日本半導体復活に向け企業のみならず国自体が行うべきこととは〜《日本半導体復活に向けた提言:後編》半導体入門講座(38)

津⽥建二氏の『半導体入門講座』の連載第38回(最終回)は、最終章の後編となる総論として、日本半導体復活に向けた提言を取り上げます。最終回では、これまで本連載を続けてこられた津田氏に、半導体産業を取り巻くベンチャーキャピタル(VC)、大学ベンチャーをはじめとするアカデミア動向紹介に加え、企業のみならず日本という国自体が、具体的になにを行なえばよいのか日本半導体復活に向けた提言を行って頂きます。

日本半導体復活に向けた提言①:日本には投資しなかった米国ベンチャーキャピタル(VC)などの資金調達環境を活かせ

日本半導体復活に向けた提言の1つ目は、これまで日本には投資しなかった米国ベンチャーキャピタル(VC)などの資金調達環境を活かすことである。

シリコンバレーにはエンジェルと呼ばれるスタートアップに対する投資家やベンチャーキャピタル(VC)がいる。セコイアキャピタルやクライナー・パーキンスなどのVCはシリコンバレーでさまざまなスタートアップを支えてきた。例えばセコイアキャピタルはAppleやGoogleなどを起業するような時期に投資してきた。クライナー・パーキンスも半導体やその関連企業が起業する時に出資してきた。

2021年6月にはセコイアが日本市場に参入するというニュースが流れた。デジタルトランスフォーメーション(DX)を持つスタートアップなどに照準を定めているという。

10年ほど前にシリコンバレーにいるVCに取材したことがある。どのように見極めて出資するのかという話を聞いた後に、日本企業に出資するつもりはあるか、と尋ねてみた。「当面は出資しない。なぜならスタートアップと毎日のようにディスカッションできないからだ」と言った。なぜ日本に出資しないのか。この問いにも答えてくれた。

米国のVCはただ単にお金を出すだけではない。そのスタートアップが成功するようにいろいろなアイデアも出す。シリコンバレーだとそばにいていつでも、昨日、先週はどうだったか、を聞き出し、間違ったクライアントに接触していないかどうかを確認している。開発した技術を使いたい潜在クライアントにリーチしているか、開発技術の進行状況はどうか、など成功するための道を進んでいるかどうかを確認しながら毎日を運営する。しかし日本だと時差があってリアルタイムですぐに連絡できない。このため出資したお金がどう動いているのかを確認できない。だから日本のスタートアップには出資しない、と答えていた。

しかし、最近になってZoomやWebEx、Teamsなどビデオ会議を気軽にできる手段が登場し、日本のスタートアップとも気軽に話ができる環境が生まれてきた。さらに、中国で投資していた米国のVCが、日本にも目を向け始めた。セコイアが日本にオフィスを構えたのは中国投資が一段落したためだ。まだ多くの米国VCが日本に来るわけではないが、10年前よりは資金調達手段の選択肢は広がりつつある。


日本半導体復活に向けた提言②:産学共同を促進するため大学ベンチャーが成功しやすい環境を

日本半導体復活に向けた提言の2つ目は、半導体分野での産学共同を促進するため大学ベンチャーが成功しやすい環境をつくることである。東京大学や東京工業大学などが積極的に産学共同に乗り出している。既存の産業界との共同作戦ではあるが、大学側の姿勢が変わりつつある。東大では台湾TSMCと提携し半導体の重要性を全学的な動きで採り入れようとしており、東工大では全学を上げて産学共同研究を呼び込もうとしている。

東大の黒田忠広(くろだ・ただひろ)教授をセンター長とするシステムデザイン研究センター(d.lab)は、半導体の民主化を目指すオープンな組織だ。GAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)などの巨大メーカーは自社で半導体を設計しているが、日本のもっと小規模な企業でも半導体を設計できる能力を身に付けられることを目指している。半導体を知り尽くしたベテランがまだ残っている現在に、このd.labで学生や院生、若手エンジニアがベテランたちと議論し、世界に打って出られるようなチップを設計できるようにする。すでに協賛企業としてデバイス、回路、システム、サービスまで40社が参加している。


東大d.labの黒田忠広教授(撮影:著者)
東大d.labの黒田忠広教授(撮影:著者)


さらにd.labで生まれたアイデアを企業と共に実現するなら、企業との産学共同研究プログラムであるRaas(Research as a Service)という名の産学官技術研究組合に移行する。ここは企業との秘密を固く守るプロジェクトである。すでに企業数社が参加してAIチップや、DX向けのIoTチップを開発中だという。

