インフラの劣化を早期発見し重大事故を防ぐ!インフラ検査テクノロジー最前線

産業や生活の基盤となる道路や橋、駅などの公共施設のインフラは不備がないことが当たり前と考えられている一方で、現実には経年劣化や地震をはじめとした自然災害などによりダメージを受け、大きな事故が発生することがあります。この記事では、そのような事態を減らすために考案されたインフラのモニタリングシステムなど、インフラの安全な運用に関わるテクノロジーの最前線をご紹介します。

▽関連記事リンク

インフラの不備が引き起こした事故

多くの人にとって道路や橋、駅、線路などのインフラを使わない日はないでしょう。それらの大半が大きな建造物であり、不特定多数の人が常に利用しています。これらに不具合があった場合、重大な事故に発展する可能性があるのは想像に難くありません。<表1>にインフラ事故例を示す。

<表1>インフラ事故例

事故例 概要
シルバーブリッジ崩壊事故 1967年12月15日にアメリカ、ウエストバージニア州とオハイオ州を結ぶ吊橋シルバーブリッジが崩壊し、オハイオ川に崩落した。31台の車両が巻き込まれ、46人死亡、18人が負傷した事故となった。
笹子トンネル事故 2012年12月2日に山梨県大月市笹子町の中央自動車道上り線笹子トンネルで天井のコンクリート板が約130mの区間にわたって落下し、走行中の車複数台が巻き込まれて9名が死亡した事故となった。
新名神橋桁落下事故 2016年4月22日に神戸市北区の新名神高速道路工事現場において、約120mの橋げたが高さ20mから落下し、作業員2人が死亡し8人が重軽傷を負う事故となった。
旧上武大橋の橋桁落下事故 2018年12月15日に埼玉県深谷市の旧上武大橋下の河川敷で、旧上武大橋の橋げたが落下し、ダンプカーが下敷きになった。落下した橋げたによりダンプカーの運転席部分がつぶされ、運転していた男性が死亡する事故となった。

 

このような事故が起こらないように、国をあげての施策も広く行われています。例えば、国土交通省は、2014年に日本全土に点在する道路および鉄道のトンネル、2m以上の道路橋などを、5年に1回の頻度で点検することを義務付ける省令を施行しています(*1)。

インフラ劣化のメカニズム

橋や道路などは、鉄骨やコンクリートをはじめとした様々な部材が複雑に組み合わさってできているため、劣化の原因も様々です。しかし、劣化要因や事故の状態には共通する部分も多く代表的な現象を以下のように整理することができます<表2><表3>。

<表2>劣化の原因となる現象

腐食 構造物の骨格となる鉄は水分の存在下で酸素と結合すると酸化鉄(錆び)となり、強度が低下する。また、海水などに含まれる塩分には酸化を促進する作用があるため、海に囲まれた日本では塩害による錆びが発生しやすい。錆びが発生すると鉄骨の体積は通常状態の2.5倍程度に膨張するため、コンクリートのクラックにも繋がる。そこから水分や塩分が入り込みやすくなり、さらに周辺に錆びが進むという悪循環が生まれる。また、接続部に使用されるリベット類の腐食で接合部が脆くなり、破断してしまう場合もある。
亀裂 過度な応力がかかったり(過積載や強風、地震など)、継続的に様々な力が加わることによって、構造物に亀裂(クラック・ひび割れ)が入ることがある。これは、上述の腐食を促進したり、クラックを進展させたりすることで、破断を引き起こすこともある。

<構造物にかかる力の主な原因>
・ 外部からの応力(構造物の上を車や人などが移動することで生じる力など)
・コンクリートの乾燥による収縮
・水分の凝結による体積膨張

アルカリ骨材反応(コンクリートの細孔溶液中の水酸化アルカリと、アルカリ反応性鉱物との化学反応により生成するアルカリ・シリカゲルやその吸水に伴う膨張)

侵食 海や河川の作用により、構造物が表面から削られていくこと。構造物を支える部分の断面積が減り、座屈しやすくなったり、鉄骨の露出などが発生し、腐食を促進する場合もある。

 

<表3>インフラ関連の事故が起こった際の状態

破断 橋などの部材が引っ張られたとき、外力に耐えきれず千切れてしまう状態
剥離 トンネルの上部や橋げたからコンクリートが剥がれ落ちる状態

 

