山形を中心に印刷有機ELの社会実装を目指すJST-STARTプログラムとは~有機ELでものづくり日本を取り戻す(後編)

INTERVIEW

山形大学大学院
有機材料システム研究科
卓越研究教授 城戸 淳二

有機ELでものづくり日本を取り戻そうとする活動を紹介する本連載。世界トップレベルの印刷有機EL技術を保有する山形大学は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究成果展開事業大学新創業創出プログラム(START)プログラム(2021~2023年度:3年間)に採択され、印刷有機ELの社会実装を目指す研究開発を進めています。(参考文献1)

後編では、前編に引き続き山形大学大学院の城戸淳二(きど・じゅんじ)卓越研究教授に、JST-STARTプログラムの概要やマイクロLEDと比較したときの有機ELの優位性について紹介して頂くともに、ものづくり日本を取り戻すための提言をお伺いします。

JST-STARTプログラムでは、印刷有機ELの社会実装を目指し、①印刷有機EL、②印刷配線・発光パターン形成、③印刷トランジスタの技術開発を進めている

城戸淳二(きど・じゅんじ)
1959年2月、大阪府東大阪市生まれ。1984年、早稲田大学理工学部応用化学科卒業、1989年ニューヨークポリテクニック大学大学院でPh.D.修了、1989年から山形大学工学部高分子化学科助手に。有機ELの材料やデバイスの開発に取り組み、93年には世界初の白色発光素子の開発に成功する。経済産業省・NEDOの有機ELプロジェクトの総括責任者。 2002年、工学部機能高分子工学科教授。2010年、卓越研究教授に。
2002年から5年間、経済産業省NEDO「高効率有機デバイスの開発」プロジェクト研究総括責任者として60インチ有機ELディスプレイの基盤技術を開発。03年から7年間、山形県産業技術推進機構有機エレクトロニクス研究所長を務めた。
高分子学会「学会賞」、日本化学会「学会賞」、米国情報ディスプレイ学会「K.F.Braun賞」、「紫綬褒章」、「藤原賞」などを受賞、著書には『有機ELのすべて』(日本実業出版社)、『突然変異を生み出せ』中村修二・城戸淳二共著(日本実業出版社)、『学者になるか、起業家になるか」坂本桂一・城戸淳二共著(PHP新書)など、多数。
城戸淳二(きど・じゅんじ)
1959年2月、大阪府東大阪市生まれ。1984年、早稲田大学理工学部応用化学科卒業、1989年ニューヨークポリテクニック大学大学院でPh.D.修了、1989年から山形大学工学部高分子化学科助手に。有機ELの材料やデバイスの開発に取り組み、93年には世界初の白色発光素子の開発に成功する。経済産業省・NEDOの有機ELプロジェクトの総括責任者。 2002年、工学部機能高分子工学科教授。2010年、卓越研究教授に。
2002年から5年間、経済産業省NEDO「高効率有機デバイスの開発」プロジェクト研究総括責任者として60インチ有機ELディスプレイの基盤技術を開発。03年から7年間、山形県産業技術推進機構有機エレクトロニクス研究所長を務めた。
高分子学会「学会賞」、日本化学会「学会賞」、米国情報ディスプレイ学会「K.F.Braun賞」、「紫綬褒章」、「藤原賞」などを受賞、著書には『有機ELのすべて』(日本実業出版社)、『突然変異を生み出せ』中村修二・城戸淳二共著(日本実業出版社)、『学者になるか、起業家になるか」坂本桂一・城戸淳二共著(PHP新書)など、多数。


──── 学生が赤色有機EL作製中に偶然できた白っぽいピンク色がきっかけに、世界初の白色有機ELを発明されました。その後、タンデム化するという発想から長寿命化、高発光効率を実現、白色有機ELの照明分野を切り開かれました。また、白色有機ELは大型テレビにも応用されています。現在、取り組まれている有機ELの最新技術を教えてください。

城戸氏(以下同):
現在、取り組んでいるのは印刷型有機ELです。有機ELテレビなどは真空蒸着で作ったパネルが使われています。我々も真空蒸着で作っていますが、真空蒸着は装置も大きく画面サイズが大きくなればなるほど、巨大な装置が必要です。電力も使いますし、気化した材料が真空装置の内壁やメタルマスクに飛び散り、無駄も多い。
テレビなどのディスプレイを大量生産する場合、一つの工場に数千億円という投資が必要です。今の日本の企業はそれだけの投資は行うのは難しい。価格で中国と太刀打ちできません。

そこで、我々は有機ELディスプレイの生産において、安価で少量、多品種に対応できる印刷技術を研究しています。2021年、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究成果展開事業大学新創業創出プログラム(START)プロジェクト支援型に、採択されました。①印刷有機EL、②印刷配線・発光パターン形成、③印刷トランジスタの3つの分野をキーに研究しています。


有機ELディスプレイ生産に関する従来の技術と城戸研究室が開発している技術(提供:城戸氏)
有機ELディスプレイ生産に関する従来の技術と城戸研究室が開発している技術(提供:城戸氏)