東工大の益一哉(ます・かずや)学長は元々半導体研究者である。東工大は、これまでの研究室単位ではなく、全学で産学共同プロジェクトを推進していくというプロジェクトを始めている。大学の持つ革新技術を紹介し、産学官共同プロジェクトを目指す。10年後の未来を見据えたプロジェクトとして、重点的な研究課題を3本定め、企業側に呼び掛けていく。1つ目はサイバーフィジカルシステム(CPS)と名付けたDXで、AIやセキュリティ、センシングなどの技術を活用する。2つ目はサステイナブル社会インフラ(SSI)という建築、ロボティクス、環境。マネジメントなどを強化して持続可能社会を目指す研究だ。3つ目がホリスティックライフサイエンス(HLS)と呼ぶ生命現象や地球生命などを研究する。


日本半導体復活に向けた提言③:国家の安全保障として、企業だけでなく国も半導体の価値を検証し日本が進むべき道の議論を尽くせ

日本半導体復活に向けた提言の3つ目は、国家の安全保障として、企業だけでなく国も半導体の価値を検証し日本が進むべき道の議論を尽くすことである。半導体が価値の高いビジネスであることはすでに世界が実証している。日本の出遅れを今後解消し、世界と同じレベルで競争できる状況を生み出すために必要なことをやはり議論すべきであろう。例えば、半導体企業が没落したのにもかかわらず、半導体企業を顧客としていた製造装置産業や材料産業がなぜ成功したのか、十分な議論とはいえない。

製造装置では東京エレクトロンや日立ハイテク、SCREEN、ディスコ、検査装置ではアドバンテスト、材料では信越化学工業やSUMCO、JSR、東京応化工業、住友化学工業など世界と十分戦える企業が続出している。なぜか。日本の半導体企業が投資を止め、じっと衰退を待つだけの戦略に変えた時点で日本企業を見限り、海外の成長企業を顧客に変えたからだ。それまで、日本の半導体企業に製品を納めてきたが、いつまでも日本企業にこだわらずさっさと台湾や韓国、米国企業に顧客ターゲットを変えた。例えばアドバンテストの海外売上比率は92%以上、東京エレクトロンのそれは85%と非常に高い。

一方、製造装置を納入しても日本の半導体企業は金払いが悪かった。1台数千万円、数億円もする装置でさえ、納入後、検収として装置をチェックし半年〜1年後に支払っていた。これに対し海外の半導体企業は納入後に8割の費用を支払い、残りは検収後に支払っていた。ビジネスを行う上で、日本企業は傲慢だ、と筆者に述べた外国製造装置企業もあった。

日本の半導体メーカーは、前にも述べたように総合電機の一部門であり、伝統的に後発ビジネスだったため、先発の公共事業部門からは疎んじられていた。成長している時期はまだよかったが、シリコンサイクルの底になると一斉に公共事業部門から叩かれた。現在でも電機企業が集まる組織では、最近の半導体ブームを苦々しく思っている組織のトップがいるという。

前にも述べたが日本では総合電機から完全独立した半導体企業で、しかも海外企業と積極的に共同開発できるようにならなければ成長できない。かつてのグローバル化は日本製の製品をそのまま海外に持っていっても売れた時代だった。しかし現在のグローバル化は、海外企業と共同で開発しなければ売れない時代に来ている。この理解が実はまだ十分なされていない。海外売り上げが伸びないのは、海外顧客と一緒の共同開発に取り組んでいないからだ。東京エレクトロンやアドバンテストなどのビジネス手法を学ぶべきだろう。

最近、経済安全保障という言葉を日本の政治家が使っているが、米国が最初に使っていた言葉とはかなり違う。米国では半導体のサプライチェーンの中で製造だけが弱く、台湾に依存している点が不安材料になっている。そこでサプライチェーンを米国内で完成させようとすると、製造部門の安全保障ができていないという意味で、米国では経済安全保障という言葉を使っている。

しかし、日本では、製造どころか、設計も弱く、チップを使うユーザー(電子機器メーカー)も弱く、そしてユーザーのユーザーであるITサービスにも弱い。製造装置メーカーや材料メーカーが強くても、それを使う半導体メーカーが弱い一因には親会社の製品というべき電子機器メーカーが弱くなり半導体を少ししか買わないということがある。もちろんGAFAM に匹敵するITサービス業者は日本にいない。つまり、経済安全保障以前の問題が山積しており、これらが日本経済全体を弱体化しているのだ。

