日本の夢追い人たちが“空飛ぶクルマ”を実現する!〜愛知の航空宇宙産業②

INTERVIEW

株式会社SkyDrive
技術開発部
伊藤 輝幸

空の移動といえば、現在は航空管制空域を飛行する飛行機(エアクラフト)とヘリコプターと低空域の無人ドローンしかありませんが、将来は人を乗せて空中を移動する「空飛ぶクルマ」が実現すると予想されています。2018年8月には経済産業省と国土交通省が主体となって「空の移動革命に向けた官民協議会」が作られ、この分野で先を行く米国に対抗して日本発の技術開発が進められているところです。

空飛ぶクルマの技術自体はそれほど新しいものではなく、これまでも世界各国で多種多様な試作がなされてきました。最近の姿勢制御や電源に関する技術的な進化発展を背景に、まずドローンが性能面や安全性で広く活用され始め、その結果、有人飛行の実現も現実味を帯びてきています。

日本には空飛ぶクルマを目指して活動する企業や団体がいくつかありますが、その中で最も実現に近い存在といわれているのが有志団体CARTIVATOR(カーティベイター)と共同開発を進める株式会社SkyDrive(スカイドライブ)です。CARTIVATORはトヨタ・グループをはじめNEC(日本電気株式会社)など80社を超える企業から支援を受けています。SkyDriveは東京都の「未来を拓くイノベーションTOKYOプロジェクト」平成30年度採択企業になるなど、技術面や資金面でも大きな可能性を秘めています。そんなSkyDriveのビジョンや技術的な実現性などについて、同社技術開発部の伊藤輝幸氏に話をお伺いしました。

▽愛知の航空宇宙産業特集

多くの企業から支援を受ける「空飛ぶクルマ」プロジェクト

株式会社SkyDrive 技術開発部 伊藤輝幸氏
株式会社SkyDrive 技術開発部 伊藤輝幸氏

────SkyDriveとCARTIVATORの、立ち上がりの経緯について教えてください。

伊藤:
CARTIVATORは、現在有志団体として100名を超える組織になっていますが、最初は各企業の技術者や研究者ら有志がボランティアとして毎週土曜日に集まっていた一種の趣味的なサークルでした。

CARTIVATORの創始者の一人に中村翼という人物がいます。中村は2012年9月に『維新(これあらた)』というビジネスコンテストに出場し、優勝しましたが、それをきっかけに仲間が集まり、技術やビジネスなどの夢を語り合う中、空飛ぶクルマを作ろうという話になったんです。

しかし、毎週一回だけの活動では限界があり、日常的に研究開発をしつつビジネスとしての成立を目指す事業体として2018年7月に株式会社SkyDriveを立ち上げたというわけです。


────中村翼さんはどういう方なのですか。

伊藤:
自動車エンジニアを目指して慶應義塾大学の理工学部から大学院に進み、その後、トヨタの設計業務に従事していた方です。現在は慶應義塾大学の特任助教を勤めながら、CARTIVATORの共同代表をしています。中村は空飛ぶクルマについて『意のままに、一秒でも早く、道路がなくても移動できる』自由を実現するための技術と言っています。


────SkyDriveとCARTIVATORとの関係はどのようなものなのでしょうか。

伊藤:
有志団体であるCARTIVATORには、2017年5月から3年間で総額4,250万円の支援をしてくださっているトヨタ・グループ15社、NEC(日本電気)、Panasonicなどが支援をしてくださっていますが、SkyDriveもまた独自に資金を集め、CARTIVATORと共に夢の実現のため、開発を行っています。

こうして培われた技術的なシーズや知見、経験を生かし、空飛ぶクルマを実現させ、将来的には実用的なサービスの提供を目指しています。また、SkyDriveは東京都の『未来を拓くイノベーションTOKYOプロジェクト』の採択企業にもなっていて、このプロジェクトはNECとCARTIVATOR、そしてSkyDriveが共同で進めています。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開会式で聖火を点火したい!

