ものづくり企業が医療機器業界に参入する極意とは?(1)〜参入を叶える3つのポイント

INTERVIEW

一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ
専務理事
柏野 聡彦

日本の医薬業界、とりわけ医療機器産業は、ソフトもハードも長く欧米主導で国内産業の出番はなかなかありませんでした。しかし、最近になって医工連携や産学連携による医薬品などの開発成果が全国各地から上がり始めています。特に、日本の得意技ともいえるものづくり企業と医療機器業界が手を繋ぎ、刺激的で興味深く、しかもビジネス的に成功を収める事例が増えているのです。

こうした動きの背景にあるのは、国や都道府県、自治体など行政が中心になって進めるコンソーシアムなどが次第に形を見せてきていることも大きいのですが、せっかくの技術がもったいない、国内産業をどうにかしたい、医療機器業界に関与して社会貢献したい、というような個人的な熱意やエネルギーが原動力になるケースも少なくありません。

一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ専務理事の柏野聡彦(かしのとしひこ)氏もその一人。医療の臨床現場とものづくり企業を医療機器メーカー(製販)が橋渡しする医工連携のビジネスモデルを提唱し、各地で事業化の成功事例が現れてきています。その極意を医工連携の動きの渦中でエネルギッシュに活動する柏野氏に伺いました。今回はその1回目です。


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医療機器産業へ参入する3つのポイント

────柏野さんが専務理事をされている日本医工ものづくりコモンズというのはどういう団体なのでしょうか。コモンズというのは「共有地」という意味ですが。

柏野:
2009年11月に医学系と工学系の学会などが連携して発足した任意団体が母胎になっています。理事長は、国際医療福祉大学の副理事長・名誉学長で日本の外科のトップリーダーである北島政樹先生です。北島先生が中心になり、医工学、ロボット工学など高い見識をもつ先生方が中立的なお立場でみんなが参加できる共有地、コモンズを作ろうということで立ち上げられた組織です。異分野の価値観を共有・融合させ新たな価値・アイディアを創出するプラットフォームをつくりあげようという活動をしています。



────柏野さんはどういった経緯で日本医工ものづくりコモンズに関わられたのでしょうか。

柏野:
私は筑波大学の工学系の大学院で学んだ後、銀行系のシンクタンクに勤め、ヘルスケアや医療機器関連の調査研究やコンサルティングの仕事に関わっていました。コモンズには、発足後しばらくしてから参画しました。コモンズはアカデミアの人が中心なのですが、工学・医学のアカデミア的なセンスにビジネス的なセンスを加える必要があるということで、慶應義塾大学名誉教授、コモンズの副理事長の谷下一夫先生にお誘いいただいて参加しました。

また、「みんなが参加できる場」としてのコモンズをつくっていくのでしたら、行政の枠組みとうまく連動させて調和の取れた仕組みとするとよいと考えておりました。私はシンクタンクの仕事として行政の産業政策や地域の仕組みづくりに多数関わった経験がありますので、政策的なセンスでコモンズを考えることも仕事の1つだと考えています。

現在、日本各地で行政主催の医工連携イベントが開催されておりますが、このように、行政の事業となることで、継続的に予算が計上され、地域の仕組みとして根付いていくのだろうと思います。



────ものづくり企業の中には、医療分野への参入はなかなか敷居が高いと二の足を踏む場合も多いようですが、どうやったらうまくいくのでしょうか。

柏野:
これまで医療分野と関わってこなかった企業さんが参入し、プロジェクトを持続的に進め、最終的に成功させるために私は3つのポイントがあると思っています。

まず、医療機器の業界は特殊な領域なので、わからないうちは医療機器のことを熟知した相手と一緒にやることです。つまり、医療機器メーカーという製販企業と組むことが1つ目のポイントになります。

2つ目はPR、自社アピールの仕方を工夫することです。医療機器メーカーとスムーズに連携するには、自社の得意分野や特徴などをシンプルにわかりやすく訴えかけるプロモーションが重要になります。例えば、ポスターの作り方ひとつで、最初のコミュニケーションを始められるかどうかが決まります。

最後のポイントは、コミュニケーションを低コストで継続させるために、Webミーティングによるコミュニケーションが重要になりますね。

製販企業である医療機器メーカーと組む

────1つ目の医療機器メーカーと一緒にやるというのはどういうことでしょうか。

柏野:
医工連携は、つきつめればコミュニケーション、つまり対話なんですね。だから、言葉が通じることが大事なんです。

シンプルに、まず医工連携では「医療者」、「医療機器メーカー」、「ものづくり企業」の3人のプレイヤーがいると考えてみましょう。医療者と医療機器メーカーの両者は医療分野という専門性が共通していますので言葉が通じます。次に、医療機器メーカーとものづくり企業の両者は営利企業という属性が共通していますので言葉が通じます。したがいまして、3人のプレイヤーを「医療者」→「医療機器メーカー」→「ものづくり企業」の順番でつなぎますと、言葉が通じて、円滑に連携できるということです。

