ダイカストや冷間プレスに替わる新たなアルミ加工技術「アルミホットスタンプ」の開発現場に潜入

INTERVIEW

神和アルミ工業株式会社
理事 稲葉 隆

株式会社秋山
統括課長 江袋 英貴

近年、自動車用パネルの材料として鋼板に代わり、アルミニウム合金(以下、アルミ)が使用されるようになってきています。こうしたなか、アルミ板材を加熱して軟らかい状態で成形する「アルミホットスタンプ」という技術に注目が集まっています。欧州では既に自動車ボディパネルへの採用が始まっており、日本でも軽量化やマルチマテリアル化へのニーズなどを背景に普及が期待されています。

今回は、アルミホットスタンプに関する技術の詳細からメリット・デメリット、将来の展望までを、切断・機械加工の専門メーカー 神和アルミ工業株式会社の理事を務める稲葉隆氏と、自動車試作を行うプレスメーカー 株式会社秋山の統括課長 江袋英貴氏にお聞きしました。

<写真1>株式会社秋山 統括課長 江袋英貴氏(左)と神和アルミ工業株式会社 理事 稲葉隆氏(右)
<写真1>株式会社秋山 統括課長 江袋英貴氏(左)と神和アルミ工業株式会社 理事 稲葉隆氏(右)

耐食性と強度、成形性を兼ね備えたアルミホットスタンプ

────神和アルミ工業さんでは現在、新規事業としてアルミ材のホットスタンプ技術の開発に取り組まれています。なぜ、アルミホットスタンプに着手しようと思われたのでしょうか。

稲葉:
当社では車載用部品としてダイカスト品を使っています。ダイカスト品には、さまざまな形状に対応できたり、肉厚変動を与えられたり、大きなものがつくれたりなどといった特徴がありますが、やはり鋳造品ですので、ひけ巣やブローホールが発生してしまいます。また、寸法精度が低く、切削加工が必要になってしまうのもダイカストの課題です。

加えて、アルミダイカストのほとんどは、Al-Si-Cu系合金であるADC12が使われ、Cuが含まれていますので耐食性はあまり良くなく、場合によっては表面処理をする必要があります。したがって、欧米ではADC12はあまり使われなくなってきており、日本のダイカスト製品(ADC12)は海外で認定を得るのに時間がかかってしまいます。

ダイカスト品にこうした課題があるなか、その代替としてホットスタンプを活用してみようと考えたのが、アルミホットスタンプに着手しようと思ったきっかけです。


<表1>アルミホットスタンプのメリット

工 法 アルミホットスタンプ アルミ冷間プレス アルミダイカスト
耐食性
内部欠陥
難成形性

 

 

──── 一般的なアルミの熱間成形とアルミホットスタンプの違いはどこにありますか。

稲葉:
熱間成形では、基本的に350-500℃程度の温度まで加熱して成形し、その後常温に戻します。成形の途中で冷却をしないため、強度を高めるための「焼入れ」と呼ばれる熱処理が入っていません。

一方でホットスタンプでは、熱間で成形すると同時に冷たいダイスに押し付けますので、そこで一瞬にして冷却して焼入れを行っています。こうすることで、成形性と同時に強度を高めることが可能です。通常のアルミ熱間成形では強度が低くなってしまいますが、ホットスタンプではダイカストあるいはそれ以上の強度が期待できます。


────冷間プレスとホットスタンプではどのような違いがありますか。

稲葉:
同じものをつくるとすると、冷間プレスでは5から10程度の金型が必要になりますが、ホットスタンプであれば1つの金型でできてしまいます。なおかつ、冷間プレスでは工程の途中で曲げ加工の部分が凹んでしまったり亀裂が入ってしまったりしてしまうことがありますが、ホットスタンプでは1回のプレスで成形するので、表面も非常にきれいです。また、材料を曲げたときに元に戻ってしまう現象をスプリングバックといいますが、このスプリングバックも少ないため、平坦度にも優れています。

<写真2>加工例比較  左:ホットスタンプ(プレス1工程)、右:冷間プレス(プレス5工程)
<写真2>加工例比較  左:ホットスタンプ(プレス1工程)、右:冷間プレス(プレス5工程)

