臓脂肪、筋肉量、推定骨量、体水分率)、⑥BMI、⑦基礎代謝 同時に測定可能であるため、左記7項目の測定所要時間は約2分
⑧アセトン、⑨アルコール、⑩動脈血酸素飽和度(SpO2)⑪血圧、⑫心電、⑬視力、⑭緑内障、⑮白内障 順次センサーに手をかざすなどして測定するため所要時間は約3分
問診によるチェック(所要時間計3分) ⑯ストレスチェック、⑰漢方体質チェック、⑱認知症チェック 質問に答える所要時間は約3分

 

 

皆さんに馴染みのある、年に1度の健康診断は、実は平均値との比較で評価されています。一方で、身体の状態には個人差があるはずです。一人ひとりの状態を定期的にモニタリングすることで、病気になる前、つまり「未病」の段階で何等かの兆候を掴むことができ、前もって何等かの対処ができるのではないかと考えています。

最新機種では1回あたり、センサーによる測定約5分、問診に約3分の計8分で全ての工程の完了が見込まれます。本サービスは高頻度で定期的にデータを収集することにより真価を発揮しますので、さらに時間を短縮することでより手軽に利用して貰えるように改善していきます。



ロボット以外にも様々なデバイスを接続することで拡張性を持たせる

────最近ではウェアラブルデバイスやライフログのアプリを用いて健康管理をする人も増えていますね。

本サービスの特長はDGロボットで測定したデータだけでなく、ウェアラブルデバイスやスマートフォンで測定したデータも統合し、管理できる点にもあります。家庭生活や活動時にもデータを収集できれば、より詳細な分析が可能になるでしょう。

分析結果は、各自のスマートフォンやタブレット向けのアプリケーションを通じて確認できますので、対応の必要性が出てきたら、すぐにオンラインで必要なサプリメントなどを購入することも可能になります。


発展途上国などの医療不在の地域でも健康管理ができる

────どのような経緯でDGロボットを開発することになったのでしょうか?

2006年にノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのグラミン銀行のプロジェクトがきっかけでした。グラミン銀行は貧困者に事業を立ち上げるためのお金を融資することで貧困から脱出させることを目指していますが、単にお金を貸し付けるだけではなく、生活の質を高めるために借り手に『グラミン銀行の16カ条の決意』と呼ばれるルールを守ることを求めます。この中でも健康に注意することは重要視されています。

また、グラミン・ファミリーと呼ばれるグラミン銀行から発展した企業には医療関係の投資を行う企業や、病院の設立を行う企業もありますが、医師や医療スタッフ不足が課題でした。その解決のために経産省からの依頼で約8年前にDGロボットの前身であるヘルスチェックブースを開発したのが本取組みの始まりです。バングラデシュは情報インフラの整備が進んでおらず、携帯電話が主な通信手段だったので、分析結果を携帯電話で受け取れる本サービスとの親和性は高かったのです。

私は、途上国の人々だけでなく海外赴任者を多く抱える日系企業などにとってもDGロボットのコンセプトは有効だと思います。慣れない環境下で体調やストレスに支障をきたしやすく、言語の問題や医療体制が万全でない中での社員の健康サポートは重要な課題です。DGロボットをオフィスに導入することで、安心を提供すること、もしもの時に異変を察知することができると考えています。



組み込み開発の強みを活かし大手企業との連携も行う

────先ほど、NTTドコモ社のアセトン測定装置を搭載していると伺いましたが、どのような経緯で連携することになったのでしょうか?

NTTドコモ社のアセトン測定装置は、皮膚から放出されるアセトンの数値を計ることで、活動量や運動強度などから計算するよりも正確な脂肪燃焼量が分かるという非常に優れたものです。当初は呼気から測定する方法をとっていましたが、より手軽でメンテナンス性のよい形を追求し現在の手の平からの測定方法に進化しました。

我々はロボットに搭載するセンサーを探索している過程で当技術に出会いました。ドコモさんは完成した装置を市場に浸透させる方法について検討されているところでしたので、DGロボットのコンセプトに賛同していただき、連携が実現しました。

現時点では、ヘルスケア関連の測定装置は単品で販売されることが主流で、それぞれの測定データをクラウドに吸い上げて管理することができても、複数の装置からのデータを統合管理できるプラットフォームはあまり浸透していません。ユーザー利便性を考えると、将来は複数の測定装置を組み込み、一度に測定できるデバイスや、複数の測定データを管理し一覧できるようなサービスが主流になっていくのではないかと私達は考えています。



画像認識技術とAIによる分析アルゴリズムを強化し「未病」市場に取り組む

────今後強化していきたい技術や追加したい機能はありますか?

これまで医師の経験などに頼っていた暗黙知を認識知に変えることで、より多くの人々の健康管理に役立てたいと考えています。そのために、これから力を入れていきたいのがAIを用いたデータの分析技術です。継続的にデータを収集し、データの変化を見つけた際に、その変化をどのように分析するのかといった知見をもっと増やしていかなくてはなりません。

また、今後は画像認識の技術を導入することで人の顔色などからも健康状態の変化が検出できるようにする予定です。一方で、すべてが目新しい技術である必要はないと考えています。すでに広く用いられている技術でも一つのロボットに組み込み集約すること、データを統合管理するだけで新しい価値が生まれます。むしろ実績が豊富な技術の方が、開発のスピードも上がります。


専門性の高い人材で構成されたチームで自由度の高い開発体制

────貴社の開発のスタイルや体制について教えてください。

弊社では、いわゆるアジャイル型の開発スタイルをとっています。トライ&エラーを繰り返す前提で開発しているので、スピードを重視し必要な物から目的に合わせて開発しています。少人数のチームなので全体設計さえできていれば、この方法が一番適していると考えています。

弊社は工場を保有していないので、試作品は外注の加工業者さんに協力をお願いしています。試作品のテーマと設計図を渡すと、いつも予想を覆すような思わぬ提案をいただくことが多いですね。まだ世にないものを作っているので自由度が高く、外注さんからはいつも「Nelsite(ネルサイト)さんの仕事は大変だけど面白いね」と言ってもらいます。

我々はアイディアを検討する際に「面白いかどうか」を重視しています。何事も遊びの要素が大切だと考えているからです。


────どのようなプレイヤーと連携していきたいとお考えですか?

これからは、AIのアルゴリズム開発に一層力をいれていきたいので、医学の知識を保有する研究者の方やデータの中で傾向を導けるデータアナリストの方にご協力いただきたいと考えています。または、独自のセンサーを開発しているが、活用方法や販売方法に悩まれているメーカーさんがいらっしゃったら是非連携したいですね。



おわりに

今回は、大学発のテックベンチャー、株式会社Nelsite(ネルサイト)社についてご紹介しました。大学での研究により培われた技術基盤とベンチャー企業ならではのフットワークの軽さを兼ね備えることで、スピードが重視される製品開発の現場において推進力となっていると感じました。これからも大学発テックベンチャーの動向に注目したいですね。


株式会社Nelsite(ネルサイト)
九州大学と北九州高専の技術を活用したベンチャー企業。健康と生活の見守りを事業テーマとし、働く人と家族の健康と生活を見守るシステムおよびハードウェア製品の研究開発、製造、販売と自社で開発した製品を用いたネットワークサービスを提供している。