常に進化する鍛造技術でお客様のハイレベルなニーズに応える中野鍛造所
製品開発の過程で、加工業者の選定はとても重要な工程の一つです。特に長年専門の領域でノウハウを蓄積してきた優良な加工業者とタッグを組むことができれば、製品加工のクオリティ向上のみならず、加工工程の円滑化や効率化、製品性能に寄与する加工品の設計改善まで期待することができるかもしれません。今回はこれまで当メディアにもたびたび登場いただき、金属加工のいろはを教えていただいた中野鍛造所の徳田社長に神鍋工場を案内いただきながら、今回は鍛造業界を牽引する自社の進化した鍛造技術・サービスについて詳しく教えていただきました。
黄銅やアルミなどの非鉄製品の熱間鍛造加工が得意領域
中野鍛造所は黄銅材を中心に、黄銅やアルミなどの非鉄製品の熱間鍛造加工を得意としています。
「他社に先駆けてヨーロッパ製の先進設備を導入し、生産システムを最適化しています。切削や冷間鍛造には及びませんが、熱間鍛造の中では他社に追随を許さない精度を実現しています」
「黄銅をはじめとする非鉄金属は、機械的性質は鉄に比べて低い一方で、錆に強いという特徴があるので水や圧縮空気などと触れるものに向いています。また、鉄に比べて融点が低いのでリサイクルしやすく、CO₂排出も押さえる環境にやさしい素材です」
<表1>中野鍛造所の取り扱い得意領域
項目 | 得意領域 |
---|---|
材料 | 黄銅(C3771B)、アルミ、銅 |
サイズ | 重量:10g~約4,000g 製品径:12-120mm 素材長さ:20-180mm |
用途 | ・水・空気・ガス・油など流体の配管を接続する配管部品 ・工作機械を制御する各種バルブ製品 ・ハウスメーカーに採用される給排水金具部品・給湯器具用部品 |
精度 | 一般の鍛造公差に準じる 材料や大きさにもよるが、より厳しい±0.2~±0.3で提供している |
工場に散りばめられた長年の技術やノウハウ
工場に足を踏み入れて、まず印象的だったのが予想と比較して工場内の騒音が静かであったこと。徳田氏によると、機械の性能やパフォーマンスが良いと余計な音がしないのだそうです。実は工場立地にもこだわりがあり、機械メーカーがスイス(欧米)の高原にあることから、環境を合わせるために、ここ神鍋高原を選んだというから驚きです。
「機械を買ってきただけではだめ。使いこなすテクニックと環境が必要です。一日数千個の加工を行っているが、その日の気温や湿度などに合わせてコンベアのスピードや炉の温度を調整するなどのさまざまな調整を行うことが重要です」
加熱された鍛造品から発する熱を上手に逃がしてやるために、天井も高く設計されています。

まず、工場を案内いただきながら、鍛造の工程におけるこだわりを解説いただきました。
加熱

「加熱方法にはガス炉による加熱と電気炉を用いた加熱があります。こちらのガス炉は最大3レーンのコンベアで材料を熱することができます。一方、電気炉は立ち上がりが早く、直火ではなく誘導加熱で焼くので材料の表面が酸化しにくく、製品の表面の仕上がりがきれいです。加工品の表面処理の条件などによって使い分けています」
プレス
「定期的に品物の状態を観察し、金型の状態をチェックしています。金型が割れていたりすると加工品の表面に傷などがつきます。このように表面がつやつやしているのがいい状態です」

「立ち上がりの時と、運転後しばらくたった後では、バリの厚みが変化するので出力条件を調整します。ビレットを金型で押さえつける力や時間、ストロークなどといった要素を最適化していきます」
「また、弊社には金型のもちを良くする管理条件のノウハウがありますので、一般的な金型の寿命に対し、その2割~5割も寿命を延ばすことができます。また、金型に不具合ができても、予備型を準備しておくことで、不測の事態にもスムーズに対応できるので、ラインを止めることがほとんどありません」
バリ抜き

次に見せていただいたのはパーティングライン形の金型で打抜くことでバリをせん断するバリ抜きの工程です。
「当然ながら、バリの分の材料ロスが発生してしまいます。しかし、実は鍛造においてバリはとても重要な機能を担っています。まず、金型同士が接触しないようクッションの役割を果たすことで、金型の劣化を防ぎます。また、材料の内部欠陥を外に出す作用もあります」
「弊社には、必要最小限のバリは出しつつも、必要以上に出しすぎないための技術があります。バリを一目みれば、鍛造品の良し悪し分かってしまいます。技術力がはっきりと見てとれるところです」
材料となるビレットのサイズと加工品の形状を考慮して、一つのビレットから複数個同時に鍛造する方が効率が良い場合もあるので、金型設計の段階でバリの出方をシミュレーションし、鍛造製品の並べ方も調整しています。バリ部分についている溝も狙った通りにバリを出すためのテクニックの一つなのだとか。
複数の作動原理の異なる機械を巧みに使いこなすことで最適化