なお、通常の鉄筋コンクリート構造物では、コンクリートにクラックが発生したからといって、構造物の性能が急激に低下するわけではありません。しかし、その亀裂から水分が浸透し、骨組みである鋼材の腐食が進行することで、耐久性が大幅に低下するなどの関連性は多く知られています。それぞれの現象が連動することで重大な事故を起こしやすくなります。そのため、様々な検査を行い、早い段階でクラックの発生などの変化を検知し、事故が発生する前に対処することが重要になります。また、非常に軽微な現象や変化からその後の劣化を予測し、メンテナンスのタイミングを計画する試みも行われています。
過去発見された劣化状態や事故現場の情報は、重大な事故を予防するための知見として蓄積されています。例えば、道路橋の重大損傷の実例は国土交通省HPに写真付きでまとめられています(*2)。

このような重大事故を未然に防ぐためのインフラの点検の多くは人力で行われており、自治体によってはそのための人材が不足しているため、インフラ整備・点検に関わる高度な技能を持つ人材の確保や育成も急務です。一方、最新のテクノロジーを活用して、従来人により行われてきた現場での近接目視やハンマーでの打音検査などの点検を、効率的に行う技術開発も急ピッチで進んでいます。世界中の多くの研究機関が精力的に研究を進める中、日本ではSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)として「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」に国家レベルで取り組んでいます(*3)。
SIPでは、<表4>に示すように次の5つの研究開発項目に取り組んでいます。

<表4>SIPの掲げる5つの研究開発項目

項目 概要
1 点検・モニタリング・診断技術 インフラの損傷度等を把握する点検・モニタリング・診断技術の開発

<実施内容の一例>
・高感度磁気非破壊検査
・高速走行型非接触レーダーによる内部欠陥点検技術と統合型診断システム
・高感度近赤外分光を用いた遠隔診断技術
・ 衛星SAR(Synthetic Aperture Radar)によるインフラの変位モニタリング手法

2 構造材料・劣化機構・補修・補強技術 構造材料の劣化機構に対するシミュレーション技術を開発し、構造体の劣化進展予測システムを構築

<実施内容の一例>
・インフラ構造材料研究拠点の構築による構造物劣化機構の解明と効率的維持管理技術の開発
・ 超耐久性コンクリートを用いたプレキャスト部材の製品化と社会実装
・ 構造物劣化機構の解明と効率的維持管理
・ 高耐久化を実現するプレキャスト製品

3 情報・通信技術 インフラの維持管理や更新、補修に関する膨大な情報を利活用するため、情報・通信技術を駆使したデータマネジメント技術を開発

<実施内容の一例>
・大規模センサ情報統合に基づく路面・橋梁等のスクリーニング技術
・多種多様なインフラ管理データの一元管理を実現するデータ管理技術
・蓄積データを現場業務で使える形にするデータ分析や可視化技術
・インフラ予防保全のための大規模センサ情報統合に基づく路面・橋梁スクリーニング技術
・インフラセンシングデータの統合的データマネジメント基盤

4 ロボット技術 橋梁・トンネル等を安全で経済的に点検するために、各種ロボット開発を実施。ロボット技術の導入に適するインフラ構造の検討やロボット技術の有効的な活用のため情報管理用のデータベース構築も行なっている

<実施内容の一例>
・橋梁・トンネル点検用打音検査飛行ロボットシステム
・遠隔操作による半水中作業ロボット
・トンネル全断面点検・診断システム
・ロボット点検に適したインフラ構造
・社会インフラ用ロボット情報一元化システムの構築

5 アセットマネジメント技術 インフラを安全に安心して使い続けるために、SIPで開発された技術をインフラ管理者と協力しながら社会実装する。また、限られた予算でのインフラ管理を行うための契約制度・人材教育・民間活用・住民との協働といった視点での継続性の高い仕組みを提案

<実施内容の一例>
・非破壊検査技術・数値解析技術等を活用し、主要幹線道等の重要インフラを確実に守る手法開発
・マルチスケール統合解析と非破壊検査のデータ同化

 

