【実例紹介】イベントや補助金など支援充実!埼玉の医工連携の取組み事例3社

日本では高齢化社会が急速に進み、いわゆる団塊世代が後期高齢者になる「2025問題」も目前に迫ってきています。また、医療現場では慢性的な予算不足・人手不足に陥っており、医療機器のイノベーションや改良改善が急務になっています。

一方、中小を含む製造業は、国内市場や需給が大きく変化する中、販路を広げるためにその高い技術の使い道を探り続けてきました。医療、福祉介護、創薬といった業界も重要なターゲットになりますが、この分野は行政の厳しい認証制度などがあるため参入障壁が高く、医療従事者や医薬品メーカーが簡単に門戸を開いてくれるわけではない状況があります。また、必ずしも大きくはない市場規模や費用対効果の低さなど、企業側にも参入をためらう理由があるのも事実です。

医工連携を後押しする地方自治体の取り組み

そうした中、地方自治体などの行政が、医工連携のマッチングを探るコンソーシアムといった施策の中心となり、医薬業界への異業種参入を後押しし、ビジネスとして成立する仕組みを作り上げて両者をつなぐ役割を担うような事例も増えてきました。埼玉県とさいたま市が、企業、大学・研究機関、医療機関などの参加を受けて2014年に設立した「医療イノベーション埼玉ネットワーク」もその一つです。

このプラットフォームには、埼玉県の内外を問わず400団体以上(2018年末)が参加しています。これまで、医療現場の困りごとを積極的に吸い上げ、ものづくり企業や医療機器メーカーがそのニーズをもとに製品開発につなげられることを目指す医療施設内でマッチング会の開催(2016年度から毎年1回)、医療従事者と企業との出会いの場ともなる医療機器の開発促進などを目指すコンテストなどを開くなど、これまで多様な取り組みを行ってきました。また、新技術・製品開発補助金(上限2,000万円、補助率10/10以内)などの支援体制も充実しているようです。

先日、都内で医療イノベーション埼玉ネットワークの参加企業と医療機関が共同開発した製品や試作品を紹介する成果発表会が開かれ、14社が医工連携の成果を展示出展しました。この中から、iPS細胞研究の事業化へ向けた新たな製品開発、医療現場のナースらの意見を取り入れた点滴用カートの改善例、下肢が不自由でも外を走り回れる福祉用ハンドバイク(三輪車)など、医薬分野へ参入するための事例、試作へのヒントになる3事例を紹介しましょう。

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実例①:iPS再生医療のための培養器を開発

埼玉県戸田市に本社を置く佐竹化学機械工業株式会社は、創業が1920(大正9)年という日本を代表する化学機器、特に攪拌機、攪拌装置製造販売のトップメーカーです。世界最大級の攪拌機を持つとともに、攪拌技術に特化した国内で唯一の攪拌技術研究所を設立し、従来多かった化学分野、食品分野の事業から、2017(平成29)年には医薬分野へ進出するために研究開発本部に新事業・バイオ事業部門を設立し、医薬分野へ進出しています。


成果発表会で、同社の研究開発本部本部長、攪拌技術研究所所長・バイオ事業部長でもある加藤好一取締役にお話をうかがったところ、国内の業種業態が変化しているため、国際的な販路拡大と同時に国内において新規事業として医薬分野のニーズを掘り起こす必要があったそうです。

<写真1> 佐竹化学機械工業株式会社 取締役研究開発本部 本部長 加藤好一氏
<写真1> 佐竹化学機械工業株式会社 取締役研究開発本部 本部長 加藤好一氏

加藤取締役「もともと攪拌機や攪拌装置の製造販売で培ってきた技術やノウハウを生かし、バイオ医薬品などの創薬・製薬の業界に対し、攪拌機の専門メーカーとしての視点から培養装置などの研究開発に取り組んできました。今回の成果発表会では、ヒトiPS細胞を用いた血小板作成のために開発した培養装置を展示しています」

<写真2>
佐竹化学機械工業株式会社の「HiD 4×4」産業用iPS細胞分化誘導培養装置。装置を数珠つなぎにすることで8連、12連、16連以上でのスクリーニングが可能。
<写真2>
佐竹化学機械工業株式会社の「HiD 4×4」産業用iPS細胞分化誘導培養装置。装置を数珠つなぎにすることで8連、12連、16連以上でのスクリーニングが可能。


この装置は、京都大学iPS細胞研究所、自治医科大学などとの共同研究で開発されたものです。再生医療による輸血や血小板の大量生産の実現につながる世界初の産業用3D浮遊培養攪拌装置として、米国の医学雑誌『Cell』でも論文が発表されています。

