有機EL素子の低電圧駆動に関する研究成果は、有機ELと有機太陽電池の研究マッチングから生まれた

INTERVIEW

富山大学 学術研究部工学系
准教授 森本 勝大

分子科学研究所 物質分子科学研究領域
助教 伊澤 誠一郎

テレビやゲーム機など表示デバイスで用いられる有機ELは、素子構造を簡素化し細かくしたり、薄くしたりすることでデバイスの高画質化や薄型化が行われてきた一方で、消費電力低減を目的とした有機EL素子の駆動電圧を低減するニーズがあります。このニーズに対して、従来の1/3程度となる約1Vの起電力での有機ELの低減圧駆動を発表したのは、有機ELと有機太陽電池の研究グループによる共同研究であることを御存じでしょうか?

この研究グループは、有機太陽電池の研究を行う分子科学研究所の伊澤誠一郎助教、平本昌宏教授らだけでなく、有機ELの研究を行う富山大学の森本勝大准教授、中茂樹教授らで構成されています。今回は、同研究成果を発表した富山大学学術研究部工学系の森本勝大(もりもと まさひろ)准教授と分子科学研究所物質分子科学研究領域の伊澤誠一郎(いざわ せいいちろう)助教に、共同研究の経緯や有機EL素子の低電圧駆動メカニズム、今後の研究方向性についてお話をお伺いしました。

有機EL素子の低電圧駆動は、有機ELと有機太陽電池の研究グループの共同研究から生まれた

──── 有機太陽電池と有機ELの研究分野はけっこう接点があるのでしょうか。

「太陽電池と有機ELの分野の研究者は普段から深い関わりがあるわけではないのですが、私と富山大学の森本先生は二人とも応用物理学会の有機分子バイオエレクトロニクス分科会の幹事をやっていたという関係があり、同じ年代ですし、もともとの知り合いだったということで、今回の研究成果につながる話題を気軽にお声がけできました」(伊澤氏)

「実は、有機ではなくシリコンの分野ですけれど、ここ数年の太陽電池の研究で発電効率の良い太陽電池は電圧をかけてあげると光るという論文がたくさん出ています。光ると言っても赤外という長い波長ですが、基本的に電気から光、光から電気という逆プロセスで原理は同じです。この原理を利用し、太陽電池のパネルに電圧をかけて光らせ、劣化していたり壊れたりしている箇所を点検して明らかにするようなことも行われています」(森本氏)

「高効率な有機太陽電池は高効率な有機ELであるべきで、電圧をかけると理想的には有機太陽電池も光るはずです。ただ、有機太陽電池はまだ効率が低いので電圧をかけてもわずかに光る程度です。有機太陽電池も光るようにしなければなりませんから、太陽電池の効率を上げるためにはどうすれば光らせられるかという観点の興味から私は有機EL研究を見ていました」(伊澤氏)


──── 共同研究をされた最初のきっかけはどのようなものだったのですか。

「私は、有機半導体界面で光アップコンバージョンを実現した論文を発表していますが、この論文は富山大学の中先生がやられていた有機ELのご研究と有機太陽電池の発電原理を組み合わせた内容です。ここでの知見が有機EL研究にも生かせるのではないかと考え、有機ELの方へ立ち戻って展開する形で共同研究が始まったという経緯です」(伊澤氏)

「最初にお話をしたのがコロナ禍の前の2019年9月頃です。実際に最初にデバイスを作って実験をし、測定評価を始めたのは2020年12月くらいでした」(森本氏)


──── 光アップコンバージョンはどのようなものでしょうか。

「光アップコンバージョンは、長波長の光をエネルギーの高い短波長の光に変換することです。低エネルギーの光を有効に利用することや、近赤外光センシングなどの分野で注目されている技術です。この研究を行っている途中に見つけたペリレン蛍光体について、中先生、森本先生らが行っているルブレンとペリレンジイミドを使った有機ELに組み合わせれば、より発光効率の高いデバイスができるのではないかとご提案させていただき、共同研究につながりました」(伊澤氏)


