日本で復活した半導体メーカー2社から学ぶ〜《日本半導体復活に向けた提言:中編》半導体入門講座(37)

今回で第37回となる、津⽥建二氏の『半導体入門講座』。最終章の中編では、日本で復活した半導体メーカー2社の事例を紹介していきます。彼らはなにをおこなうことで復活を遂げたのでしょうか? 中編となる今回は、ルネサスエレクトロニクス株式会社とエルピーダメモリ株式会社の半導体メーカー2社を取り上げ、総合電機からの脱皮と外国人の積極的な採用を進めダイバーシティそのものが企業文化になった両社の事例から日本半導体復活について論じて頂きます。

日本で復活した半導体事例①:グローバル経営へ移行したルネサスエレクトロニクス株式会社(ルネサス)

日本で復活した半導体事例として取り上げる1社目は、グローバル経営へ移行したルネサスエレクトロニクス株式会社(ルネサス)である。

ルネサスは、2017年に米国アナログ半導体の老舗メーカーでフロリダに本社のあるIntersilを買収した。2019年3月にはさらに高精度のクロックICやモバイル向けパワーマネジメントに強いIDTを買収した。マイコンのルネサスにとってほとんど相乗効果のない企業買収だった。しかし、無謀な企業買収を繰り返したトップが失脚し、2019年6月にINCJ(旧産業革新機構)出身で、CFOを担当していた柴田英利氏がCEOになってからルネサスは大きく変貌した。

それまでのルネサスは、日立製作所と三菱電機の合弁で始まり、その後NECエレクトロニクスも一体化した日本の総合電機出身者による、タスキ掛け人事で運営されてきた。CEOは3社出身者から選ばれ、それも極めて不透明な決め方(前任者の好き嫌いで決まるような人事)だった。そこでINCJや経済産業省などが選んだ呉文精氏だったが、彼は無謀な買収や暴走を繰り返し社員からの人望がまったくなかった。

ところが呉氏の後を受けて任命された柴田氏は、総合電機の色合いの強かったルネサスをもっとグローバルな会社にすることを目指し、買収したIDTの役員だったSailesh Chittipeddi(サイリッシュ・チッティペディ)氏<写真1>を執行役員常務兼IoT・インフラ事業本部長に任命した。ルネサスの事業本部は、自動車とIoT・産業向けの2本しかない。その2大事業本部の内の一つのトップに据えたのである。自動車は日本市場が強いため、日本人の片岡健氏がトップである。

<写真1>ルネサスエレクトロニクス執行役員常務兼IoT・インフラ事業本部長 Sailesh Chittipeddi氏(提供:ルネサスエレクトロニクス株式会社)
<写真1>ルネサスエレクトロニクス執行役員常務兼IoT・インフラ事業本部長 Sailesh Chittipeddi氏(提供:ルネサスエレクトロニクス株式会社)


2020年は新型コロナの感染パンデミックが広がり始めた年である。ルネサスは3月ごろには人工呼吸器の基本回路が公開されたわずか1〜2週間で、人工呼吸器向けの電子回路ボードを製作し提供できるソリューションをリリースした。この時に、ルネサスは変わった、と実感した。人工呼吸器メーカーのトップメーカーであるアイルランドMedtronicが基本回路を公開してすぐに対応製品をリリースしたことに驚いたのである。それまでのルネサスなら半年以上もかかっただろう製品提供をわずか1〜2週間で成した。

さらに同じ年の初めに、筆者は5G基地局の構成として、Open-RAN(無線アクセスネットワーク)方式が提案されたニュースを知り、セミナーなどでその仕組みを学んでいた。特定の大手通信業者しかほとんど参入できなかったこの市場に、NECや富士通など世界市場ではマイナーな通信企業でさえも打って出られるようになる。その年の6〜7月ごろ、ルネサスのオンライン会見があった時に、Chittipeddi氏は早くもO-RAN市場を狙っていく、と述べていた。やはりルネサスは変わったと感じた。新しい5G通信基地局のトレンドをあまりにも早くキャッチしていたからだ。

ルネサスは、IoT・産業向け事業をIoT・インフラ事業と命名し、データセンター基地局ビジネスにも参入できるように変えた。データセンターではIDTの得意なクロックICが使え、自動車向けにはIDTの得意なワイヤレス充電ICも充実させ、チップセットソリューションを自動車やIoT・組み込み市場に提供できるような仕組みを作った。


ルネサスの事例からの学びは、日本の半導体市場は日本国内にはもはやないということ

ルネサスの事例からの学びは、日本の半導体市場は日本国内にはもはやないということである。

海外市場へも簡単にリーチできるようになった。かつてインドの組み込みシステムの企業と話をしていた時にルネサスのマイコンを使っていると聞いた。どうやって入手したのか尋ねてみると、ルネサス欧州経由で入手したとのこと。日本のルネサスはこのことを誰も知らなかった。日本からインドにリーチするすべを知らなかったし、インド市場へはルネサス製品はゼロだとルネサス社員は思っていた。

しかし、今はまったく違う。例えば自動車向けICのデザインイン(Design in)がインド市場で獲得している上に、さまざまな世界各地での受注が増えており、2022年の受注額だけでもこれまでの最高額を得ている<図1>。もちろんこれらすべてが売上額として獲得できるかどうかはまだわからないものの、ルネサスの成長は著しい。


