電動化を加速する欧州の自動車メーカーの斬新なコンセプトカーたち〜ジュネーブ・モーターショー2019現地報告(後編)

ジュネーブ国際モーターショー(Salon International de l'Auto、通称ジュネーブ・モーターショー)の会場を歩いていると、世界中の自動車メーカーが電動化に向けて進んでいるのを肌で感じることができます。前編では、国産車メーカーの動向についてリポートしましたが、今回は、欧州の自動車メーカーに目を向けてみましょう。


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フォルクスワーゲン・グループの電動化を牽引するアウディの戦略

最も大胆な展示をしていたのは、ドイツの高級車ブランドであるアウディです。なんと、すべての展示車が電動モビリティだったのです。記者発表に登壇したブラム・ショット会長は、「2025年に販売されるアウディの新車の3台に1台を電動化モデルにする」と宣言しました。アウディを傘下に収めるフォルクスワーゲン・グループの方針が、2025年までに300万台の電動モビリティの販売を目指すというものですが、その中でもアウディは、先進的なテクノロジーを牽引する役割を担っています。

会場に並んだのは、「Q4 e-tronコンセプト」、「e-tron GTコンセプト」を含む4台の電動モビリティと、新しくラインナップされる4機種のPHVでした。加えて、ピュアEVの最高峰レースであるフォーミュラEに参戦する「e-tron FE05」も展示されていました。クーペスタイルの「e-tron Sportback」の市販版は2019年後半に、中国市場向けの「Q2L e-tron」は2019年度中に、それぞれ発売される予定です。「e-tron GT」と「Q4 e-tron」は、2020年に登場します。「e-tron」とは、アウディの電動モビリティのブランドです。

さらに、2019年中に、A6、A7、A8、Q5の4機種にハイブリッド版を追加し、「A3」「Q7」の2車種に置いてPHVを再発売する予定です。つまり、CからDまでのセグメントすべてに電気モデルをラインナップする方針なのです。PHVのバッテリー容量は、欧州では40kWと、2月にスタートしたドイツの補助金基準に沿っており、中国では50kWと、各国の補助金にも対応しています。


<写真1>「Q4 e-tronコンセプト」
<写真1>「Q4 e-tronコンセプト」

アウディの電動化を支える3つの技術をご紹介しましょう。
一つ目は、電動クワトロシステムを積む「モジュラー ロンギチューディナル プラットフォーム(MLP)」、二つ目は、ポルシェと共同で開発した「プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック(PPE)」、そして三つ目は、フォルクスワーゲン・グループ共通の「モジュラーエレクトリフィケーションプラットフォーム(MEB)」です。

MEBは、主にAセグメント、PPEはB~Dセグメントにおける電動モデルに適応されます。例えば、「Q4」にはMEBを採用していて、「e-tron GT」にはポルシェ「タイカン」と共通のパワートレインが搭載されます。

採用されている電気モーターの種類は、永久磁石同期式と非同期式の両方があり、前者はパワフルな性能を引き出すのに適していて、後者はエネルギー回生に向いているので、燃費志向となります。

例えば、ハイパフォーマンス・モデルの「e-tron」では、前後ともに永久磁石同期式を採用しています。「Q4 e-tron」では燃費を重視するため、フロントに非同期、リアに永久磁石同期式を採用しています。スポーティネスを重視して開発された「e-tron GT」では、「Q4 e-tron」とは反対にフロントに永久磁石同期式、リアに非同期式を採用しています。裏を返せば、内燃機関で大トルクを生むためには大出力のエンジンが必要ですが、1,000Nmを超えるトルクを発揮するには電動モーターの方が容易なのでしょう。

<写真2>「Q4 e-tron concept」のドライブトレイン
<写真2>「Q4 e-tron concept」のドライブトレイン

「電動化によって、技術的に共通化する部分があるのは事実です。しかしながら、プレミアムブランドとしての独自性を担保するために、これまでもバッテリーや電気モーターといった部分は独自開発しています。2022年をめどに、ポルシェと共同開発するPPEの次世代版も発表する予定があります。プレミアムブランドにふさわしいパフォーマンスとしては、航続距離や加速度といった要素は欠かせません。また、回生の能力を高め、充電スピードを加速したり、充電網を整備するなど、全方位でユーザビリティを高めていきます」と、開発本部プロジェクトマネジメント担当本部長を務めるウルリッヒ・ウィドマン氏は言います。

