金属粉末射出成形(MIM)の材料規格および機構部品向け材料選定ガイド~MIM入門講座(6)

金属粉末射出成形(MIM)で用いられる材料は、30数年間かけて世界中で標準化活動が活発に行われ、信頼できる国際標準として確立されてきました。それは、材料規格として材料毎に機械的特性値が決められています。今回は、MIMの代表的な材料規格について解説するとともに、様々な機構部品に適したおすすめのMIM材料についてご紹介します。

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1.MIMの材料規格(Standard, Specification)

初めてのMIMの材料規格は、1993年に米国のMPIF(Metal Powder Industries Federation)によって策定されたMPIF Standard 35の別版としてMIM素材に焦点を当てたものが登場します。それから30数年間、世界中でMIMの材料規格に対する標準化活動が活発に行われ、信頼できる国際標準として確立されていきます。国内では1998年に日本粉末冶金工業会(JPMA)の分科会として始まり、3年後にMIM規格制定、最新2014年版では回転曲げ疲労強度の項目が追加されています。

一般的な材料規格に加え、ASTMよりインプラント(医療)を前提とする規格やSAEよりNi基超合金Inconel718の熱処理規格が登場しています。<表1>にMIM材料における国際標準化活動の状況を示します。また、<表2>に各種MIM材料規格における最小値の一部を紹介します。

<表1>MIM材料における国際標準化活動の状況
<表1>MIM材料における国際標準化活動の状況



<表2>各種MIM材料規格における最小値(Minimum property values)《抜粋》
<表2>各種MIM材料規格における最小値(Minimum property values)《抜粋》

<表2>を見ると各制定機関で微妙に数値が異なっていることがわかります。これは金属粉末の違い(粉末の製法、粒度分布、合金粉末か混合粉末か等)や製造方法の違いなどによって結果が異なるためです。ここで注意するべきことは、この特性値が「最小値」であることです。


2.MIM材料の種類と機械的特性

実は、MPIFのStandard 35には、材料標準として<表2>の「最小値」の他に「代表値」の2種類が明記されています。これら2つの概念について標準内で説明されおり、意訳するとこんな内容です。

——「最小値」は、すべてのMIMメーカーが量産で製造する品質の最小値であり、製品仕様設計のためのMIM材料選定に使うことができます。一方「代表値」は、製品設計の手引きであり、あくまで参考値です。なぜ参考値かといえば、この値は試験片から実測したものであり、形状が異なる製品品質をそのまま保証できないこと、また、MIM製造プロセスが各社異なるので、結果の品質水準も各社異なるためです——

それでは「代表値」がどのくらいのなのか<表3>に示します。さらにMIMメーカーや研究機関が独自に公開しているMAXデータを参考値として<表4>にまとめました。

<表3>MPIF 最小値と代表値《抜粋》
<表3>MPIF 最小値と代表値《抜粋》



<表4> MIMメーカーや研究機関の公開データ
《参考文献》
(文献1)馬場、本田、三浦 粉体および粉末冶金 1997 年 44 巻 5 号 p. 443-447
(文献2)三浦、豊福、馬場、本田 粉体および粉末冶金 1997 年 44 巻 5 号 p. 432-436 
(文献3)武川 粉体および粉末冶金 2002 年 49 巻 9 号 p. 807-811
(文献4)中山、京極 日本金属学会論文集77巻777号(2011-5) p862-869
(文献5)Sharuzi、Harun、戸田、長田ら 粉体および粉末冶金 2012 年 59 巻 5 号 p. 264-271
(文献6)馬場、三浦、本田、徳山 粉体および粉末冶金 1995 年 42 巻 10 号 p. 1119-1123
(文献7)八賀、椎名 粉体および粉末冶金 2005 年 52 巻 10 号 p. 717-721
(文献8)三浦、増田、小笠原、寒川 粉体および粉末冶金 2002 年 49 巻 9 号 p. 825-828 
(文献9)三浦、竹増、栞野、伊藤、佐藤 粉体および粉末冶金 2006 年 53 巻 10 号 p. 815-820
<表4> MIMメーカーや研究機関の公開データ
《参考文献》
(文献1)馬場、本田、三浦 粉体および粉末冶金 1997 年 44 巻 5 号 p. 443-447
(文献2)三浦、豊福、馬場、本田 粉体および粉末冶金 1997 年 44 巻 5 号 p. 432-436
(文献3)武川 粉体および粉末冶金 2002 年 49 巻 9 号 p. 807-811
(文献4)中山、京極 日本金属学会論文集77巻777号(2011-5) p862-869
(文献5)Sharuzi、Harun、戸田、長田ら 粉体および粉末冶金 2012 年 59 巻 5 号 p. 264-271
(文献6)馬場、三浦、本田、徳山 粉体および粉末冶金 1995 年 42 巻 10 号 p. 1119-1123
(文献7)八賀、椎名 粉体および粉末冶金 2005 年 52 巻 10 号 p. 717-721
(文献8)三浦、増田、小笠原、寒川 粉体および粉末冶金 2002 年 49 巻 9 号 p. 825-828
(文献9)三浦、竹増、栞野、伊藤、佐藤 粉体および粉末冶金 2006 年 53 巻 10 号 p. 815-820

