ものづくり企業が医療機器業界に参入する極意とは?(2)〜Webミーティングのすすめ

INTERVIEW

一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ
専務理事
柏野 聡彦

ものづくり系の企業が医療機器業界に参入するのはそう簡単なことではありません。使用する言葉も違い、コミュニケーションの方法も異なります。また許認可のハードルも存在します。前回は、参入のポイントやプロモーションの方法をご紹介しました。今回も引き続きをそのポイントを一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ専務理事の柏野聡彦(かしのとしひこ)氏に話を伺います。


▽前回の記事

仲間の技術も紹介してアピール

────これまで自社アピールの方法として、「文字より写真で見せる」「医療での応用イメージを見せる」と伺いましたが、ほかにもありますか?

柏野:
はい。 “医療現場との繋がりを見せる”ことですね。もし、地元の医療機関や医療者との共同研究を行っているのでしたら、医療機関名や開発品の種類など、知財や秘密情報に留意して差し支えのない範囲で提示するとよいでしょう。

その分野の医療機器メーカーが興味をもって質問してくると思います。「先生は医療機器メーカーとのディスカッションを希望しておられますので、よろしければ一度、ミーティングをセットさせていただきましょうか?』といったかたちでコミュニケーションが始まることが多いですね。



────医療機関や医療者は医療機器メーカーにとって大切なお客様ですから、医療現場との繋がりを示せば、医療機器メーカーに関心を持たれるということなのですね。

柏野:
そうですね。最近は全国の自治体が大学病院などと連携して臨床ニーズマッチング会を開催していますので、そういうイベントへの参加を重ねることで、ものづくり企業が医療現場との繋がりを作り出すということもできるようになってきました。



────そのようなイベントではほかにもポイントがありそうですね。

柏野:
そのほかのポイントとして “仲間の技術を見せる”というものがあります。医療機器メーカーとものづくり企業とのマッチングを多数手がけておりますと、ある傾向に気づきます。

それは、多くの医療機器メーカーに採用されている技術は他の医療機器メーカーでも採用されやすいという傾向です。簡単にいえば“実績が実績を呼ぶ”ということです。このような傾向があるのでしたら、これを医工連携のメカニズムとして活用すればいいんです。

ものづくり企業の皆さんは、仕事を紹介しあう関係にある仲間がいると思います。その仲間の技術のうち、「医療分野での採用実績が豊富な技術」で、かつ「自社技術の前後の工程で使われる技術」があれば、それをポスターなどに掲載するということです。

たとえば、自社が金属加工の会社だったとして、仲間の会社がもつ“刃付け技術”の写真を、仲間の許可を得てポスターに掲載します。そうすれば、医療機器メーカーが“刃付け技術”の写真を見て「こういう技術があるんですか?」と関心をもってくださって、「これは仲間の技術ですので、当社からすぐにご紹介できます。それでどんなお話でしょうか?」と、コミュニケーションが始まります。



────医療機器メーカーとの関係づくりのために、ものづくり企業仲間の関係づくりも重要ということでしょうか。興味深いですね。

柏野:
異業種交流会のようなものを地元で開催し、仲間づくりを進めることの重要性に目を向けていただきたいと思います。医療分野に取り組むという目的を共有している仲間をつくり、その仲間たちと情報共有しながら進めることが効果的で持続的な取り組みに繋がるのではないでしょうか。



────医療機器産業へアピールするプロモーションのスキルを学ぶ機会もあるのでしょうか。

柏野:
医療分野でのPRスキルアップのためのワークショップが、2017年に、全国に先がけて川崎市の事業で実施されました。医療機器産業に参入意欲のある地元企業に対し、川崎市がプロモーションの方法についての無償の勉強会を始めたわけです。この取り組みは非常に参考になると思います。講師は、医工連携に熱心な医療機器メーカーに所属する2人(株式会社フジタ医科器械、株式会社常光)と私の3人です。川崎市内の企業5社が参加しました。

あと、ご参考ではありますが、私が立ち上げた「株式会社考える学校」では人材育成サービスのひとつとして「医療機器メーカー向けPRスキルアップ研修」を実施しております。

Webミーティングを活用しよう!