加藤取締役によれば、従来の攪拌機では回転式が主でしたが、2Dから3Dというように上下動にすることで培養槽内の混合と剪断の制御を行い、血小板に限らず、細胞へのダメージを少なくすることで200リットルという大スケールでも均一・均質な培養が可能になったそうです。


実例②:ナースらの要望でカスタマイズを製品化

埼玉県東松山市に本社がある株式会社KSKは、これまで主にオフィス用や事務用の家具をOEM製造してきた什器メーカーです。ものづくりの会社として、企画や設計、加工、組み立てまで社内で一貫生産し、試作品や小ロット少量生産から大量生産までカスタマイズした製品を受注しています。

標準品を並べたカタログのようなものはない、というのが同社のコンセプトということですが、これは使う人や場所によって製品に対するニーズがそれぞれ異なるからだそうです。もちろん、ベースになる製品はありますが、それらを組み合わせたりカスタマイズするなどし、顧客個々のニーズに最適化した製品を提案しています。


医療の現場では、電子カルテを載せて運ぶなどするラウンドカートや少人数での打ち合わせに使うカンファレンステーブル、点滴カートやスタンドといった、患者やナースら医療従事者のための什器備品が多く使われています。
株式会社KSKでは、埼玉県立がんセンターと共同で患者のニーズに合わせたユーティリティウォーカーを開発しました。
同社で設計技術を担当する望月徹さんによれば、病院などの医療施設はオフィス用什器を製造してきたメーカーにとって敷居が高いけれど、「医療イノベーション埼玉ネットワーク」が間に立ってコーディネートすることでニーズマッチングが可能になったそうです。

<写真3> 株式会社KSK望月徹氏
<写真3> 株式会社KSK望月徹氏

望月さん「高齢の患者さんの多くは、点滴スタンドに寄りかかって病院内を歩く傾向があるようです。また、患者さんによって点滴や酸素ボンベ、吸引器など、必要になる備品もさまざまなので、1台でいくつもの使い方ができるニーズに合ったユーティリティウォーカーが求められていました。今回、共同開発した製品は、安定して楽に歩けると特に高齢女性の患者さんに好評です」

<写真4>
ユーティリティウォーカー。点滴スタンド、酸素ボンベなどをフレキシブルに搭載でき、軽量・コンパクトで大径キャスターにより安定的な走行性を持っています。
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ユーティリティウォーカー。点滴スタンド、酸素ボンベなどをフレキシブルに搭載でき、軽量・コンパクトで大径キャスターにより安定的な走行性を持っています。

実例③:ゼロからハンドバイクを設計・開発・製造

宇賀神一弘さんは、40年以上の歴史を持つ有限会社宇賀神溶接工業所の2代目社長。板金加工やステンレス溶接、パイプ曲げなどに実績のある同社は埼玉県朝霞市にあり、これまで主に受注生産で仕事をしてきたそうです。宇賀神さんは将来を見すえ、ステンレス溶接を生かしたデザイン性の高いオリジナル作品を制作発表し、同社の技術をアピールしてきました。


ある一人のサイクリストから連絡を受け、手でクランクを回して進む車いす型の自転車、ハンドバイクを製作してもらえないかと相談されたのが2009年のこと。そのサイクリストは自転車事故で下肢が不自由になり、車いすの生活になっていましたが、同社のホームページでステンレス溶接技術をみて自分の体格に合った乗り降りしやすいオリジナルのハンドバイクをぜひ作ってほしいと思ったそうです。

<写真5> 有限会社宇賀神溶接工業所社長 宇賀神一弘氏
<写真5> 有限会社宇賀神溶接工業所社長 宇賀神一弘氏

宇賀神さん「それまで自転車を作ったことがなかったので、最初はお断りしたんですが、その方の熱意にほだされ、気がついたらハンドバイク作りに熱中していました。1年に1台、試作品を作ってはやり直し、7台目にしてようやく強度的にもデザイン的にも納得のいくハンドバイクができました」

宇賀神さんのハンドバイクは、埼玉県の先端産業創造プロジェクトの2016年度、埼玉県医療機器等試作品コンテストアイデア賞を受賞し、賞金200万円を授与されました。現在、電動アシスト付きを含め、20台ほどを販売したそうです。


<写真6>
ハンドバイクHBJ-Y。時速30キロほどのスピードが出るハンドバイクで、下肢の不自由な方たちの移動やリハビリに活用されています。
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ハンドバイクHBJ-Y。時速30キロほどのスピードが出るハンドバイクで、下肢の不自由な方たちの移動やリハビリに活用されています。

まとめ

医療分野と異業種を結ぶ医工連携のコンソーシアムは、今回紹介した医療イノベーション埼玉ネットワークの以外にも全国各地に設立されています。医療分野や創薬分野などへの参入は簡単ではありませんが、こうしたプラットフォームを活用するのも一つの方法ではないでしょうか。


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文/石田雅彦