──── 研究で使われている物質について簡単なご説明をお願いします。

「ルブレンという物質は炭化水素の一種で、有機ELでは発光材料に使うことが多いです。また、ペリレンジイミド(ペリレンテトラカルボン酸ジイミド、PTCDI)というのは、赤色の顔料のペリレン色素として知られています」(森本氏)


──── 今回の成果は太陽電池ではなく、有機ELの省エネ化についてですね。

「従来のルブレン発光層を電子と正孔の輸送層でサンドイッチした構造の有機ELでは、3.5Vくらいから発光します。発光に必要な電圧は少なくとも2.2V以上です。これは発光材料であるルブレンのエネルギーに相当します。今回の我々の研究では、発光層にルブレンと電子の輸送層に結晶性の高いペリレンジイミドという物質を使うことで、発光開始電圧を下げ、1V以下から発光することがわかったのです」(森本氏)

同研究グループが使った有機ELの物質とその分子構造(提供:分子科学研究所)
同研究グループが使った有機ELの物質とその分子構造(提供:分子科学研究所)


──── 今回のご研究では、アップコンバージョンとともにTTAという言葉も重要なようですが。

「TTAはトリプレット・トリプレット・アニヒレーション(Triplet-Triplet Annihilation)の頭文字で、トリプレットは分子内で2つの電子スピンの向きが平行な状態のことです。TTAはエネルギーの高い状態を作り出すアップコンバージョンを実現するための1つの方法です。

エネルギーが低い2つのトリプレットから2つの分子の間のエネルギー移動により、エネルギーが高い1つのシングレット(スピンが反平行な状態)を作り出すことができます。トリプレットは光りませんが、2つのトリプレットから作り出した高いエネルギーのシングレットは光りやすいので、そこから取り出されたエネルギーが光になるというわけです」(伊澤氏)

「有機ELの場合、電子とホールが再結合すると、25%がシングレットに、75%がトリプレットになります。トリプレットは光りにくいので、本来なら、熱などによって消滅してしまうエネルギーを回収したというのが我々の研究になります」(森本氏)

界面でのトリプレット・トリプレット・アニヒレーション(TTA)とアップコンバージョンの過程を利用した今回の有機ELの概略図(提供:分子科学研究所)
界面でのトリプレット・トリプレット・アニヒレーション(TTA)とアップコンバージョンの過程を利用した今回の有機ELの概略図(提供:分子科学研究所)


有機ELの低電圧駆動は、あえてpn界面で発光させるような有機ELを作り、pn界面でのトリプレット・トリプレット・アニヒレーション(TTA)とアップコンバージョンの過程の利用により実現できた

──── この75%をすべて使うことができたというわけですか。

「放っておいてもルブレンの発光層で25%は蛍光発光に使われますが、電子輸送層にペリレンジイミドを加え、TTAを使うことで75%のトリプレットを使って光に変換するプロセスを行っています。なぜ低電圧にすることができたのかと言えば、我々が作った有機EL素子の場合、pn界面で電荷が再結合するため、低い電圧で励起することができるからです。

従来は1つの材料の中で電荷再結合を起こさなければならず、電荷の注入に高い電圧が必要でしたが、我々のデバイスは異種材料間のpn界面での再結合でいいので電圧が半分の1Vくらいで発光させることができました。有機ELの研究分野で、こうした界面での再結合はエネルギーロスにつながる現象とされていました。むしろ抑制したい現象でしたが、我々はあえてpn界面で発光させるような有機ELを作ったのです」(森本氏)


──── pn界面の状態が重要ということでしょうか。

「界面で分子がどのように並んでいるのかが重要です。ヒゲが生えたようなペリレンジイミドの分子が界面に立っていて、電子の流れがちょうど良くなるような距離を保っています。こうした有機分子の向きは有機薄膜を作る際の温度調整などによって、並び方や立ち方をコントロールすることができます」(森本氏)

CT(Charge Transfer、電荷移動)状態とルブレン/ペリレンジイミドの界面の分子の様子。ヒゲが生えたようなペリレンジイミド分子が距離を保っている。(参考文献1)(提供:伊澤誠一郎氏)
CT(Charge Transfer、電荷移動)状態とルブレン/ペリレンジイミドの界面の分子の様子。ヒゲが生えたようなペリレンジイミド分子が距離を保っている。(参考文献1)(提供:伊澤誠一郎氏)