VWグループでは、2030年にはさらにEV比率を40%まで高めると宣言しています。ジュネーブで発表された「ID.バギー」は、62kWhの出力を持つバッテリーと150kW/310Nmの電気モーターをリアに搭載。前輪へは、補助的にトルクを配分します。250kmの巡航距離を確保しつつ、0〜100km/h加速をわずか7.2秒でこなします。コンパクトな「ID.」、バンの「ID. バズ」、クロスオーバーの「ID. CROZZ」、セダンの「ID. ヴィジョン」、「ID.バギー」と、MEBのプラットフォームを活用したEVモデルを続々と発表する方針です。

<写真3>250kmの巡航距離で、0〜100m/h加速わずか7.2秒の「ID.バギー」
<写真3>250kmの巡航距離で、0〜100m/h加速わずか7.2秒の「ID.バギー」

国を挙げて電動化に舵を切るフランス勢

国を挙げて電動化に向かうフランス勢では、PSAプジョー・シトロエン・グループが電動化の動きを見せています。シトロエン・ブランドの100周年に合わせて、EVの「Citroën AMI ONE CONCEPT」を発表し、プジョー・ブランドからは新型「208」に「e-208」なるEV版をラインナップすると発表しました。

「AMI ONE CONCEPT」は、最高速は45km/hと限られますが、街乗り向けの2名乗りの小型EVとしては必要にして十分と考えています。最小回転半径は4mと、街中での取り回しも良さそうです。全長×全幅×全高=2,500×1,500×1,500mmとコンパクトなサイズで、重量も425kgと軽量です。

リチウムイオンと電気モーターといった電動パワートレインは、フロア下に配置されています。約2時間で充電完了、巡航航続は最大100kmと、こちらも街乗りでの利便性を重視した設計です。注目のコネクテッド・システムについては、スマホ経由という簡便なものとなっています。ドアハンドルに印字されたQRコードをスキャンして鍵の開閉ができます。ステアリングホイール上のボタンを押すと、音声コマンドが起動して、アプリの操作などもできます。メーターパネルに採用される5インチ・ディスプレイには、速度を始め、必要な車載情報が表示されます。

<写真4>まるでおもちゃのような2名乗りの小型EV「AMI ONE CONCEPT」
<写真4>まるでおもちゃのような2名乗りの小型EV「AMI ONE CONCEPT」

プジョーとしても、電動化に積極的に向かおうとしています。ジュネーブでは、コンパクトカーの新型「208」にEV版となる「e-208」を発表しました。「e-CMP」と呼ばれる電動プラットフォームは、最大出力136hp、最大トルク26.5kgmを生む電気モーターと、50kWhのバッテリーを搭載しています。1回の充電で走れる巡航距離は450kmを確保しています。

コネクテッド・システムは、すでにプジョーとして実績のある「i-Cockpit」をベースに開発しています。308、3008といったモデルには、車載インフォテインメントとして、すでにすでに搭載されていますが、最新のものにアップデートしています。アップルのCarPlayや、グーグルのAndroid Autoといった車載OSに対応することに加えて、交通状況をリアルタイムで表示するTomTomの「トラフィック・コネクテッド3Dナビゲーション」を採用しています。

白線認識、自動ブレーキ、レーンキープアシスト、ドライバー警告モニタリング、パーキングアシスト、道路標識認識機能、ブラインドスポット・モニタリングといった最新のADASも搭載されています。

ポルシェのひ孫が創業したEVメーカー「ピエヒ」

 スイス・チューリッヒに拠点を置くEVスタートアップである「ピエヒ」は、今回のジュネーブ・モーターショーでの大きな話題の一つでした。欧州の自動車業界では、「ピエヒ」の名は特別なのです。少々、歴史を紐解いてみましょう。フェルディナント・ポルシェ博士の娘と結婚したアントン・ピエヒ氏の息子が、フォルクスワーゲン・グループの会長として君臨したフェルディナント・ピエヒ氏でした。その息子であるアントン・ピエヒ氏(曽祖父と同名)がEVスタートアップを起業すると聞けば、ざわつくワケです。

<写真5>まさにスポーツカーという風貌のピエヒ「マーク・ゼロ」
<写真5>まさにスポーツカーという風貌のピエヒ「マーク・ゼロ」

ジュネーブで発表されたコンセプトカー「マーク・ゼロ」は、後輪駆動の高性能GTカーで、いわゆるスーパー・スポーツカーらしいアピアランスです。技術的な詳細は明かされていないものが多いのですが、革新的なバッテリー技術を採用することにより、ハイパフォーマンスカーであっても、500kmの巡航距離を確保するといいます。充放電の発熱を15度以下に抑えることに成功しています。その結果、電池の冷却システムを空冷にすることができ、軽量化に貢献しています。

