産業用途での活用が進む注目の接合技術『マジックテープ(R)』の仕組みと実力に迫る

面ファスナーの代名詞とも言えるクラレファスニング株式会社の『マジックテープ』は衣料品をはじめとしたさまざまな製品に用いられ、私たちの生活の中でとても身近な存在となっています。しかし、その『マジックテープ』が、“これからの接合技術”の一つとして産業分野で存在感を増していることをご存じでしょうか?

“2本のテープがピタリとくっつき、着脱自在な「魔法のテープ」”が由来の『マジックテープ』。その「貼って、剥がせる」という特徴は、現在さまざまな進化を遂げています。

組立工程の簡便化、金属より軽量なプラスチックの採用による燃費向上、解体性を高めることによるリユース・リサイクルの推進といった、世の中の要請に応える技術として自動車・航空分野をはじめとしたさまざまな用途展開が期待されています。

面ファスナーがくっつく仕組み

はじめに、面ファスナーの原理について、その発明の経緯と共にご紹介します。

1948年、愛犬を連れて山奥の狩猟に出かけていたジョルジュ・デ・メストラル氏は、自分の服や犬の毛に沢山の野生ゴボウの実がくっついているのに気づきました。その実を持ち帰り、顕微鏡で覗いてみると、無数の鉤が衣服や犬の毛に絡みついているのを見つけました。この現象をヒントに、メストラル氏はゴボウの実の構造を応用し、特殊ナイロン糸を使用して、無数の鉤と輪で構成された面ファスナーを作り出しました。

面ファスナーは小さなループがびっしり並んだル-プ面と細かいカギ状になっているフック面の2枚1組で使います。2つの面を強く押し当てると、カギの部分がループに引っかかることで“くっつく”機能を実現しています。

分離可能な「接合部品」として進化した『マジックテープ(R)』

今回は、クラレファスニング株式会社 営業本部 新事業推進部 竹原氏にお話しを伺います。

────ご紹介いただく面ファスナーは、身近に接してきた“貼って剥がせる『マジックテープ』”とは一線を画すものだということですが、どのような点が異なるのでしょうか?

竹原:
まず格段に接合強度が向上しています。自動車の内装材をはじめとした大きな部品の設置にも耐えられるレベルに達しています。

<写真> 5kgの重りを保持する接合強度
<写真> 5kgの重りを保持する接合強度

────『マジックテープ』の簡単にくっつく機能はそのままに、ここまで強力に接合できれば、ボルトやネジといった金属接合部品にとって代わることができそうです。

竹原:
“強度”と一言でいっても、いろいろな種類があります。「自動車の内装材を固定する」という用途であれば、まずは高温下でも内装材が外れないような高い強度が求められます。

一方近年では、将来その自動車が“解体できる”ことも重視されます。つまり、内装材を「分離する」という行為も発生するわけです。この「分離する(剥がす)」際の強度(ピール強力)が強すぎると、簡単に剥がすことができず、しまいには自動車の内装材が壊れてしまうということがわかりました。

そこで、弊社の面ファスナーは面直及びせん断方向の強度は高いがピール強力は低いという性能を実現するため、フック形状および密度を変更することで調整しました。また、内装材を組み付ける際に位置調整し易いように、フックとループが触れてもすぐにくっつかない機能も付与しました。軽く触れてもすぐにくっつかず、それに反して軽く押すだけでしっかりくっつくという機能の実現に苦労しました。


────接合技術に求められる機能は「しっかりくっついて外れない」という点だけではなくなっているのですね。

竹原:
お客様と試作品を開発し、実際に使ってみると接合状態だけでなく、その前後の工程まで考慮する必要があるということがわかってきました。

自動車内装用途でみる分離可能な接合に求められる機能

<表>自動車の内装材の接合に求められる機能
<表>自動車の内装材の接合に求められる機能

────接合の前後の工程ではどのようなニーズを考慮しているのですか?

竹原:
自動車の内装材を固定する面ファスナーを例にご紹介します。まず、接合の際に位置調整ができるようにしたいというニーズがあります。大型のパネルなどを設置する際に意図しない位置で引っかかってしまい、作業効率が悪くなるという問題が発生していたのです。


────詳細な作業の内容まで入り込むと、さらに具体的に求められる要件が見えてくるのですね。
どのように対応しましたか?