インフラの非破壊検査の最前線

精力的に研究開発が進められているインフラの非破壊検査には、実用化が間近な技術もあります。前述したように2014年の国土交通省告示により、5年に1回の頻度で点検することを義務付けられたインフラの数はトンネルが約1万本、2m以上の橋が約73万橋あります。
これらの膨大な数の対象インフラを、高速、非破壊、非接触で、効率的に検査する技術に対して年々ニーズが高まっています。適用が検討されている技術は、画像解析やレーザー光、超音波、X線、磁気の作用を活用するものなど多岐にわたります。その中でも独自の画像解析をコア技術にする4Dセンサー株式会社のサンプリングモアレカメラは、比較的安価に微小な変化も高速高精度に非接触でとらえることができる技術であり注目されています。

高速高精度で対象のひずみを捉えるサンプリングモアレカメラ

4Dセンサー社は和歌山大学発のベンチャーで画像解析の高い技術を持っています。例えば橋の上を車が通ると橋に歪みが生まれますが、この変形前後の橋の画像をソフトウェアで処理することで、部位による変形量の大小を色で可視化することができます。
使い方は至ってシンプルで、対象となるインフラに格子シートを貼り付けておき、その後デジタルカメラでその様子を撮影するだけです。例えば、橋の上を電車が通過することで、インフラに外部から応力がかかった際の微小な変位をリアルタイムで可視化することができます。ここで活用しているのがモアレと呼ばれる現象です。モアレは周期性のあるパターン同士を重ねたときに、パターン同士の光学的な干渉により発生する縞模様のことです<図1>。

<図1>モアレ縞の発生原理
<図1>モアレ縞の発生原理

テレビやディスプレイで、時折発生する虹色の縞もモアレによって発生している<写真1>。

<写真1>モアレ縞
<写真1>モアレ縞

映像におけるノイズなど厄介者として捉えられることもあるモアレですが、うまく活用することで画像解析から物体の様々な情報を取得することができます。例えば、モアレを利用することで、物体の表面の凹凸状態を示す等高線のような模様を写真に撮ることができます。また、すだれのような格子パターン同士を重ねた状態でずらすと、モアレの形が変化します。このモアレの変化を観察することで通常は検知できないような微量なずれを拡大して検知することもできます(*4)。

4Dセンサーでは、これらモアレの光学的な性質にコンピュータによる画像処理を組み合わせることで、飛躍的に精度やスピードを向上させています。同社のコア技術はサンプリングモアレ法と呼ばれ、撮影した画像を格子使って間引くことにより発生するモアレ縞より微小変位の分布やひずみの分布を計測できます。<図2>


<画像処理の方法>
1. 格子画像から、例えば4画素のうち3画素を間引いた画像を4枚作る
2. それぞれ間引いた部分を線形補間してグラデーション画像を作る
3. それらに独自の数式で重ね合わせを行うことで、モアレ縞を作る
4. 元の画像で格子に起きた微細な変形が、この処理を通し、モアレ縞の大きな変化として捉えられる


<図2>サンプリングモアレ法の概要
<図2>サンプリングモアレ法の概要

同社のサンプリングモアレカメラの分解能は、格子ピッチの1/100から1/1000程度です。同社の標準規格である2mmピッチの格子シートを使った場合、精度 2 μm、速度 100 fpsでの変位計測が可能です。高速度処理を実現したことでリアルタイムでの解析にも対応できます。

遠近両方で高精度な解析を実現

サンプリングモアレ法をコンクリートの圧縮試験に用いると、材料に貼り付けた格子シートの変形量を画像上でカラーリングして、視覚的に表現することができるといいます。従来の試験では1点の変形を計測する手法がスタンダードでしたが、同社の技術を使えば変形量を分布として捉えることも可能となります。またこの技術は、構造物に一定ピッチの模様があれば適用できるため、手すりやボルトなどを利用して橋梁のたわみ計測にも応用することができます。すでに自治体とも連携して実地試験を重ね、データを蓄積しているところです。

まとめ

インフラの維持・管理のテクノロジーは国をあげたSIPなどのプロジェクトが推進するとともに、ベンチャーなどのプレイヤーも参画しています。当たり前の安心・安全を実現する技術の社会実装は、多くの人が危険にさらされることを回避し、公共インフラの信頼性を高めていくでしょう。

▽おすすめ関連記事

協力:4Dセンサー株式会社

▽引用
*1:平成二十六年国土交通省告示 第四百二十六号
*2:道路の老朽化対策(国土交通省HP)
*3:インフラ維持管理・更新・マネジメント技術(SIP)
*4:モアレ縞の幾何学, 篠原昭, 繊維機械学会誌, Vol.37 No.6 P253-P262(1984)

こちらの記事もおすすめ(PR)