────では、医療機器産業で自社のビジネスを構築していくためになにが必要でしょうか。

柏野:
医療機器は十分な収益をもたらす事業として育てるまでに時間のかかる分野だと思います。それまでの間は小さな投資で小さなリターンを得るような取り組みの繰り返しが重要になってきます。大きな投資をすれば、大きな見返りを期待しますが、同時にリスクも大きくなります。そこで息切れしてしまうことも多いでしょう。そこそこの投資、そこそこのリターンで、いくつもの仕事を平行して継続して積み上げていくと、やっているうちに良い仕事にぶつかると思います。良い仕事は、偶発的な出会いによるところが大きいように思います。

そこで3つ目のポイントですが、異業種から参入する企業が医療機器メーカーとマッチングした後に、医療機器メーカーとのコミュニケーションを持続させ、企画を進めていくために、Webミーティングを行うことをお勧めしています。

なぜなら、全国の医工連携を見ておりますと、医工連携のプロジェクト化や受発注を阻害している最大の要因は、どうやらマッチング後のフォローアップのコスト、主にコミュニケーション・コストにあると感じられるからです。

医工連携では、医療現場、ものづくり企業、医療機器メーカー、コーディネーターなど多くの関係者が関わり、しかも広域連携することが少なくありません。たとえば、青森の企業と東京の企業とが連携することをイメージしていただけたらと思います。青森から東京へ出てくるだけで1日仕事になってしまいます。その人件費や交通費は大きな負担です。打ち合わせは1回で済むとは限らず、多くの場合、複数回必要になります。その案件が受注に繋がるかわからない段階で、この負担を負い続けることは難しいと思います。

私はプロジェクトを本気で進めるのであれば、長くても3週間に1回は関係機関によるミーティングをやるべきだと考えています。3週間くらいのインターバルだと前に打ち合わせした内容を覚えているんです。その程度の間隔で打ち合わせをして、それぞれの進捗状況を確認しあうべきだと考えています。

ところが、青森と東京ほど離れた企業が3週間に1回、物理的に集まって打ち合わせをするというのは不可能に近いでしょう。どうしても4週間(1か月)、あるいは6週間(1.5か月)くらいのインターバルになるのではないでしょうか。
コミュニケーションを3週間程度のインターバルで継続させ、プロジェクト化や受発注に向けて育てていくためには、コミュニケーション自体にかかる人件費や交通費などのコストを下げることが重要になってきます。

そこで、Webミーティングです。これを使えば、コストと労力の大きな削減になるんですね。最近は、ようやく実用レベルで高額でない、たとえば、ZoomのようなWebミーティングツールが出てきましたので、これを利用することをお勧めしています。

すべての打ち合わせをWebミーティングでできるとは考えていないのですが、Webミーティングで対応できる打ち合わせはないか? と検討していただく意義は大きいと思います。

Webミーティングにより生じた余力で、打ち合わせのインターバルを短くできますし、案件の数を増やすこともできます。医工連携に“成功率”という確率があるとすれば、案件の数を増やすことによって成功の数を増やすことができるという考え方もできます。

また、Webミーティングによって物理的距離のハンデが解消されれば、地方の良さが顔を出してくるんですね。地方は人件費も土地も安いですし環境もいいですから、Webミーティングをしているうちに、そうした地方の利点を強く感じるようになってくる。逆にいえば、地方の良さを引き出して医工連携を活性化させるためには、行政が主導してWebミーティングを使う環境を整えることも重要だと考えています。

Webミーティングにはコツがあるという柏野さん。全員が1台ずつPCを使って画面情報を共有し、一人ひとりヘッドセットを使ってクリアな音声でやり取りすることをお勧めするとのこと。できれば、照明(ライティング)にもこだわれば実際よりも相手も自分も元気に見え、ミーティングが活気づくそうです。

さて、これまで掲げた3つのポイントを整理すると、まず医療機器ビジネスがよくわからないうちは医療機器メーカーと組むという考えがあるということ、医療機器メーカーと知り合うために自社の技術をうまくアピールすること、最後に医工連携のコストを下げるためにWebミーティングを活用することです。

柏野さんが余談として話してくれたのですが、金属部品加工を行う会社が医療機器メーカー向けに作成したポスターを新卒採用のときに配ったところ、学生の反応が良くなり採用の質が上がったそうです。最近はドラマなどでも医療をテーマにしたものが多いので、社会貢献をしたいという気持ちが強い若い人に訴求したのではないでしょうか。医療機器向けに作ったポスターが採用活動で力を発揮するという面白い事例です。



最後に柏野さんのメッセージをお送りします。

「現在、国内の医療機器産業は欧米に押されている状況ですが、地道に一つひとつ小さく陣地を広げていくことで、気が付けば日本企業が大きな存在感を出している状況に至るのではないでしょうか。日本の会社と欧米の会社とが切磋琢磨して、世界の医療の進歩を加速させていくことが大切だと思います」

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文/石田雅彦

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