バルブ製造技術を宇宙に生かす愛知の老舗企業〜愛知の航空宇宙産業④

INTERVIEW

高砂電気工業株式会社
代表取締役社長
浅井 直也
第二事業部開発課航空宇宙 グループリーダー
井上 昌彦

愛知県では航空宇宙産業の特区があるなど裾野の広い産業クラスターが形成されています。そんな中、2019年に創業60周年を迎える、医療用機器向けの電磁弁や流体機器の中堅専門メーカーとして国内外で高い評価を受けてきた高砂電気工業も航空宇宙分野へ意欲的に進出しようとしています。その戦略を浅井社長はじめ担当者の方にお伺いしました。

▽愛知の航空宇宙産業特集

医療用から航空宇宙へ

我が国の産業界で、中小企業は欠くことのできない存在です。その中には国際的な競争力を持っている企業も少なくなく、自社が培ってきた技術をベースに他業種へ参入することも珍しくありません。

愛知県名古屋市緑区に本社を置く高砂電気工業株式会社は、2019年に創業60周年を迎える、電磁弁や流体機器の中堅専門メーカーとして国内外で高い評価を受けてきた企業です。従来は医療用機器や環境関連の測定装置が中心事業だった高砂電気工業も航空宇宙分野へ意欲的に進出しようとしています。

極小のバルブを、専用の加工ツールで一つひとつ高精度に加工し、金型を使わず少量多品種に製造できるのが同社の特徴です。試作品などについて顧客の要求に丁寧に応じ(個別設計、カスタマイゼーション)、小型化軽量化(ミニチュアライゼーション)とそれらを統合する(インテグレーション)の三つの技術に強みと活路を見出してきた同社の浅井直也代表取締役、航空宇宙グループの井上昌彦グループリーダーに他業種へ進出する難しさと経営戦略についてお話を伺いました。

高砂電気工業株式会社 代表取締役社長浅井直也氏
第二事業部開発課航空宇宙グループリーダー井上昌彦氏

医療分野と航空宇宙産業分野はよく似ている

────医療用の電磁弁などで高い評価を受けている御社は、なぜ航空宇宙産業分野へ進出しようと考えたのでしょうか。

浅井:‌
弊社ではバルブ、つまり電磁弁や流体制御技術を使った製品が主な事業になっていますが、これらは主に分析装置に使われています。少量の試料に対して少量の反応試薬を加え、反応を調べて、X線などによる光学的な計測結果を分析するもので、基本的な原理はどれも大きく違いません。

弊社としては医療診断装置、環境評価のための水質分析装置、排気ガス分析装置、液体クロマトグラフといった機器に使われるバルブを作っている意識です。こうした分析装置に使われるバルブの売上げは約8割にもなっています。

もし将来、例えばドライ分析の技術が格段に進化発展するなど、大きなイノベーションが起きてバルブやポンプが必要のない状態になった場合、経営が危機的状況に陥ってしまうのではないかという意識がありました。分析装置以外の市場開拓はずっと経営的な課題であり、弊社の持つ技術を応用できる分野を探し続けてきた結果、航空宇宙産業にいきついたというわけです。


────航空宇宙産業分野は、参入障壁が高いというイメージがありますが。

浅井:
‌弊社の場合、リスク予測、品質管理、トレーサビリティ、工程管理などに厳しい認証が必要な医療分野で長くお仕事をさせていただいてきました。実は、医療分野での認証制度は、型式証明取得の難しい航空産業とよく似ています。

医療診断などに使われる分析装置は、薬機法の関係で他の製品より品質管理の要求が一段上がります。医療分野や航空産業は、参入障壁は高いのですが、逆にいえば入ってしまえば安定的に守られるわけで、弊社は医療分野でこうした成功体験をすでに持っていたことも大きかったと思います。また、少量多品種という弊社の特徴も航空宇宙産業にうってつけでした。航空機に何万個もバルブが必要ではありませんが、多種多様なバルブを少しずつ使うからです。

さらに、医療用の分析装置メーカーは、ロシュ(スイス)、シーメンス(ドイツ)、アボット・ラボラトリーズ(米国)が世界市場の大半を押さえています。弊社はこれら海外の顧客とお取引させていただいており、これはそのままボーイングとエアバス、ボンバルディア、エンブラエルといった巨大OEMとスーパーTier1(ティアワン)といわれる大手機材サプライヤーなどの寡占状態にある航空業界の構造に当てはまります。


────逆に分析装置の分野と航空機分野で違うところはありますか。

浅井:
‌産業構造の内部の階層、レイヤーの多さが違います。航空機産業はかなり多く、例えばOEM(Original Equipment Manufacturer)のボーイングの下にスーパーTier1やTier1、Tier2、Tier3と呼ばれる企業群や大中小の企業がピラミッド式に位置しています。

このレイヤー構造も多様性があり、MRJの場合、将来は国産化を目指しているようですが、現状、三菱航空機がOEMになっているわりに、レイヤーが一つ下がると途端に海外製が多くなります。一方、ボーイングの場合は一つレイヤーが下がれば、例えば油圧機器に岐阜県のナブテスコなどの日本企業が入っていたりするのです。

