航空機産業の集積地、愛知県の取り組みを探る!〜愛知の航空宇宙産業①

INTERVIEW

愛知県 経済産業局
産業部産業振興課次世代産業室
次世代産業第一グループ
主査 榊原賢一
主事 金丸良

愛知県から岐阜県南部にかけての地域は、戦前から日本の航空産業を支えてきました。この系譜は第二次世界大戦での敗戦でいったんは途切れたものの、戦後初の国産機YS-11の生産が愛知県小牧市で行われたことで息を吹き返します。その後、愛知県を中心とした中部地域は、国内における航空宇宙産業の中核的な存在になりました。

2011(平成23)年12月には、愛知県と岐阜県が「アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区」として「国際戦略総合特区」として指定されます。特区は、2013(平成25)年には三重県、2014(平成26)年には長野県・静岡県へ特区区域が拡大し、現在(2019年3月)では中部5県、383の企業・団体が参加する一大拠点になっています。

同地区では、三菱重工業、川崎重工業、SUBARUといった大手企業がボーイング、ボンバルディアや官需機(防衛装備品)などの組み立て受注生産を行っており、関連企業も多く集積しています。最近では、ボーイング787や777Xの製造を担い、YS-11以来となる国産民間旅客機MRJが2020年中頃の初納入を目指すなど、活気づいている地域でもあります。

愛知県は総合特区の中心的な存在として、航空宇宙産業に携わる県内企業の販路開拓や人材育成、研究開発などの支援を行っています。これらは、規制緩和や税制上の支援等、認証取得やビジネスマッチングに関する支援ですが、特に世界各地で開催されるエアショーや航空関連の商談会であるエアロマートなどの国際イベントを活用した販路開拓の支援に取り組んでいます。

愛知県の経済産業局産業部産業振興課次世代産業室は、航空宇宙産業の支援を積極的に行っている所属になります。榊原賢一・次世代産業第一グループ主査と金丸良・同主事に航空宇宙産業に対する愛知県の支援などについてお話をうかがいました。

愛知県 経済産業局 産業部 産業振興課 次世代産業室 次世代産業第一グループ 主査 榊原賢一氏
同主事 金丸良氏

▽愛知の航空宇宙産業特集

愛知県にとってMRJは大きな意味を持つ存在

────愛知県は戦前から国内有数の航空機産業の集積地ですが、やはりライバルは海外の企業や地域ということになりますか。

榊原:
現在、航空業界は寡占化が進み、ボーイングとエアバスが世界の2大メーカーになっています。その下に、リージョナルジェット等を製造するボンバルディア(カナダ)、エンブラエル(ブラジル、ボーイングと民間機事業統合)などがあり、そこにMRJが割って入ろうとしている状況です。MRJは、2020年の初納入に向かって形式証明取得のための飛行試験を続けているとうかがっています。


────MRJは愛知県と国際戦略総合特区にとってどんな役割を担っていますか。

榊原:
総合特区を中心にしたこの地域には、航空機製造の技術的な蓄積があります。やはり戦前からの航空機製造、戦後のYS-11という系譜がありますが、防衛装備品やボーイングの組み立てなどを受注する中で得られた技術も重要で、世界でも数が少ない完成機まで製造できる地域になっています。

航空機業界は、国内のシェアは小さいものの、世界的な市場規模の拡大が見込まれ、MRJの生産により、開発から組立まで、一連のプロセスを愛知県内で行っているMRJは、YS-11以来の国産旅客機という意味でも、海外市場で戦えるだけの知見や技術を開発プロセスにおいて取得できるという意味でも、愛知県にとっても大きな存在と認識しています。

全国産化に期待がかかるMRJ(三菱航空機提供)
全国産化に期待がかかるMRJ(三菱航空機提供)

────MRJには海外製品が多く使用されているようですが、愛知県として国産化への道筋をどうお考えですか。

榊原:
航空機の構成は、機体構造、エンジン、それ以外の装備品という大きく3つになります。もともとこの地域はボーイングの胴体、機体構造に関係した企業が多く、それは強みでもあり偏っている側面でもありますが、県内には、航空宇宙産業に参入している企業が165社以上あり、各社には様々な技術的な蓄積やノウハウもあります。

これらの企業は、組み立て、金属加工、エレクトロニクスなどの幅広い分野にまたがっており、多種多様な技術を必要とする航空機製造に大きな可能性があるのではないでしょうか。

中でも装備品は幅が広く、例えばフライト系のシステム、フラップやラダーなどを動かす動作系、シート、トイレ、ギャレー(キッチン)など、ソフトウエアから電子系統、内装品まで多様なものが含まれます。確かに、航空機産業では実績と信頼性が最も重要ということもあり、MRJの1号機に入っている装備品は海外製が多いのですが、愛知県としては、今後そうした部品の国産化に少しでも県内の中小企業が関わっていけることを期待しています。


────MRJやボーイング機等に使われる技術などの国産化で県内企業の具体的な事例はありますか。
 
榊原:
機内シートをANAとトヨタ紡織が共同開発した事例があります。他にも、愛知県内の企業が作ったパーツ部品もボーイングやMRJの機体の中に数多く入っています。MRJのエンジンはプラット・アンド・ホイットニー社製(米国)ですが、最終組み立ては愛知県内で行われる予定です。エンジンに関しては、開発に多額の資金が必要でもあり、開発期間も長期に及ぶため複数企業による共同開発(リスクシェアリングパートナー)が行われており、そこにこの地域の企業では三菱重工航空エンジン等が参加しています。