無理に1回で冷間プレスをすると、形状ができる前に亀裂が入ってしまいます。このことから判りますように、通常の冷間プレスでは5~10工程が必要になります。


<写真3>冷間プレスでは形状ができる前に亀裂が入る
<写真3>冷間プレスでは形状ができる前に亀裂が入る

────ホットスタンプの成形性はどの程度期待できるものなのでしょうか。

稲葉:
鋼板の場合、ホットスタンプ(1,470MPa級)は270-440MPa級鋼鈑の冷間プレスと同程度の成形限界を示します。1,470MPa級の冷間プレスと比較すると顕著に成形性が優れているといえますが、冷間プレス鋼板のなかでも特に成形性に富むSPCEという鋼板には及びません。一方アルミにおいては、冷間プレスでの成形限界(限界張り出し高さ)は10mm以下となりますが、ホットスタンプにすることでSPCEを超える限界張り出し高さ40mm以上の成形性を出すことができます。下右写真は同じ金型を使って、SPCEを冷間プレスしたものであり、メガネ部に亀裂が確認できます。


<写真4>アルミのホットスタンプはSPCEの冷間プレスより成形性がよい
<写真4>アルミのホットスタンプはSPCEの冷間プレスより成形性がよい

自動車だけでなく、建設機械や家電製品などにも使える

────アルミのホットスタンプにはさまざまなメリットがあるとのお話でしたが、実際にどのようなところに利用されているのですか。

稲葉:
実際の使用例は判りませんが、欧州ではドア等の難成形パネルは勿論、センターピラーという自動車の左右中央部にあるドアを保持する柱等の強度部材に試作されています。日本ではセンターピラーに1,500MPa級のウルトラハイテン材が冷間プレスで用いられ始めていますが、欧米ではそうした材料や技術がないためにウルトラハイテン材になる鋼鈑のホットスタンプが実用化されているということです。

神和アルミ工業では、車載インバーター用のヒートシンクを生産しています。冷却性能という観点で考えると、複雑な形状のものもそうでないものもダイカスト(熱伝導率がアルミ板と比較し1/2以下)を使うのは冷却性能向上を半減させるといえます。なお、ダイカスト品をアルミ板の冷間プレスで作るときにはアルミ板は連続焼鈍炉で熱処理をします。大きな炉へ幅広い板を通すことになるので、雰囲気の中では無駄があります。一方、ホットスタンプでは隣接された炉で所定の温度まで加熱した後にプレスを行いますので、効率的に高強度・高成形性が得られ、省エネに繋がります。適材適所の材料を選んでホットスタンプを活用すれば、軽量化や高コストパフォーマンスにつながると考えています。


────ホットスタンプに適したアルミの種類はありますか。

稲葉:
ダイカストでは4000系(Al-Si系)の材料のみ適用可能ですが、ホットスタンプは、全てのアルミ板材に適用できます。但し、6000系(Al-Mg-Si系)、7000系(Al-Zn-Mg系)がお勧めです。5000系(Al-Mg系)もできなくはないですが、焼入れ効果がないので使ってもあまり意味がありません。


────自動車部品のほかにホットスタンプが適しているものはありますか。

稲葉:
自動車部品のほかには建設機械や家電製品など、アルミの冷間プレスではできない形状という理由で従来やむなく鋼鈑のプレス品、またはダイカスト品を使っていたものをアルミで軽量化したいというニーズにはちょうど良いのではないでしょうか。ダイカスト品の場合、特に形状があまり複雑でないものでしたら対象になると思います。形状が許されれば、ホットスタンプ品(アルミ板に引け巣等がない)のほうが安全・安心でしょう。


────形状があまり複雑ではないものということでしたが、どこまでであればホットスタンプで対応できるのでしょうか。

稲葉:
断面の形状に対して板厚減少率をプロットした図を見ていただくとわかりやすいと思います。通常アルミの板厚減少率は15%(0.15)程度ですが、ホットスタンプでは25%(0.25)程度でも成形できていることがわかります。この数値は、SPCEに匹敵するクラスといえるかもしれません。鉄板で成形できるものはアルミホットスタンプでも成形できるという理解で良いと思います。


<図1>アルミホットスタンプでの板厚減少率
<図1>アルミホットスタンプでの板厚減少率

現場から見たアルミホットスタンプの加工特性

────実際に現場でプレスを行っている秋山さんとしては、ホットスタンプのメリットをどう実感されていますか?

