印刷からエレクトロニクス、ライフサイエンスまで粒子分析技術が拓く未来

粒子とは、一般にナノからミクロンサイズの材料を指し、無機、有機、無機有機複合など様々な素材のものがあります。粒子がもつ大きな比表面積、高い運動性などの特性が注目され、様々な用途で材料の粒子化は行われています。一方で、その粒度分布や粗大粒子の存在が品質に大きく影響を与えることから、粒子分析技術が不可欠です。この記事では、その技術動向や、磁気泳動に注目し新たな分析技術を開発した 株式会社カワノラボの取組みをご紹介します。

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多様化する粒子と広がる利用用途

一般的に粒子は塗料、接着剤、粘着剤、研磨剤、吸着剤、触媒担体などで利用されています。その他にも、その微小なサイズからクリアランスを保つスペーサーや、静電気などの物性を上手く活用して金型に塗布する離型剤、高機能なコーティング剤にも使われます。またライフサイエンス分野で、ドラッグデリバリーシステムのキャリアーとしてナノ〜ミクロンサイズのカプセルが利用されていますが、これらも粒子の一種です。このように粒子の用途は多方面に広がっており、我々の生活を支えています。

古くから活用されている化粧品においても、単に表面を被覆し色をのせるための利用から、光の乱反射性を活用した質感の創出や紫外線カットなど高機能化を続けています。高精細なディスプレイにおいても、粒径を小さくすることで光の散乱を抑制する技術や粒子の単分散技術の高度化による性能向上など、日進月歩の状況にあります。医療用途では、粒子に薬剤を担持したり、有効成分を内包したカプセルの創出、多孔化した粒子内部に薬剤を包含させるなど様々な活用がなされています。

様々な粒子分析技術

上述のように、粒子が用いられる場面は非常に多岐に渡り、粒子の高機能化には、同時にその特性を適切に評価する高度な分析技術が要求されています。

粒子の利用は古くは塗料などに含まれる顔料であり、インクメーカー等が培った勘や経験が粒子を扱う分野では重宝されてきました。現在、粒子を活用する巨大な産業としては電池分野が挙げられます。その電極材料や触媒等に用いられる粒子は、複雑化した化学構造や形状により、電池機能の高度化を実現しています。一方でそれらの粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)や透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)など、微細構造の測定が可能な高度な顕微観察法がベースとなる画像解析で評価が行われています。
また、機能性のインクなど粒子と溶媒が混在している系の評価には、顕微鏡での観察法以外に、光散乱法や紫外・可視(UV-Vis)分光法、ゼータ電位測定などでその粒子径や粒子の表面状態、形状などを測定するマクロな分析が用いられます。簡易な品質管理には、動的粘弾性測定を用いることもあります。これらの手法は測定可能な濃度域や条件があり、必要に応じて組み合わせますが、必ずしも適切な評価ができない場合も多いのが実状です。

このような中で、新たな粒子分析技術が注目されています。
2015年に大阪大学発ベンチャーとして創業した 株式会社カワノラボは、大阪大学・渡會研究室で培われた技術をもとに今までにない新たな粒子分析技術を強みとしているベンチャーです。
粒子の磁化率測定により、粒子の濡れ性、分散性や表面被覆に関する計測の他、1粒子毎の正確な粒子径が測定可能なナノメジャー(R)の技術を持ち、粒子開発、品質管理などの分野で活用され始めています。

磁化率に着目した粒子分析技術が明らかにする粒子の特徴

磁化率測定は、いわゆる形状観察による評価とは異なり、磁気泳動法によって粒子を構成する化学成分の違いを精度良く捉えることができます。粒子の数ミクロン、数ナノのコーティング(被覆率)、触媒開発における金属酸化物の酸化数、リチウムの取り込み量なども、磁気泳動法による粒子の体積磁化率測定で1粒子毎に評価することができます。さらに、粒子の体積磁化率測定は、加速試験等で粒子単位での劣化を捉えることもでき、経時変化やロット管理、粒子に関連する開発環境そのものを大きく変革する技術です。

この技術は、全ての物質が磁石としての性質を有していることに基づきます。磁石に引き寄せられない紙やプラスチック、水、銅などでも、反磁性という性質をもっており、外部磁場の影響によって、その磁場を打ち消す方向に磁性を発します。このような反磁性磁化率も高磁場を印加することで測定が可能です。単位体積当たりの磁化率を示す体積磁化率は、たとえ粒子径が変わったとしても、化学組成が同じであれば同じ値を示します。逆に、体積磁化率の違いから粒子組成の分布を評価することもできます。体積磁化率は、粒子が高磁場下に存在した場合に生じる磁気泳動現象の観察によって測定でき、粒子の泳動速度と粒子径から1粒子毎に求めることができ、最大で10分で5,000個程度の粒子を評価できるハイスループットな評価方法でもあります。この体積磁化率をもとに粒子内の各成分が占める体積を求め、表面修飾体積や粒子細孔内に入り込む溶媒の体積などを見積もることも可能となるのです。<図1>