経済安全保障は、ITサービスから出発しているので、ここから議論しなくては始まらない。ただし、最初に述べたようにAmazonやGoogleが自分で半導体を設計するようになったように、ITサービスも半導体と同時に強化していく必要がある。全産業に均等に配布するような政治をいつまでもやっていればいつまでたっても日本経済は離陸しない。やはり製造業、サービス業がけん引するためにはITと半導体の両輪がDXやデジタル化、メタバースなどを支えている以上、これらを強化する策を作ることが今後の日本全体の経済を底上げできるはずだ。


日本半導体復活に向けた提言④:日本の企業も、半導体企業としてファブレスやファウンドリにまだ参入できる

日本半導体復活に向けた最後の提言となる4つ目は、日本の企業も、半導体企業としてファブレスやファウンドリにまだ参入できるということである。まず日本の半導体産業を振り返ってみよう。日本の半導体産業は、1980〜90年代には日本市場に向けた製品とDRAMのように海外向けの製品とがあったが、日本向けの半導体が今は多い。キオクシアやソニー、ルネサスなど比較的売り上げの大きな日本の半導体はやはり海外顧客向けが増えている。ただし、ルネサスを除き積極的に海外顧客とビジネスしているわけではない。また、日本の比較的得意なパワー半導体でさえもほとんど多くの製品が自社向けである。外販比率が低い。これに対して、パワー半導体世界トップのInfineonのような、社内向けを持たない独立した企業は強い。

日本で半導体企業を大きく成長させるのなら、やはり海外向けに積極的に売り込むしかないのだ。国内だけで縮こまっていては成長しない。なぜなら国内市場が縮こまってきているからだ。では、日本の企業は、どのような半導体企業を目指すべきだろうか。

まず世界で成長している企業は、IDMならメモリ、あるいはファブレスであろう。しかし、メモリでもキオクシアはDRAMを手掛けるつもりはないのでメモリ企業というよりストレージ企業である。ファブレスは、マーケティングが重要な企業であり、日本が最も苦手とするところだ。今の日本のファブレスは世界では通用しない。売上額はたかだか1,000億円程度にとどまる。世界では10位のクラスでも2,000億円は売り上げている。しかし、海外売上額を増やせれば日本のファブレスだって成長できる。

最後の選択肢はファウンドリである。製造技術は元々日本が強い。しかも丁寧に作れるから、PDK(プロセス開発キット)を標準に組み込むと同時にカスタム対応も可能にする。さらにチップのレイアウトや配置配線など設計の後工程での作業も得意だ。現実にTSMCの横浜にあるデザインセンターは7nm、5nm、4nmといった最先端のプロセスに合うようにICのデザイン(設計)を日本人が改良している。

ただし、プロセスノードが5nmと言っても線幅はもはや5nmなどはチップ上のどこにも存在しない。ゲート長は15nm前後、メタルピッチは30nm前後が最も微細化プロセスである。設計上で前世代のチップよりも性能や消費電力で20〜30%良ければそれを「7nm」や「5nm」と称しているだけにすぎない。だからTSMCの7nmプロセスの線幅はIntelの10nmと同程度だと言われている。

こういった自称のプロセスノードを実現しているのが物理設計技術であり、それは日本の得意な分野でもある。ファウンドリと顧客に向けて設計を支援するデザインセンターをセットにした半導体企業こそ、日本の得意な分野である。

問題はグローバルな顧客と一緒に開発し、顧客を獲得できるかどうかである。設計知識の豊富な営業担当者がとても重要なカギを握る。こういった人材を海外から採用し、韓国担当、台湾担当、米国担当、欧州担当とする。こういった日本のファウンドリであれば、日本は必ず復活する。海外企業は世界各地から人材を集め、グローバル企業として十分戦っている。日本も同じ土俵に乗って競争できることが求められている。

いつまでも内弁慶では、成長はまったく期待できない。ルネサスの日本人社員が「少数民族になりつつあります」という言葉はグローバル企業としての成長路線に乗ったことを示している。2022年4月末に発表した2022年第1四半期(1〜3月)の売上額が前年同期比70%超えと世界レベルでもトップの成長率を示したことと決して無関係ではないのだ。



著者:津⽥建二(つだ・けんじ)
技術ジャーナリスト。東京⼯業⼤学理学部応⽤物理学科卒業後、⽇本電気(NEC)⼊社、半導体デバイスの開発等に従事。のち、⽇経マグロウヒル社(現在⽇経BP 社)⼊社、「⽇経エレクトロニクス」、「⽇経マイクロデバイス」、英⽂誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集⻑、シニアエディター、アジア部⻑、国際部⻑など歴任。

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