スクリュープレスとクランクプレスの2種類のプレス機械を見せていただきました。
「これら2つはプレスの構造に違いがあり、速さとパワーのバランスが異なります。
材料の種類やサイズ、製品の重さ・形状(変形度)によって適切な機械を使い分けています」
<表2>2種のプレス機の比較
特徴 | クランクプレス | スクリュープレス | |
---|---|---|---|
機械の特徴 | 原理 | 電機動力 エアとモーターで動かす |
電機動力 フライホイールの回転力で動かす |
ストローク | 上死点、下死点が決まっているのでストロークが常に一定 金型に負荷がかかりにくいので、金型の持ちがいい |
金型が材料を押し切り、その反力で上に挙がる仕組み 理論的に下死点がないので限界まで押し切ることができる |
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スピード | プレスのスピードが速いので、ビレッドの温度が下がりにくい | プレスのスピードが出にくい分、力が出る | |
加工品の特徴 | 精度 | 加工時の金型へのダメージが比較的少ないため、厚み公差を追及しやすい | 加工品の形状によっては、金型に負荷がかかるため、常に加工品の状態を確認しながら出力を調整する必要がある |
強度 | 勢いよく叩くので強度が増す | クランクプレスに比べて同等かそれ以上 | |
形状 | シンプルな形状に向いている。 形状が複雑な場合、鍛造スピ―ドの速いために、抵抗に負けて所定の厚みにまで押しきれない時がある |
複雑な形状に向いている。 深い彫やフランジ状に突起している部分など、深くまで材料を押し込む必要がある形状でも加工しやすい |
高精度を実現するバリなし鍛造

先ほど鍛造加工においてバリは重要だと伺ったばかりですが、バリをなくすことは本当に可能なのですか?
「バリなし鍛造では、バリを出すことの代わりに金型で押した上でパンチを勢いよく挿入することで材料を金型全体に行き渡らせます。バリなし鍛造の大きなメリットとしては、加工品の精度向上と材料の削減です」
「バリがほとんど出ないのはもちろんのこと、熱した棒材を押し切る切断方法により切粉が出ないので、さらに材料の節約になります。なんと3/8チーズにおいては材料を約48%削減することができます。一方、加工コストは他の機械に比べて高いので、コストに占める材料比率が高い製品ほどコストメリットが出やすいといえます」
「また、通常の鍛造法では上下の金型が合わさる時の反動で型の芯ブレが生じやすいですが、バリなしの場合は、プレスの構造上製品の外観の精度が高く、芯出し精度はレンジ±0.1以内に入ります。旋盤加工を施す際も軸ブレが少ないので切削精度が高まります」

<表3>バリなし鍛造に向いている特徴
項目 | 特徴 |
---|---|
サイズ・形状 | ・機械に適したサイズである(数百グラムまで) ・パンチを押し込める中空の形状である(ボールバルブなど) |
素材 | ・粘り気が少なく、展伸性がよい黄銅材に限る ・材料単価が高いものの方がよりメリットが出やすい |
開発ステージ | ・形状による制約があるので、設計など初期フェーズの方がよりメリットが出やすい |
生産数 | ・機械の立ち上がりに時間がかかるので、数はある程度あったほうがコストメリットが優位 |
「バリなし鍛造は、他の鍛造法に比べて新しく原理も複雑です。機械を導入するだけでは使いこなすことができません。日々、機械や加工品と真剣に向き合い、かすかな予兆も見逃さないことが最適な鍛造条件を見つけ出す秘訣です。弊社はこれまでの鍛造加工の経験を活用しつつ、新しい技術の習得にも力を入れています。鍛造加工の付加価値をさらに高めるために、今後も引き続きバリなし鍛造に力を入れていきたいと考えています」
スピードと信頼性の向上を実現する一貫生産システム
中野鍛造所では金型設計・製作から鍛造・切削・表面処理まで全ての設備を自社内に完備しています。
「切削の形状などによっては適切な外部の業者を選定し、連携して製作します。お客様は、複数の業者に分離発注する必要がなくなり、1オーダーで簡潔するので大幅な手間の削減になります。この時、品質の保証は弊社で行いますので、万が一不良が発生した場合の原因解明も弊社にお任せいただけます」

難易度の高い試作にも積極的に対応

工場内を案内いただく中で、鍛造加工に関するたくさんのノウハウが詰まっていることが分かりました。これらは製品開発の上流でより活かせることができるのではないでしょうか?
「確かに新しい部品の設計段階から加工の実現性や加工品の性質といった観点でアドバイスを求められたり、試作品の製作過程で改善を加えたいといったご相談をうけることは多いです」
「新しい製品部品の例としては、水素自動車のバルブの試作をお請けしたことがあります。プロジェクトのスケジュールもタイトだったため、1ヵ月で4種の金型を作成し、対応しました。
また、新しい素材を用いた鍛造加工の検証を行う案件もありました。アルミの特殊な材料を開発されているお客様で、素材の特性を調べるために様々な条件下で鍛造加工を行いました」
「我々は、規模の小さい組織ですが、常にある程度の余裕をもった工程管理をしています。組織としての機動性の良さを活かして突発な案件に対応できるようにしています。最短で10営業日で製作が可能です」
中野鍛造所では金型の製作に一点平均30万~40万円ほどかかるため、試作は50万円から提供しています。鍛造ラインを使用する時間に応じて金額は変動するとのことです。
今後の展望
「今後の製造業の潮流は多品種小ロット生産であることは間違いないでしょう。これは従来の鍛造加工の特徴とは必ずしも合致しません。これまでの量産を前提としたコスト構造からどのようにアジャストしていくのか、新しい加工手法にチャレンジしていくべきなのか、よりお客様のニーズをしっかりとつかまないと生き残っていけない時代に来ていると考えています」
「意外かもしれませんが、日本における鍛造加工の歴史は浅く、軍需製品の製造で確立された技術が民生製品に使われるようになったのは20世紀初頭くらいですが、非鉄金属の鍛造はもう少しあとです。これからますます鍛造加工業界を進化させるべく、高精度・短納期・多品種小ロットを追及し、お客様のハイレベルなご要望に応えていきたいと考えています」