────SkyDriveの空飛ぶクルマの現状とロードマップを教えてください。

伊藤:
国土交通省と、この新しいカテゴリの航空機について議論を重ね、昨年末には日本で初めて空飛ぶクルマとしての屋外試験飛行許可を取得して屋外での試験飛行を始めたところです。屋外ではまだ無人でのジャンプ飛行という初期の段階ですが、近い将来、有人での屋外試験飛行許可の取得を目指しています。

今後、飛行安定性の向上は勿論、故障発生時のフェールセーフ性など、安全性に関わる技術的改善もしながら試験飛行実績を着実に積み重ねていき、航空局から有人での試験飛行許可をいただいたうえで、2020年のデモンストレーション飛行の披露を目指しています。そこで社会的な認知度を上げ、2023年頃には有人飛行できる空飛ぶクルマの販売を開始し、2026年までに東京湾や大阪湾など海上ルートでのヒトの航空輸送サービスの実現を目指しています。


────空飛ぶクルマの実現に向けて技術的な課題はどのあたりにありますか。

伊藤:
機体の安全性向上、応答性向上、航続時間延長などです。
この中でも航続距離延長の課題は大きく、搭載重量とのトレードオフの関係になっています。

さらに、我々が目指しているのはあくまで空を飛ぶことのできるクルマですから、地上を車輪で走行しなければなりません。もちろん、走行と飛行を兼用する駆動系も考えましたが、現状はドローン型に三輪車を合体させるシステムを検討しています。また、地上を走行するためのタイヤの重量も大きなジレンマになっています。地上走行時の駆動系は飛行時と同じバッテリーを使用していますが、走行時のプロペラと飛行時の車輪の引き出しと格納はとにかく軽量化することでクリアし、そのためにも三輪というシステムにしています。

「とよたビジネスフェア」で披露された“空飛ぶクルマ”の試作モデル
「とよたビジネスフェア」で披露された“空飛ぶクルマ”の試作モデル

────現在、広く使われている小型のドローンとの違いはどのあたりにありますか。

伊藤:
機体が飛ぶための基本的なシステムは同じですが、故障しないための信頼性のあるシステム開発および故障発生時のフェールセーフシステムは大きく異なっています。
 

────法的な飛行許可取得の難しさとライバルについて教えてください。

伊藤:
無人での屋外試験飛行許可の取得のためだけでも、いくつかの許可を取得しなければなりませんでした。空中に浮いた物体が人を乗せて空を飛ぶ時点で、技術的な難度が格段に高くなります。万が一落下したら大変なことになりますから当然です。そのためにも第一に安全性と信頼性を確実なものにしなければなりません。

ドクターヘリのような緊急搬送といった用途で認められることで理解を広げていくのも一つの方法でしょう。実際、SkyDriveではドクターヘリの第一人者の医師、松本尚・日本医科大学救急医学教授に顧問になっていただいています。

また、2017年に行われたポルトガルのサッカー公式戦で、人間を乗せたドローンが競技場内でサッカーボールを運んでいます。ポルトガルサッカー連盟がこうしたデモンストレーションを許可したという前例があります。我々も、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開会式の聖火点灯を我々の空飛ぶクルマで行いたい、という自主目標を掲げ開発を推進しています

ライバルとしては、すでに初飛行に成功しているドイツのボロコプター社(Volocopter)や、すでに実用化目前といわれる中国のEHang社などがあり、日本にも学生と社会人の有志チームteTraがいます。

編集部より

みんなで技術やビジネスなどの夢を語り合い、空飛ぶクルマを作ることに挑戦している彼ら。その夢はきっと我々とも共有できるものだと思います。彼らは6月にパリで開催される「パリ・エアショー」にも愛知県の他企業とともに出展します。今回はミニチュアモデルでの出展だそうですが、彼らの想いを共有できる世界中の人々の心を魅了すること間違いなしでしょう。まだまだ乗り越えなければならない課題は山積みのようですが、ぜひともその夢を実現してほしいものです。

▽愛知の航空宇宙産業特集


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文/石田雅彦