【注意すべき点】
これら代表値や論文データ値は、すべてのMIMメーカーにおいて量産時の性能を保証するものではありません。必ずMIMメーカーに確認を取り購入仕様書(製造仕様書、検査仕様書)の取り交わしを行ってください。また、製品仕様として要求する精度や強度が過剰品質にならない様に、品質とコストのバランス感覚を持つことも重要です。また、ハイスペックの場合、MIMメーカーと共同で開発するアプローチが結果としてよい品質を生み出します。


3.MIM材料選定ガイド

それでは、具体的に一般的な機構部品のおすすめMIM材料を紹介します 。

錆びない部品を作りたい

おすすめ:SUS316L
〔理由〕
医療用にも使うオーステナイト系ステンレスの最高峰。MIM粉末コストはSUS304とほぼ同じなのでこちらを使うことをすすめます。ただしメーカーによっては技術的に炭素量を0.03%以下にできないところがあるので注意してください。
ちなみに、SUS316LのLはLow Carbon のLで、炭素が0.03%以下(Low)という意味です。炭素が少ないとより錆にくくなります。熱処理を行わない鋼です。耐摩耗性向上のため窒化処理することができますが防錆力は低下します。

浸炭焼入れ焼戻しをして機構部品を作りたい

おすすめ:SCM415、SNCM415、4600(C=0.15%)
〔理由〕
強度を上げるためには焼入れ焼き戻しを行います。昔はFEN材を使っていましたが、近年は、SCM415やSNCM415が使われます。これは焼入れ性がよく機械的性質が高いためです。
ちなみに下2けたの数字は、炭素量0.15%という意味です。炭素が0.15%と少ないと焼入れで硬度が入りません。そのため強制的に外部から炭素を表面に拡散浸透(浸炭)させてから焼入れを行います。表面層だけ硬化させ内部は母材硬度のままの靭性(耐衝撃)が必要な部品に使います。

全焼入れ焼戻しをして機構部品を作りたい

おすすめ:SCM440、SNCM439 (硬度HRC50〜55)、4605(C=0.5%)
〔理由〕
こちらも下2けたの数字は、炭素量です。炭素量が0.39%あれば焼入れで硬度が入ります。強度も浸炭材より高くなり、硬度も高く耐摩耗性も向上します。

錆びに強くて焼入れ焼戻しをする機構部品を作りたい

おすすめ:SUS420J2
〔理由〕
防錆を重視して、摺動・回転するところの摩耗が心配なときに使われます。医療用のはさみ等に多く使われています。 焼入れ焼戻しを行います。

摺動部品を作りたい

おすすめ:SUS440C、SKD11、D2
〔理由〕
SUS440Cは、ベアリングによる転がり摩耗(フレイク摩耗)に強い鋼です。SKD11はダイス鋼ですが、クロムを多く含有しており、高温環境のフレッティング摩耗に強いので、高速で摺動する部品にお勧めです。焼入れ焼戻しを行います。

ばね性がある部品を作りたい

おすすめ:SUS630、17-4PH
〔理由〕
溶体化処理後、時効処理(H900など)を行うと完全にばね性が発現します。また靭性が必要な部品に採用されています。錆にも強いですが完璧ではなく過信は禁物です。欠点はサイジングが効かないのでMIM焼結変形を考慮した製品設計が望まれます。

刃物を作りたい

おすすめ:SKH51、M2
〔理由〕
ハイス(HSS,高速度鋼)です。金属を加工する刃物として作られたものです。難削材なので普通は部品として使いませんが、MIMであれば容易に製作できます。やはり刃物用途が多いです。焼入れ後2回焼戻しを行います。


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著者:八賀祥司(はちが しょうじ)
技術士(機械:MIM金属粉末射出成形)、某MIMメーカーで20年間、材料開発から工程設計、金型仕様設計、生産準備から出荷まで行う。現在は現場を離れ、MIMの普及のため精力的に活動している。