トランスミッショントンネルとリアアクセル上に電池を配置。急速充電の技術にも革新的な要素を備え、80%までを4分40秒で充電できてしまうそうです。車両重量も1.8トンと、非常に軽量。軽量化は、ドライビングパフォーマンスにも良い影響を与えるのは、言うまでもないでしょう。ビジネスモデルもふるっています。ハイパフォーマンスのEVの販売はもちろん、バッテリー、電動モーターといった電動パワートレインやプラットフォームを供給するプランも描いています。

<写真6>供給するプランもあるというバッテリー、電動モーターといった電動パワートレインとプラットフォーム
<写真6>供給するプランもあるというバッテリー、電動モーターといった電動パワートレインとプラットフォーム

“ボンドカー”の老舗メーカーのスペシャリティEV

昨年のジュネーブでは、伝統ある「ラゴンダ」のブランド名を電動モビリティのブランドとして復活させて、「ラゴンダ ヴィジョン コンセプト」を発表したアストンマーティンですが、今年はSUVルックのスタイリングを持つ「オールテレイン コンセプト」を発表しました。

フロア内にバッテリーを搭載する構造によって高い剛性を実現。これにより、衝突安全やパフォーマンスにも貢献しています。デザイン面では、観音開き式ドアや上に大きく開くルーフといった構造。自動運転の機能も搭載されており、自動運転モードにすると、フロントシートを回転させて、対面式シートにできます。2022年をめどに、英国ウェールズに新設するセント・アサン工場で生産を開始する方針です。

<写真7>アストンマーティン「オールテレイン コンセプト」
<写真7>アストンマーティン「オールテレイン コンセプト」

躍進するEVスタートアップの都市型新モデル

新たなEVスタートアップとして台頭しつつあるのが、アーヘン大学のスピンアウト企業である「e.GOモバイル」です。ドイツが推進するインダストリ4.0の生産方式を採用し、コンパクトEVの生産からスタートして、自動運転車の開発も手がけています。ボッシュやZFとも提携しています。

これまでに3万台のコンパクトEVを販売してきた実績がある「e.GOモバイル」ですが、今回のジュネーブでは、「e.GO ライフ」の最新版が登場していました。都市型を謳うだけあって、3,348×1,748×1,581mmのスリーサイズに、2,200mmのホイールベースを持っています。最小回転半径は約4.9mと、街中での取り回しを考えた設計です。しかも、大人4名が乗車できる利便性も備えています。

<写真8>創業者でCEOのGünther Schuh(ギュンター・シュー教授)が新モデルを紹介。
<写真8>創業者でCEOのGünther Schuh(ギュンター・シュー教授)が新モデルを紹介。

パワートレインには、ボッシュ製48Vシステムを採用、電気モーターの出力は3種から選べる設定です。エントリーモデルは、27hpの出力を生む電気モーターを搭載しており、0〜50km/h加速7.7秒、最高速112km/hの性能を発揮します。14.5kWhの容量を持つリチウムイオン電池を搭載しており、3.8~5.4時間で充電ができ、最大100km(WLTP)の巡航が可能です。

中級グレートでは、電気モーターの出力が54hpにパワーアップし、0〜50km/h加速4.7秒、最高速123km/hに性能が向上しています。バッテリー容量は17.5kWhに高められていて、最大113km(WLTP)の巡航が可能です。

最上級グレードでは、電気モーターの出力は82hpまでに強化。0〜50km/h加速3.4秒、最高速142km/hまで、パフォーマンスが高められています。リチウムイオン電池の容量は23.5kWhとなり、最大145km(WLTP)の巡航ができます。

価格はそれぞれ、1万5,900ユーロ、1万7,500ユーロ、1万9,900ユーロとなっています。ドイツ・アーヘンに開設される新工場にて、2019年に量産をスタートし、5月上旬にはデリバリーを開始する方針です。

まとめ

自動車生産国でもない小国のスイスで開催されるジュネーブ・モーターショーですが、会場を歩いてみると、自動車産業の変化を肌で感じることができます。欧州におけるCO2削減目標である95g/kmの達成を目前に控えていることに加えて、電動化へ邁進する中国湾岸部の現状なども鑑みると、もはや、電動化は待ったなしの状況です。特に、CASE(Connected、Autonomous、Sharing & Services、Electrification)と呼ばれる次世代技術は、搭載されて当たり前という時代がやってきています。電動化や自動運転やコネクテッドといった個々の技術に邁進するのではなく、ユーザーを中心に据えた“使いやすさ”を重視して、トータル・パッケージで開発されていることがわかります。

文/川端由美