『トヨタ物語』著者が語る、みんさくの新連載『部品の仕事』~野地秩嘉氏インタビュー

INTERVIEW

ノンフィクション作家

野地 秩嘉

▽連載『部品の仕事』シリーズ一覧


連載『部品の仕事』シリーズ一覧 | みんなの試作広場

MaaS時代に、より一層重要度が増す「部品」。「部品」をめぐる現場の研究開発者のリアルな仕事を「トヨタ物語」の著者であるノンフィクション作家、野地秩嘉氏が追います。

クルマが自動運転する時代に、カギを握るのは部品開発である

かつて、企業の研究所には、面倒見のいい上司や先輩たちがいました。自分の研究分野でなくてもアドバイスをしてくれる仲間、厳しくも叱ってくれる取引先がいました。しかし、こうした風景は1990年代以降、見られなくなったそうです。

激しい円高を経て、日本企業は海外への技術移転を急ぎました。そして、研究者・開発者たち対しても短期的な成果主義の評価を導入。その結果、社内には職場のノウハウが消え、上司も先輩たちも自分の仕事で精一杯。部下を育てる余裕もなくなったというのです。いまの若い研究者たちには“頼る人”が減り、自ら知識を蓄え、自ら新しいビジネスのチャンスを探し求めなければならなくなりました。そういった現状のなか、今回始まる野地秩嘉氏の連載。その想いをご本人にお伺いしました。

ノンフィクション作家 野地秩嘉氏
ノンフィクション作家 野地秩嘉氏

糸川博士曰く「数学や物理より、現場の声で飛行機を開発した」

────「みんなの試作広場」は若い研究者のニーズに応えたいと思い、かつての先輩たちが部下に伝えていたコンテンツを作っています。今回、野地さんが、「部品の仕事」をテーマに選ばれたのはなぜですか。

野地:
僕はトヨタ生産方式をテーマに7年間、トヨタを単独取材してきました。80回以上工場を見学し、その成果をまとめ上げた『トヨタ物語』(日経BP社)では、「トヨタ生産方式」を浸透させ、さらに次の世代にどう伝えていくか、技術伝承というテーマに取り組み続けているプロたちを描きました。400ページ以上に及ぶこの本で伝えたかったことの1つが「ものづくりで大事なのは知識や情報以上に現場の声を大切にすること」なんです。


────ものづくりの現場でなにが起きているか。誰もが知っているわけではありません。しかし、野地さんが代わりにレポートしてくださることで、なにかヒントにつながるかもしれません。

野地:
小惑星の名前にもなった航空宇宙学者の糸川英夫博士はご存知ですか。彼は東大の航空学科を出て1930年代、中島飛行機で戦闘機の設計をしていました。彼は「飛行機の設計には数学や物理学の知識が必要か」と聞かれ「それよりはるかに大切なことがある。私はパイロットの話で飛行機を作る」と言ったのです。

彼は飛行訓練学校に出向いては「どんな飛行機が欲しいのか」を候補生たちに聞き、彼らの意見で設計したんだそうです。どうして候補生かといえば、新しい飛行機を開発にするには数年かかるから。上司たちは見栄えのいい速い飛行機を求めがちですが、今から設計して製作すると実際に乗る人たちは今の候補生たちです。彼らは「スピードより小回りが利く飛行機がいい」と言っている。こうした現場の声を拾って博士は飛行機を開発したんです。

製品を利用する人たちのために開発者、研究者がいるのだ、ということを常に念頭に置いてものづくりをしていくことが大切だと思います。研究者の方には、現場の話、エピソードからなんらかのヒントを得てほしいのです。

無人自動運転カーが走る時代、自動車産業に係る人たちが増える

────なるほど。では、多くの“現場”がある中で、なぜ今回は「部品」なんでしょうか。

野地:
部品を取り巻く環境が大きく変わるからです。自動車業界ではMaaS(Mobility as a Service “マース”)と呼ばれるモビリティサービスへと変革しています。MaaS とはICT を活用して、人々が移動するために利用する交通機関全体を1 つの機関と捉えて提供していくサービス。切れ目ないスムーズな移動を実現するため、CASEと呼ばれるConnected(接続性)、Autonomous(自動運転)、Shared(共有)、そしてElectrification(電動化)をテーマにした技術開発が進んでいます。

MaaSが普及することによって自動車産業で働く人が減るかといえば、そうとは言えません。自動運転車1台を走らせるために12人ほど必要になると言われていています。当然、クルマの値段も高くなり、個人で自動車を持つ時代ではなくなるでしょう。

その代わり、Uber(ウーバー)などの自動車配車サービスが充実していく。いまの自動車の稼働率はわずか4%。残りの96%は駐車場で眠っているんです。これが今後、タクシーやウーバーなどのサービスが中心になると30%程度の稼働率になると言われています。

では、クルマの稼働率が高くなるとどうなるのか。「部品」が消耗するのが早くなるんですね。部品の交換頻度が高くなるわけです。今まで以上に、安全で強い部品が必要になり、部品交換がスムーズにできるインフラを整えないといけないわけです。


────自動運転の時代になると、部品に求められる開発要件が大きく変わってくるというわけですね。

野地:
スマホがフリーズするように、自動車が突然動かなくなる事態が起きては困ります。「部品が壊れない」ことが大事になってきます。まあ、100%壊れないことは無理だとしても、仮に故障した時でも人間が修理できるとか、すぐに交換できるなど、設計段階から、利用者の本当のニーズに応えられているのかを考える、その姿勢が厳しく問われるようになるでしょう。
今回の連載では、こうした新しい時代の「部品」も追っていきたいですね。

自動車はセンサーやカメラのかたまりです。走っていると振動でどうししてもセンサーの感度が落ちます。これをどう克服していくのか。この課題1つをとってもまだ解決方法がない。これからのテーマです。もしかしたら、いまの旅客飛行機が1度飛んだら部品を交換、検査しているように、自動車も細かい部品交換・点検が当たり前になるかもしれません。

みんさくのインタビューに答える野地秩嘉氏
みんさくのインタビューに答える野地秩嘉氏

「うちの凄い部品開発の現場を観てほしい」という方は是非ご連絡を

────「クルマが旅客飛行機みたいな存在になる」という考えはおもしろいですね。

野地:
ええ。自動運転よりも先に「空飛ぶクルマ」の方が社会に定着するかもしれません。実際、ある会社では、2020年の東京オリンピックで「空飛ぶ自動車」をお披露目すべく取り組んでいます。間に合うかどうかはともかく、従来の発想にはない「新しいものづくり」が始まっていることは、確かです。


────では最後に。新連載への意気込みをお聞かせください。

野地:
僕はプロフェッショナルとして淡々と仕事を進めます。この仕事だから、あの仕事だからといって仕事の濃さを変えるようなことはしません。しかし、すべての仕事に全力投球して良い仕事をしていくことは約束します。


────ありがとうございました。

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野地秩嘉氏の『部品の仕事』は6月から連載開始予定です。
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野地秩嘉(のじつねよし)
1957 年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。近著『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』がベストセラーに。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。

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