工場では多種多様なバルブが製造されています。
工場では多種多様なバルブが製造されています。

新機種開発が絶好のタイミング

────参入障壁の高い航空宇宙産業へ入っていくためにはなにが重要なのでしょうか。

井上:
タイミングだと思っています。航空産業はコンサバティブで、高い品質による信頼性、長い取引実績による関係などが重要で、技術的に同じものを作ってもなかなか採用されませんし、技術的にアドバンテージのあるものを新規に作っても信頼性の面で難しいです。

そうなると、最もいいのは新機種が立ち上がるときに、最初に採用されることでしょう。航空機は認定制度で各国の航空局が認めないと部品を搭載できませんから、例えば、ボーイング社の新機種が開発をスタートさせるタイミングで入り込み、最初に認定を取るというように、ゼロから参加するためにはこれが順当な方法だと思います。

数は少ないですが、日本には分析装置の分野と航空産業の両方に入っている企業があります。例えば島津製作所ですが、弊社もお取引させていただいていますから、そういった取引先から新機種の開発情報などを得たりしています。


────御社が航空宇宙産業分野へ進出したのはいつ頃からでしょうか。

井上:
参入自体は6年前で、製品開発を始めてからまだ10年経っていません。最初は航空機用として、自ら稼働せずに圧力差で受動的に動くチェックバルブ(逆止弁)を作ってみました。これを手始めに、次第に電磁弁(ソレノイドバルブ、Solenoid Valve)を開発して、現在はサプライヤーに提案できるまでになっています。

航空機には、翼の可動部分やランディング・ギアなどに使われる油圧系、燃料の供給ライン、非常時の酸素供給ライン、キャビン内のギャレー(台所)、トイレなど、一機の中に多種多様なバルブが必要となります。例えば地上の環境下と同じと想定されるキャビン内のギャレーにどのメーカーのどんなバルブが使われているかを調べてみると、意外に普通の量産品を流用している場合もあり、それでも参入はなかなか難しいという環境です。


────エアショーやエアロマートなどの展示会や商談会には出展していますか。

浅井:
‌今回、愛知県の企画で初めてパリのエアショーに出展しますが、これまでもいくつかエアショーには出ています。エアショーは顧客のニーズなどの情報を得るチャンスでもありますが、弊社を知ってもらうPRの場としても重要です。一方、エアロマートなどの商談会はバイヤーが多く、実際に具体的なビジネスにつながる可能性が高いと考えています。

航空産業で活動を始めてまだ数年ちょっとですが、ある程度手応えを感じています。なぜなら、航空機用の部品は極端な寡占状態で、ある部品はヨーロッパで特定の1社が独占していたり、世界でも数社しかいないといった状態です。後発企業が参入しにくい環境ですが、それは顧客側からみれば不満が募る状況になりがちともいえます。このことは日本国内のTier1といわれる企業へ行ってみてわかったのですが、寡占状態のためにサプライヤーの対応が悪く、値段も高止まりで不良品が出ても謝罪しないなどの苦情をよく耳にします。

ただ、経営層ほど国産化したいといいますが、ラインに近い担当者や実際に図面を引く現場側にとっては、もし万が一のことが起きたときのことを考えると新規のサプライヤーを採用するのはハードルが高いというのも、残念ながら現実です。


────宇宙産業のほうはどうでしょうか。

浅井:
‌短期中期的には、宇宙産業のほうに現実的な参入チャンスがあるようです。例えば、いわゆるニュースペースといわれる宇宙ビジネスの活性化が加速し、小型ロケットや衛星を数多く打ち上げる傾向になっていますが、ニュースペースをビジネスチャンスととらえるベンチャーなどは、認定を待っていてはコンペティターに抜かれてしまうので自分でリスクを負おうとします。

例えば、弊社では、日本の宇宙ベンチャーが開発してJAXAの小型ロケット、イプシロンで打ち上げた『人工流れ星プロジェクト』の放出用バルブを採用していただいていますが、このお話は弊社のインターネットのウェブページ経由でいただきました。ネットはとても良い営業ツールになっていますので、山本を筆頭に力を入れている部分でもあります。

第二事業部第二営業・技術課WEB広報グループ山本久美子氏
第二事業部第二営業・技術課WEB広報グループ山本久美子氏

────今後の予定はどのようにお考えですか。

浅井:
‌今年2019年は、パリのエアショーに新型バルブを出展します。その前後に、米国のコロラドとユタ州で宇宙関係の展示会があるので、そこに出展します。弊社製品はNASAのプロジェクトにも採用されていますが、まだ宇宙ステーションISSの中で使われるような実験機器として搭載される段階で、今後は前述した人工流れ星プロジェクトのように過酷な宇宙空間で使っていただけるバルブの実績を積んでいきたいと考えています。

航空産業の方は、時間がかかりますがエアショーなどで地道にPRを続けていく正攻法を考えています。また、MRJの部品や艤装などがいつか国産化する時点が来ると思いますが、そのチャンスをとらえ、ぜひ弊社のバルブを採用していただけるように努力していきます。

編集部より

地道に、しかし着々と航空機ビジネスに進出しようとする高砂電気工業。それはあまりに高いハードルともいえますが、越えようとしなければ、そのハードルも越えられません。まずは宇宙から始め、実績を積んでいくという戦略は非常に現実的なもので、愛知県も背中を押してくれているようです。来たるべき日を夢見て、その闘いが終わることはありません。

▽愛知の航空宇宙産業特集


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文/石田雅彦