「五感」でイノベーションを起こせ!老舗化学メーカーが語る機能性材料の研究開発~関西高機能プラスチック展

INTERVIEW

三井化学株式会社
研究開発本部 生産技術研究所所長
扇澤 雅明

2019年5月22日(水)〜24日(金)、インテックス大阪にて総合展示会「高機能素材Week」の一つとして、「第7回 関西高機能プラスチック展」が開催されます。今回、この展示会で「機能性材料におけるR&Dとイノベーション」のテーマで基調講演をされる、三井化学株式会社研究開発本部 生産技術研究所所長の扇澤雅明氏に、お話をお伺いしました。

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※基調講演はWebからの事前申込が必要です。当日申込みでは、受講できませんのでご注意ください。聴講料金は無料です。

石炭化学を源流に持つ素材メーカー

三井化学株式会社研究開発本部 生産技術研究所所長 扇澤雅明氏
三井化学株式会社研究開発本部 生産技術研究所所長 扇澤雅明氏

────三井化学の事業領域を教えてください。

扇澤:
当社は日本の近代化を支えた三井三池炭鉱で1912年に生まれた硫安(化学肥料原料)生産工場を源流に持つ会社です。石炭化学から始まり、石油化学への転換、化学業界の再編を行いながら、製品に近い川中事業への展開、グローバルへの展開を行い、現在は化学業界において国内3位に位置しています。

当社は「基盤素材」「モビリティ事業」「ヘルスケア事業」「フード&パッケージング事業」の4事業を展開しており、メガネレンズ用材料、紙おむつ用の不織布、自動車の外装材などに使われるPPコンパウンドなどは、世界でも高いシェアを誇っています。現在も当社の主力は基盤素材。当社の2017年度の売上高は1兆3,300億円で、そのうち48%が基盤素材です。


────研究開発のビジョンはどのようなものですか。

扇澤:
5年ほど前から研究開発の戦略を大きく転換しています。新しい戦略は「顧客起点イノベーションの推進」です。それは大量生産の汎用マテリアルから、多品種少量生産の高機能マテリアルへの移行といえます。開発スタンスとしては、プロダクトアウト型の開発から、マーケットイン型の開発へと移行しているともいえるでしょう。
なぜなら、20世紀は新素材の世紀だったんですね。ポリエチレン、ポリプロピレン、PET、ナイロン等、新しく開発した樹脂材料は、ひとたび工業化すればほぼ確実にマーケットは広がり、売上増大に繋がりました。まさに作れば売れる時代。「作ってみてから用途を探す」ことで十分だった時代だといえます。

しかし21世紀は苦難の時代。20世紀にわれわれの主力商品だった樹脂材料は、中国やインドなどがより大規模な生産を始めたため、価格が下がり利益が削られてきています。そうなると新たな高機能樹脂を開発して販売しなければならないわけですが、ただ自分たちの思いだけで優れた樹脂を開発するだけではもうダメな時代なのです。


────今、世の中のあらゆる商品がそうであるように、素材においても一つのヒット商品が莫大な売上利益を稼げる時代ではなくなっているわけですね。

扇澤:
その通りです。現在のニーズは非常に感覚的です。最終製品のユーザー(コンシューマー)の感覚が多様化しているように、一つひとつの製品が顧客の感覚にマッチしたものでなくては売れない。すなわち、その樹脂が“お客様のどんな課題を解決するのか”という起点から出発する必要があるということです。そのためにはお客様であるメーカーと積極的にコミュニケーションを取らなくてはなりません。


素材を形にして投げかけるべき

扇澤:
ただし、ここに一つ大きな落とし穴があります。私たちの主なお客様であるメーカーも、現在汎用的に使われている素材をもとに発想したり、開発する傾向があるということです。お客様は素材のプロではありませんから、「素材メーカーに“このような素材を開発させて”このような製品を作ろう」というところまでは発想がなかなか及ばないわけです。

ですから、新しい機能性マテリアルの開発に向けてお客様の潜在的ニーズを引き出すためには、こちらからニーズや発想を刺激するようなヒントを投げかけないといけないと思うのです。

スティーブ・ジョブスは、「人は形にして見せてもらうまで自分が欲しているのか、わからないものだ」と言いました。その通りだと思います。私たちの商品はそのままでは単なる樹脂の粒にすぎませんから。


────形にしたモノを投げかける格好の場が展示会だということですね。では、御社はどのような投げかけをしているのでしょうか。

扇澤:
当社は今、いくつものプロトタイプを発表しています。例えば携帯カメラ用レンズに使われる「アペル ®」という素材が綺麗な金属音を出すことから風鈴を製作したり、近視矯正と老眼矯正がワンタッチで切り替わる電子メガネ「タッチフォーカス ®」を開発・発売したり、プラスチックにミネラルを混ぜて重量感のある陶器のタンブラーを製作したりしています。この海のミネラルから生まれたイノベーティブ・プラスチック「NAGORI ®」はグッドデザイン賞を受賞しています。これらは素材の新たな用途の可能性を探る取り組みです。

きれいな金属音を出す風凜
きれいな金属音を出す風凜

またファッションブランドとコラボレーションしてパリコレクションで服や靴を発表したりもしています。あるいは、樹脂と金属を接合する「ポリメタック ®」技術を使い、スタートアップのエアロセンス社と協業してビスのないドローンを製作し、ジョイント部を50%軽量化し、飛行距離を40%伸ばすことに成功しました。これはデザインや性能の可能性を広げるといえるでしょう。

五感を刺激することが大切

────重厚長大な化学メーカーとは思えないチャレンジですね。そうしたプロダクトを手に取った設計者やデザイナーは、五感が刺激されそうですね。

扇澤:
それが狙いです。そして、おもしろがってくれることを望んでいます。例えば私たちは、素材の質感を「オノマトぺ」で表現する試みをしています。オノマトペとは、音や様子を文字に移し替える取り組みで、擬音語、擬声語、擬態語を指します。

従来は、硬いか柔らかいか、乾いているか湿っているか、粗いかなめらかか、といった事実ベースで表現していたものを、「パリコチ」「ネバベタ」「プヨノビ」「サラコロ」といった、より触覚や聴覚に近い感覚的な言葉に置き換えています。エンドユーザーも、メーカーの設計者も、デザイナーも、そうした感性でモノの好みを判断するようになっているからです。

オノマトペで素材を表現
オノマトペで素材を表現

────それはよくわかります。そうした感性を膨らませてもらって、三井化学に投げ返してほしいというわけですね。

扇澤:
その通りです。今、当社は、どんなご要望であっても真摯に対応いたします。お客様のニーズに対して高速で試作を行う、ラピッドプロトタイピングという試作・開発のフローも作っています。私たちは、あんなものが欲しい、こんな素材があればいいな、と思っていただいて、「そうだ、三井化学に聞いてみよう!」と真っ先に言ってもらえるようになることを目標にしています。

老舗化学メーカーであり単なる素材メーカーから新しい機能性マテリアルの開発を行い、また製品を生み出すメーカーへと変貌を遂げようとしている三井化学。今回のセミナーでは、どのように現場自らが変わっていこうとしているのか、また、どのような施策に取り組んで、会社全体が変わろうとしているのかが聞けるいい機会になることでしょう。みなさんの会社ですぐに活かせるものから、時間をかけなければならないものまであるかとは思いますが、なにかしら刺激を受けそうなセミナーを予感させます。

※「アペル ®」「タッチフォーカス ®」「NAGORI ®」「ポリメタック ®」は三井化学(株)の登録商標です。



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文/嶺竜一

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