────愛知県内の航空機関連企業の販路開拓について、各地で開催されるエアショーやエアロマートをどう利用されていますか。

榊原:
やはり航空機産業はグローバル市場なので、愛知県では、海外の大手機体メーカーやサプライヤーなどが参加する国際的なイベントへの出展や商談の支援をしています。県は2016年10月にボーイングの本拠地である米国ワシントン州と、2018年6月にはエアバスの本拠地であるフランス南部のオクシタニー地域圏と連携協定を締結しました。

海外の航空宇宙産業の集積地との連携関係を進め、情報収集をするとともに、地域間のビジネスマッチングなどに取り組んでいます。また、現地の航空関連企業の工場見学等、県内企業の技術的な知見を得るための機会を提供しています。

県が率先してイベントの出展や商談の支援をしているそうです。
県が率先してイベントの出展や商談の支援をしているそうです。

販路拡大に国際イベントを活用

────特に中小規模の企業ですと国際イベントへの参加はハードルが高いと思いますが、県ではどのような支援をされていますか。

榊原:
この地域の航空機産業は重工各社を頂点としたボーイング機の機体構造組立を中心に発展して来ました。そのため、重工各社のサプライヤーの役割を担う中小企業は海外との直接取引の機会はあまり多くなかったと聞いています。その点で、ほかの業界とは構造は違うかもしれません。

愛知県は、エアショーやエアロマートといった展示会や商談会に、「あいち・なごやパビリオン」として共同出展する企業を公募し、一定の負担金をいただいた上で、展示ブースの準備などの出展支援のほか、航空産業に精通した専門家による商談支援を行っています。航空宇宙産業において海外販路の開拓を行うには、航空機製造の技術的に精通し、かつ国際ビジネスのノウハウをお持ちの専門家の方にサポートしていただくことが理想的ですが、その両方に精通された専門家は実際にはなかなかいらっしゃらないと言われています。愛知県では大変幸運なことに、そうした専門家と契約させていただくことができましたので、県内企業の皆様に対して、その両面から総合的なコンサルティングを行うなどのサポートを行っています。


────航空宇宙産業の海外販路開拓の支援体制と今後の予定はどのようなものでしょうか。

榊原:
2018年8月に『あいち・なごや航空宇宙産業海外販路開拓推進コンソーシアム(AICHI-NAGOYA AEROSPACE CONSORTIUM)』を設立しました。これは愛知県、名古屋市などが中心となり、地域の行政や支援機関が協力して設立した組織で、昨年度は国際航空宇宙展2018東京、エアロマート・ツールーズ2018への出展・商談支援などを実施しました。これらの展示会・商談会では県内企業等とともに「あいち・なごやパビリオン」と銘打った地域の共同出展を行い、国際航空宇宙展には41社・団体で、エアロマート・ツールーズには13社・団体で出展しました。

また、2019年6月にはフランスのル・ブルジェ空港で開かれる世界最大の航空ショーであるパリ・エアショー2019に県内の企業とともに出展します。さらに、2019年9月には地元名古屋市で開催されるエアロマート名古屋2019にも県内企業とともに出展する予定です。


────国際イベントや連携協定などでどのような成果がありましたか。

榊原:
愛知県が連携協定を結んでいるオクシタニー地域圏政府は、エアロマート・ツールーズに参加した際、現地企業の工場見学や企業同士の交流の機会の提供など手厚いサポートをしてくれました。ある県内企業は、ツールーズでの工場見学の中で、自社の技術で作ることができるものが使われているという発見があったとおっしゃっていました。また、現地の企業に対してプレゼンテーションやランチミーティングをする機会などもいただきました。航空業界は1回の商談で契約がまとまるということはまずないと聞いています。展示会・商談会などへ継続的に出展し、商談や交流を続ける中で、こうした機会もビジネスに繋がるきっかけ作りのひとつとして活用していただければと思っています。


────宇宙産業やアカデミアとの連携はどうでしょうか。

榊原:
現在の日本における宇宙産業は官需中心の側面が強いですが、H-ⅡA、H-ⅡBロケットの開発・組立やH3ロケットの開発が県内で行われており、県内にはこれらのロケットや衛星の部品を製造する企業が多く存在します。

金丸:
ジェット燃焼モード/ロケット燃焼モード切り替えエンジンにより、空港から飛び立ち、宇宙空間を飛行し、また空港へ着陸することが可能なサブ・オービタル機を開発しているPDエアロスペースというベンチャー企業も愛知県内にあります。また、トヨタ自動車がJAXAと共同で月面ローバーの開発を発表するなど、宇宙産業の分野でも新たな取り組みが行われています。この地域には航空宇宙分野の研究開発を行っている名古屋大学や名古屋工業大学があり、最近では中部大学に宇宙航空理工学科ができたりしています。県が主催して産学連携のセミナーを開き、企業と大学を結びつける企画なども行っているところです。

編集部より

航空宇宙産業は世界的に拡大市場でもあり、ボーイングとエアバスの大手2社には8年分ほどのバックオーダーが溜まっているといいます。その点でも中小を含む国内航空宇宙関連企業のグローバル化は急務であり、またボーイングがトヨタ生産方式を参考にして効率化を図るなど、日本の航空宇宙産業は大きな変革の時期にさしかかっているといえるでしょう。そのなかで愛知県が果たす役割は決して小さいものではなく、むしろ先陣を切って国内企業の航空宇宙産業への進出を後押ししているという現状を伺うことができました。
『みんなの試作広場』では6月のパリ・エアショーに出展する愛知県の企業のお話も伺っていますのでそちらの記事もご覧ください。

▽愛知の航空宇宙産業特集


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