エレクトロニクスデバイスを構成する微小金属材料の物性評価~応力測定に関わる各種試験手法を解説

エレクトロニクスデバイスやマイクロマシンでは、半導体プロセスを利用しマイクロメートルオーダーの微細な構造が作りこまれています。これら構造は、薄膜の積層・エッチングなどの高度な加工技術で実現されます。しかし、個々の材料の寸法が小さく、異種接合の状態であるため、従来の機械工学と異なる材料物性の評価が必要です。本記事では、微小材料と総称される金属における材料物性の評価手法を解説します。

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材料物性評価試験

材料物性評価試験には以下の種類があります。ここではこれらの概説をします。

<材料物性評価試験>

方 法 評価対象
 引張試験  弾性係数、降伏応力、破壊応力
 曲げ試験  弾性係数、降伏応力、破壊応力
 共振試験  弾性係数
 バルジ試験  弾性係数、内部応力、付着強度
 超音波音速測定  弾性係数
 微小押込み試験  弾性係数、硬度

引張試験

微小な変位・荷重を計測・制御することが可能な試験機を用いて引張試験を実施し、得られた応力−歪曲線から、縦弾性係数やポアソン比ならびに降伏応力、破壊応力を求めます。

直接的な機械的特性試験として重要ですが、微小な試験片の壊れやすさや試験機への試験片設置時の精密なアライメント設定など取扱いの困難さ、試験片形状、特に厚さの正確な計測および微小試験片に生じる歪み計測の困難さがあります。

これらの問題を解決すべく試験機の駆動系、変位計測系、試験片取付方法について種々の方法が提案され、改良が続けられています。さらに、試験片のまわりに引張りの機構を作り込んだチップによる試験方法なども開発されています。

曲げ試験

異方性エッチングや犠牲層を用いたエッチングにより作製した柱状の試験片に曲げ荷重を作用させ、荷重−変位関係から弾性係数や降伏応力、破壊応力を求めます。

二つの支点上に試験片を設置してその中央に荷重をかける三点曲げ試験と、片持はりを形成し端部に微小荷重を与える片持はり曲げ試験があります。後者は1回のエッチングで多くの試験片を作製可能である一方、固定部における力学的な境界条件が不明瞭であることが欠点です。いずれの場合においても、基板上に薄膜を形成し、これを組合せ、はりとして試験することによって薄膜材料の評価を行います。

共振試験

片持はりや両端固定はりとした試験片に静電引力、レーザー光照射による熱歪や空気圧変化を利用して加振を行い、共振周波数を計測します。このとき、はりの共振周波数についての解析解を利用し弾性係数を求めることができます。

組合せはりとして試験し基板上に形成した薄膜材料の評価も可能です。静的曲げ試験と比較すると、正確な計測が困難な試験片の厚さに依存しにくく非接触な測定が可能である一方、はりの固定部における力学的境界条件が不明瞭であり、また雰囲気による振動減衰の影響が大きい場合には真空中での試験が必要になります。

バルジ試験(bulge test)

円形や正方形、長方形の穴のあいた基板上の薄膜材料をダイヤフラムとしてその片側に一定の圧力を与え、得られた膜の膨らみ(バルジ高さh)と圧力の関係から縦弾性係数や内部応力、ポアソン比を求めることができます。また膜が破裂する際の強度や基板と剥離する際の付着強度を評価することも行われています。

<図1>バルジ試験による材料物性評価イメージ
<図1>バルジ試験による材料物性評価イメージ

超音波音速測定

水晶振動子に独立薄膜の試験片を垂直に設置し、超音波パルスが試験片中を伝播して端部より反射して戻ってくる時間から音速を計測します(パルス反射法)。縦波および横波の伝播速度から、縦弾性係数およびせん断弾性係数を独立に求めることができます。また表面波を利用して基板上の薄膜の弾性係数を計測することも行われています。

微小押込み試験

微小圧子を従来の硬さ試験よりも小さな荷重で材料に押込み、負荷時と除荷時の荷重-変位の関係を計測して硬さ、弾性係数を求めます。特に微小なものとしては、原子間力顕微鏡をもとにした押込み変位量nm、押込み荷重サブμNオーダーのナノインデンテーション(nanoindentation)装置が開発されています。薄膜材料の評価に広く用いられていますが、押込み時の基板の影響を除くため押込み深さは膜厚に対して十分小さくなければなりません。