印刷有機ELの技術開発における課題は、製造スピードの向上、基板サイズの拡大、蒸着タイプ並みの発光特性の改善

──── インクジェット方式では、日本のディスプレイメーカー「株式会社JOLED」がインクジェット方式の有機ELディスプレイを世界で初めて量産化に成功しました。薄くて軽く、ディスプレイを壁かけのようにしてアートを自由に飾り変え、鑑賞できるサービスを提供するなど話題になりました。

JOLEDが行っているのは、印刷技術と真空蒸着のハイブリッドの製造方法です。赤、緑、青の発光点を基板上に並べるのを、インクジェットプリンターで塗り分けます。シャドウマスクを使わずに、必要なところだけに有機材料をインクジェットプリンターで塗布するわけです。
ただ、JOLEDは駆動する回路を構成するTFT(薄膜トランジスタ)には従来のシリコンを使っており、どうしても価格が高い。
我々は、TFT基板も含めてすべて印刷で製造する研究を行い、基盤技術の開発は終わっています。


──── 課題はありますか?

製造スピードを上げることや、基板サイズを大きくすること、もちろん発光特性を蒸着タイプと同等あるいは越えるくらいに向上させることです。2年後にはベンチャーを立ち上げて、まずは部分的に色の違うフィルム状のディスプレイを高級家電向けに印刷で生産する予定です。最終的には壁紙のように薄くて軽い高精細ディスプレイですから、課題はまだまだ出てくるでしょうね。


城戸研究室にあるインクジェットプリンター
城戸研究室にあるインクジェットプリンター


印刷有機ELとマイクロLEDを比較した際の技術的な強みは黒の表現。弱みは寿命

──── 液晶の次のテレビと言われた有機ELテレビ。最近は、マイクロLEDも登場しています。違いなどを教えてください。

液晶ディスプレイは、LEDライトをバックライトにして、光のシャッターの働きをする液晶を通して画面が光っています。シャッターを開け閉めして明暗を表すので、黒を表現しようとしても、実はバックライトの光が漏れてしまい、真っ黒が出ない欠点があります。一方、自発光の有機ELは、発光点の一つひとつを電流のオンオフで点滅させるため、完全な黒色を表現することができます。画面を見る角度によっても、画質の変化はなく、応答速度も、液晶に比べると格段に速い。

弱みは寿命です。自発光型であるブラウン管やプラズマディスプレイと同様に、長時間使用していると、常に光っている箇所の輝度が下がり、いわゆる焼き付きが起こってしまいます。そこが各メーカーの工夫になります。使用しているパネルは一緒だとしても、例えばメーカーによっては、一定時間使うとパネルリフレッシュが起こり平均的な輝度になるようにしています。有機ELにかけるプラスマイナスを逆転させるなど、いかに長寿命化させるか……。美しい画面といったようにパッと見た目ではわかりませんが、こういうところにも使っている各メーカーの技術の差がでてきます。

最近、液晶はバックライトのローカル・ディミング(Local-Dimming、部分駆動)で、ミニ(小型)LEDを基板に敷き詰めるといったことで対抗しています。暗い箇所を表現するためにミニLED自体をオフにして黒色を出すわけです。


──── 究極の黒を表現する有機ELですが、ミニLED、マイクロLEDは強力なライバルになりませんか?

基本的にミニLED液晶パネルは、液晶ディスプレイとLEDディスプレイを2つ重ねており、分厚くなる上、両方を駆動しなければならないため無駄が多いと言えます。そして、液晶の欠点である動作速度の遅さや、画質の視野角依存性が残ります。LED自体が3色に発光するミニLEDディスプレイは、その点、液晶自体いらなくなるわけですが、画素が大きいので家庭用ではなく、価格もとても高い。中国の国際会議場では既にプロジェクターがなくなり、ミニLEDのディスプレイが使われ、パソコンに直接つないでいます。
同様にLED自体が発光するミニLEDより画素がより小さくてテレビやスマホにも使えるマイクロLEDは焼き付きが起きませんので、同じ価格であれば、有機ELよりマイクロLEDのテレビの方がお勧めといえるでしょう。しかし、マイクロLEDが安くなるころには、有機ELもさらに安くなっています。
APPLE WATCH(R)には有機ELが使われています。数年前、APPLE WATCH(R)にマイクロLEDを搭載する、という報道などがあり、台湾で一斉にマイクロLEDの実装技術開発が行われました。ただ、圧倒的に価格が高い。特に有機ELで問題がないわけですから、あえてコストをかけてマイクロLEDを使う必要はありません。いつのまにかその話は消えてしまいました。


白色有機ELのさらなる応用として、遠隔医療、地域創生、そしてものづくり日本の再生をめざす

──── 白色有機ELのさらなる応用について教えてください。

いろいろありますが、一つがリモート診療のシステムへの応用です。まず、白色有機EL照明は演色性が極めて高く、自然な色を再現できます。例えば、室内で人の顔を照らすと、顔色が太陽光下のように自然に見えます。一方、蛍光灯や一般的なLED照明では、赤み成分が少なく、顔色が悪く見えてしまうのです。