竹原:
フックとループが軽く触れただけでひっかかってしまう原因を分析し、それを解消するために最適なフック形状・ループ構造を検討することで、解決することができました。

内装材などの面積の大きい部品の組立には特に有効な機能ですね。他にも住設機器やリフォーム分野への応用も期待できそうです。

次に、不織布との接合性を目指しました。通常の『マジックテープ』では、フックとループと両方を使用しなければなりませんが、不織布という汎用的な材料に直接接合できるということは、大幅なコスト削減になります。不織布がすぐに毛羽立って傷んでしまうのを防ぐため、小さくて細かい形状にし、最近の自動車で使用される不織布の粗さや硬さに適応するよう調整しました。

 <写真>自動車の座席足元のカーペットの固定にも『マジックテープ』が使用可能(写真はイメージ)
<写真>自動車の座席足元のカーペットの固定にも『マジックテープ』が使用可能(写真はイメージ)

竹原:
カーペットの場合は、他の内装材とは異なり、ずれにくさが求められます。こちらは、せん断強力と呼ばれ、水平方向の力に耐える機能が求められます。

また、接合対象への『マジックテープ』の取付も重要なポイントです。従来のような縫製による設置は手間になるだけでなく、表から縫い目が見えてしまい見た目も悪くなります。そこでお客様の樹脂製カーペット裏への熱溶着を可能にしました。他にも超音波溶着など、さまざまな手法を開発しています。自動車内装として用いられる場合は、耐熱性が求められますので使用する樹脂素材の選定も重要です。

形状と素材で求める機能を自在に設計

────ここまで、自動車内装材の事例をお聞きする中で、適した形状と素材(樹脂)を選ぶことで用途に応じた機能を実現することができるということがわかりました。
他にどのようなことができるのか詳しく教えてください。

形状の調整

竹原:
押し出し成形を応用した成形技術により、フックの数を増やしたり、形状を変えたりすることができます。フックの形だけでなく、ループの強度や密度を調整できるのも弊社の技術です。押出成形で形状・素材の自由度が高い『マジックテープ』として『マジロック』という商品があります。

<表> 形状の調整ポイント

調整ポイント モデル図 効果
フックの傘の長さ 強く押し込まない限り表面を滑らせることが可能。

一度押し込んだら分離しにくくなる。

フック表面が平滑であるためチクチクせず、他の素材を痛めにくい。

フックの傘の数 一つのフックにかかるループの数が増える分強度が増す。
フックの軸の角度 水平方向の一方向に働く力により接合。

もう一方に力をかけると音を立てずに簡単に分離できる。

フックとループの

組み合わせ

 

ループの密度・形状が異なる複数種のループ材との組合せにより、強度(係合力)調整や位置決め機能の付与が可能。

竹原:
衣料品など着脱性が求められる用途では、“音を出さない”というニーズもあります。
ハンティンググローブ、軍需用途、コルセット等、フックの軸の角度を調整することで、一定方向への力をかければ、ビリビリと音を立てることなく、簡単に外せるタイプが用いられています。

他にも表面が滑らかなタイプの製品はストッキングを傷めないので女性用の靴に使われています。


────着脱頻度が高い用途では、異なる機能が求められるのですね。これからは医療介護用品への適用も期待できそうです。

素材の選定

竹原:
弊社は面ファスナーの設計・成形技術だけでなく、クラレグループとして樹脂材料の分野でも技術・ノウハウを持っています。使用環境に応じて求められる性質に応じた素材を選定しています。

<表>使用環境に応じた素材選定

求める性質 素材(樹脂)例 用途例
耐熱性 ポリフェニレンサルファイド(PPS) 自動車
耐水性 ポリエステル系樹脂(PET・PBT) 住宅水回り

医療現場

耐湿性 ポリエステル系樹脂(PET・PBT)
耐薬品性 ポリフェニレンサルファイド(PPS)
難燃性 ポリフェニレンサルファイド(PPS) プラント・航空宇宙

竹原:
弊社の『マジックテープ』商品の一つである耐熱タイプは、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維なので、従来のマジックテープの耐熱性190℃に対し、250℃まで耐えることができ、耐酸性・耐アルカリ性にも優れています。工場の配管を温めるジャケットヒーターという機械に使用されています。また、難燃性もあるので航空機の内装固定にも採用されました。