内部応力評価試験

基板の反り

測定基板上に薄膜を形成すると薄膜の内部応力により基板に曲げ変形が生じます。このときの基板の曲率を計測することにより、薄膜材料の内部応力を求めることができます。片持はり上に薄膜を成膜し、これによる組合せはりの反り変形から評価することも行われています。

ラマン分光法(Raman spectroscopy)

応力作用下での結晶格子振動の周波数変化を利用した応力測定法です。レーザー照射によるラマン散乱光の周波数ピークの移動を計測しますが、顕微光学系を用いることによりレーザースポット径をμmオーダーまで絞ることができるため、微小領域の内部応力の評価によく用いられます。高空間分解能、非接触評価という特徴に加えてin-situ計測(その場計測)が容易に可能ではありますが、その測定対象が結晶性の材料に限られ金属材料についての計測が困難です。

X線回折法(X-ray diffractometry)

応力作用下の結晶格子面間隔の変化に起因したX線回折角の変化を利用した応力計測法です。多結晶薄膜材料に関しては通常の材料と同様に試料表面に対して傾斜角ψをもつ格子面での回折角θを計測し、2θとsin2ψの線形関係を得てその傾きから応力を求めます(sin2ψ法)。また、非常に薄い膜を対象とする場合はX線の入射を低角度とし、回折角を直接評価する方法も用いられます。

非接触での応力評価が可能である一方、測定対象が結晶材料に限られ、またX線の照射スポットサイズを絞ることは難しいためラマン分光法に比べて空間分解能が劣ります。

<図2>X線回析角の変化を利用した応力測定法の原理(並傾法)
<図2>X線回析角の変化を利用した応力測定法の原理(並傾法)

基板分離後の薄膜変形計測法

薄膜と基板を分離し、内部応力の解放後の変形を利用して内部応力を評価するものです。特徴として、測定する変形量が小さいため一般に精度が悪いことがあげられます。次の2種類の変形を計測する方法があります。

伸縮計測

片持はりは、T型やH型に形成された試験片の基板分離後の長さ変化を計測することにより内部応力を評価します。

座屈計測

犠牲層エッチングにより種々の長さの両端固定はりを同一の薄膜状材料に形成し、はりの左右から力を加えます。圧縮の内部応力が存在する場合には特定の長さ以上のはりで座屈が発生するため、この臨界長さを求め座屈発生の臨界条件から内部応力を評価します。

<図3>座屈計測による内部応力評価イメージ
<図3>座屈計測による内部応力評価イメージ

薄膜の付着強度評価試験

薄膜−基板間の付着強度の評価は、バルク材の表面に耐摩耗性に優れた薄膜をコーティングする際や複数の薄膜材料でマイクロマシン等を構成する際に重要です。現在用いられている評価法が下記に示されていますが、これらは簡便である反面、測定対象とする物理量が不明瞭であり、慣例的な評価法として用いられるにとどまっています。

粘着テープ試験

基板上に形成した薄膜表面に粘着テープを接着してこれを引きはがします。薄膜がテープについて基板から剥離するか否かで付着の善し悪しを判断します。

スクラッチ試験

圧子等を薄膜に接触させ薄膜表面に対して平行に移動します。このとき徐々に押付け荷重を増加させ、薄膜剥離時の臨界押付け荷重を付着強度として評価します。

ロッド引きはがし法

ロッドを薄膜表面に接着した後、ロッドに荷重を与えて薄膜を引きはがします。この方法では薄膜剥離時の臨界荷重を付着強度として評価し、種類としては表面に垂直な荷重で引っ張る方法と、平行な荷重で倒す方法の2種があります。

圧子押込み試験

基板上の薄膜に圧子を押込む際に、分断された薄膜が左右に押されることで発生する剥離を利用する方法です。押込み荷重に対する剥離領域の大きさの関係を計測し、その勾配の大小で付着強度を評価します。

<図4>圧子押込み試験による付着強度評価イメージ
<図4>圧子押込み試験による付着強度評価イメージ

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