この順番を「医療者」→「ものづくり企業」としてしまいますと、両者の共通点が少なく、相互に言葉が通じない状況になるわけです。共通言語がなくて言葉が通じないのに仕事を進めようとするから、なかなか参入できなかったり、せっかくプロジェクトが始まっても途中で頓挫したりするんです。

医療機器メーカーと一緒にやるというのは、医療現場が抱える課題とものづくり企業の技術とを効率的・効果的に繋ぐための工夫といえるのかもしれませんね。



────医療機器業界への参入には許認可のハードルも大きいのではないですか。

柏野:
おっしゃるとおりです。その点でも医療機器メーカーと組む意味があります。ご存知のように医療機器ビジネスは医薬品医療機器等法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に従って行わなければなりません。自社が医療機器ビジネスとどのような関わりを持つのかによって、各々異なる業認可が必要になります。

つまり、医療機器のブランドメーカーであれば「医療機器製造販売業」、医療機器メーカーからの指示をうけて製造する企業であれば「医療機器製造業」、医療機器を医療機器メーカーから仕入れ医療機関に届ける業態であれば「医療機器販売業」といった具合です。さらに、取り扱う医療機器製品に応じて求められる基準を満たし、届出、認証、承認などの許可を得る必要があります。

もし異業種から参入する企業が単独で医療機器を製造販売しようとすれば、自ら医療機器製造販売業の業許可を取得しなければならず、業許可を取得して維持するための人材確保を含めたコストは大きなハードルといえるでしょう。

逆に、医療機器メーカーと組むことができれば、医療機器製造販売業の業許可は医療機器メーカーがもっているものを使えばよいということになります。法規制に関わるハードルをグッと下げることができます。医療機器ビジネスのことがわからないうちは、医療機器ビジネスを熟知した医療機器メーカーと組むことで、ハードルを下げ、コストを抑えて、取り組むことが大切といえます。

医療機器メーカーに売り込むプロモーションとは?

────しかし、その医療機器メーカーと関係を構築するのも門外漢のものづくり企業にとって難しいことなのではないでしょうか。

柏野:
そうですね。全国を回る中、私は医療機器産業へ参入したいというたくさんのものづくり企業の話を伺ってきました。その多くが医療機器産業で十分通用する技術を持っているんですが、その企業の良さが医療機器メーカーにうまく伝わっていないんです。

自動車産業に売り込んでアピールする言葉と、医療機器メーカーにアピールする言葉とは異なります。どうやって自社の技術や良さを医療機器メーカーに伝えたらいいのかわからない、プロモーションの方法がわかっていないんじゃないかと実感することが多いんです。



────医療機器産業へアピールするプロモーションの方法について、具体的にポイントを伺うことはできますか。

柏野:
展示会用のポスターの場合、見せ方が非常に重要です。まず “文字より写真で見せる”ことです。大きな写真で目を引き、興味を持ったお客さんが近づいてきたときにより詳しい内容を伝えるほうがいいでしょう。まずはビジュアルです。



────シンプルですが、確かにビジュアルが重要という点は共感します。そのほか、どのようなポイントがありますか。

柏野:
次に“医療での応用イメージを見せる”ことです。医療機器の試作品や部品などがあるのでしたらその写真を掲載してもよいでしょう。部品の場合、発注元の企業から写真掲載の許可が下りないことがあるかもしれません。そのときには、十分にデフォルメしたイラストを掲載することはできるのではないでしょうか。

医療機器の試作や部品供給の実績がない企業は、検索サイトの画像検索機能を使って「医療機器 樹脂」などと検索し、「こういうデバイスに自社技術を使ってほしいな」と思えるデバイスを選び、それを十分にデフォルメしたイラストを掲載してもよいと思います。

そのデバイスを取り扱う医療機器メーカーの方が「こういうものを開発されているのですか?」といったかたちで興味を持っていただければ、「こうした分野に力を入れていきたいと思っています。何かお困りごとはありますか?」と、コミュニケーションが始まります。



────医療分野での実績がなくても医療分野の応用イメージを提示することはできるということですね。

柏野:
大切なことは、ポスター上で「当社の技術はこう使えると思っていますが、どうですか?」という提案型のメッセージを発信することなのです。たとえ実績がなくても、そのような見せ方をしたほうがコミュニケーションは円滑になります。

逆に言えば、技術紹介に偏重し、「当社の技術がどの医療機器にどう使えるのか教えてください」というメッセージしか発信していないという状況は避けましょう、ということです。



柏野さんの話は非常にわかりやすく私たちに伝わってきます。通常私たちは自分たちの業界のやり方だけでプロモーションをしがちですが、やはり相手に伝わらなければ意味がありません。相手に伝える方法はまだまだありそうです。この続きは次回でご紹介しましょう。



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文/石田雅彦

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