センサー活用社会のキーテクノロジー~環境発電の新潮流、廃熱利用の最先端に迫る

2016年「第5期科学技術基本計画」で提唱された「Society5.0」において、社会課題の解決に向けたIoT、AI、ロボット、自動走行車の社会実装が提案されています。そのなかで強調されているセンサー活用に不可欠な技術として、環境発電などの電源供給技術が注目されています。この記事では、環境発電の新潮流である廃熱エネルギー利用の先進事例を紹介します。

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Society5.0の社会の鍵を握る「センサー」の電源問題

医療やインフラ整備の現場など、現在様々な場所からの膨大な情報がサイバー空間に集積され、そのビッグデータを人工知能(AI)が解析しフィードバックしています。今までの情報社会では、人間が情報を解析することで価値が生まれてきました。しかし、Society 5.0では、膨大なビッグデータを人間の能力を超えたAIが解析し、その結果がロボットなどを通して人間にフィードバックされることで、これまでには出来なかった新たな価値創出が産業や社会にもたらされることになります。<図1>

<図1>Society5.0の社会イメージ(内閣府)
<図1>Society5.0の社会イメージ(内閣府)

Society5.0は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立します、人間中心の社会(Society)、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すものとして定義されています。

Society5.0の達成に向けてセンサーが増える中で生まれた問題が、センサーへの電力供給です。“Trillion Sensors Universe”という言葉も生まれたように将来的には膨大な数のセンサーが社会に存在するようになります。そのセンサーを定期的に電池交換するには、莫大なメンテナンスコストがかかります。そこで着目されるのがオフグリッドな電源供給の仕組みです。

環境中のエネルギー活用:エネルギーハーベスティング

世界中にある大量のセンサーにオフグリッドで電源供給をするためには、環境中のエネルギーの活用が必要です。この環境中の微弱なエネルギーを主に電気エネルギーとして活用することを“エネルギーハーベスティング”といい、エネルギー源としては光、振動、熱などがあります。下記にその代表的な利用方法を<表1>にまとめました。

<表1>環境中のエネルギーとその使用方法

エネルギー源 デバイス例 補足
<太陽電池>
半導体素子などを活用し、光を直接電気エネルギーに変換する素子
・光がある場所であれば宇宙空間含めて様々な場所での使用が可能
・技術が確立されており、汎用的に使える
圧力
(振動、音も含む)
<圧電素子>
圧電体(セラミックや水晶など)へ圧力を加えることにより電気エネルギーを発生させる「圧電効果」を活用
・発電を行うことで、振動を減衰させるなどの効果もある(衝撃の吸収や吸音など)
・新技術としての注目度は高いが、発電量は非常に小さく、技術確立には至っていない
<ペルチェ素子>
異種金属の接合部に温度差を与えることで起電力を発生させるゼーベック効果を利用
・駆動部を持たないので長寿命でメンテナンスが簡易
・高価である場合が多い
電磁波 <レクテナ>
アンテナに整流回路を組み合わせたもので、電波を受信し、直流の電気エネルギーに変換する装置
・環境中の電波はとても微弱なエネルギー源であるが、時間や天候・気象に影響されず、安定して存在する

 

環境中の排熱を有効利用した熱電発電

環境中のエネルギーには様々な種類がありますが、その中でも大きく注目を集めているのが廃熱の有効利用です。
工場やエンジン、電子機器など私たちのまわりには熱を発生させるものが非常に多くあります。そして、それらは製品製造や移動の駆動力を生み出しながらも、同時に大量の廃熱を発生させています。石炭や石油、天然ガス、水力など、自然にあるままの形状で得られる一次エネルギーの60%以上が廃熱になっているとの試算もあるほどです *1

未利用で大気中に捨てている膨大なエネルギーである「廃熱」の有効利用は世界中が注目しています。廃熱の中でも300℃以上の高温のものは、エネルギー密度も大きく比較的利用しやすく、大手のプラント系の企業を中心にコジェネレーションシステムの開発や普及も進んでいます。しかし、廃熱の75%は300℃以下の低温であり、エネルギー密度も低く、さらにその利活用のための技術も未だ発展中です。だからこそ、この領域から僅かずつでもエネルギーを生み出し、活用することができれば、オフグリッドな電源供給の可能性が開けるのです。

廃熱エネルギーに関しての取り組み例として、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発や、未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合だけでなく、物質のナノ構造制御による熱エネルギー制御技術を活用した高性能化の研究などを行う東京大学産業技術研究所(野村研究室)が知られています。
<表2>に現在開発されている、比較的低温域でも利用できる技術をまとめました。