<図1>磁化率に注目した粒子分析技術(株式会社カワノラボ提供)

職人の勘や経験を数値管理で拡張する

溶媒に対する親和性や水の吸着量を定量的に評価する技術はこれまでになく、この分野で多くの知見を持つインクメーカーにおいても濡れ性や分散性を数値化できませんでした。技術者が持つ職人の勘や経験に現在も頼らざるを得なかった粒子の分散状態や濡れ性は、材料評価や開発だけでなく、食品分野や医薬品業界においても我々の体内への吸収をコントロールする上で重要です。

カワノラボの持つ磁気泳動による粒子評価技術は、体積磁化率が粒子の構成成分を評価できることから、粒子表面に吸着した溶媒の量を求めることで、この濡れ性や分散性を数値化できるのです。

濡れ性、分散性の数値化は、例えばインクの分散技術を築き上げた職人の分散プロトコルを裏付ける指標として、他の業界へ信頼をもって、その分散技術の普及を促すことにも繋がると期待されています。さらに、製造プロセスや研究開発における分散状態を数値化することで、再現する手順や代替材料の探索、手順や材料を省きつつも同品質を保持できるプロトコルの確立など、コストダウンにつなげることが可能になると考えられます。

ライフサイエンス分野でも活かされる磁化率測定技術

有効成分の安定性などを考慮し、使用方法に適した配合等をデザインする製剤の工程においても粒子の物理量は重要です。水和結晶、無水物といった原薬における結晶の違いを精度良く見分けることができる粒子磁化率測定は、工程管理、品質管理などにも活用可能です。

実際に、カワノラボの評価技術は、原薬の水への親和性評価や食品添加物、分散剤の安定性評価にも実績があります。また最近では、細胞においても、種や活性によってその体積磁化率が異なることが明らかになってきており、例えば、酵母の生死で体積磁化率が異なるという結果が得られています。磁場による細胞の品質評価は細胞へのダメージが少なく有用であることから、意欲的に研究開発が進められています。<図2>

<図2>ライフサイエンス分野における粒子分析例(株式会社カワノラボ提供)
<図2>ライフサイエンス分野における粒子分析例(株式会社カワノラボ提供)

粒子径を正確に測定可能なナノメジャー(R)

粒子の物性に基づく磁化率測定の他、カワノラボでは正確に粒子径を測定可能な技術も開発しています。<図3>に示すナノメジャー(R)は使い捨て可能な粒子径測定セルで、「ふるい」と同じ要領で粒子をナノメジャー(R)内に捉えることで粒子径を測定できます。

ナノメジャー(R)は2枚のガラス板で構成され、図のようにその隙間は先端に行くにつれて狭くなっています。そのため、粒子を流し込むと粒子径と同じガラスの隙間の位置でトラップされ、あたかも「ふるい」のようになります。粒子が停止した位置の平板間の距離は単色光の干渉縞によって正確に測定することができるため、電子顕微鏡並みの精度で簡便に粒子径を測定可能です。<図4>

ナノメジャー(R)は使い捨て可能であり、感染性のあるようなサンプルや洗浄がしづらいスラリー状の試料にも使えます。例えば、がん細胞由来のエクソソームの個数計測など臨床検査分野への適用も可能です。

<図3>ナノメジャー(R)による粒子径測定メカニズム(株式会社カワノラボ提供)
<図3>ナノメジャー(R)による粒子径測定メカニズム(株式会社カワノラボ提供)

<図4>ナノメジャー(R)による粒子径測定例(株式会社カワノラボ提供)
<図4>ナノメジャー(R)による粒子径測定例(株式会社カワノラボ提供)

まとめ

新たに拓かれた粒子分析技術は、粒子の表面被覆量、溶媒吸着体積、分散剤吸着量、粒子間の組成のブレ、結晶性の違い、正確な粒子径測定など、粒子開発や材料開発に大きく貢献するこれまでにない技術です。実際に、電極材料の性能向上やインクやトナーなどの分散性の数値化、粒子材料の生産コスト削減などで活用が進んでおり、細胞活性評価など今後のライフサイエンス分野を支える技術としても注目が高まっています。

カワノラボは、粒子の受託測定、粒子開発や品質管理法などに関する共同研究、装置販売だけでなく、今後、さらに事業領域の拡大を目指しています。粒子情報をビッグデータとして蓄積することでデータの解釈が職人的であった領域に人工知能での解析を導入し、また他の分析技術と組み合わせることで、さらに革新的な評価技術へと大きな飛躍が期待されています。



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