<図1>2021年12月時点での受注残の伸び(提供:ルネサスエレクトロニクス株式会社)
<図1>2021年12月時点での受注残の伸び(提供:ルネサスエレクトロニクス株式会社)


2022年第1四半期(1〜3月)の売上額は前年同期比70%増の3,467億円となった。IoT・インフラ事業では約2倍の売り上げ増を果たし、大きく飛躍した。2021年にDialog Semiconductorを買収し、昨年10月からルネサスの売り上げに組み込まれたが、昨年の売上額ではDialogなしでも2桁成長を超えている。今年は売上額が1兆円をゆうに超えるであろう。

ルネサスで働くある日本人は「少数民族になりつつあります」と冗談交じりに語っている。IDT出身者はもちろんIntersil出身者でもシリコンバレーにいた経験のある人間が経営陣に入っているため、ルネサスの経営スタイルはシリコンバレー流に変わったと言っても差し支えないだろう。Dialogの本社は英国だが、Apple向けのパワーマネジメントICのチームはシリコンバレーを拠点としていた。

日本の半導体市場は実は日本国内にはもはやない。WSTS(世界半導体市場統計)が定義する半導体市場は、半導体製品を手渡す地域を指している。つまり半導体ユーザーやディストリビュータ、EMS(電子機器の製造請負メーカー)のいる場所が市場となる。WSTSのグラフで世界が成長しているのに、日本だけが成長していないという意味は、日本には半導体を購入する企業が極めて少なくなったことを表している。ということは日本の半導体産業が発展するためには海外に売りに行かなければならない、ということだ。

しかも半導体製品は最終製品ではなく中間製品であるから、海外の顧客と一緒に開発する製品なのだ。だから、日本でモノを作って海外に売りに行くという昔のグローバルシステムではない。海外のお客と一緒にモノを開発するという製品なのだ。だからこそ、会社の中には日本人だけでは成長できないため、さまざまな地域の人たちと一緒に開発し、一緒に仕事する必要がある。ルネサスの体制は、海外売上比率を高める必要な仕組みになってきた。


日本で復活した半導体事例②:総合電機の親会社から離れたエルピーダメモリ株式会社(エルピーダ)

日本で復活した半導体事例の2社目は、総合電機の親会社から独立できた企業のエルピーダメモリ株式会社(以下、エルピーダ)である。当初は日立製作所とNECエレクトロニクスのDRAM部門が一緒になった合弁会社であった。二つの親会社はもう金は出さないが利益を出すように会社を運営してくれと言い残したが、残念ながら収支が3年連続200億円以上の赤字を出してきた。もはやこれまで、となったため、2002年に社長として坂本幸雄氏を招へいした。

坂本氏によると、会社に来て驚いたことに、大赤字だというのに役員はゴルフの話ばかりしており、会社の赤字解消についてなにも話をしていないのだという。そして出張に出る時は平気でファーストクラスで海外へ行くという。これでは根本的に直さなければ会社として機能しないと悟った。遊んでいる役員は元の会社に戻ってもらったが、「血も涙もない奴だ」と言われたという。

DRAMは設備に投資して最新設備で微細化し小さなチップでコストを下げることでビジネスを展開してきた。にもかかわらずDRAMに投資せずにビジネスで勝つことはあり得ない。両会社ともお金は出さないため、坂本氏はIntel Capitalをはじめとして世界中を飛び回って1,800億円の資金を調達してきた。DRAMの設備を一新し、やっとコンペティタと並ぶことができた。翌年には150億円の黒字を出せるようになった。

リーマンショックが来る前までは、営業利益率が15%以上だと社員の特別ボーナスを支給したり、全社員を対象にストックオプションを与えたりしてやる気を引き出すなど、それまで日本の経営者にはなかった手法で運営を図り、再成長してきた。しかし、2008年のリーマンショックあたりから資金繰りが悪化し始めた。しかし、2012年には日本の銀行群が1円も出さなくなったどころか返済を迫られ会社更生法の適用となった。坂本氏は半導体経営者としての能力は高かったが、銀行の悪口を時々言うことがあり、銀行から嫌われていることが外部からもよく見えた。


ルネサスとエルピーダに共通することは、総合電機からの脱皮と外国人の積極的な採用を進めダイバーシティそのものが企業文化になったこと

Micron Technologyがエルピーダを買収し、東広島工場をDRAMの開発工場とした後、今工場は多数の女性や外国人が働いており、文字通り日本人だけの工場ではなくなりつつある。しかし、業績は上がっており世界第5位の半導体メーカーの中心工場の一つになった。実際働いている人たちの中には「買収されて良かった」と感じている人たちが少なくない。

ルネサスとMicron(旧エルピーダ)に共通するのは、総合電機からの脱皮と外国人の積極的な採用であり、ダイバーシティそのものが企業文化になっている点である。


著者:津⽥建二(つだ・けんじ)
技術ジャーナリスト。東京⼯業⼤学理学部応⽤物理学科卒業後、⽇本電気(NEC)⼊社、半導体デバイスの開発等に従事。のち、⽇経マグロウヒル社(現在⽇経BP 社)⼊社、「⽇経エレクトロニクス」、「⽇経マイクロデバイス」、英⽂誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集⻑、シニアエディター、アジア部⻑、国際部⻑など歴任。


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