<表2>主な廃熱利用のテクノロジー

方式 概要
ペルチェ素子 熱エネルギーをゼーベック効果(異なる半導体で作った接合部に温度差が加わることにより電子の移動が起こる)を利用して、直接電気エネルギーに変換する素子。
ペルチェ素子の発電性能は使用する半導体の性能によって決まるので、より高い発電効率をもつ半導体の素材研究が世界中で行われている。
可動部がないため、ほとんど故障せずメンテナンスフリーという大きな利点があり、信頼性が重要な人工衛星や静音冷蔵庫などにも使用されている
・温度差があることが発電のキーであるが、ペルチェ素子自体に熱がこもりやすく温度差がなくなり発電ができない場合がある
・発電効率が低い
・製造が高コスト
・ペルチェ素子の基板が硬い(セラミックが主)場合が多く、曲面には使用しづらい
・重元素を含む材料が用いられているため、環境負荷の点に懸念がある
スターリングエンジン 熱による気体の体積膨張を利用して動力を得る機関。スターリングエンジンの下部を温めると上下方向にシリンダーが動く。そのシリンダーの往復運動をクランク機構などを用いると回転運動にも変えることが可能。
原理的には非常に効率が良い、熱源を選ばない、低温でも使用可能、音も静かなどメリットが多いので世界中で研究は続けられている。
(熱を電気ではなく直接運動エネルギーで取り出す)
蓄熱技術 熱エネルギーの貯蓄技術。熱エネルギーを物質の特性を活用して保持することで、時間や空間を超えての熱の利用を行えるようにする。

  1. 顕熱蓄熱
    • 物質の比熱(物質の温度を単位温度だけ上昇させるのに必要な熱量)を利用する方式
  2. 潜熱蓄熱
    • 物質の相転移に伴う潜熱を利用する方式
  3. 化学蓄熱
    • 化学反応時の吸熱 発熱を利用する方式

 

先進事例紹介:株式会社Eサーモジェンテック

上述の通り、廃熱利用のテクノロジーにはペルチェ素子という熱をそのまま電気エネルギーに変換できる素子があります。このペルチェ素子を活用するには、熱源からの熱をペルチェ素子に適切に伝えるため、放熱物体とペルチェ素子を密着させる必要があります。しかし一般的にペルチェ素子は、高い熱伝導率と絶縁性能を両立するセラミック基板に実装し、モジュール構造にして使われますが、セラミック基板は硬く追従性に難があるため、排熱源に多いパイプやエンジンなど曲面からの熱を効率よく得ることが容易ではありません。

この課題に対して、 株式会社Eサーモジェンテックは、ペルチェ素子を自在に湾曲するフレキシブル樹脂基板に実装した熱電発電モジュール「フレキーナ」を開発しています。<写真1>

<写真1>フレキシブル熱電発電モジュール「フレキーナ」(株式会社Eサーモジェンテック提供)
<写真1>フレキシブル熱電発電モジュール「フレキーナ」(株式会社Eサーモジェンテック提供)

同社は基板にフレキシブルな極薄の樹脂基板を用い、その上に微小なペルチェ素子を高密度に実装しました。この構造により、フレキーナ全体を曲げたとき変形の機能を柔軟なフレキシブル基板部分が担うことができます。こうした発想の技術はフレキシブルハイブリットエレクトロニクス(FHE)として、産業技術総合研究所フレキシブルエレクトロニクス研究センターなどで研究が進められています。

同社のモジュールは、フレキシブル構造のため、配管等の円筒状熱源に対しても密着性高く設置することができ、様々な熱を効率的に回収することができます。


<図1>熱電発電モジュール「フレキーナ」構造(株式会社Eサーモジェンテック提供)
<図1>熱電発電モジュール「フレキーナ」構造(株式会社Eサーモジェンテック提供)

この技術にとって重要なのは、微小なペルチェ素子をいかにして高密度実装するかですが、大阪大学菅沼研究室との共同研究による半導体技術で培われた量産製造プロセスを基に様々なブレークスルーを突破しました。この技術はプラント内の配管だけでなく、エンジンなど曲面から構成されているものに幅広く使えるので、応用範囲が非常に広くなります。

まとめ

環境中に存在するエネルギーは多種多様なものがあり、その利用技術も多く開発されています。その中でも熱エネルギーの利用は注目されており、オフグリッドで使える電源技術の発展により、これまで以上に社会の中でセンサーが活用しやすくなっていくでしょう。

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▽参考文献
*1:未来戦略ワークショップ報告書. 中低温熱需給の革新に向けた基盤技術開発

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