江袋:
神和アルミ工業が手がけているヒートシンクのジャケットをホットスタンプにすると一回で成形できたときには、「今まで何やってたんだろう」と思ってしまうくらいの驚きがありました。冷間プレスでは従来5から10工程程度掛かっていたものが、一回でできてしまうわけですから。

<写真5>アルミホットスタンプでのプレスの様子
<写真5>アルミホットスタンプでのプレスの様子

────前処理や後処理の難しさはありませんか。

江袋:

板取のノウハウは必要になります。秋山のこれまでの経験や実績が生きるポイントでもありますので、神和アルミ工業からお声がけいただいたときには、ぜひやってみようと思いました。


────ダイカストでは金型をつくるだけでも時間が掛かってしまいますし、形を変えたい場合には金型から作り直す必要もあります。一方プレスであれば、試し打ちや打ち直しを短サイクルで行うことができるように思います。

江袋:

やはり、トライアンドエラーを短期間で進められるのはプレスの良さだと思います。基本的にはオス・メスの型さえあればできるので、ダイカストのような複雑なものは必要ありません。

────ほかにもホットスタンプが優れているところはありますか。

江袋:
一般的な冷間プレスに比べて合わせ面の精度が良いことです。ダイカストでは合わせ面の精度を高めるために切削する必要があります。冷間プレスでも歪みが生じてしまいます。ホットスタンプではプレスした時点で真っ平になっているので、そうした二次加工が必要ありません。穴が必要ということであれば、次の工程で開ければ良いだけです。大量につくりたいということであれば、プレスのメリットが活きてきます。


<写真6>プレス後のアルミ板の側面比較 上:冷間プレス、下:ホットスタンプ(いずれもプレス1回のみ)
<写真6>プレス後のアルミ板の側面比較 上:冷間プレス、下:ホットスタンプ(いずれもプレス1回のみ)

アルミホットスタンプの成形限界曲線を整備中

────試作サービスを利用したい場合にはどうすれば良いでしょうか。

稲葉:

神和アルミ工業まで相談していただければ、当社が窓口となってご要望に応じて手配いたします。秋山さんをはじめとするパートナー企業と連携し、現状2水準である300㎜角から、500㎜角までの大きさに対応いたしますので、興味のある方はぜひお問い合わせください。


────最後に、アルミのホットスタンプに関して今後の展望をお聞かせください。

稲葉:

現在でも「こんな形状もできますか?」「ここまで深いものでも成型できますか?」といったようなお問い合わせをいただいています。こうした判断をするためには、成形限界曲線(FLD:Forming Limit Diagram)を用いて成形シミュレーションを行う必要がありますが、アルミホットスタンプのFLDは現状まったくありません。神和アルミ工業では、現在アルミホットスタンプのFLDを整備しているところで、2019年9月末に完成予定です。ご興味を持って頂けましたら、是非気軽にお問い合わせを頂ければと考えております。

また今後は、アルミホットスタンプの用途を広げていくために、ダイカストのように肉厚変化を与える技術の開発を進めていこうとも思っています。


江袋:
我々としては、ヒートシンクの需要が高い電気自動車(EV)関連の要望に応じられるよう試作を行っていきたいですね。特にEVは、パワートレインが1年後には全く違うものになっていたり、さまざまな部品が小型化されていたりなど、進化が非常に早いです。そうした状況に対しては、1工程で形にできてすばやくトライアンドエラーのサイクルを回せるアルミホットスタンプは非常に相性が良いといえるのではないでしょうか。

神和アルミ工業株式会社
北関東をメインに、アルミ板切断委託加工及びアルミ板、型材の素材及び小ロット切板の販売を開始し、現在では、自動車パネル材の切断事業、液晶半導体製造装置の機械加工事業、航空機用材料の切断・機械加工事業を主体に、船舶・車輌、さらには新規用途の開発及び実用化を進める。自動車部品として実用化を進めているヒートシンク(HS)は、HV、EVに必要な電子制御の高度化(半導体の冷却)に貢献。その他、軽量化に繋がるアルミ部品の試作も請け負う。
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取材協力

株式会社秋山
試作板金メーカーとして半世紀にわたり、ショーモデルや試作開発車両・外板部品・レース部品などの高度な技術を要する部品の加工を行う。長年の経験値とプレス成形CAEを活用した難成形部品に取り組む。確かな技術・柔軟な対応・今すぐ動ける行動力が強み。