このメリットを生かして、常駐する医者がいない、日本海にある酒田市の離島である飛島の診療所と同市の日本海総合病院を結んで、遠隔診療に応用する実証実験を行いました。患者さんの顔色などを有機ELのライトで照らして、有機ELのディスプレイに映し出して、医者が遠隔で診察するわけです。顔色だけではなく、爪、下まぶたの裏なども自然色のまま映し出します。実証実験に同席しましたが、医者が「診察に使える」と言っていました。

また、LEDライトでは点光源でまぶしく、患者にストレスがかかることもわかりました。
地方で無医村が増えており、こうした遠隔診察ができるシステムを、最終的には各家庭に普及させていかなければならないでしょう。医者は患者が少ないため都市に集まり、医者がいなくなり安心して住めないから、加速度的に過疎化が進んでしまいます。2010年から40年にかけて、人口が5割以下になる自治体を消滅可能性都市とよびますが、山形県も他人ごとではありません。

今後、ベンチャー企業を立ち上げ、いろんなセンサーや電子聴診器機能をつけ、患者さんが座っただけで、データを測定できるようにしたいと思っています。


遠隔医療のために開発された有機ELライトを使った装置
遠隔医療のために開発された有機ELライトを使った装置


──── 睡眠の質もLEDより有機ELの方が良いという研究結果も得られたのですね。

今年の3月に終了しましたが、山形大学のセンター・オブ・イノベーション(COI)プロジェクトでは、未来の快適で健康な生活や社会の創造を目指した研究開発を行いました。その研究課題の一つとして、睡眠と照明の関係を筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構と共同研究しました。就寝前に、人に有機EL光を照射した場合とLED光を照射した場合を比べてみると、有機EL光の方が睡眠中のエネルギー消費量と深部体温が下がり、脂質酸化が増えており、質の高い睡眠をとれていることがわかりました。
それらの成果をもとに、快眠を妨げる睡眠の課題を解決するための「Good Sleepコンソーシアム」も立ち上げ、そこには寝具メーカーから子ども服メーカーはじめ約30社が参加しています。


──── 先生が米国から、米沢市の山形大学に来られたときは、装置もなくフラスコからのスタートだとおっしゃっていました。白色有機ELを発明され、2011年には有機エレクトロニクス研究センター、2013年には有機エレクトロニクスイノベーションセンター、2014年にはフロンティア有機システム開発センターが誕生しました。米沢を、さらなる有機ELの一大集積地にするための今後の計画、可能性について教えてください。

米国のシリコンバレーのように、基盤技術である有機ELの研究開発を核に、有機エレクトロニクス関連産業の集積による地域の新たな産業おこしをする「山形有機エレクトロニクスバレー構想」を進めてきています。


山形有機エレクトロニクスバレー構想(提供:城戸氏)
山形有機エレクトロニクスバレー構想(提供:城戸氏)


これからは大型投資の必要な真空蒸着プロセスではなく、印刷による塗布型で有機ELや太陽電池を作っていきます。印刷で製造すれば、価格を安く抑えることもできます。そのために印刷のための材料を開発しています。ディスプレイ用のTFTも印刷で製造する技術開発は終わっていますし、有機ELでは10層ぐらい塗布で重ねることにも成功しています。

プロセスの脱真空、塗布化 (提供:城戸氏)
プロセスの脱真空、塗布化 (提供:城戸氏)


ただ、残念ながら、今の日本の企業は売り上げをたてるために大きな投資に二の足を踏んでいるのが実情です。しかも、日本のベンチャーキャピタルには目利きがいない、技術評価ができない。このため、米国・シリコンバレーのベンチャーキャピタルに声をかけ、資金を集め、製造は日本、できればこの米沢で行う計画です。3年後には、最初の製品として高級家電に印刷技術で作った有機ELディスプレイをのせていきたい。10年後には薄くて形も自由に大面積にできます。壁一面をディスプレイにして、パソコンの画面ではなく、等身大でコミュニケーションすることが重要です。

山形大学のセンター・オブ・イノベーション(COI)プロジェクト最終目標 (提供:城戸氏)
山形大学のセンター・オブ・イノベーション(COI)プロジェクト最終目標 (提供:城戸氏)


有機ELだけではなく半導体、太陽電池、二次電池(充電を行うことで繰り返し使える電池)はじめ日本のものづくりは今や惨憺たる状況です。このままだと、ものづくりを目指す若者がいなくなってしまいます。私にも娘がいますが、彼女たちのためにも、ものづくり日本を取り戻したい。それが我々世代の課題だと思っています。

実験室で作業する若者と一緒に笑顔で写真に収まる城戸氏
実験室で作業する若者と一緒に笑顔で写真に収まる城戸氏

文・写真/杉浦美香

 

▽参考文献
参考文献1:「JST STARTプログラムに採択されました~印刷プロセスによる有機ELパネルの少量多品種化~」‬(山形大学ニュースリリース)、2021年11月

参考情報
・APPLE WATCHは、アップル インコーポレイテッドの登録商標です。

 

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