有機ELや太陽電池の革新的な性能向上には、各々の分野での研究により界面構造、エネルギー移動などの知見を蓄積していくことが重要

──── 今回のご研究では、従来の有機ELより約1/3の電圧で発光させることができていますが、今後はどのような方向で研究を進められますか。

「実用化の問題としては、効率をもっと高くしていくことが必要です。研究論文でいえば、有機ELの世界最高の効率で内部量子効率がほぼ100%、外部量子効率30数%で、我々の有機ELは外部量子効率がまだ約3%です。有機ELでは、電気から光を取り出す外部量子効率が、どうがんばっても20%しかない、つまり内部量子効率がもし100%だとしても理論的な限界は20%と言われています。

もちろん、アモルファスの分子配向を同じ方向へ向けて指向性を高めてやれば外部量子効率20%を超えることはできますが、ランダム配向の発光層を用いたデバイスで面発光する際には20%まで落ちてしまうのです」(森本氏)

「電圧は光らせるための障壁の高さで、今回の研究では光らせるための障壁を低くできたということです。一方、光る効率は入れた電子をいかに光として取り出せるかという割合です。障壁は低くなって低い電圧で光らせることはできましたが、電子を光に変換するプロセスはまだ効率が低いということで、電力で考えれば両方とも上げなければならないでしょう」(伊澤氏)


今回の研究(ルブレン+ペリレン蛍光体+ペリレンジイミド)と従来の有機ELの電圧と発光輝度の比較グラフ。1 Vあたりから発光が始まっていることがわかる(提供:分子科学研究所)
今回の研究(ルブレン+ペリレン蛍光体+ペリレンジイミド)と従来の有機ELの電圧と発光輝度の比較グラフ。1 Vあたりから発光が始まっていることがわかる(提供:分子科学研究所)


──── 今回はオレンジ色の発光ですが、より波長の短い発光は可能でしょうか。

「ほかの波長の研究についても現在進行中ですので、今後の研究の進展を楽しみにしていてください。また、RGBを単一素子で発光させられないかという研究もやっています」(森本氏)


同研究グループによる有機ELデバイス。オレンジ色に光っていることがわかる
同研究グループによる有機ELデバイス。オレンジ色に光っていることがわかる


──── 今回の有機ELの技術を逆に太陽電池に応用すれば、効率の良い太陽電池ができるのでしょうか。

「有機ELとしてはよく光りますし、実際に太陽電池としても普通に動きます。しかし、太陽電池としてみた場合、それほど効率は良くなっていません。そのあたりにまだ謎が隠されているのではないかと考えています。

有機太陽電池の研究分野で、界面でトリプレットができることが話題になり始めたのはここ数年のことです。なぜこうした移動が起きるのか、効率の良い移動のためにはどういう分子構造が良いのかなどを解明することが今後の研究課題です。こうした研究を行えば界面構造、エネルギー移動などの知見がたまってくるので、将来的に考えれば太陽電池や有機ELの効率を上げることにつながっていくはずです」(伊澤氏)


──── 産業的な影響はどのようにお考えでしょうか。

「表示素子や発光デバイスの省エネ化に関する伸びしろは大きいと思っていて、有機ELが低電圧で光るようになれば、周辺機器やモジュール全体のエネルギーロスや発熱も下がるので、モバイル機器や照明光源など産業分野への影響は非常に大きいと思います」(森本氏)


──── ありがとうございます。まだ効率的に低いとはいえ、これだけ広く使われている有機ELの省エネ技術は将来性のある研究開発分野だと思います。今後のさらなる研究の進捗に期待したいですね。


文・写真/石田雅彦


▽参考文献
参考文献1:Seiichiro Izawa, Masahiro Morimoto, Shigeki Naka and Masahiro Hiramoto 「Efficient Interfacial Upconversion Enabling Bright Emission at an Extremely Low Driving Voltage in Organic Light-Emitting Diodes」 Advanced Optical Materials, Vol.10, 2101710, (2022)

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