係合力の維持や洗濯時の糸のほつれによる耐久性の低下を防ぐために、従来品ではフックやループを目止めするバックコート剤としてポリウレタン系樹脂が裏面に使用されることが一般的でした。しかし、今回バックコート剤を用いず、フック部・ループ部・基布部の殆どすべての糸をPPSに変更した、PPS繊維主体の製法を確立したことで、バックコート剤の弱点であった熱劣化・可燃性も解消しました。

竹原:
さらに自己消火性があり、自動車用燃焼性試験(FMVSS-302 水平法)、航空機用燃焼性試験(FAR. PART25.853b 垂直方)に合格しています。

 <図>住宅の浴槽パネルの接合にも『マジックテープ』が使用可能
<図>住宅の浴槽パネルの接合にも『マジックテープ』が使用可能

竹原:
耐水・耐湿性や耐薬品性が求められる住宅の水回りにも『マジックテープ』が使用されています。耐水性と耐薬品性に優れるポリエステルが採用され、さらにウレタン系のバックコート剤を使用していないので、浴槽パネルやトイレ便器側面(止水栓格納スペース)の樹脂パネルの取り付けなどといった水回りの用途に使用できます。

お客様の求める仕様に近づける『マジロック(R)』と『モールドマジック(R)』

竹原:
弊社の『マジックテープ』製品群には、押出成形技術をベースとし、形状をカスタマイズできる『マジロック』の他にも、材料選定の幅が広い『モールドマジック』という商品もあります。それぞれ異なる製法で製造されます。

この2つを開発することで、形状と材料の多様性を持たせ、様々な用途に対応できるようになりました。

────特殊な接合用途の面ファスナーを求めている場合、どのような流れで開発が進められるのでしょうか?

<図>カスタマイズの流れ
<図>カスタマイズの流れ

竹原:
まず、お客様の求める面ファスナーの使用用途と、求める機能をヒアリングし、既存商品のなかから要件に近いものをご紹介します。

次に、実際の用途で使用していただき、足りていない要素を洗い出していただきます。その内容を基に、素材・形状について設計変更を行い、試作品を製作します。所要時間は設計から試作品製作までで、1.5ヶ月程度です。

その後、再度要件を満たしているか検証を行っていただきます。このサイクルを回すことで、最終的にお客様の求める商品を開発します。


────PDCAを回し、お客様の分野の“接合シーン”に対応しながらこれからも進化していくのですね。

竹原:
これまでお客様からニーズをいただき、それに応えることで新しいものを生み出してきました。特殊な案件であるほど、お役に立てると考えています。まずはお気軽にご相談いただければと思います。

まとめ

<図>さまざまな分離可能な接合用途
<図>さまざまな分離可能な接合用途

今回面ファスナーの最新技術についてお聞きする中で、“接合”を多面的に捉え、さまざまな機能を備えた面ファスナーの奥深さを知りました。

自動車の内装だけでも、シートの組立、天井材、カーペットなど幅広く活用でき、さらには耐熱・難燃性を活かしてエンジンルーム内などにも展開が可能だと考えられます。

面ファスナーは、自動車同様に接合強度・耐久性が求められ、分離頻度の低い航空宇宙の分野はもちろん、着脱性が求められ、分離頻度の高い身近な衣料品に至るまで、幅広いシーンで活用できる可能性を秘めているのではないでしょうか。

クラレファスニング株式会社

クラレグループの一員として2004年に設立。織製面ファスナー「マジックテープ」、成形面ファスナー「マジロック」、その他面ファスナー関連商品の製造・開発・販売を行う。業界のリーディングカンパニーとして新しいテクノロジーイノベーションに挑戦し続けている。基本性能の向上と環境対応を両立した、日本生まれの新世代テクノロジーと国内生産による高い品質管理、安定供給が強み。織物の産地で有名な福井県坂井市の恵まれた環境の下、同地で長年蓄積された生産技術とクラレグループ独自の革新的なテクノロジーを融合させ、日本初の技術によって作られた製品を、世界のマーケットへ供給している。

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